表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第十三話 罰

 只今、船内大騒動の後始末中である。俺はトゥロに血を拭ってもらった後、ぐったりしているトショーヤ一味共が、船外へ運ばれるのを眺めていた。

 人を呼んで次々と連れ出してもらっていると、あっという間に騒ぎを聞きつけた野次馬に囲まれる。もちろん彼らも扱き使う。


 その間に、積荷に不審な物はないかと確認してみたりした。気が付けば、船作りの技術を持つ者達も興味深げに、紙束片手に船内を見て回っている。俺には分からんが、少々作りが違うようだ。


 トショーヤ一味以外の船員は、真っ先に海領の警備団に固めてもらっている。ただの雇われ人夫だろうが、海向こうの人間だから一応ね。




 船内を見廻りながら、トゥロがどんな決意を固めていたのか話してくれた。


「あの刺客があったからこそ心構えが出来た。例え人を殺めることになろうとも、躊躇なく叩きのめす覚悟を持てた」


 いつも手を出さないように悩んでいたところを、逆に力を制御しない必要があると、あの時に感じていたわけだ。

 トゥロは、「その意味ではトショーヤに感謝すべきだな」、などとさらっと言っていた。

 なんというか、俺を置いて日に日に人間的な器がでかくなってる気がするよ。


「なんだかトゥロが王様な方が国にとって良さそうだよな」


 トゥロは怪訝な顔になる。俺が何か企んでいるとでも思ったのだろう。


「リィス、私が狭い椅子に腰を落ち着けていられると思うか?」

「ないな」


 トゥロはそうだろうと頷く。

 しかし、あの大立ち回りがトゥロの本気だったとすると、普段いかに抑えているのか良く分かる。

 とっくにまともな稽古の相手もいないわけだ。トゥロがつい手が出てしまうことに、俺くらいは文句を言うまいと心に決めた。


 そして、トゥロは意外というか、当然というかの望みを口にした。


「軍を指揮したい。その方が性に合ってる」


 意外だと思ったのは、個人主義だと思っていたからだ。

 しかし稽古場にはほぼ顔を出しているようだったし、指導にも興味があったのだろうか。

 トゥロが自分で望むのだから、いい加減だったり、ましてや投げ出すことなどないだろう。

 だから色々と思いはあれど、こう相槌を打った。


「全くだな」


 そのまま、何々君は木の役ね、てな軽さで皆の役割を決めながら船を後にした。



 ▽▽▽



 船内での一悶着の後、親父共をトショーヤ一味から解放できたこともあり、気持ちは大分落ち着いていた。

 捕らえた奴らは、傷を負ったものは治療し、手足を縛ったまま反省部屋へ放り込んでおく。

 この地に牢屋などはないのだ。

 反省部屋は簡易の檻ではあるが、木で組んだだけで堅牢なものではない。


 領内で動ける船と人員に、すぐにでも出帆できるよう要請した。トショーヤ一味の国へ、情況を知らせるためである。どう伝えるか決め、手紙を早急に用意しなければならないのだが。

 準備の指示だけ出すと、俺は改めて会議を始めるからと各所の代表者を集めさせた。


 河岸を変えて、海の町中央広場中心にある大きな宿屋兼食事処へ移る。三階まである建物はここだけだ。三階まで建てれば、ちょうど裏手の下る崖道に並ぶので、扉を作りつけるために高くしたらしい。確かに、回り込んで降りずに済むので便利なのである。

 後の指示を考えると塔まで戻るのも面倒なので、場所も広いし飲食できるしと、二階の食堂を借り上げた。


 いよいよ塔に隠れてまとめていた方針、計画書など発表し、忌憚ない意見を募る時である。

 とは言っても大方は俺が決めたことに沿ってもらうことになるだろう。トショーヤを聞く耳持たないろくでなし、等と責められない気もするが。だが、いきなり計画書を見せても、分かる言葉で話せと逆切れ必至なのだ。別に隠す気は無いので、資料は全て出してある。


 しかし、俺は提案を一つずつ、丁寧に説明していくこととする。さらに言えば、全てを一々話し合っても仕方がないので、皆に関係ある部分だけを説明する。そこからは、後で細部をまとめるべく議論を重ねてもらうことにした。


