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御堂奏楽

今回は妹のお話です。一話に比べて少し大人びているようなそうでもないような……。


追記:思いっきり矛盾してますねごめんなさい! この話は日曜日で統一します。



 ある日曜日の朝、久しぶりに熟睡してしまった俺は寝癖でぼさぼさの頭を揺らしながら自室を出て階段を下りていく。朝日がまぶしいぜぇ。


 一階のリビングにはスマホをいじる俺の妹、御堂奏楽がいた。ホットパンツにノースリーブシャツとラフな格好をしている。家の中だからか平日とは違い髪は一つにまとめられている。


 奏楽は降りてきた俺を見つけるなり睨んできた。え、俺何かした?




「おはよ~……」

「……おはよお兄ちゃん。一つ質問」

「え、何」

「今日の朝ごはんの担当は誰だったっけ?」

「……あ」




 血の気が引いて顔が青くなる。朝昼晩の食事は俺と奏楽で毎日交代して作っている。昨日は奏楽が作ったので今日は俺だ。奏楽の言葉に焦り時計を見ると午前十一時を回っている。やらかした……。




「ごめん、今作る」

「別にいいわよもう! 私の分は作って食べたから。その代わり洗い物はやってよね」

「……うん。ごめん」

「謝んないでよバカ兄。気分も空気も悪くなるじゃない。次やったら許さないからね……! ……あ、あとあたし今日午後から出かけてくるから留守よろしくね」

「あ、うん」




 どうやら俺の呼び方がお兄ちゃんからバカ兄にたった今変わったようです……。兄の威厳もクソもないが今回の件は確実に俺が悪い。


 にしたって血の繋がりのある兄妹とはいえ言葉に遠慮しなさすぎでしょこれは……。出利葉と奏楽の毒舌サンドイッチとか一口で満腹になるレベル。棘飛ばしすぎてバラの茎もつるつるだよきっと。


 毒舌になったのはおそらく中学二年に入ってからだろうか。ちょうど父さんが亡くなったころと重なる。両親が亡くなって幼い奏楽の心が崩壊しかけたことと、反抗期に入ったことが重なったことでこうなったのではないかと思う。


 兄である俺は親にはなれない。両親を失って投げやりになり、反抗期になった奏楽の毒の捌け口も本来は親が受け止めるものなのだろう。


 だが親がいない以上は俺が全て受け止めて、その上で妹が困らないように奏楽が全うな道を歩めるように支えるのが義務だと思ってる。


 俺は冷蔵庫にある食材を適当に取り出してぱぱっと調理する。奏楽はそれだけ言いたかったのかさっさと自室へ戻って行ってしまった。


 調理も食事も終えた俺は食器を洗い始める。バイトで疲れていたとはいえ寝坊して朝食を作り損ねるとか反省しかない。




「次は気をつけないとなぁ……」




 食器洗いもやがて終わり片付けた俺はすることもないのでリビングの椅子に座って机に突っ伏す。


 今日は日曜日。疲れがたまっていたのでバイトのシフトは空けてもらった。話が長い店長もバイトをかけ持つ俺に気を遣ってくれたんだよね。マジ助かる。


 和琴は家族で出かける用事があると言っていた。今の時間は暇だが午後になれば奏楽もいなくなり完全な自由時間となる。そんな時間などいつ振りだろうか。年単位だったかな……。


 と、突っ伏していたら眠気が襲ってきた。今日だけでも十時間以上は寝たはずなのだが、体はまだ睡眠を欲しているらしい。ならば体の望むままに寝ようじゃないか!


