第一章6:新鮮な朝と主従関係
西から昇る太陽の光が学園内にある小さな川に反映し、朝のサインを照らす。 川の近くで住み着いてる小さな野生の動物たちがそこの水を飲む。
既に四月の始まり、まだ爽やかな風が吹いている。 日差しの届かない東の校舎の保健室に……涼しい風が窓の隙間で入り、中の気温が少しずつ下がっていく。 暖かい気温が冷たくなって、高さもさがっていく。 そして冷やかな風はオーフィスターニャの頬を撫でる、そのくすぐったい風で、彼女はゆっくりと眠りから目覚める。
「ん……あれ?」
目を開けたオーフィスターニャはすぐに違和感と疑問を感じた。
「(なんか……暑苦しい……あれ? か、体が重くて動けない……! どうして……? あっ……)」
体を動かす努力するオーフィスターニャ、彼女がもがいてる間、布団はベッドから落ちて、そこには……アルファーニが強くオーフィスターニャを抱きしめている姿だった。
お互いの顔が近い分、オーフィスターニャは気づく。 アルファーニの美しくて愛らしい寝顔を。
さらさらな髪の毛、赤子みたいな柔らかい頬、長い淡い水色の睫毛、微妙に色気を感じる唇。 アルファーニはボタンが掛け違いの白いシャツを着ている状態で強くオーフィスターニャのシャツを握る。
アルファーニが白い肌の太ももをオーフィスターニャの腰にのせる。 アルファーニの息はオーフィスターニャの首筋につく。
「ひっ!」
彼女は思わずびくっと驚く。
オーフィスターニャの両腕が強くアルファーニに抱きしめられ、どうすることもできない状態にいた。
「お……た……く……」
「ん?」
その時、オーフィスターニャは初めてアルファーニが何かぶつぶつと寝言をしていることに気付く。 気になったオーフィスターニャが、もっと聞き取れるよう、頭を少しだけ寄り付く。
「お……にして……ださい」
それでもオーフィスターニャが完全に聞き取れない。 そして彼女がもっと寄り付けようとした時、前髪がアルファーニの鼻に擦る。
「ハッ……ハッ……くしゅん!」
「うわっ! きたねえ!」
アルファーニのくしゃみがオーフィスターニャの顔にぶっかける。 オーフィスターニャの顔、アルファーニのよだれと鼻水で垂らしていた。
「ホェ……?」
アルファーニはよだれを垂らし、ボケる顔でぼんやりの視界で目の前にいる“物”を見詰める。
「うん……おい! まだ寝ぼけてるの?! アルファーニ!」
大声で叫ぶオーフィスターニャの声がアルファーニの頭に響く。
「大声で出さないよぉ~……頭に響くからぁ……」
苦しいな表情と弱い声を発するアルファーニが右手で頭を抱え込む。
「ご、ごめん……」
無防備なアルファーニの前に、オーフィスターニャが弱気になって、すぐに謝った。
そして彼女が先にベッドから降りようとしたら、アルファーニの左手がまだオーフィスターニャのシャツを握ったまま、それに気づかなかったオーフィスターニャはアルファーニを一緒に引っ張られ、その意外の重さで……両者当時に地面に転ぶ。
後頭部が地面に直撃したオーフィスターニャが苦しい声をあげる。
「いってぇ~……」
「ん……あれ? ここは……ドコ? なんで私が……?」
地面の衝撃によって、アルファーニは半分睡眠状態から覚ます。 上半身だけ起こして、オーフィスターニャの腰の上に座っていた……彼女自身はまだそれを気付いていない。
その間、オーフィスターニャは目を開ける……そこには、非常に色っぽくな格好をしているアルファーニを目撃した。 目の前には、幾つのボタンが掛け違いの白いシャツ、綺麗で柔らかい太ももの筋肉のライン、あと少しで下着をギリギリまで見えそうで見えないアングル、胸の隙間がオーフィスターニャの視線からまる見え……オーフィスターニャの顔が少し赤くなって、数秒後で視線を逸らす。
