第5話 不知火は未だ泣き止まぬ-2
「ら、ラズのアニキ」
「しかし、何度見ても気味の悪い場所だぜ。
だが今回の仕事が終わればこんな根城とも
オサラバだ」
「う、うん。早く取引相手、来ないかなあ?
オレ、こんなとこ早く離れたいよ」
無数の不知火が踊る。そのいくつかの
炎を避けもせずバレンは歩く。
「お頭、もうすぐ取引相手が来ます。
品物とカネを交換するだけの簡単な
取引だが何があるか分かりません、
お頭はゴダの側にいてください」
「あ、ああ。お前に任せるよ」
その男の長い髪は野性味を感じさせる、
ゴダがズボンとシャツの薄着に対して
バレンは黒い上着が暑苦しそうだ、
大きめの襟が開いて首と胸元が見える。
首には赤い蛇のタトゥーがあった。
肩から伸びてバレンの喉ぼとけを
噛みつくかの様に口を開いている。
蛇は首の横で赤い宝石のタトゥーに体を巻きつかせている。
蛇か宝石のどちらだろう?
奴も刻印持ちらしい。
奴が歩くたび重そうな金属音がする。
腕にチェーンを巻き付けている様だ。
腰には剣と短銃、昨日は殆ど戦わなかった、
奴の戦い方は分からない。
「そ、それで、こいつは
この後どうなるんだい?」
「依頼人の都合までは聞いてません。
我々としても深く関わらない方がいいでしょう。
強いて言うならこの後この女は何度
も懇願するでしょうね。...殺してくれと」
「そ、そうか...なあ、やっぱり
今回の依頼ヤメにしないか?
かなりヤバい相手なんだろ?
私達はまだ結成したばかりだし、
ほら、リスクってやつが高いじゃないか。
オ、オヤジも居ないし」
「お頭、確かにヤバい相手だ、
だが当然その分の金を積ませました。
それこそ俺達駆け出し盗賊団の
足掛かりには十分過ぎる程の金です。
ヤバいヤマを越えずにこの先俺達はやっていけない」
「そ、そうか、でも」
「それにお頭が気になさる事はありません。
この女が箱を開けたお陰で世界中が迷惑している。
そして...世界中が分からねぇままだ。
こいつが何故、箱を開けたのかを。
事態を収拾させた魔法教会からも何の発表も無い。
噂じゃあ魔神の1体に相手を魅了する
魔神がいるらしい、この女はそいつに
熱を上げて箱を開けたんだとか
つまり世界を売った淫売だ、
生きる価値など元よりありません」
「そ、そうだよな、そのせいで沢山死んだんだよな」
「...男の方はどうする?もう要らないからな、捨ててしまおうか?」
「いえ、殺すべきです」
「で、でもパンドラを引き渡したらどうせ
何も出来ないだろう?仲間って感じじゃなくて、
金で雇われてただけみたいだったぞ。だったら」
「お察しの通りです。パンドラを命がけで助けたりはしない。
放っておいても俺達に向かって来やしません」
「そ、そうだろ」
頭領の娘はホッとした顔を見せる。
「だが事を知っちまった。それがいけない。
いいですか?パンドラは世界から忌み嫌われている。だが
あらゆる国、団体からの恩赦も厚い。
特に厄介なのが魔法教会、
賢者の弟子を名乗り賢者から
受け継いだと言われる魔法を
大国に教え勢力を拡大させた連中です。
大国だけでは無く一般人であっても
魔法教会の信者になれば魔法を教えるとあって
急速に信者の数を増やし続けています。
新興でありながら今や世界中に支部を持つ一大宗教です」
「げっ、じゃあバレたら俺達、
世界を股に掛けるお尋ね者かよ?」
ラズとか言う若造も今更不安になった様だ。
それを聞いたゴダがため息をつく。
「教えただろ、相手のデカさは。仕事のデカさに
興奮して、はしゃいでっから大事な事が抜けてんだよお前は。
噂じゃあ特に『傷無し』の連中に受けが良いらしいな」
「『傷無し』って、要するにさ」
「そうだ、お前やドカそれにお嬢、
刻印を自分の体に見つけてない
連中の事だ。賢者が使ったという刻印は
モノに依っては凄まじい威力を発揮する。
つまり戦場で当てにされるのが『傷有り』
軽んじられ差別されてきたのが『傷無し』だ」
「そうか、そいつらにも魔法の力を教えるから」
「そうだ。教会に入信した奴らの中には元々歴戦の戦士でありながら
刻印の力が無いばかりに不遇の扱いを受け続けた連中も多い。
それだけでも並みの戦力じゃないぜ」
ラズは不安そうな表情でゴダに尋ねる。
「かなりヤバい取引だよな?
アニキ、これってよ、その取引相手も相当にヤバい相手なんじゃ無いのか?
一体どんな奴なんだよ?」
「さあな、深くは知らねえ。相手も知られたくは無えだろうよ。
だがヤバい相手...その見立ては間違って無えぞラズ」
バレンが話を続ける。
「その教会が始めたのが『災い拾い』
いや始めさせた、ですかね?
その女と魔神の力を利用して各地に
散らばった魔神共を処理しようとしている。
毒には毒を、分からない話じゃない。
つまり俺達は世界が抱える虎の子に
手を付けている事になります。
盗賊としては爽快な話ですが、
さすがに危険もデカい」
話しながら時折こちらに目をやる。
この状況でも警戒はしているようだ。
若すぎる頭領をなだめ教育しながら。
苦労がうかがい知れる、涙ぐましいもんだ。
「今は誰がパンドラに手を出したか知られない方が良い。
今回の事が知れれば俺達の名は上がる、
だが消される危険の方が強い。今回は金だ、金だけ手に入れる」
そろそろ頭領様のお勉強も終わったか?
外道のバレンさんよ?
となれば、こちらに注意が向く。なら...
「バレンさん、赤蛇のバレンさんですよね?」