 俺はすっと目を閉じて寝息を立てはじめる。次起きる頃にはきっと、奏楽は出かけているだろうな。










 時計の針の進む音が心地よい。窓から差す日の光は俺の背中を温かく照らしてくれる。座っている状態だと快眠って難しいと思うんだけどな……。


 目が覚めて時計を見れば午後二時半。あれから三時間は眠っていたことになる。こんなに寝たのも年単位でなかった気がする……。だけど二度寝したおかげか眠気は完全になくなったようで元気いっぱいだ。


 だがやることがない。ほんとにない。


 俺はアウトドア派ではないので休日であれ出かける日は少ない。航や翔に誘われれば内容次第で行く程度だ。だがたまに遊園地全アトラクションめぐりとか突拍子もなく思いつく二人なので家に帰った途端眠ってしまいそうなほど疲れるものはさすがに断るけどね。自分と俺の体力を一緒にしないで頂きたいもんだ。


 考えて思いついたのは買い物と掃除くらい。掃除は時間がかかりそうなので買い物を先に済ませてしまおう。


 と、買い物の経過については何もなく終わったので省略する。だってほんとに何もなかったんだ……。同級生の一人もいなかった。まぁいいけども。




「……掃除でもするか」




 買い物を済ませた俺は次に掃除に取り掛かることにした。


 掃除するとは言ったが自分の部屋ではなく、放置されている物置部屋だ。しばらく手を付けてなかったから埃とか凄いだろうな……。


 気合を入れるためマスクを着け、箒やはたき、バケツに雑巾にゴミ袋と適当な掃除用具を持ってきていざ掃除開始!





「……うわぁ」




 扉を開けるなり舞った埃が俺の方に吹き付けるように飛んでくる。咄嗟に目を閉じたが少し目に入ってしまったらしい。くそぉ……。


 雑に積み上げられた段ボールや家具など、使われなくなったものばかりが押し込まれている。生前の両親がどちらももったいないと言ってなかなか捨てられない性格だったからだ。その性格は俺と奏楽にも遺伝している。何かいつか使うんじゃないかって思うと簡単にぽいっとできないよね。分かる人いてほしい。


 とりあえずどこから手を付けるのがいいのだろうか。埃が舞って下を汚さないように上から片していくか。でもこれ高いところの荷物下ろすの面倒くさい……。やっぱり下からやろう。




「これはこっち……けほっ、けほっ……。埃ひどいなこれ……」




 そうして掃除を始めてからかれこれ数十分が経過するのだが、まだ半分も終わっていない。服とか埃まみれだし終わったら軽くシャワー浴びるか……。


 軽く辺りを見渡し床及び棚の下段を終了したことを確認し、次に中段の作業に入る。箒で掃いた後でも水拭きするとあっという間に雑巾や洗う水が黒くなっていくのを見るとほんとに埃も汚れもひどかったことを再確認させられる。


 中段の掃除を終了させて一旦休憩を取る。時計を見れば午後五時を回っていた。奏楽は友達と遊んでくると言っていたが晩御飯も一緒に済ませるのだろうか……。


 ともかく朝の件がある以上晩御飯は絶対俺が作らなければいけない。だが手を付けた作業を終わらせずに別の作業に移ってしまうのは俺の性格的に許せない。


 てことで早く済ませよう!




