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陰の権力者

前回のあらすじ


船作ったら戦争終わったので、起業家にクラスチェンジしました。

 起業から五年。

 テザーの立ち上げた企業は、順調に成長した。

 今やセンチラルだけにとどまらず、世界を股にかける一大企業である。エンジン以外にも、エンジンを用いた簡易的な自動車や、造船技術を転用した建築作業なども行っている。

 テザーは一代で巨万の富を得た敏腕起業家として、一躍有名になった。

 それだけではない。

 元居た世界でのノウハウを生かし、オリエンゲートの陰の権力者となって実権を握ることに成功。文明レベルの差があるからか、大きな都市にも関わらず簡単に実権を握ることができた。

 かつてのヴァーンガードも支配下にあり、今や世界一の大都市である。

 近隣の都市はオリエンゲートに逆らうことができず、事実上の配下にあった。

 つまり、世界はテザーの思うがまま。

 世界征服の野望は、遂に叶ったのである。

 だが、野望はまだまだ尽きなかった。

 次は宇宙を支配してやる。

 そのために、宇宙開発が行えるレベルまで技術力を高めたい。だが、それには膨大な時間が必要だ。

 しばらくは、適当に時間を潰すぐらいしかやることがない。



 ミラーフォードは娯楽が乏しい。

 大道芸は見飽きたし、本も読み飽きた。他にも、いろいろ。

 ありとあらゆる娯楽を食いつぶしてきたテザーは、いよいよ三大欲求を満たすぐらいしかやることがなくなった。

 その中でも睡眠は満足度が低く、娯楽にならない。食事も、美味しいものは全て食べ飽きてしまった。

 最早、快楽を追求する他無い。

 大量の男娼を買い込んでみたり、街で屈強な男をナンパしてみたり、同性に走ってみたり、いろいろ試してみた。

 麻薬の類は意図的に避けているが、他にできることは大抵やったと思う。

 いや、一つだけある。恋愛だ。

 恋愛状態での性行為は極上の快楽を生むという話を、聞いたことがある。確かに、男だった頃も、買った女よりも交際相手との行為のほうが気持ちよかった気がする。大分昔のことなので、記憶は曖昧だったが。

 しかし、相手が居ない。

 恋はしようと思ってできることではない。

 だから、恋愛については考えないでいた。



 至高の快楽を求めているという話を聞いて、古い知り合いが訪ねてきた。

 それはかつてテザーが護衛した船団に乗っていた、商人三兄弟――その長男だ。

「やっぱり姐さんはいくつになってもお若いですね」

 テザーを見ての第一声がそれだった。

 彼の言うとおり、三十を超えてなお、テザーは若く見える。というか、転生して来た時から全く老けていないのだ。恐らく、不死身の副作用だろう。

「それは、そうね」

 既に何度も言われていることなので、テザーは軽く流した。それよりも、早く本題に移りたい。

「それよりも、至高の快楽の話を聞かせて頂戴」

 催促すると、長男はグヘヘと汚い笑みを浮かべ、袋の中から一つの瓶を取り出した。

「これです。姐さんには良くしてもらってるから、タダにしときます」

「当然よ」

 かつてはテザーが下手に出ていたが、今は長男が媚を売っている。立場が、完全に入れ替わってしまったのだ。

「それで、これはどんなものなの?」

「これは惚れ薬の一種で、飲むと恋愛ホルモンがドバドバ放出されるんですよ。ヤるには恋するのが一番気持ちいいですからね」

「それは……いいわね」

 恋をしていなくても恋愛状態になれる。

 それは正に、テザーの現状にピッタリの代物だった。

「ありがたく貰っておくわ。後で市場を大きくしてあげる」

「ありがたき幸せ!」

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