第一章4:誤解は一種の出会い
冷たい空気、迫り倒す金属のぶつかり合いの音、バトル開始後、既に二十分が過ぎていた。 彼女たちの殺し合いはまだ続いていた。
「ハァァ!!」
「……」
オーフィスターニャが上から攻撃する、そしてそれを防ぐアルファーニ。
「ふん!」
足でアルファーニを転ばせようとしたオーフィスターニャの不意打ち、アルファーニは先読みされ、一瞬で後退する。
「チッ! 雑念をすべて捨てたおかげで、とんでもない集中力だ……このままじゃ、ワタシが先にやられてしまうかも……」
「…………」
アルファーニの瞳は暗いのまま、ただ目の前にいる敵を討つ。 それだけが、今の彼女の頭の中に考えていた。 彼女は再び攻撃を始め、相手に休ませることすら許さず、攻撃続けていた。
両方の戦いは互角にわたりあう、しかし戦いが長引いてる間、オーフィスターニャの体力が徐々に削られている一方。 呼吸のリズムも乱れ、唇が渇く、彼女自身も分かっていた……次の攻撃は最後の渾身の一撃となる。
「(足が重い……両腕も限界だ……)」
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その頃、トップ席から、イファスティがフィールドにいるオーフィスターニャたちを強制終了ため、準備をしていた。
イファスティの表情は真面目と言うより、少しだけ、怒っていた。
「いいわね、イファスティ。 もし彼女たちの戦いが命の危険性があったら、迷わず行きなさい!」
校長先生はイファスティに再確認する。
「はい!」
そしてイファスティが強く返事した。
レミカはイファスティのそばに立って、そっと彼女の手を握る。
「イファスティちゃん……気を付けてね、あの子たちには私達の――」
「分かってる、心配するな」
イファスティはレミカの手を掴み、彼女のでこにキスする。
トップ席から見下ろすイファスティたちはオーフィスターニャたちの戦いが終わりを迎えていることに気付く。
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足が震えているオーフィスターニャは反撃体勢でアルファーニの攻撃を待ち受けていた。 そして予想通り、アルファーニは素早いスピードで、一直線で剣を前に突き出し向かってきた。
「(来るっ! チャンスは一度きり!)」
アルファーニの攻撃がオーフィスターニャに当たるまで、あと十センチの隙間に、オーフィスターニャが躱す。
「(ここだ!)」
オーフィスターニャは右へ避けて、右の短剣でアルファーニの腕を切り落とす所に、予想外の出来事が発生した。
「何ィィ?!」
アルファーニの腕に分厚い氷の塊が現れ、短剣の軌道を変え、オーフィスターニャの攻撃が外られた。
そして次の瞬間、オーフィスターニャの右腕が消えた。 アルファーニに切り落とされた。 オーフィスターニャは痛みを感じる前に、彼女はアルファーニが既に無防備状態に気づき、残された左の短剣でアルファーニの腕の一番薄い氷の部分を狙い、全身で突き上げ、アルファーニの腕を切り落とした。
「や、やった、ぜ……」
しかし、アルファーニは立ち止まっていなかった。 彼女は既に次の攻撃に整っていた。 オーフィスターニャも勝負がまだつけていないと感じ、両者、片腕だけで攻撃しようとした刹那……オーフィスターニャが瞬く、そして次に目を開けたら……彼女は地面に這い蹲っていた。
「なっ……?」
いつ地面に押されたのか、まったく感じなかったオーフィスターニャが震える。 彼女の頭は誰かに押さえていた。 不安となった彼女は、暴れ始め、脱出に成功した。
「誰だっ!」
残された左手に持った短剣で前へ突き刺す。 そして彼女を押せていたのは、イファスティだった。
「ずいぶんと生意気になったもんだな。 今朝の遅刻といい、今の戦いもいい。 お前はまだ駆け出しの新入生だ!」
「な、なんでお前が――」
「“お前”? 今、あたしのことを“お前”って言ったのか? 言ったのはこの悪い口かしら?」
「あ、いててて!! ごめんなしゃいごめんなしゃい!」
イファスティはオーフィスターニャの頬を掴んで、強く引っ張る。
「そうだ! アルファーニは?! あいつは無事か?!」
オーフィスターニャはイファスティに謝ってる時、急にアルファーニのことを思い出し、急いで周りを見て、彼女を探していた。
「シュテルンヌンなら、すぐそこにいる。 既に彼女の知り合いが駆けつけてくれた、だから大丈夫だ、お前が心配することなんてないんだ」
「そ、そっか……よかった~。 でもワタシ、アルファーニに謝らなきゃいけないんだ……」
