第二章15:カルメンの行方 ①
エレオノーラたちが依頼を達成した時、既に八時間が経過した。 しかしオーフィスターニャたちまだカルメンを探す依頼から戻って来ない。
時間を逆戻りして、約八時間前。 ちょうどチームBが教室から飛び出してから五分後、オーフィスターニャたちも行動を始めた頃のこと……。
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オーフィスターニャたちもちょうど教室から走り出して、角を曲がり、階段を降りていた時、二階からイファスティの姿がそこに立っていた。 あまりにも唐突なことに、一番前に走っていたオーフィスターニャがいきなり足を止めた。 そして彼女の後ろについてる他のメンバーが間に合わず、全員はオーフィスターニャの背中とぶつかって、そのまま地面に転ぶ……ミネルヴァを除いて。
「何すんだよ、重いじゃないか!」
「オーフィスターニャさんがいきなり足を止めるからでしょう?」
「ひゃっ! 今わたしのお尻を触ったのは誰?」
ビクッと震えたゼロが可愛い声を出す。
「私です……! ごめんなさい!」
そして謝っているカティア。
混乱となったよにんが地面に暴れだし、そして彼女たちを見ていたイファスティとミネルヴァが呆れた顔でため息をつく。
「何やってるんだお前たち」
「わからん……てか、なんで母さんがここにいるんだ?! ワタシはてっきり母さんはもう家にいるママといちゃいちゃしてると思ったのに……!」
「私生活のことをあんまペラペラ喋るなっ! あたしはお前たちに伝え忘れたことがあって、こうして戻ったんだ。 チームBは既に伝えた」
怒ったイファスティはオーフィスターニャの手を強く引っ張って、彼女を立たせた。 そして他のみんなは自力で立った。
「なるほどね……んで? 伝え忘れたことってなんだ?」
「うん、お前たちが依頼を達成した時、この校舎の職員室に報告すること! 分かったか?」
「お、おお……」
その時、ミネルヴァは既に生徒手帳を持ち出し、イファスティが言ったことをメモしていた。
そして、ことを済んだイファスティはオーフィスターニャたちと別れ、静寂疾走でその場から消え去った。
「…………」
「オーフィスターニャ様、私たちも早く行きましょう」
ミネルヴァは黙り込んでるオーフィスターニャを呼び覚まし、彼女は瞬き二つで前を見詰める。
「あ、ああ……分かった。 行こう、みんな」
「オーフィスターニャさん……どうしたんだろう? なんか様子がおかしいです……」
オーフィスターニャの様子がいつもと違うことに気づいたレスターがカティアに聞く。
「うん……なんか元気がないみたい……」
ふたりがオーフィスターニャを心配してる時、当のほんにんは――、
「(うん……母さんを怒らせたのかな……? 喋り方がちょっと傲慢だったのかな……? でも母さんは時々気にしないし……)」
全く別のことを考えていた。
イファスティが去ってから二分後、オーフィスターニャたちもようやく行動再開し、下級生校舎から出た。 中庭を抜けて、校門に近づいたら……ぱったりと私服を着ているひとりの生徒と出会す。
茶色の短パンと白いティーシャツを着て、目つき悪くて緑色の髪をしてるエルフがオーフィスターニャたちの前に現れた。
全員は一斉に足を止める。 そしたらあのエルフがオーフィスターニャたちの存在に気付き、友を見るような顔、歯が見えるくらいな笑顔でオーフィスターニャたちに近付く。
「よぉオーフィスターニャ! こんなところでなにしてる? てか、なんで制服を着ているんだ? 今日は土曜日だぞ?」
彼女はオーフィスターニャに声を掛け、右手を高くあげる。 すると、オーフィスターニャは彼女に近づいて、彼女とハイタッチする。
「母さんの手伝い……だっ! そう言うセレスティーナこそ、こんなところでどうした? あと、制服は母さんの言い付けだ」
「店の手伝いだ。 お前と同じ、親を手伝っているんだ。 あぁー、せっかくの休日が台無しだー」
しぶしぶな顔で文句を言い出すセレスティーナ。
「ハハハ……! 相変わらずエニェールさん厳しいなー」
「だろー? アハハハハ!」
他のメンバーの存在をすっかり忘れたふたりは楽しく喋って、高笑いしていた。 そしてついに我慢できず、ゼロが仲良しのふたりに声を掛ける。
「オーフィス……! そのエルフ……誰?」
「あっ、紹介するね! この目つき悪そうなエルフはワタシの幼馴染みだ!」
オーフィスターニャは腕をセレスティナの首に絡んで、嬉しそうな顔でゼロたちに紹介する。
すると――、
「「幼馴染み?!」」
ゼロたちは驚きすぎて大声で叫んだ、ミネルヴァを除いて。
「セレスティーナ・ルーンミヴァーン(Celestina・Lunemivaan)だ! この馬鹿の幼馴染みだ、よろしくなっ!」
