第一章10:まるで新婚なふたり
時間を少し逆戻りして、オーフィスターニャたちはまだ保健室にいた頃、オーフィスターニャの両親、イファスティとレミカは一緒に学校へ向う途中で、ちょうど教会の近くまで歩いていた。
軍服姿のイファスティと普段と違う雰囲気の衣装で着ているレミカ。
さらさらな感じの白いブラウス、膝の少し上までの長さの黒いフレアスカートと腰に少し傾けてる広くて黒い灰色のリボンを巻き付いている。
そして黒のタイツと黒のハイヒール。
「お前なぁ……こんな可愛い格好して、あたし達は別にデートに行くあるまいし……そんなに気合を入れなくてもいいのに……」
イファスティの顔は赤くなって、恥ずかしながらレミカを上から下までチラリと見る。
「いいじゃん! ここ数日、一緒に出掛ける機会無かったし〜! それっ!」
「うわっ! レミカ!」
「えへへ~」
拗ねてると見えたレミカはとっさにイファスティの腕に絡みつく。 あまりにも唐突でイファスティは声を上げ、次の瞬間、彼女は怒鳴る。
逆にレミカはそれを楽しむように、ニヤニヤする。
「ったく……」
「ねね、イファスティちゃん」
「ん?」
「せっかく教会の近くまで来たので、ボヌール(Bonheur)ちゃんを会いに行こう! 時間はまだあるし」
レミカはイファスティの袖を引っ張って、となりにあった教会を指す。
「ボヌールに?」
「うん! イファスティちゃんはもう何ヶ月ボヌールちゃんと会ってないよね。 だからこの機会を逃せば、何時会えるか、分からないだろう?」
語ったレミカの目は生き生きしていた。 まるで子供がずっとプレゼントを待っていたように、彼女はワクワクしていた。
「お、おぉ……そうだな、せっかくだし、ボヌールに挨拶でもするか」
迫られるイファスティは、レミカの提案を引き受けるしか出来なかったみたいに、視線を教会に向け、ゆっくりと頷く。
「やったー!」
こうして、ふたりは教会に入ることにした。
教会の扉は鉄の塊。 聖なる水で浴びられて、あらゆる悪運と邪悪な力から守られている。
イファスティはその鉄の扉を押して、その重さで、扉はゆっくりと開いていく。
「相変わらず、この扉が重い……!」
扉が開いたことで、彼女たちにとって、懐かしい光景を再び見られた。
広い広場、その中心に通れる道は一つ。 その左右には長いベンチがある、約十名ほど座れる長さ、色は素材と同じ、木の色艶。
ベンチの奥に壁とベンチはひとりが通れるくらいの隙がある、その壁には五つの浅い穴がある。 穴は上から下まで並んでる、そして中には蝋燭があった。 蝋燭は白、真ん中のは赤。
天井に、大きなクリスタルが飾られている。 そのクリスタルの中、もとい、その後ろにも蝋燭がある。 その灯りをクリスタルに照らして、光はその中に反射し、教会の中の全体を僅かですが照らしている。
そして……教会に入って、長い赤の絨毯は奥まで伸びている。 その先には、教壇の前に、ひとりの銀髪の天使族が祈っている。
「あ! いたいた!」
嬉しそうなレミカは先に歩き出す、イファスティはレミカの後で踏み出す。
「ボヌールちゃーん!」
走って手を振るレミカは、ボヌールに近づいて行く。
「ん? レミカさん! イファスティさん!」
「やぁー」
後ろ向くボヌールは、レミカを見た瞬間、幸せに笑う。
「どうしてここに?」
ボヌールの白い翼がピクピクと震えて、まるでワクワク感を抑えてるみたい。
見た目は白くてつやつやな肌、琥珀色の瞳、長い睫毛、淡いピンク色の唇。 白いワンピースと腰に巻き付いてる黄金色のリボン。 靴とかは履かず、裸足で立っていた。 そして彼女の種族の特徴、大きな純白な翼と頭上の黄金のアーク。
「わたし達ちょうど教会の近くまでいたので、せっかくだから、ボヌールちゃんに会ってみたいと腰思ったんだ~フフ」
ニコニコと笑うレミカは、普段と変わらず、最高の笑顔を見せる。
「そうですか〜ありがとうございます。 それと……お久しぶりです、イファスティさん。 精霊大将のお勤め、お疲れ様です」
ペコリと頭を少しさげる。
「ありがとう、ボヌール。 お前もお疲れ様、最近会えなくてすまん」
「そんなー! イファスティさんこそ――」
「しかしもう大丈夫! これから五年間、あたしはオーフィスターニャの学園の教師になったから! エヘン!」
なんか悪いと思ったボヌールが謝るところ、イファスティは自分が伝えたかったことを先に言い出し、自慢な顔でポーズを取る。
「教師? ああ! 先日レミカさんが話したサプライズってこの事だったのですか?」
理解したボヌールははくしゅするように、両手を合わせて音を鳴らす。
「ちなみにあたしはオーフィスターニャがいるクラスの担任教師で魔法実技の教官だ」
「なるほど! オーフィスターニャさんの担任教師かぁ~……でもあれ? さっきからオーフィスターニャさんが見当たらないのですが……ご一緒じゃないですか?」
ようやく違和感を感じるボヌールは、キョロキョロと広場全体を見て、オーフィスターニャの姿を探していた。
「あぁ~、ターニャちゃんなら、今頃学校の保健室に寝ていると思うよ~フフ」
さりげなくそれを言ったレミカは、昨日と違くて、まるで心配してないような微笑み。