「(目のやり場に困る……! アルファーニって案外いいスタイルしてるね……ちょっと、ワタシの好みな女性かも……って! 何を考えているんだ! 相手は昨日まで死闘を繰り広げたライバルじゃないか! 落ち着けぇー、外見だけに騙されるなぁ……!)」
悩みを抱えてるオーフィスターニャが、強く頭を振る。
そして、彼女が再び視線をアルファーニの方に向けると、ある恐ろしいことに気付いた。
「(あ、あれは……!?)」
驚愕の表情を晒すオーフィスターニャの視線の先には、今でもアルファーニのシャツのボタンが破裂する寸前の光景を目にした。
「ミネルヴァ~! どこにいるの? 下半身がまだ痺れて感覚を感じないし動けない……」
アルファーニは困った顔で左右を見る。
「(おい! せめて下を見ろっ! お前の下にワタシがいるんだ! でも……ワタシから言うと、また面倒なことになるし……どうすればいいんだ?)」
オーフィスターニャが悩んでる時、彼女はすっかり忘れてしまった……あることを。
そしてアルファーニが胸のあたりに苦しいと思って、ボタンを外すと……二個のボタンが凄まじい勢いで二つの方向へ発射した。 一つ目がアルファーニの前へ飛んだ、そして…二つ目のボタンは傾けて、オーフィスターニャの鼻の先に直撃する。
「いったぁぁぁ!!!!」
「え? うわっ!」
痛みを感じた瞬間、オーフィスターニャは両手を鼻に抑え、下半身が反射的に一気に起きる。 その不意打ちに食らわせたアルファーニが、叫びを上げ、体ごと前へ倒れる。
「ん……?!」
「ひゃっ!」
アルファーニが前へ倒れたことによって、急にオーフィスターニャの視界が暗くなり、呼吸ができなくって、苦しくなる一方。
「(く、苦しい……! 何っ?! ワタシの顔を潰されている……この柔らかさ! ま、まさか……まさか……まさか……まさか……!!)
「んもう! 何ぃ? 今の……? って、誰かが私の下にいる!」
アルファーニがようやく誰かが彼女の下にいることを気付き、上半身を起こす。
「ぷはっ! 死ぬかと思ったぁ!(やっぱりアルファーニの胸だったのか!)」
「あれ? オーフィスターニャ・トワベールカ、どうして君が私の下にいるんだ? 説明してくれる?」
息を吹き返したオーフィスターニャの前に、微笑むアルファーニがいた。 嫌な予感を感じたオーフィスターニャは慌てる。
「こ、これには深くて長い事情があるんだ……ワタシは言っても、お前はきっと信じないだろうし……」
「そう落ち込まないで、私はちゃんと冷静に君の“理由”を聞くから……」
アルファーニの優しい笑顔に、裏を感じたオーフィスターニャが、好奇心で話の続きを問う。
「き、聞いた後、どうするつもり?」
声が震えていた。 まるで子供が親に説教されてるみたいに、声と身体が震える。
「もちろん……¡ Te mataré !(殺してやる!)」
アルファーニの言葉は冷たくて、オーフィスターニャの背筋に悪寒が走る。
「じょ、冗談……だよね?」
「いいえ。 私は真剣に考えている。 たとえ左腕一本でも、私は必ず君を……! あれ?」
アルファーニは急に話の途中に止め、困惑の表情で彼女自身の腕を見詰める。
「これは……どういうことだ? なんで、なんで切断されたはず、だった……私の右腕が完治している?! ……オーフィスターニャ・トワベールカ、君の右腕も……いったいこれは……?」
喜びと困惑、ふたつの感情が混ざってしまい、アルファーニの気持ちの波が大きく揺れて、激しくなる一方。 彼女が錯乱している時、オーフィスターニャが震えている彼女の両手を強く握る。
「ワタシもどうなっているのかは全然理解できないけど……でも、これだけは言い切れる」
