ミラーフォード
前回のあらすじ
現実世界で大成功したら異世界転生することになりました。
飛び込んだ先は、木造の部屋だった。
目測で、六畳。戸棚とテーブルが用意されている。扉の雰囲気を見るに、ここはとある建物の一部屋なのだろう。
背後にあったゲートは既に閉じている。もう後戻りという選択肢は残されていない。
とりあえず、状況を確認しよう。
まず体感として、髪が異様に伸びている。腰まであるのではないだろうか。目線の高さは変わらず。身体が軽いが、胸には感じたことのない重みがあった。
見下ろすと、そこには胸の谷間がある。
胸の谷間だ。
「……は?」
そんなはずはない。
とにかく、現状を確認したい。
秀平は部屋を見渡す。鏡を発見。急いで、自分の姿を映した。
信じられないことに、鏡に映っていたのは美女だった。
浅黒い肌と、長く艶やかな金髪。大きな瞳は透き通った海のようなブルー。豊満なボディを、アダルトゲームの女戦士が着ているようなビキニアーマーで包んでいる。
この格好は、最早痴女だった。
あまりの衝撃に、思わず声が漏れる。
「マジかよ……」
声も高くなっていた。
そして何より。
「アレもないぞ……」
わざわざ確認するまでもない。股間にあるはずの感覚が、全くない。ツルツルだ。
秀平は、女になってしまったのだ。
国連は嘘を言っていないが、全てを話していたわけでもないようだった。
どうしたものか。
とりあえず、部屋を散策。木造――というかログハウスなこの家には、秀平以外の人間が居ない。
ここは、秀平に用意された家ということだろうか。
と、テーブルの上にパスポートのようなものがあった。牛か何かの革とパルピスでできた、一見すると手帳にも見える代物だ。中を確認すると、様々な情報が書かれている。
「テザー・シュベーヘン……女……二十四歳……ギルド登録地はドールギン……」
パスポートの下には、羊皮紙があった。
「なになに…… 『これが、この世界でのあなたのデータです。始まりは一般人ですが、特別にチューンされた身体で好きにしてください』 ……勝手な話だ」
どうにも、元いた世界から意図的に操作された世界らしい。なぜ女になったのかは不明だが、変わってしまったものは仕方がなかった。
好きにしていいと言われたのだ。思う存分やらせてもらう。
※
丸一日外を歩いて、いろいろとわかった。
ここが 『ジーマ』 と呼ばれる村であること。建物はそのほとんどがログハウスであること。周囲が森や山に囲まれていること。日本語と同系統の言語が使われていて、テザーはそれを理解できること。
そして、自分のこと。
この身体は、確かに特別製だ。
まず、痛みを感じない。慣れない道を踏み外して一回崖から落ちたのだが、傷がすぐ治った上に痛みで動けなくなることがなかった。
次に、腹が減らない上に、眠くもならない。それどころか、喉すら乾かない。食事と睡眠が無くても、生きていけるのだ。
最後に、この身体はとてつもない怪力である。
広場で腕相撲大会をやっていたので、試しに飛び入り参加した。見た目が弱そうな女なので舐められたが、結果は完勝。トーナメントを勝ち上がり、優勝してしまった。まあ、流石に決勝戦は手こずったが。
腕に自信の有りそうな男共は、信じられないような目でテザーを見ていた。インチキだと騒ぐ輩も居たが、大概は驚きつつテザーの実力に感心していた。屈強な男共に囲まれるのは、なかなか悪くなかった。
なるほど、確かにこの身体があれば、この世界を好きにすることができるかもしれない。
見たところこの世界――ミラーフォードは文明が未熟で、まるでRPGの世界に迷い込んだようだった。まあ、魔物は居ないらしいのだが。
通貨は金や銀がそのまま使用されていて、紙幣の概念はない。物々交換も盛んであり、むしろ金や銀は貯金としての要素が強かった。
