契約
「なるほど」
とは言ったもののにわかには信じがたい話だった。どうやらこの世界には同じように神様と出会って戦っている人がいるらしい。
「で、もっかい聞くけど…なにと戦うって?」
「悪神[アクガミ]だ」
「はぁ、じゃあさっきのやつも?」
「あれは使い魔だったな。おそらく近くに悪神憑きがいるんだろう」
「???」
さっきからわからないことのオンパレードだ。私の疑問符を察知したようで、彼女は言った。
「ああ悪神も神だからな、アタシ達と同じ様に人に憑依して力を発揮するのさ」
ということは必然的に、
「ああ、悪神と戦うってことはまあ、それが憑いた人と戦うってことだな、大抵の場合は」
「…」
「別に殺す訳じゃない。なんとかして悪神とのリンクを断てばいいんだからな」
とは言っても喧嘩もろくにしたことがない私にいきなり人と戦えって、さすがに無茶だ。それに、
「一応私、働いてるんだけど、土日だけ戦いに出るとかそんなんでいいの?」
そう、私には私の日常があるのだ。だが、彼女は言いはなった。
「ダメだな、相手も時間を選んではくれないからな」
「えっと、そんな簡単に休んだりできないよ?有休も多くはないし」
一応言ってみたがまあ何となくわかっていた。
「ここが重要なところだが、一緒に戦ってくれるならいまの仕事は辞めてアタシ達の協会に入ってもらう。駄目ならまあ仕方なし、アタシとアンタのリンクを断ってもとの日常に戻れば良いさ」
「…わかった、やるよ」
私はそう答えた。
「いいのか、おおよそ普通の日常には戻れなくなるが?」
そう、私は今まで 普通の生活をしてきた。それもけっして悪くなかった。だけど心のどこかで思っていた、もしか今、自分を変える、人生を変えるような何かがあったら…。
「いいんだ、私も人生で一回くらいは『普通』じゃないことしてみたかったから。それに、アニメやゲームみたいで、ちょっと面白そうだしね」
「ふむ、まあこっちは助かるからいいけどね」
「ところで…仕事辞めたらお金とかどうすればいいの?」
私は当然の疑問を口にした。
「あー、またニンゲンのめんどくさいルールだな。大丈夫だ、協会からでるよ。住む場所も用意される」
なら安心。
「あ、あと辞めるにしても引き継ぎとか色々あるから1ヶ月くらい…」
「わかってるわかってる。ったくめんどくさいなニンゲンの社会ってやつは。まあそれくらいなら待てるから引っ越しの準備やら含めてきれいにしとけ」
そういえばすっかりわすれていたが、もうひとつ聞いておかなければいけないことがあった。
「あ、あなたのこと、何て呼べばいいの?」
「…?あ、ああ呼び名か、まあ…クレールでいいぞ。アンタは、ジノでいいか?」
「あれ、名前…」
「ああそれくらいリンクすればわかるさ」
「そーなの?私あなたの名前わからなかったけど」
「あーそれはまああれだ、そういうもんだ気にすんな」
「えー、なんかずるくないそれ」
「ともかく、これからよろしくな、ジノ」
「え、ああ、うんよろしく、クレール」
少し腑に落ちない気もするが、言っても仕方ないことかもしれない。私は気にしないことにした。