「とりあえず上の物はどけよう……」




 そう思ってリビングでの休憩を済ませ、再び物置部屋に移動した俺は爪先立ちで上段にある段ボールを両手で掴み……――足を滑らす。




「うわっ!?」




 バランスを崩し床に体を強く打ち付ける。そこに畳み掛けるように離してしまった段ボールが頭を直撃し整理した棚が俺に向かって倒れてきた。


 衝撃と音が部屋中に響き、舞った埃が掃除したスペースに落ちていく。全身に強い痛みが走り、床と棚の間に足が挟まり身動きすら取れない。


 人間ってこうも脆いものか。ただ痛いだけでここまで力が入らないとは思わなかった。助けも呼べないし、どうしたものか……。








「……何してんの?」








 痛みに耐えていると開いていた入り口からこちらを覗く一人の人影があった。倒れてきたときの音で気づいていなかったが奏楽が帰宅していたらしい。




「……動けない」

「バカでしょ。一人でやろうとするからそうなんのよ」




 そう言うと部屋には入らず別方向へ歩いていってしまった。まさか助けないとは思わなかったぜ……。


 情すらないか。まだ朝の件怒ってるのかな……。


 助けは望めないと感じた俺は数分かけて無理やり棚を浮かせて足を引き抜く。ズボンの裾を捲ってみると青く腫れ上がっている。うわぁ……見ていたくない……。


 足を引きずって倒れた棚を起こそうとするも上手く力が入らない。数センチ浮かせるだけで手いっぱいだ。


 仕方ないと諦め、落ちた段ボールを整理していると先程は部屋に入らなかった奏楽がジャージ姿に着替えて入ってきた。どうやら一度部屋に戻っただけらしい。よかった……。




「あ、来てくれたんだ」

「何だ、動けるじゃないの。じゃあ私は要らないわね」

「え、ちょちょちょちょっと待って待って!」

「バーカ。こうなったのバカ兄の自業自得のくせに」

「う……。ん、……わかった。帰ってきたばっかりだし部屋で休んでていいよ。どうせ一人でやる予定だったし」

「はぁ……。それこそバカでしょ? ここまで来た以上は手伝うわよ。面倒だけど、ね!」




 無理やり会話を切って両手で棚を持ち上げようとするので急いで俺も手を貸す。あまり力になれなかったような気もするが起こせたので結果オーライだ。




「どこまでやったのよ」

「上の棚以外は終わらせたけど……」




 倒れた棚を起こし棚に置いてあった段ボール類を別の場所に移動させたのだが、バケツの水は床にぶちまけられ、掃除していなかった場所の埃が他の場所に降りかかってしまっていた。




「……やり直しかなぁ」

「バカ兄のせいでね」

「もうわかったよそれは!」

「はいはい。あたし踏み台持ってくるからその辺の段ボールよろしく」

「う、うん」




 この部屋に踏み台を常においておくべきだな、と思いつつ奏楽の指示通り段ボール類の仕分けを行い棚へ戻していく。


 結局迷惑かけてんだから嫌になる……。何だかんだ悪口言いながら手伝ってくれるのは嬉しいけど。


 持ってきた奏楽から踏み台を受け取ると、残った段ボール類を上段へ並べていく。奏楽は雑巾を用いて床に広がったバケツの水を拭き取ってくれていた。ほんと申し訳ない……。


 奏楽の手伝いの甲斐あってか、午後六時前に掃除を終わらせることができた。




「さて、と。今からご飯作るからゆっくりしてて」

「……その足で?」

「この足で。歩けないわけじゃないしいいよ」




 実際はすごく痛む。ていうか腫れた箇所も足を引きずったところも奏楽に見せていないはずだけど……。まぁ足挟まってたし察せるか。




「ふーん……」




 疑いの目を向けたままだったが、渋々掃除用具を片づけに行った。うんうん、素直でよろしい。


 奏楽が出て行ったあと、俺は脱衣所に向かい埃まみれの服を籠に脱ぎ捨て、別の物に着替えた後台所へ移動する。奏楽はリビングでスマホをいじっていた。




「足滑らせてまた掃除する羽目にならないでよね~!」

「んなことするほどドジじゃないってーの」

「どうだかね~。熱出したあたしにお粥ぶっかけたこと未だに覚えてるんだからね!」

「ほんとにごめんって……」




 俺も奏楽も家での役割を持つ以上休むことができないため多少の体調の悪さは無理して活動するのだが、珍しく奏楽が高熱を出した際に台所でお粥を作ったのだが、奏楽の部屋に持っていった際に何もない場所で足を滑らせ、少量だがお粥が奏楽の顔にかかってしまったのだ。


 奏楽はすごい剣幕で怒り、俺も猛省した。結局3日くらい口利いてくれなかったけど。




「ご飯作り終わったらお風呂お願いね。外出たからさっぱりしたい」

「はいよ」




 会話はそこで途切れ、俺と奏楽はそれぞれの作業に集中する。基本的に晩御飯は一緒に食べている。いつか別々に食べることになりそうだなと思っていたが、家族で一緒に食べることは親の教えでもある。いくら奏楽でもそれをないがしろにはしたくないのだろうか。その教えがなければ一緒に食べることはしなかっただろうしね。


