第5話 不知火は未だ泣き止まぬ
店の外へ出る、静かな町だ。
今は誰もいない町、俺達と盗賊以外は
荒れた町の家々を横目に道を少し歩く。
戦争に踏み荒らされた破壊と略奪の跡、
誰もいない寂しさが陰鬱とさせる。
そして何より異様なのは...
俺達は町の端にある教会にやって来た。
2階建ての古ぼけた教会だ。
隣に併設されているのは小さな医院の様だ。
それらが白い木の柵に覆われている。
ここが取引場所か。
「ゴダ、待たせたね」
「お嬢」
そこには一人の男が立っていた。
短髪に厳ついガタイ、
手には黒い石で出来た棍棒を持っている。
傍らには手足を縛られた女がいる
目隠しをされ口には猿轡を噛まされていた。
歳は盗賊の女頭領と同じくらいか。
昨日は突然現れて俺達では無く
盗賊団に襲いかかった女。
その後バレンという男に呆気なく捕まったがな。
昨日のガキ、こいつが人質にさえならなきゃよお
くそっ、今更ぼやいても仕方無え。
盗賊達が辺りを見渡す。
「相変わらず嫌な光景だね」
「お、おっかないなあ。これ人の魂なんだろ?」
町には無数の影が揺らめいていた。
赤や黄色、青や紫、緑色、
色取り取りに燃え、静かに影達は踊っていた。
人の背の高さ程の影は、巨大なロウソクの上の
一筋の炎の様にも見える。
「ただの噂だ。実際は精霊達が
戦火の激しさと人々の断末魔のうねりに
反応しているそうだ。未だにな」
「噂話じゃなくっても不気味な場所には
違いないね。こんな場所が他にもまだあるんだろう?」
「ああ、天景呪景百観。
天から零れたと思える程の美しく聖なる場所
あの世からあふれ出たかの様な呪われた場所
もちろんこの場所は後者だ」
まるで死者達が今も泣いているかの様だ。
昨夜、俺達が運び込まれた時は
夜の暗さから不気味なこの光景に
運良く気付かなかった様だ。
なるほど、ここが呪景の一つ『不知火の町』か。
「ゴダ、その女どうだい?何か話したかい?」
「いや、何も喋らねえ。猿轡を解いても
殺せだのなんだのと騒ぐだけだ。
このガキはバレンのアニキが後で
尋問する手筈だ。なぜ俺達を襲ってきたのか?
バレンのアニキがそこを知りたがってる。
俺は気にする事は無いと思うがな。
何かの企みにしてはこのガキは
余りにチンケだ。
まあ、大事な取引の前だ、神経質にもなる。
何にせよ先ずは取引だ」
「そうか、バレンが」
「ケーリア、まだバレンのアニキが怖いか?」
「い、いや怖くは、バレンは盗賊団の為に良くやって
くれているよ。ただ、オヤジが生きてた時と
やり方が...な」
「アニキは外道のバレンと呼ばれた男だが、
あれで俺達の事を考えてくれてる。
何より頼りになる人だ」
ゴダがケーリアの肩に手を優しく置く。
「ところでドカ」
「な、なんだよ?ゴダのアニキ」
「昨夜は俺とバレンのアニキで今後の計画立て、
ラズは見回り、お前は品物の見張りだったよな?」
「う、うん」
「朝は俺が周囲の警戒、てめえらが品物運びと
配置の確認、準備だ。それがどうして
この場所に俺が先に来てるんだ?」
ゴダがドカを鋭く睨む。
「てめえまさか寝てたんじゃねえだろうな?
もしそうなら、自分がどういう目に合うか分かってるんだろうな?」
「い、いや、それは...
あ、暴れたんだよ、こいつが」
ドカが俺達を地面に下す。
俺はすぐさま大きな声で喚いた。
「う、うわあああああああああ!
違うんだ!殺さないでくれ!俺は死にたくない!」
突然の大声に盗賊たちが俺を見る。
大げさに動きパンドラへ視線がいかない様にする。
「俺はあんたらに逆らう気は無いんだよ!
助けてくれ!俺はまだ死にたく無い。
あんたらに恨みがある訳じゃ無いんだ!」
涙でも流しそうな掠れた声、恐怖に歪んだ顔、
上出来だろう、マヌケ共を引き付ける役者としては十分な演技だ。
俺が喚く間にパンドラは白い柵に体を預け
上半身を下げる。胸の部分のほつれ目は隠せただろうか?
ゴダが俺に近づく、
「カラスっつたか?まあ偽名だろうが
これは盗賊の仕事だ、遊びじゃ無え。
てめえは敗れて捕まったんだ、なら
煮ようが焼こうが俺達の勝手だ。
覚悟はしておけ。だがいつまでも喚くなら
早く死ぬかもしれん。良いな?」
「う、うう」
諭してくれるんならその方が良い。
大人しくするだけだ。
ゴダと言う男、なかなか落ち着いている。
若い3人とは踏んだ場数が違う様だ。それに
外道のバレンにゴダ、思い出したぜ。
どちらも悪名を轟かせた盗賊だ。
地蔵のゴダそして外道のバレン
同じ盗賊団にいたが頭領が死に
盗賊団は解散したはずだ。
確か団の名前は...
「なんだよ、そのオッサンまた泣き喚いてたのか?」
「あ、アニキ達」
来やがった。
「バレン、これで...揃ったね」
「カシラ、お待たせしました」
ラズという名の若い盗賊がバレンより前に進みながら
景気の良い声を上げる。
「バレンのアニキも来た、ゴダのアニキに
俺とドカ、そして頭領ケーリアお嬢、
新生ドルフォッグ盗賊団、一世一代の初仕事
見事ビシッと決めてやりましょうや!」
そうだ大盗賊ダンダルク・ドルフォッグ
奴が死んで何年経つ?まさか娘がいたとは。
第5話「不知火は未だ泣き止まぬー2」へ
次回は11月30日に投稿予定です。