そして、住民の服装。ちゃちい洋服のようなものを着ている人も居れば、男はブーメランパンツ、女はテザーのようなビキニアーマーを着ている者も居る。かなり自由だった。
ミラーフォードでは、服装に関するモラルが欠如――というか、最初から存在していないのかもしれない。
ほとんど裸に近いような格好で村中を闊歩している光景は、テザーの目には異様に映った。尤も、テザーも他人のことは言えないのだが。
恐らく、これはそのうち慣れるだろう。
それと、風俗がかなりある。
文明が乏しいミラーフォードでは娯楽も少ないらしく、食事や性行為で快楽を享受することが非常に多いようだ。
これまで居た世界でも、似たような状況はあった。所謂、貧乏子沢山、という奴だ。
しかしこの世界に来てしまった以上、この状況を受け入れなければなるまい。
試しに、女性向けの風俗店へ一度足を運ぶことにした。
以前の世界では、金に物を言わせて数多の女を抱いた。忙しかったので結婚は考えていなかったが、抱いた女の数では世界でも上位に入るはずだ。
だが、男に抱かれたことはない。
ゲイではなかったし、そちらの文化にあまり興味もなかった。
だが、今は女だ。
レズビアンに走るという手もあるが、折角女になったのだから、少しぐらいは女らしいこともしてみたい。
男に抱かれることに抵抗がないといえば嘘になるが、今は好奇心が勝っている。
家を探したら金貨があったので、それを使う。他にも定量の穀物などで支払えるらしいが、そちらは持っていなかった。
……男娼は、かなりの手練だった。
まず、竿がデカイ。テザーが男だった頃のモノの二倍近くあって、正直悔しかった。
細かい内容については……正直、あまり覚えていない。とにかく、凄かった。
痛みが無いからか、初めてだというのに快感だけが脳に届く。男娼の激しい動きもあってか、断続的な絶頂で後半はほとんど意識が朦朧としていた。失禁もしていたらしく、床には染みができていた。
金を払って男を買ったはずなのだが、逆にテザーの身体が使われていたかのような錯覚すら覚える、激しい責め。
金額に見合った――いや、それ以上のサービスを受けただろう。
男の身体では知り得なかった快楽だ。女の身体も、悪くない。
新しい身体が気に入れば、俄然やる気も湧く。
とりあえずは、この村を支配したい。今の身体なら腕力に物を言わせれば簡単だが、それだけでは意味がなかった。民が居なければ、村や国はただの土地だ。それは、これまでの人生で嫌というほど思い知らされてきた。
さしあたっては、資金が必要だ。
大抵の人間は、金で言いなりになる。殴るよりもスマートで、健全な方法だ。この辺りにちゃんとした貨幣はないが、金や銀があればなんとかなるだろう。
さて、資金を稼ぐには、何をするのが一番いいのだろうか。
今すぐに初められそうなのは水商売だが……いきなりそこに行き着くのはどうにも気が進まない。これまでの価値観が強く残っているからだろう。
わざわざ捨てるような価値観ではない。まだ来たばかりなのだから、ゆっくりと適応していけばいいだろう。
これまでの経験からすると、こんな場所で稼ぐ場合は流通業が強い。だが、それには元手が必要だ。それに、この世界のモノの相場もよくわからない。流通業は、もっとここに慣れてから行うべきだ。
現在の状況を鑑みるに、テザーがするに相応しいのは傭兵稼業だろう。
今のテザーの身体ならまず負けることはない。それに、パスポートにはギルド登録地が記されていた。ギルドというのは、恐らくそのような仕事を斡旋している企業? のことだろう。
なら、今やるべきはギルドの捜索だ。
そうと決まれば、早速行動に移る。即決即行動はビジネスを有利に進めるのだ。
村の外から来た人間を装い、適当な人にギルドの場所を訊ねる。どうやら、すぐ近くらしい。
礼を言って、ギルドへと向かった。




