初戦-1
1ヶ月後、引っ越し先で私はあらためて『カミサマ』クレールから戦いかたを教わっていた。
「この双剣を使うのよね」
私は腰にある二本の剣を抜いた。ゲームなんかで双剣といえば手数武器というイメージだが、前に聞いたところによるとこれは違うらしい。
「今右手に持ってるのが防御用だな。敵の攻撃を受けたり、まあもちろん攻撃にも使えるけどね。」
『合一』状態だとクレールの声は直接意識のなかに聞こえる。
「ふむふむ」
「左手のが魂を攻撃する、具体的には悪神とヒトとのリンクを切断するための剣よ。物理攻撃はできないから気を付けて」
私はあらためて両手の剣を見る。防御用の剣にはそれらしいちょっとした盾のような形状の鍔がついている。攻撃用の剣は鍔と柄に青い宝石のようなものがついていて、刀身は透き通っていた。
「ちなみに、基本的には利き手で攻撃用、他方で防御用を扱う。アンタの場合今持ってるのの逆だな」
私は慌てて左右を持ち変える。別に慌てる必要はないんだが、間違いを指摘されるとつい慌ててしまう。もうちょっと落ち着いて行動したいものだ。
「まあ基本はそんなもんだ。」
「ところで、前にも言ったかもだけど、私戦うなんてはじめてでどうしたらいいか…。クレールが私の体を使って戦うってのはできないの?」
「まあできなくはないがな、お互いに負担が大きくなるからやめた方がいい。まあ筋力やら視力やらはアタシの力で補助するから安心しな。あ、だから戦闘中はメガネなしな」
「あ、うん。ところで…」
言いかけたとき、
「…でやがったな」
クレールが言った。私が、なにが、と聞くより早く、
「いくぞ!」
突然体が宙に浮かぶ。
「ふわわ!」
「なに変な声だしてんだ」
「だって飛んだことなんてない!」
「あーニンゲンはそうだよな、まあなれろ!」
「なれろったって」
「アンタの好きな漫画やアニメじゃ普通だろ」
「そうだけど!」
「『合一』状態ならアタシの神力が効いてるから普通にできることだ。変に意識せず、例えば地面を歩くように、前に進むことをイメージすればいい」
「えーっと…」
「まあなれるまではフォローするさ。じゃ、いくぞ!」
とたんゴウッと景色が流れ出す。おーはやいはやい。
「どこへいくの?」
「リンクしてんだから感じるだろ、でかい力があるとこだ」
言われてみれば違和感のようなものを進む先に感じた。そこに悪神憑きがいるということか。
「でも、戦うなんて大丈夫かな」
「何を今さら。まあ案ずるより産むが易しってさ。アタシもいるんだ、なんとかなるさ…いたぞ!あいつだ!」
そこに見えたのはフードつきのマントに大きな鎌を携えた人影…。が一瞬こちらを見たかと思うと
「右だっ!」
「っ!」
ギンっ!
なんとか左の剣で降り下ろされた鎌を受け止める。フードのなかの鋭い瞳と目が合う。どうやら男性のようだ。
「…」
男がなにか言ったような気がした。不意に彼の印象が闇に染まる。
「離れろ!」
言うが早いか受け止めている鎌を押しやり同時に後方にさがる。
「クレール、やっぱり私のからだ動かせるんじゃ…」
瞬間もといた場所に深い闇が現れ、空間を飲み込むように収縮して消えた。
「なっ」
「敵の神術だ!ボヤボヤしてるとやられるぞ!」
「…!」
次々繰り出される闇から必死に逃げまわる。でも逃げてばっかりじゃあ…
「クレール、なんとかならないの!?」
「そろそろ飛ぶのなれたか?」
「え?」
「アンタが飛行担当、アタシが攻撃担当でいくぞ!」
「ええ!?」
いきなり糸が切れた凧のようにコントロールを失う。
「わー!ちょちょちょちょっとまって!」
「大丈夫だ神力の放出はできてる。あとはコントロールしろ!」
「んなこといっても!」
とにかくでたらめに飛び回る。くるくる回ったかと思ったら急速旋回、急上昇に急下降。運良く敵の攻撃は交わせている。軌道がでたらめすぎて狙えないだけかもしれないが。
「目が回るー」
「よし、そのまま飛び続けろ。敵の位置だけは意識しとけよ」
クレールが攻撃のために力を集中し始める。しかたない、なんとか飛べてるしこのまま逃げ続けることにする。
「…ん?」
おかしい。敵の攻撃が止んだ。
「クレール、なんかおかしい!」
「わかってる!こっちも仕掛ける!」
クレールがちからを解放する!
「閃光[エクレール]!」
敵に向けて激しい光が放たれた。