「馬鹿とはなんだ!?」
「お前のこと……だよっ!」
オーフィスターニャがツッコンだら、セレスティーナは悪そうな笑顔でオーフィスターニャの首を絞める。
楽しそうにはしゃいでるふたりの間にはとても入る余地が無かった。 そう思った他のメンバー、もとい、ミネルヴァは何か思い付いたみたいで、彼女はひとりで徐々にオーフィスターニャたちに近付く。 足を前に踏む度、ミネルヴァは掌から魔方陣を展開し、いつもと変わらないニコニコ笑ってる表情で近付いていく。
すると彼女は魔法を唱え、そこから創り出した物でオーフィスターニャの頭だけを打つ。
「オーフィスターニャ様、いい加減にしてください。 今はこんなことをしてる場合ではありません」
ミネルヴァがオーフィスターニャの頭に打った物は――、おもちゃのハンマーだった。
「あっ、そうだったね……悪いセレスティーナ、ワタシたちは急いでるので、また今度で話そう! じゃ! みんな、早く行こう!」
彼女はセレスティーナと別れ、先に歩き始めた。 ゼロたちは呆れてため息をつく。
「オーフィスターニャさん……! 待ってぇ、みんなと一緒に行動しましょうよー!」
ゼロが大声で喋りながらオーフィスターニャの跡を追いかけた。
みんなが東の森へ向かって、校門の左側の角を曲がった。 そしてひとりになったセレスティーナが状況を理解できない顔で頭を掻く。
「オーフィスターニャのやつ、相変わらず自由奔放な性格だなぁ……他のエルフに同情するぜ……っといけない、わたしも早く店に戻らなくちゃ…!」
そしてセレスティーナも学園から走り出し、商店街へ向かった。
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学園の外側を遠まわりしたオーフィスターニャたちはようやく辿りついた、森の入口の前で。
左を見たらそこは学園の高い外壁と木、右を見たら木と結構深い谷底。 ゼロは好奇心で谷底の深さを覗こうとしたら、彼女の顔は一瞬にして青ざめた。 森の入口には二本の巨大な木が錆びれた鎖に繋がれて、その真ん中に何かがぶら下がっている。 気になるチームAのみんなはこっそり近づく。
「札……?」
ゼロは首を傾ける。
「みたいですね……」
レスターも少し戸惑った顔で話す。
「ん? 何か文字が見えるようです……えっと……原語の文字です…!」
カティアは札に近づき、一見黴まみれに見える札が、そこに文字が書いてることに気付いた。
みんなはカティアが言ったことを聞いたら、彼女自身を含めて、全員は少し驚いた顔を晒す。
オーフィスターニャは真っ先に彼女に聞く。
「カティア、原語読める?」
「はい……一応お姉ちゃんと一緒に勉強しましたので、なんとか翻訳出来ると思います……! えっと……《ここから先は立入禁止となっております》……」
「《立入禁止》……もしかしてこの中、何か危険なモノでもあるのですか?」
カティアが翻訳した後、レスターは最初に不安感を感じ、オーフィスターニャに聞く。
「わかんねけど……たぶんないと思う。 ワタシは小さい頃、この森に入ったが……途中のことはまったく記憶がない。 気がつけばもう外に出たしか覚えてないんだ……」
脳ミソまで搾り出し思い出そうとしたオーフィスターニャが半信半疑で語る。
「オーフィスターニャさんが小さい頃無事出られたのですから、大丈夫ですよね? 危険性がないと思っていいですか?」
オーフィスターニャの曖昧な話を聞いたレスターはますます不安になっていた。
カティアがレスターに元気付けてる間、ミネルヴァは音を立てず、密かにオーフィスターニャのそばまで寄り添って、彼女に声を掛ける。
「オーフィスターニャ様の唯一魔法、跳躍・神聖鼓動を使って、上から森全体を見渡したらどうですか? 確かあの魔法は空中に停滞することは出来ますよね……それなら森の大体な方向がわかりますし、手っ取り早いと思うのですが……如何でしょうか?」
ミネルヴァの提案を聞いたオーフィスターニャは頷いて、直ぐに行動を取る。
オーフィスターニャはみんなに少し彼女から半径二メートル離れてと言われ、ゼロたちは素直にそうした。 そしたら、オーフィスターニャは跳躍する体勢を取り、彼女の足元に白の魔方陣が現れる。
すると――、
「っ!」
オーフィスターニャは瞬時に約七メートルの高さを跳躍し、そのまま彼女は空中に同じ魔方陣の上に立って、階段を登る感じで、オーフィスターニャはゆっくりと上を目指していく。 しかし彼女が踏んでいたはずの魔方陣が三歩から消えて、オーフィスターニャの姿はまるで空を飛んでるに見える。 しかし実際、彼女は悠然と登っていた。 不可解と思った下にいるゼロたちは唖然。
「いったい……どう言う事です? オーフィスターニャさんの神聖鼓動の魔方陣がいきなり消えただなんて……」