「保健室?! ど、どうしてオーフィスターニャさんが保健室に?! もしや、大ケガでもしたか?! アワワワ……!!」
オーフィスターニャは保健室にいると聞いたボヌールは慌て始める。 てんぱって、あちこち飛び回っていた。
「落ち着け、ボヌール!」
「これが落ち着いてられますか?! オーフィスターニャさんは貴女たちの愛と血の結晶なんです!」
飛ぶのをやめたボヌールはイファスティの前から舞い降りて、彼女たちの手を強く握る。
「『愛と血の結晶』って……嫌だ~、そんな恥ずかしいこと、言わないで~なぁ、イファスティちゃん。 イファスティちゃん?」
恥ずかしがるレミカは手を赤くなった顔を触れて、もじもじする。
しかし、レミカがイファスティに意見を求めようとした時、妙な出来事が起きた。
それは――、
「っ~~!」
イファスティの顔はトマトより赤くなっていた。
笑うのを我慢しているのか、それとも単に恥ずかしがっているのかという微妙な表情で前を見ていた。
そして、同時にそれを見た瞬間のレミカとボヌールは――、
「「プッ」」
と、思わず笑った。
「何が可笑しい!?」
流石に怒ったイファスティは怒鳴る。 しかしレミカはそれを無視し、笑い続ける。
教会の中はイファスティたちだけのようで、彼女たちは思う存分笑って、話をして、楽しく過ごしていた。
そして数分後――、
コーン……コーン……コーン……コーン……。
ものすごい音が教会の真上にから発する。 鐘の音だった。
「あら、もうこんな時間だ……もっと話したいのですが、これ以上長引いたら学校に遅刻します。 レミカさん、イファスティさん、早く行って下さい」
名残惜しいボヌールは、先にベンチから起き上がる。 そして次はイファスティとレミカは立ち上がる。
「あ、そうだ! 学校! すっかり忘れてた」
「じゃ、ボヌールちゃん、また今度で……次はターニャちゃんを一緒に連れけて来ます!」
既に学校とことを忘れていたイファスティは驚く。 逆にレミカは平然でニコニコと喋る。
ふたりは一緒に扉まで歩く、そして後ろを向いてボヌールに手を振る。
それを答えるように、ボヌールは笑顔でふたりをおくる。 そのまま彼女はふたりが扉を閉めるまで、ずっと微笑んでいた……。
外に出たら、眩しい日差しはイファスティたちが浴びる。 目を強い日光から守るため、彼女たちは目の上に手を置く。
「それにしても、この暑さ……もう夏だな……! まだ四月が始まったばかりだというのに……」
イファスティは文句を言いながら、彼女は笑っていた。
「まぁ、ファーブラは約半年間は真夏みたいな天気だし、暑から逃げられないんだ」
そう言ったレミカはイファスティの前で立って、ふらりと一回転回る。 そしてその僅かな零点数秒の瞬間、イファスティは見てしまった。
「(白……)」
色を思い浮かんだだけで彼女の顔は少し赤くなって、さっきレミカを見つめていた視線を逸らす。
「イファスティちゃん?」
気になるレミカは上半身を傾けて、低い姿勢でイファスティの横顔をじーっと見つめる。
視線はすごくチクチクして、イファスティはそういうことに弱くて、思わずチラリと目だけでレミカを見たら――、
「(ハッ!!)」
レミカが着ていた服の胸元は丸見え。 豊富な胸の深い谷は、イファスティの眼に焼きつく。
イファスティはレミカの胸を覗いているように、胸もまた、イファスティを覗いている。
「イファスティちゃん……」
レミカはイファスティを呼ぶ、しかし彼女は既に思考を停止して、一心不乱にじーっと胸を見つめる。
「イファスティちゃん……いつまで私の胸を見つめる気? さすがの私も恥ずかちいよぉ……」
レミカの顔はまるで辛い食べ物を食った後のように、真っ赤になっていた。
彼女が恥ずかしがる顔、小動物みたいな仕草、一つ一つの行動がイファスティの胸をキュンと動かす。
「す、すまん!(か、可愛い……くぅ……! 今すぐにでもその柔らかい唇にキスしたい! が、今は外だ。 我慢するんだイファスティ、お前はやればできる子! 放課後まで……いや、家に帰るまでは軍人だ! そう、家に帰ったら、この心の奥底に眠ってる野獣を解き放つ!)」
そう考えていたイファスティの顔はニヤニヤと不気味な笑い方で笑う。
「イファスティ……ちゃん? どうしたの? いきなり笑って……」
ちょっと怖がっているレミカは、ぷるぷる震える。
「えっ? いや、なんでもないなんでもない! ァハハハ……」
「そう? ならばいいだけどさぁ……ねぇ、イファスティちゃん……あのね……」
レミカは何か言いたい顔をしたが、何故か急に緊張になって、中々言い出せなくて、もじもじする。
「ん?」
「あの……せっかくイファスティちゃんと居られる時間は長くなったので……その、家に帰ったらいっぱ――」
「おーい!!」
レミカはまだ話してる途中に、いきなりレミカの後ろ遠くから、豪快な声が聞こえた。
彼女たちはその大声に聞き覚えがある。 ふたり同時にその長い耳を少し動いて、レミカは体ごと百八十度の回転する、対してイファスティは背伸びする。
彼女たちが聞こえた声の持ち主は南の小道の影から姿を現す。