オーフィスターニャは罪悪感を感じていた、元々と言えば、彼女が悪かったことを自覚していた。 そして、切断された右腕……。
「今から謝りに行く? ちょうど彼女が目覚めたみたいだ」
「あ、はい」
「自力で立てるのかい?」
「大、丈夫……!」
オーフィスターニャは膝の上に手をのって、なんとか自力で立つことに成功した。 彼女は歩くのが不安定で、今でも転んでしまう状態でアルファーニに近づく。
数秒後、オーフィスターニャはアルファーニとミネルヴァのそばまでたどり着いた。
「オーフィスターニャ様……お嬢様、オーフィスターニャ様が来ました」
ミネルヴァはアルファーニの頭を自分の膝の上にのせて、軽く声でアルファーニを呼ぶ。
「ん、ん……」
アルファーニは少しずつ目を開ける。 彼女が目を開けたら、オーフィスターニャが彼女の目の前にいた。
「オーフィスターニャ……? 君の腕が、どうした?」
オーフィスターニャの右腕がいなくなったことに気付いたアルファーニは驚いて、目を大きく開ける。
「覚えてないのか?」
「くっ……私があの魔法を使用するまで覚えているが……その後のことは……あ、あぁぁ……! わ、私の腕は?!」
アルファーニがまだ当の記憶の思い出せない時、彼女も気づいた、自分の右腕が消えたことに。
「ごめん、あれはワタシがやったんだ……。 こうしないと、ワタシはお前に殺されたかもしれなかったから。 でもやっぱり、謝らせてくれっ! 本当にごめん!!」
オーフィスターニャは誠心誠意で頭をさげて謝る。 そして戸惑うアルファーニが一体どういうことか、さっぱり理解できなかった。
「君のおわびを受けよう……。 でも私は途中で意識のなくしたので……一体誰が勝ったんだ?」
「そ、それは……」
オーフィスターニャはどう説明したらいいのか、分からなかった。 そして彼女が本当のことを言おうとした時――、
「あたしが説明する」
誰も見惚れてしまう凛々しい姿、イファスティがオーフィスターニャの背後から現れた。
「と、ととととと……トワベールカ様!? なんでここにいらっしゃるのですか?!」
アルファーニの反応は困惑、驚き、喜び、戸惑い、幾つの感情が同時に混ざっていた。 そして寝たまま空に飛んだ。
「なんでって……今年から、あたしはこの、コローナ・デ・サフィーロの教師となることになったのだ」
「きょ、教師?! あわわわ!! ど、どうしようミネルヴァ! 私はまだココロの準備が……!」
興奮過ぎるアルファーニはすっかり自分の腕の痛みを忘れ、ひたすらにミネルヴァを揺らす。
「母さん! いきなり割り込んでしないでよ……びっくりしたじゃないか!」
「あははは、すまんすまん。 お前が事情を説明するのがヘタレだから、手を貸してやろうと思ったんだ」
イファスティは高笑いして、オーフィスターニャの話を水のように流された。
「うん? “母さん”?」
そこで、アルファーニは違和感のある言葉を耳にした。
「だいたいな……なんでワタシに母さんがこの学校の教師になることを教えてくれなかった?!」
「これは所謂“sorpresa”(サプライズ)ってやつ?」
・
「あの……!」
イファスティとオーフィスターニャが楽しく喋ってるところ、いきなりアルファーニが会話の途中に割り込む。
「どうした? アルファーニ」
オーフィスターニャは頭を傾く。
「あの……オーフィスターニャとトワベールカ様はどのような関係……ですか?」
アルファーニの質問はイファスティとオーフィスターニャを無反応して、彼女たちはお互いの顔を見て、そして再びアルファーニを見詰める。
「母」
「娘」
イファスティとオーフィスターニャはひと差し指で自分たちを指して、合わせてアルファーニに教えた。 そして同じ笑顔でニヤリと笑う。
「え? ってことは……オーフィスターニャ、君のフルネームは……?」
アルファーニは嫌な予感がして、全身が震える。
「ん……もうバレたので、仕方がない! アルファーニ、お前に隠し事してすまない! そして改めて自己紹介させてくれ。 ワタシの名前は《オーフィスターニャ・トワベールカ(Ophistanya・Towabellka)》だ! そう、全国のエルフが誰しも知っている我らの国の大英雄、《イファスティ・トワベールカ(Iphasty・Towabellka)》の! 娘さんです!」
オーフィスターニャの決め顔は笑顔。
「え? ええええぇぇーーーーーー!!???」
そしてアルファーニの顔は目ん玉が大きく開いて、鼻水垂らして、口を大きく開ける。 驚きの顔、つまり、sorpresa。
こうして、オーフィスターニャ・トワベールカの物語が始まった……?