「ん……わかんない……」
レスターとカティアはオーフィスターニャを見上げて、戸惑った顔で見詰める。
「カティア様、ここは私が説明いたしましょう」
するとミネルヴァがいきなりカティアに話かける。
「ミネルヴァ、何か知ってるのか?」
「はい、一応全ての魔法が記憶しています。 カティア様もご存知と思いますが、私たち精霊族は天使族の翼を持って、空に飛ぶことは出来ません。 空中に浮遊する魔法もありませんが、空中にふた蹴りすることが出来る魔法があります、ここまでおわかりいただけたでしょうか?」
説明が少し長いと自覚したミネルヴァは一旦中止し、カティアに理解したのかを確認する。
「はい……! それで? その空中にふた蹴りすることが出来る魔法とは?」
興味津々な目をしているカティアは早く話の続きを聞きたいみたいでワクワクと両手を強く握っている。
「その魔法の名は……特級・風属性魔法『二回跳躍』。 その名の通り、空中にふた蹴りすることは出来ます……お手本をお見せします」
「えっ?」
カティアが反応する前に、ミネルヴァはもう準備を整っていた。 そしたら、ミネルヴァはいきなりカティアの目の前で跳躍する。 すると――、彼女は空中に緑色の魔方陣をバネにして、再び跳ね上がる。 二つの魔方陣を踏んだ後、ミネルヴァは既に上空五メートルに飛んでて、そのまま地上に着陸した。
「この魔法の唯一の欠点は、空に高く飛ぶと地上に着陸する時のすべがありません。 つまり、足が折れる可能性が高いと言う意味です。 ですからこの『二回跳躍』は両刃の剣です。 カティア様、おわかりいただけたでしょうか? ん? カティア様?」
ミネルヴァが説明を終わった時、カティアは既に驚きすぎて、ボケーと突っ立っていた。
ちなみに、ゼロとレスターは谷底の向こうの景色に夢中で、彼女たちの後ろに居たミネルヴァが何をしたのかも気づいていなかった。
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魔法の階級は四階で分けている。
初級魔法、専門軍学校に入学し、最初に覚えられる魔法。 魔力消費量と威力は共に低くて、初心者にぴったりな魔法。
中級魔法、三年生に上がった時に覚えられる魔法。 その階級は主にサポート系の魔法が多い。
特級魔法、五年生の時に覚えられる威力と魔力消費量の高い魔法。 高級魔法の数は多くない。
終級魔法、正式に国家軍に編入され、軍の指揮官クラスになった時、初めて覚えられる必殺の魔法。
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そして空に登っていたオーフィスターニャは森全体を見られる高さを見つけ出し、ある問題を見つけた。
「ハァ……?」
彼女が見ていた森はみっしりで見晴らしのいい場所は何処にもいなかった。
オーフィスターニャは直ぐに空から飛び降りて、地面と接触する二メートルの高さに魔方陣を展開し、無事着陸した。
すると、カティアはオーフィスターニャのとなりまで駆けつける。
「オーフィスターニャさん、どうだった? 何か見つけたのか?」
「いや……森全体は葉っぱで覆われていて、何処にも隙間がいなかった」
「やはり直接森に入り、カルメン様の行方を探すしか方法がありませんかぁ……」
「そう言うことだ……てか、ゼロとレスターはどこにいるんだ?」
話してる途中に、オーフィスターニャはメンバーが少ないと気付き、カティアたちに聞く。
「あそこ」
カティアはひとさし指で崖っぷちにいるゼロたちを指す。
「お~い! 森に入るぞぉ! さっさと来い!」
「あっ、はーい! ゼロ、早く行こう」
「おう!」
オーフィスターニャに呼ばれたゼロとレスターはミネルヴァたちと合流する。
全員揃った後、彼女たちは先が見えない、森の暗い入口を見詰めて、少し不気味な空気が入口の方から漂っていた。 するとオーフィスターニャが急にみんなの前に立って、有無を言わず上から鎖を飛び越えて、一番森に入る。
「ちょっ! オーフィスターニャさん!?」
オーフィスターニャに行為に驚いたレスターは思わず大声で彼女の名を呼んだ。
「行っちゃったぁ……わたしたちも早く行こう!」
「そうですね! ミネルヴァ、行こう!」
「はい、カティア様」
「あっ、私をひとりにしないでぇー」
こうして、チームA全員が森に入り、カルメンの行方を探す依頼を開始した。
夕方になるまで、あと……七時間。
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オーフィスターニャたちが森に入って数秒後、二本の木を鎖で繋がって、真ん中にある黴まみれの札、そこに書いていた文字が徐々に変えていく。 すると、全く別の文字が現れた。
《幻惑の森に入る者は森の餌食と成る》




