2話「体を温めるには鍋が一番です」
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ
トライから綺麗に脂の乗った桃色の豚肉を取り出す
「おお〜〜!」
ハルが犬耳をピンっと立たせながら今にも生の豚肉にかじりつきそうな勢いで言った。
「まだだよ〜。でも、ハルが大根おろし作ってくれたら早く食べれるよ。」
私は苦笑しながらハルが夕飯の手伝いをしてくれるよう遠回しに話す
「うんわかった!すぐにする!」
案の定少年は慌ただしく仕事に取り掛かっていった
……ご飯になったらいつも以上に元気だなぁ……
小さい手で必死に大根を擦っているハルを微笑ましく思いながらしばらく眺めていると
「あ……ハルっ!大根は半分くらいでいい……」
「えっ?!」
由良子の言葉に驚いたハルは恐る恐る自分の手にある大根を見る
そこには、人差し指の親指でつまめるほどに小さくなった大根があった。
「ごめんなさい……」
「いやいや!いい忘れた私が悪いから!!」
目に見えてしょんぼりするハルに慌てて弁明する
「由良?野菜洗いましたよ?」
台所から小さい手に不釣り合いな大きい籠を持ったエルフの少年が出てきた
「あっ。ありがとう そこに置いておいて。」
フラン!ナイスタイミング!
「ほらっ。ハルっ?野菜きたよ〜 もうすぐで食べられるよ?」
自分のとなりにしょんぼりしながら座っているはるに慌てて声をかける。
「えっ?!ほんとに!?」
由良子が声をかけた途端、垂れていた耳がピンっと跳ね、目の色を変えた
「ほんとほんと。あとは…みんなを待つだけ。もうすぐ帰ってくるよ」
ハルを安心させるために言った瞬間、玄関から誰かが帰ってきた音がした。
「あっ。きょうすけ。」
「きょうすけー!おかえりー!」
帰って来たもう一人の下宿者に2人は嬉しそうに声をかける。
「おー!ただいま帰ったぞー。」
2人の迎えの言葉に嬉しそうに頰を緩める青年
薄い茶色の髪をした、成人を迎えるくらいの見た目をした美青年が由紀子の隣に腰を下ろした。
「おー!今日は鍋かー!寒いさくなって来たからなぁ〜」
「京介さんが好きなエビフライもありますよ」
「えっ?マジで? ラッキー!」
見た目より幼い反応をしながら箸を手に取る。
「待って。あと……」
「ねーねー?もう食べていい?」
ハルのもう待ちきれないと言う顔を見て、少し言いよどんだあと
「……仕方ないなぁ。 いただきます。」
由良子どこか諦めたような顔をしながら箸を手に取る。
「「「いただきます。」」」
全員で手を合わせたあと、即座に鍋をつつく
「ぽんずっぽんずっ」
「あっ、おいハル!ゆずぽん入れたら俺によこせ。」
「きょうすけは僕のあとです。僕の方がハルに近いですから。」
「えーー。てか。大根おろし多くね?」
「それは……」
下宿者が楽しそうに鍋を囲んでいる中
「やっぱり来ないか……」
由良子はテーブルの上に余った1人分のお椀のエビフライを見ながら呟いた。