オーフィスターニャの眼に強い輝きが光っていた。 アルファーニはそれに気づき、ココロの激しい鼓動が少しずつ平常に戻る。
「いったい、なにが言い切れるんだ?」
「こうしてお互いの腕が元通りになったおかげで、お前とちゃんと“友達”になれるから! これからよろしくな、アルファーニ」
オーフィスターニャはまるで重いプレッシャーから解放されたみたいに、緊張していた顔が緩める。 彼女が言った言葉は強くアルファーニのココロに響く、そして誰も惚れてしまう無邪気な微笑みを晒す。
「…………」
アルファーニはその笑みに言葉を奪われ、悩み事がすべて消え去って……彼女はただボーっとオーフィスターニャを見詰めている。
そしてふたりの間に、良い雰囲気に包まれて、彼女たちはただただその場で両者の顔が赤くなって、ひと時より長く目の前にいる美しい女性を見詰める。
「アルファーニ……」
「オーフィスターニャ・トワベールカ……」
お互いは相手の名前を呼び、彼女たちの距離が更に縮む。 まるでこの世界が彼女たちふたりが存在しているだけみたいに、周りの音をせず、時間が静かに流れる……はずだった。
「…………」
「ん?」
視線を感じたオーフィスターニャは、気になって右の方へ見る。
「なっ!」
「どうしたの?」
「あいつは……何時そこにいた……?」
「“あいつ”とは? ……えっ?!」
アルファーニも右を見たら、オーフィスターニャはと同様、驚く顔を晒す。 その正体は――、
「おはようございます、アルファーニ様、オーフィスターニャ様。 今日は天気予言通り、晴です」
天気予言、ある有名なエルフの一族が使われてる一種のテクニック。 風の動き、温度、日光、あらゆる天気に関する情報をまとめて考慮し、最後に予言魔法を使って、百パーセント次の日の天気を先読みが出来る。
ベッドのそばに、制服姿のミネルヴァが立っていた。 彼女はいつもと同じ笑顔を見せつけて、丁寧に挨拶する。
「み、ミネルヴァ?! 何時からそこにいた?! さっきの事……まさかと思うが……見た?」
緊張する半裸状態のアルファーニが叫ぶ。
そしてまだ地面の上で座ったままのオーフィスターニャの視線が、ちょうどアルファーニの後ろがまる見え。 彼女は思わず顔を逸らす。
「お嬢様は私の言い訳を聞きたいですか? それとも、真実を知りたいですか?」
顔の表情をひとつも変えずに、ミネルヴァは微笑む。
「……ん……」
「(そこは迷うこと必要があるのか?!)」
迷うアルファーニとココロの中にツッコムオーフィスターニャ。 その迷う時間は僅か数秒、しかし、アルファーニは長く感じる。
「では私に真実を……ん? どうした、オーフィスターニャ・トワベールカ、なんで私のシャツの袖を引っ張るの?」
口を開け、間もないころに、オーフィスターニャは視線を逸らしたまま、アルファーニの袖を引っ張って、顔を真っ赤にして、人差し指で下の方に指す。
「あ、アルファーニ……こんな時に言うのもなんだけど……下を見ろっ、下」
「下? いったいなに…がぁ……ハァ……! えっと……な、なんで私がシャツ一枚だけで着ているの?!」
アルファーニが見下ろしたら、初めて彼女は気づく、今朝起きてから……ずっとシャツ一枚だけ着ていたことに。 彼女は泣きそうな顔をして、顔が真っ赤になる。
「ええと……気にするな、アルファーニ! お前のスタイルは抜群だし、それに……色っぽくていい感じだった! ワタシが保証する! だから心配することなんてないんだ! 女同士、恥ずかしがる必要なんて無い!」
オーフィスターニャは彼女なりにアルファーニを慰める。
「君の慰め方が異常だ! ってことは……私の見苦しい姿、君はずっと見ていた……のか?」
