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大きな歯車

作者: 月見酒乃助

戦隊とライダー見てたら浮かんだ感じです、殴り書いたので諸々目をつむってくださいまし。

「お集りの皆さま!本日はわが社…ひいてはこの日本の未来のお話をするべくこのような場を設けさせていただきました、お時間頂戴しますこと、誠に感謝いたします」


壇上で無数のカメラとマイク、聴衆の目を一身に受ける男、千条(せんじょう )(あたる)

彼の眼前には新聞各社にテレビ局、著名なブロガーに動画配信者。当然のように全国ネットでの生放送をしながらも、様々な媒体のメディアの前に立つ。


彼を総帥とする千条グループは20年前の事件、通称X(エックス)デイの直後に怪人保険とヒーロー保険のふたつの保険システムで頭角を現し、今では日本で最大の企業…だけで収まらず世界各国にその手を伸ばす非常に大きな会社である。


X(エックス)デイとは、突如世界で起きた異常現象で、人類に混じる形で怪人と呼称される生物が発生するようになった日の事だ。

怪人はまるで日本のテレビシリーズに出てくるヴィランのように多種多様な力を持ち、あるものはその力を使い財を成し、またある者は夢が散り、ある者は悪の道に落ちた。

徐々に怪人関連の事件は激増、それらを防ぎ、また怪人を裁くための組織として日本に誕生したのが所謂戦隊ヒーロー、5人組のチームであるジャッジファイブだ。彼らはそれこそテレビのヒーローのように扱われ、あっという間に世間に迎合される。主な任務は怪人の捜索と殲滅だ。


最初こそ怪人にも人権をと叫ばれたが、今となっては駆除の対象である。日本では年間およそ10万体の怪人が駆除されている。

彼ら怪人は普段人と変わらず、普通に生活をしている。ましてや一般人の親から産まれてくる。

怪人の多くは多くの真っ当な市民と同じで、その力を使わずに日々を過ごしている。

しかし一部の怪人が凶悪な犯罪を繰り返している中で、特に犯罪行為をしていない怪人であってもに見つかれば命は無い。結局のところそうなってしまうのだ。


そこに目を付けたのが千条で、当時は一介のサラリーマンに過ぎなかった彼は単身起業。

身内が怪人であった場合の補填や怪人関連の危険に巻き込まれた場合に保険金が下りる等が主となる怪人保険とヒーローの駆除作業に所持している不動産等が巻き込まれた際に保険金が出る等のヒーロー保険によって見る見るうちに会社を大きくしていった。

また、保険に入っていない中小企業の建物が壊されたりしたのならばその企業を買い取りノウハウを吸収し事業を拡大。圧倒的といえるカリスマで様々な分野を開拓し、近代の日本では考えられない程の福利厚生に能力に見合った給与、系列店などのサービスによって必要な人材を確保しつつ、今では世界でも指折りの巨大企業だ。


そんな彼、千条充がこのような大規模な記者会見を開いたのは初めての事である。

メディアへの露出こそ幾度と無くしている彼だが、自身からメディアを集めて何かを話す、ということは無かった。

ネットでは選挙への出馬、だとか残された大きな日本企業との合併だとか、なんなら世界征服でもするのではないかと大盛り上がりだ。


「さて、我が千条グループは順調に成長を続け、今では世界でも有数と呼ばれるほどの大企業となりました。これもひとえに皆様方のお陰、本当にありがとうございます─────」


彼が口を開けば辺りはしんと静まり返る。抽選招待客を含めた数万人が、テレビの向こうの数十万人が口を閉じる。

暫くは各方面へのお礼や、現状の体制をはじめとした会社の情報を雑に説明した。


「─────私の考えた保険事業に始まり、様々な製品の開発、製造。建築土木に物流や娯楽に関連するもの、食品関連、インターネット関連のサービスも随分と上手く運営することが出来ています」


早くもなく、遅くもなく。まったくもって自分のペースで話を続け、ここで息を吸う。少しの緊張感が伝播した。


「こうして様々な分野に参入するごとに一つ、どうしても腑に落ちないことがある。怪人の処遇に関してだ。今彼ら、怪人と呼ばれる人たちは罪の如何に問わず、殺害される…ジャッジファイブの手によって」


いつの間にか丁寧で柔らかな口調は鳴りを潜め、有無を言わさぬ迫力のある厳かな口調にシフトした。

それを聞いて人々は更に静まりかえる。呼吸すら潜めて彼の言葉を待つ。

誰もが心のどこかに置いていたこと、考えるのを止めてしまったこと、それを今、目前の男は口にする。


「確かに二十年前のX(エックス)デイのころは酷かった。私の保険が飛ぶように売れ、それで入った金は自転車操業になるほどに出ていった。怪人による強盗や連続殺人、聞くにも堪えない凄惨な事件の数々は記憶に新しい。だがここ数年、怪人による犯罪はほぼ無いと言って良いだろう。無論ゼロではないが、一般人、怪人で無い人間による犯罪のほうが圧倒的に多い、そこで今一度思い返して見てほしい。日本では怪人は発見次第処断、だ。イギリスやドイツも似たような物だな。アメリカでは一部が研究利用、或いは拘束。ロシアは制御チップを埋め込み軍隊等に利用…他にも幾つかパターンはあるが何れの国でも怪人を人として扱っていないのが現状だ」


