第6話 外道とリボン-3
ほんの一時黙り込んだ翼竜共は
再び上空で騒ぎ出す。
アニキは一瞬で怒りを吐き出した。
そうする事で冷静さを
維持しようとしたのかも知れない。
「わ、分からねぇ。からかわれたのか?
それにしちゃあリスクも投資も高いはずだ。
精霊の法衣、それにパンドラ。
この女に手を出すって事は今こいつを
利用している連中をコケにする様なもんだ。
主要な国家。それに魔法協会。
おちょくるにはヤバ過ぎる相手のはずだ」
ラズが恐る恐る話しかける。
「な、なあやっぱり教会の連中が取引相手なんじゃ」
バレンのアニキが睨む。
「それは、ありえないと説明したよな?」
「す、すまねえアニキ」
俺達への、そしてこの状況への憤り、
そして焦り。表情には怒りが満ちているが
汗はかいていない。アニキは考えながらしゃべり続ける。
「可能性は2つだ。イカレた相手かあるいは相手がトラブったか。
トラブったのなら探しても無駄だ。
もう消えてるか消されているか。どっちにしろ、
このままここにいるのは良くねぇ」
アニキは状況を整理しながら同時に
俺達に説明し今からの方針を話している。
そうだ、こうなると動かなくては、
今すぐにでも。
「殺すか...」
パンドラの方を見ながら静かに言った。
「今から別の売り手を探すのが一番だが、
時間が無え。追手が向かっているかもしれん。
そんな状況で乗っかるアホがいても取引自体が危険だ」
ア、アニキ...そうだよな、それが最善だ。だが...
ケーリアはもう限界だ。
「報酬も無し、名を上げるのも無理だ。
今回の話にうま味が無くなるのは癪だが
法衣は手に入る。取り合えずはこれを売って凌ぐか」
ケーリアがアニキに話しかける。
「ね、ねぇ殺すと追手っていうのが怒るんじゃないかなぁ?」
声が震えている。今にも涙が零れ落ちそうだ。
「今回はもうヤメにして逃げようよ」
アニキはゆっくりとケーリアに顔を向ける、
その表情は厳しくもどこか穏やかに見える。
「ケーリア、今回はもう良い。
良く頑張ってくれた。後は俺がやる。...
ゴダ!!ケーリアを連れて支度しろ!!その間に俺が始末する」
ダメだ、アニキを止めないと、逃げるだけで良い。
そうすりゃケーリア達だって納得する。
これ以上団員の仲が壊れちまったら
それこそ俺達には致命的な気がする。
「アニキ、聞いてくれ」
「なあ、パンドラ...まだか?」
突然しゃべりだしたのは縛られたままの
あのコソ泥だ。俺達全員に聞こえる大きな声だ。
隣のパンドラは驚いた表情でコソ泥を見ている。
「カ、カラス、まだだ、まだ少し...」
「そうか、じゃあ時間切れだな...
俺は降りるぜ」
「まて、本当に、ッハア、ハア、もう少しなんだ。
ゼタ、頼む...。」
何だ、こいつら何の話だ?
コソ泥が大きな声で叫んだ。
「旦那たち、見てください!この女、法衣が解けていますよ!」
な、なんだと...
何を言ってやがるんだ?
法衣が?...バカな。
パンドラに一番近いラズが慌ててパンドラに近寄る。
足でパンドラの俯いた姿勢を蹴り起こす、そのまま強く蹴られて
パンドラの体は仰向けに倒れた。
「アニキ、本当だ!この女の法衣が破れてやがる!」
パンドラの法衣は首元から下に向かって裂けている。
もう腰の辺りまで破れている。
なぜ法衣が、奴には何とも出来ない代物、
その筈だろう?いや、それより不味い。
何もせず逃げるのが俺達にとってのベストだ。
あの女に動かれたら事がややこしくなる。
「ど、どうすんだよ!?アニキ達!?」
ラズが怯えて指示を求める。
アニキが歩きながら答える。
「殺す。変わらねえ。殺して撤退だ。
その女は、まだだと言っていた。
殺るなら今しかねえ」
アニキを止めなくては
「アニキ、待ってくれ!」
バレンのアニキがパンドラの元に辿り着く寸前、
手足を縛られたままのコソ泥が二人の間に倒れ込み割って入った。
「だ、旦那あ、俺ですよ、俺が教えたんです!
ねえ、役に立ったでしょう?へへ、お、俺だけは、
助けて下さいよ。ねえ、た、助けてくれますよねえ!?」
「チッ、うるせえ!!」
アニキはコソ泥を追っ払う様に蹴り飛ばす。
コソ泥はそのまま少し飛び、転がって行った。
ゼタ?...あの女、ゼタと呼んでいた。
その名には聞き覚えが...。
いや、今はアニキを止めねえと。
アニキは、腰の短銃を引き抜き
再び歩く、だがすぐに立ち止まった。
ラズが狼狽する。
「マ、マジかよ、どうすんだよ?
こいつ、もう法衣が...」
その女は、その罪人は立っていた。
地面には破れた聖なる法衣が落ちていた。
女が肩で息をしながらしゃべりだす。
「お前ら...ハア、ハア、後悔するなよ?」
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次回は1月6日、日曜日掲載予定になります。




