武器商人
前回のあらすじ
海賊を皆殺しにしたり枕営業したりで、とりあえず商売を始める準備が整いました。
商売をするにあたり、テザーが目をつけたのは、武器だった。
ミラーフォードは未だに争いの多い時代であり、武器の需要はどこへ行っても絶えない。ジーマのような小さい村にさえ工房があったのは、そのためだ。
大規模な戦乱が起これば、武器は更に売れる。
話によると、オリエンゲートは隣接している同規模の都市ヴァーンガードとの関係が悪化しているらしい。
ヴァーンガードは、多くの都市を侵略して併合してきた軍事国家だ。その軍事力はミラーフォードでも指折りで、戦争をするとなると、ただの商業都市であるオリエンゲートでは分が悪い。
そのため、現在オリエンゲートでは過去に類を見ない大規模な軍拡を行っている。渡航した際に感じた緊張感は、それ故のことだ。
ただし、オリエンゲートは戦争に対して消極的だった。この軍拡は、飽くまでヴァーンガードへの牽制。戦わずに済めばそれが一番いいというのが、現在のオリエンゲートの方針だ。
だから、テコ入れをしてやる。
ここのところ、武器商人達の間で、この関係を利用しようという機運が高まっていた。オリエンゲートの軍拡に乗じて武器を売りつけた上で、両国の民衆を煽動して戦争を起こそうというのだ。
テザーはここに、センチラルも巻き込もうと考えている。
センチラルとオリエンゲートは非常に仲の良い都市だ。商業船団をいくつも行き来させ、大規模な貿易を行っている。
なので、オリエンゲートがヴァーンガードに敗れて併合されるのは、センチラルにとっても都合が悪いのだ。
事実、これまでに数回、センチラルからオリエンゲートへの軍事支援が行われている。テザーが護衛した船団にも、一部武器商船が含まれていた。
オリエンゲートとヴァーンガードが開戦すれば、センチラルからの軍事支援も拡大するだろう。
上手く行けば、三つの大都市で武器が売れるのだ。
これを利用しない手はない。
※
武器の仕入れ、大国の煽動、販路の確保――この全てに、これまで築いてきたコネが生きてくる。
商売は、人と人との関わりあいだ。これを疎かにして、商売は成り立たない。
身体を売ってでもコネを優先したのは、このためだ。こうでもしていなければ、新参のテザーがこの一大計画に参戦することはできなかっただろう。
今日もまた、コネを生かして手に入れた仕入先に赴いていた。
ウェーポニア――センチラルからそう離れていないところにある、職人の町だ。
今回の商売相手は、つい最近辺境の村から出戻ってきたらしい新人職人だった。
話によると、まだ年若い女性らしい。辺境の凄腕職人に弟子入りしていたが、ここ数ヶ月で村は廃れ、工房も潰れてしまった……という。
凄腕の職人に弟子入りしていただけあって、腕は確かなようだ。
早速、彼女の工房を訪ねる。
「こんにちはー」
「いらっしゃい……。って、あんたは!?」
女性は、テザーを見た瞬間に驚きを露わにした。次いで、恨めしげな視線を向けてくる。
テザーも、女性には見覚えがあった。
褐色の肌に、乱れ気味の赤いポニーテール。
間違いない。ジーマの工房で働いていた女性だ。
「……久しぶりだな。調子はどうだ」
ジーマを潰したのはテザーである。恨めしげな視線に居心地の悪さを覚えつつ、誤魔化すように言う。
テザーのそんな態度に、女性は深い溜息を吐いた。
「あんたのせいで、こっちは散々な目に遭ったよ。ただの傭兵やってた時は、本当に感謝してたんだがなあ」
「感謝じゃ腹は膨れないからな」
「ああ、そうだろうよ。この淫売め」
ブツクサと言いつつも、女性はテザーを工房の奥へと手招く。
「まあ、いいさ。前半と後半合わせて、帳消しにしてやるよ。あたしはな。他の奴は知らねえ」
「助かる」
招かれるまま、テザーは工房の奥へと進む。
女性は壁に立てかけてあった剣を一本手に取ると、テザーに切っ先を突きつけた。不意打ちに、テザーは腰の剣に手を当て身構える。それを見た女性は、軽く笑った。
「安心しろ。殺す気ならもっと踏み込んでる。今はこの剣を見てくれ」
言われた通り、テザーは剣に目をやった。なかなか見事な剣だ。
「いい剣だな」
「あんたに最初に売ったやつ程じゃないがね。出来は自負してるよ」
言うと、女性は剣を引っ込める。
「ここのところ買い手がつかなかったから、在庫は二百本ぐらいある」
いくら買う? と女性が視線で問うてくる。三つもの都市を相手に商売するのだ。武器はいくらあっても足りないぐらいだった。
「全部買おう」
「まいどあり」