複雑な表情と心境になったアルファーニが、足の力が抜けたみたいに、彼女は冷たい床面に尻もちをつく。
「まぁー……あまりにも綺麗な肌だったので、つい……」
「ううぅ……またしても君は私の初めての一つを奪ってしまった……いずれ、君に責任を……(ぶつぶつ)」
顔が真っ赤になったアルファーニが話している途中に、ぶつぶつと独り言を喋り始めた。
「え? なんだって? “君に責任を……”なに?」
「なんでもない!」
「お前なぁ、もしなにか言いたいことがあったら、ちゃんと言えよな。 別に遠慮する必要なんて無いんだぞ? ワタシたち、友達ですから! へへぇ〜」
オーフィスターニャの強くて頼もしい言葉が、アルファーニの恥ずかしがっていた顔が暖かい微笑みに変える。
「では、私はさっきお嬢様が知りたがっていた真実を語ります」
「「え?」」
その間、空気を読まず、ミネルヴァが勝手に語り始める。
そしてオーフィスターニャたちはミネルヴァの不意の言葉に付かれ、アホな表情になる。
「私はいつもと同じ、お嬢様が目を覚ます前に、起きていました。 そして、珍しくお嬢様が早起きした所を見て、挨拶をしようとしたら……いきなり! お嬢様が制服を脱ぎ始めたんです! ズボンを脱いで、上着を脱ぎ、シャツは元々外していた状態だったことによって……お嬢様はボタンを掛け違いにして、オーフィスターニャ様のベッドに、こっそりと潜り込むまでの過程を見ました。 これで説明を終わりました、お嬢様」
ミネルヴァが今朝の出来事を語る。 そしてそれを最後まで聞いたアルファーニの顔が、異常に赤くなっていた。
「ど、どうして私を止めなかったの?!」
「それは……」
ミネルヴァは何か言い難いな顔で唇を噛む。
「おい……アルファーニ、そんなに怒らなくてもいいんじゃないか? なんかミネルヴァは特別な理由はあったんだろう? なぁ、ミネルヴァ」
怒ってるアルファーニと無言のままのミネルヴァに、オーフィスターニャがふたりの間で阻む。
「はい……申し訳ありません、お嬢様。 しかし、ご理解して下さい! 私は悪気があったわけじゃありません……」
「ほら、アルファーニ……ミネルヴァはちゃんと謝ってるし、もうゆる――」
「お嬢様の面白いシチュエーション、止めるだなんて、そんなの……もったいないです!」
「……は……?」
オーフィスターニャはミネルヴァを庇ってたら、いきなりミネルヴァは情熱で大声で語る。
そしてそれを聞いたオーフィスターニャは依然として唖然。
「…だから私は止めることをやめて、じっくりと隅っこにおふたりさんの楽しい、いけない事を高みの見物をさせていただきました。 ごちそうさまでした」
満足な顔を晒すミネルヴァは最高の笑顔をオーフィスターニャに見せる。
「…………えっと…ワタシはどんな反応を取ればいいのか……さっぱりわからないが……。 でもあれだな! 凄いなぁ、お前の女中……! ここまで個性的なエルフが居たとは、マジでびっくりしたァ……って、聞いてんのか? おーい」
オーフィスターニャの左にあったアルファーニの様子が少し異常だった。
彼女は左手で右の耳を塞いで、右手で目を隠す。 そして顔は真っ赤、唇の形の奇妙に歪んでる。
「…………」
「これは……いったい、どういうことだ? なんでアルファーニがこんな奇妙なポーズを?」
理解できないオーフィスターニャは、困った顔でミネルヴァを見て、指をアルファーニの方へ指す。 ところが――、
「ぷっふ〜……クゥ……」
しかし、オーフィスターニャの目に映ったミネルヴァは笑っていた。
彼女はこの状況を心の底から満喫していた、笑い声を必死に抑えてながら。
「えぇ〜、困ってる主とそれを楽しんでる従者……これって……いや、こいつらの立場、逆じゃね?」
呆れたオーフィスターニャは横で愛想笑いする。