翌日
「…」
目がさめた。体が動かない。いや、動かないと言うよりは動かそうとするとすごく痛い。…私はこの痛みを知っていた。筋肉痛だ。
「あー、久しぶりだ、この痛み」
次の日にきたってことはまあまだまだ若いってことか、と私は思った。でも、クレール曰くには筋力は神力で補助してくれてたはず。だのに筋肉痛にはなるんだなぁ。
「あーいたいいたいうごけないー」
「まあ、大分無理やり動かしたしな」
突然クレールに話しかけられる。いたのか。…当たり前か。
「突然ビックリするじゃない」
「気ィ抜きすぎだろ」
そういえばたまにクレールが私の体を動かしている瞬間があった。つまりそういうことだ。
「わかったか。もしかアタシがずっとジノの身体を操り続けたら、筋力を補助したっても大変なことになるぜ。筋肉痛じゃすまねえかもな。はは」
いや笑い事じゃないような…。ところで筋肉痛の件は良いとして、クレールに聞きたいことは山ほどあった。私の考えを、リンクのお陰か、察したのだろうクレールが言った。
「…アイツ、ノワールは古い知り合いなのさ」
「ノワール…アイツの名前ね。ブランシュってのは?」
私が聞き返すと、クレールは少し間をおいて言った。
「…アイツと一緒にいた頃のあたしの呼び名さ。詳しく話そうとするとだいぶ長い話になるから、かいつまんで話すぞ」
そういうとクレールは色々と話してくれた。
「そもそも悪神憑きとの戦いは昨日今日始まったものじゃあない。ジノが生まれるよりずっと前からあるのさ…」
クレールが言うには、神様の世界というやつがこの世界とは別のところ、平行世界とでも言うべき空間にあるらしい。悪神は[門]でその世界と私たちの世界をつなげ、侵略しようとしているというのだ。
「まあ普段はそんな無茶を使用ってやつはほとんどいないんだが、たまに、っても何百年かに一回あるかないかだが、悪神たちを率いてこっちの世界に侵攻しようってやつが出てくるんだ」
クレールは過去に思いを馳せるように目を細めて続けた。
「前回の大戦、それこそ何百年か前だが、アタシとアイツはいっしょに戦った仲だった。それぞれ相方の神憑きとも相性がよくてな。仲もよかった」
「…でも、今は敵に…」
クレールは軽くため息をつくと続けた。
「アイツの相方がな…死んじまったのさ…。そのときアタシは別の作戦で出張ってて、詳しいことはわからないんだが、それからアイツは行方不明になって…次にあったときはすっかり悪神の仲間だった」
「…」
私はなんと言っていいかわからなかった。
「ま、そんだけさ」
「そんだけって」
「今また悪神が活発になってきていて、その中にアイツもいるってこと」
私にはクレールが無理に明るく振る舞っているように見えた。
「とにかく今はしっかり休んでつぎの戦いに備えるぞ」
「…できればノワールとは」
私がいいかけるとクレールは少しうつむいて、
「…覆水盆に帰らずってやつさ」
クレールの想い、ノワールが考えたこと、考えていること。私にはわからない。でも、やっぱり、
「やっぱり何とかしたい!」
「へ?」
つい叫んでしまった私に、クレールがキョトンとした瞳を向ける。
「やっぱりこのままじゃダメだよ!悪神と戦うのも大事だけど、クレールが幸せじゃなさそうなんだもの!」
「ははは、なかなかおもしろいこと言うな、ジノは」
「だって…」
「わかったわかった、なんとかしてみるかそれじゃ!」
「二人でね!」
こうして、私たちジノとクレールの新しい日常が始まったのだ。