 晩御飯を済ませた俺は奏楽の言うとおりに風呂の準備を終えると、一旦自分の部屋に戻る。掃除の時の怪我が未だに痛むのだ。ただ包帯をするほど大袈裟な怪我でもないし寝れば治るだろ、としばらくベッドに横になる。


 やがて奏楽が風呂から上がると俺も風呂へ向かう。それも済ませると自室で勉強を始めた。今日全然できてなかったし。


 風呂を済ませた時点で午後十時を回っていた。かなり遅くなってしまったけど別にいいだろう。その分睡眠時間を削ればいいし。


 その後足の痛みを気にしつつ勉強を進めること二時間以上。いつの間にか日をまたいでいたことに驚きつつ一旦休憩を取るため背伸びをすると許可もなく急にドアが開けられた。








「うわ、まだ起きてた」








 ドアの方を向くと右手にコーヒーの入ったマグカップ、左手にはいろんなものが入ったプラスチックケースを持つ奏楽が立っていた。それはいいのだが部屋に入った時のその反応は正直失礼だと思う。ねぇ?




「俺の部屋に自分で来といてその反応はないでしょ」

「冗談よ冗談。コーヒー飲む?」

「……何のつもり?」

「殺されたいの?」

「ありがたく頂戴します」




 両手で感謝しながら空の元へ移動しマグカップを受け取り、再び席に着いてから一口飲む。この苦味出ていくのかと思ったら俺の隣に移動してきた。




「……どうした?」

「足出して。湿布貼るから」




 足の事気にしてたんだな。……ちょっと意外だった。




「別によかったのに」

「悪化したらあたしが動くことになるでしょ。いいから出しなさいよ」

「……うん」




 俺は椅子を回転させて奏楽の方を向くと、奏楽は屈みプラスチックケースの中からシップを取り出す。




「こんな時間まで勉強とか、ほんと勉強バカっていうか何ていうか……ほんとバカ」

「バカバカ言いすぎだっつーの! 俺はいいとこ就職するために頑張ってんの。それにもうすぐ定期テストだし。……奏楽は勉強しなくて大丈夫なの?」

「あたしは素で頭良いから、バカ兄みたいに勉強しなくても、授業だけで平均以上は簡単に取れんの」




 心配は杞憂だと奏楽は平然と言い放つ。こいつが真面目に勉強するところなんて受験の時しか見たことないしそれも一か月のみだったんだよな……。この前テスト見てみたら全教科七十点後半ばかりだったし、容姿良いらしいことと俺の前とは違って学校では猫被って愛想のよい笑顔を振りまいてることからクラスで人気者なんだとか。運動はあまりしないみたいだけど苦手ではないらしいし、家事も料理もこなせる……と何気にスペックは高い。


 話をしながらも奏楽は手を動かし続け湿布を貼った後包帯を巻き、終わりと言う代わりに怪我をした部分を思いっきり叩く。




「いった!? 何してんの!?」

「次からこういう事ないようにって戒めと罰! 今日サボった分明日もバカ兄が当番ね」

「うん。それはわかってる」

「ならいいわ」




 そう言い残しプラスチックケースを持って立ち上がりドアへ向かっていく。俺も勉強を再開するために机に向き直った。




「バカ兄」




 いざ再開! と思ったのだが、ふと思い出したように奏楽が振り返って俺の名前を呼ぶ。




「なした?」






「……明日平日。早く寝なさいよね」






 俺の返事を待たずに部屋を出てドアを閉める。言い逃げは狡くね?


 だがまぁ、確かにそうだ。分かりにくいけどあれでも心配してくれているのだろうか。ほんとわかりにくい。




「……うん」




 一人で遅れて返事を呟いた後、俺はベッドへ倒れ込む。そう言われたなら素直に従っておこう。今日は疲れたし、まだ足痛いし。




 さて、明日こそ早起きしないといけないな……。そう心に留め瞼を閉じる。奏楽をまた怒らせたくはないしね。





とりあえず周りの人のエピソードはあと2話ほどの予定なので完成次第投稿します。

オチなんてないようなもんです。適当に区切ってます。

あとArteMythの方もよろしくです。更新頑張ります。

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