初戦-2
「…!」
瞬間、敵は巨大な闇を作り出したようだった。しかし、クレールが放った光がそれをかきけしたのだ。さらに、数本の光の刃が敵のマントに刺さり、動きを拘束している。鎌を持つ手も自由に動かせないようだ。
(すごい、これがクレールの力…。)
「いや、力はほぼ互角さ。相性の問題だね。強い光で影を消すようなもん…て、のんきに話してる場合じゃない、一気に決めるぜ!」
決める、即ち敵の人と悪神のリンクを切る。私は攻撃用の剣を抜き放ち、前にされた説明を思い出す。
『いいか、魂ってのは大体この辺りにある。』
『胸の辺りってこと?』
『ああ、まあ人によって違う場合もあるが、大体そうだ。合一状態ならよく見ればあんたにも見えるはずだ。んで、魂と魂がリンクしているその結合部を断てば良い。いいか、一気に断つんだ。下手に躊躇うと魂そのものを傷つけてしまうからな』
私は目を凝らし、敵を注視した。かすかに揺らめく炎のようなものが見えた。魂だ。結合部も見える。これならやれる。
「行くぞ!」
クレールが神力を込めると、透き通った刃が青白く輝き始めた。私はなんとかコントロールでき始めた飛行術で奴に狙いを定め、突っ込む!
「…!」
私は剣を振りかぶり彼めがけて振り下ろそうとした。が、一瞬早く彼はマントに隠れていた左手をなぎ払った。
「ジノ!」
クレールの叫び声。そして、空中で急ブレーキ。私は一瞬何が起こったかわからなかった。ただ、敵の左手に黒い刃物のようなものが見えた。それから赤いものが滴っている。
「…え?」
とたん腹部に激痛が走る。
「ぐ、あ…、あああああああ!」
斬られた!痛いというよりも焼けるような感覚。私は意識が朦朧とするのを感じた。そもそも痛みには慣れていない。
「く、いったん退くぞ!」
集中を失った私に代わり、クレールが飛ぶための神力を操り後方に飛び退る。だが敵も容赦はしてくれない。強烈な闇を放つと、拘束していた光の刃は力を失い霧消する。追撃が来る。
「くそ!」
先ほどのように放たれる無数の闇から逃げ回るクレール。しかし、私がショックで戦意を失ってしまっているせいで今度は攻勢に出られない。
なんとか逃げなければ、と考えをめぐらすクレールだったが、
「…!」
クレールの飛ぶ軌道が読まれ、敵が放った巨大な闇に包み込まれてしまう。
ジノとクレールの存在を消去するために闇が収縮していく。
「だめか…!」
クレールがあきらめかけた瞬間、彼女らを包んでいた闇が両断され、元の明るい空が見えた。
「やぁ、みてられないなぁ。ここはボクが引き受けるから、相方を治療してやんなよ、クレール」
そこには刃渡り80cmほどの日本刀を携えた、ショートヘアの女子高生がいた。
「すまない、助かる!」
クレールは礼を言い、後退する。敵がそれを追おうとこちらを見たが、
「おいおいボクを無視するなよ」
女子高生が間に入り、制止する。なんとかこの場は助かったようだ。
気がつくと私は公園のベンチに寝かされていた。合一をといたようで元の私服に戻っている。ふと腹に手をやる。
「あれ?」
傷口がない。どころか痛みも消えている。
「気がついたか。」
「クレール、私…?」
傷のあったはずのお腹をさすりながら聞く。
「傷はアタシが治療しておいた。神力障壁のおかげでそれほど深くはなかったしな」
「あ、ありがとう。それで、あいつは?なんか女子高生に助けられた気が…」
と、件の女子高生がちょうど空から降りてきた。
「だいじょぶかい」
「あ、さっきはどうもありがとう。あいつは?」
「わりぃ、闇にまぎれて逃げられちまった。あんたを追ったのかとも思ったが単に逃げたようだな」
刀を鞘にしまい、彼女が言った。
「じゃ、ボクはボクでやることがあるからこれで」
彼女が帰ろうと身を翻すのを止めて、
「ちょ、ちょっと待って、あなたも神憑きの仲間なんでしょ。自己紹介くらい…。私はジノ、えっと、よろしく」
「…まあいいけどね。ボクはユカ。橘ユカだよ」
橘、ユカか。私は続けて聞く。
「ユカ…ちゃんは、女子高生?」
「ん?ああ、まあね、こっちのことが忙しくて、あんまし行ってないけどね、高校。おばさんは?」
ユカはめんどくさそうに刀の収まった鞘をもてあそびながら聞き返した。
「おば…って私まだ2X歳よ?」
「ふぅん、ボクの1.5倍くらい生きてんじゃん。ま、いいや。ジノさんは、じゃあシャカイジンだったわけか」
「え、ええまあ」
私は気圧された様に答えた。
「結構しんどいよ、神憑きの仕事って。まあボクはやらなきゃいけない理由があるから仕方ないケド」
「理由?」
女子高生といえば楽しいこともいろいろあるだろうに、それを二の次にして神憑きをやる理由が気になったが、
「あぁ、まあ、人に話すほどのことでもないよ。じゃこんどこそサヨナラ」
彼女は回れ右すると、帰路に着くべく歩き出した。私はその背中に、
「同じ神憑きなら一緒に戦ってくれないの?」
声をかけたが、彼女はそれには答えず、バイバイというように手をひらひらさせただけだった。