メディア関係者が深く頷く。招待席の政府、警察関係者もだ。顔色は様々だが、彼らは何らかの形で怪人の実情を良く知っている。


「この中で身内、無いし知った人が怪人だった事を経験した方は?」


そう問いかけると会場の手が半数ほど上がる。


「ではその中でその知り合いが怪人だった事で実害を被った方は?」


手は殆どが下げられ、数えられそうなほどに減った。


「聞き方を変えましょう、自身の所属する組織の誰かが怪人で、それがジャッジファイブによって処断されることによって被害を被ったことのある方は?知り合いに怪人が居なかった方でも結構です。お手を」


誰もが少し思い悩み、徐々に手があがる。

すると会場内の8割以上が手を上げた。誰もがいずれかの日を思い出す。

再び柔らかくなった口調は聴衆の心を掴んで離さない。


「ありがとうございます。ええ、お判りでしょう。例えば…会社の重役が怪人で、それが欠けることによって経営が立ち行かなくなる。翌日の担当者が処断され、シフトに穴が開く。恋人がある日突然いなかったことになる…例を挙げれば幾らでも挙がるでしょう。しかしそれでも怪人は殺される、ああ、いや、殺されるのではなく処罰の対象になる、でしたか。世間に穴が開こうと、誰かの心に穴が開こうと、怪人は悪として扱われる…

「ッしかし!それによって得たものも多い!」


招待席の政治家が怒声を上げる。話の最中に怒声を飛ばすのは彼らの得意技だ。


「確かに怪人の研究によって技術は大きく進歩しました。その恩恵を享受していることも事実です。ですが、それは人々の生活よりも大切なことでしょうか?一人の怪人が死ぬことで何人の生活に悪影響を…

「それは一側面だ…!それによって人類は大きな発展を遂げた!」


顔を赤くしてなお吠える。気分を少し買いしたように千条はため息をつく。

少しのざわつきも直ぐに収まり、会場は静寂を取り戻した。


「結構、では話を先に進めてしまいましょう。再三申し上げました日本の先を決める話、それは単純明快なこと」


誰かが唾をのむ音がした。それを聞いた誰かも唾をのむ。

それらが収まったころ、千条は口を開いた。


「私は怪人だ」


今日一番の狼狽と衝撃が会場を包む。世界に手を伸ばす、日本最大の企業のトップが怪人である、それは世界を揺るがすほどのスクープだ。

テレビの向こう側の誰もが衝撃に口を開け、再度固唾をのむ。


「ふむ、証拠も見せようか」


そう言うと千条は姿を変える。怪人の変身プロセスである、煙がその体を包み、晴れた時には怪人態となった。

他の怪人は黒である煙が白色であること以外は正しく彼が怪人であることの証左であった。


皮膚は純白の皴一つない滑らかな物に置き換わり、各関節部は非常に複雑な歯車の様なものが組み合わさっているように見える。

顔のあった場所には歯車が二つ、重なった状態で静かに回転している。

何より異質なのはその背後で、純白の楔が数えきれないほど、幾何学模様を描きながら浮遊していた。


見ようによっては神聖にも見えるそれを見た群衆は二つに分かれる。

恐怖するか、受け入れるかだ。


「これで信じて貰えただろう、千条グループ総帥、千条充は怪人であることを。さて、これにて世間に、ジャッジファイブに問いましょう。これでも怪人は無条件に殺すべき、ですか?」


カメラを見据えてそう語る姿は何処か楽しげだ。背中の幾何学模様は常に姿を変え続け、歯車は音もたてずに回る。


「満足のゆく答えが得られなければ、そうですね…仕方がないので悪として世界を征服でもしてみましょうか。全ての怪人がヒーローに倒されるとは思わないほうが良い、それだけの対策は重ねたし、何より私が死ねば何十万という人が路頭に迷う事となる」


受け入れることを決めた群衆は彼の言葉に聞き入る。いつの間にか浸水するように、心を浸してゆく。

恐怖する物の心も彼に浸されてゆく、まるで別種の何かにだが。


彼ら(ジャッジファイブ)が到着するまで凡そ5分ほどでしょうか。それまでに答えをお聞かせくださいね…日本よ」


一つの歯車は廻り出した。巨大な歯車を組み込みより強く回るのか、それともはじき出し、元の回転を続けるのか、或いは歯車に全てが壊されるのか、その先はヒーローにしか分からない。

暇つぶしにでもなりましたら幸いです。

お時間頂戴しましてありがとうございます。

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