 まずは各代表に、そもそも国家制度への移行自体に疑義を挟まれても困る。疑義の主な理由は、何をやればいいのか分かんないし、という見も蓋もない理由だろうし。

 いかに皆の力が必要か、というのは、単に俺が、皆で作り上げた国だというのを実感して欲しいからだ。巻き込むために、具体的にどう説明したものかと頭を悩ませていた。


 ところが、足掛かりは身近にあった。

 親父らが携わっていた、交流便にまつわる仕事である。街道整備に際しては、陸海の皆が協力したし、そんな昔の事ではない。

 ああいうのをまたやると言うと、代表達は合点がいったようで、それならと肯いてくれた。


 代表たちへの説明は、これで良いのだ。

 陸領、海領としての地名も失くすわけではないが、統合してさらに大枠の一部となることについての、心情的な葛藤については分からない。

 ただ、さすがに中心となって仕事をする立場だけあって、現実的な問題に向かい合うことへの抵抗は薄い。


「俺達も食っていかなきゃならんからな」

「それが必要だってなら仕方ないべ」


 そんな感じで、思ったより早く中身の話に進むことができた。




 大枠を詰め終えたとき、拍手が起こった。

 親父たちにも安堵が、いや晴れ晴れとした顔が見え不満は感じなかった。憎たらしいことである。

 一旦、解散するが休む暇はない。忙しくなるのはこれからである。

 各位持ち場で、手腕を発揮することとなるが、それについての指示も必要だし。


 俺たちは、報を待つ民へ、代表会議の結果を伝える。

 平和的合意の元、国として纏めていくことに満場一致したと。


 そして、領民たちを黙らせる一手を、今ここに打つ!


『海の領主、陸の領主間の婚姻にて国と成す』


 詳しくは追って報せる。ヨロ。


 まだ先行きが分からないので不満な筈だが、最後にもたらされた内容は彼らの憤懣を、雷鳴の如き一瞬にして掻き消した。

 とりあえず、数日はこっちに気を引かれていてくれることだろう。




「はー次は、海向こうに連絡か……」


 なんと伝えたものかと悩みつつ、筆を取り紙と向かい合った。



 ▽▽▽



 翌日の埠頭。

 青く清々しい空と波飛沫の煌く海!

 そして全く爽やかさのない、天日干しされている罪人共!


 捕らえたトショーヤ親子以下一味共だ。

 親父共のお仕置き一覧を、嬉々として作成していたのがこんなところで役に立つとはな。


 現実的なものから、非現実的なことまで網羅しておいたのだ。

 残虐なことなど俺も見たくはないので、羞恥系の中から選んでみたのだが、これもやはり見たくはなかった。

 だが、分かり易い罰は必要である。


 その結果が、天日干し。

 罰として港でしばらく羞恥プレイを楽しんでもらっていた。

 目の前のそいつらは、下着一枚で両腕両足を後ろで縛りあげられ、丸太を立てて張った干し網へと並べられている。


 時折、鴎の足場になり「あふぁんらめえぇ」だの声が漏れ聞こえる。えー多分痛そうである。痛いのに違いない。


 トショーヤ饅頭は、その丸々とした腹肉に良い具合に縄が食い込み、大変食欲が削がれる見た目となっている。息子の方は鶏がらのようだった。こいつらは足して割ったほうがいいと思う。


 そして結果的にとはいえ親父共に付き従い、皆を混乱させ領主の邪魔をした挙句、トショーヤ共の悪事に加担してしまった商人たち。

 悪巧みは親父主導なのは重々承知しているのだが、初めに親父共に助けを乞うたのは彼らだ。

 申し訳ないが、同様の罰を受けてもらうことにした。


 トショーヤ一味よりは罪の重さは軽めということを見せるために、干し網上ではなく、簀を敷いて座らせてやったから恨まないで欲しい。


 示しが付かないと困るしと、罰など与えて心情穏やかではなかった。この地で、拳以外の罰など聞いたことがない。それもどうかとは思うが。

 ともかく、心配になっていた逆恨みなどはなかった。それは良かったのだが……。


 商人たちは心から反省して「うぇごめんうぇなさうぁいうえぇ」と涙を滝のように流し、俺の足に縋りついてきた。両手を縛られているので頬擦りか。

 気持ち悪いので晒し者の罰は許すことにする。


 何よりこれから人手がいる。

 実は、今のところ喉から手が出るほど欲しい人材があった。

 俺以外にも文書を取り纏めたり、細部の計画を立ててくれたりする文官だ。


 領内で文字の読み書きや計算などに通ずるのは商人たちだ。

 その能力を、商売ではなく俺を補佐してもらえればどんなに良いかと、切実に願っていたのだ。

 彼らの生活を奪うようで萎縮しつつも、黒い誘惑には勝てず……。


「直接の罰の代わりだ。俺の補佐としてビシバシ躾けるから覚悟しろよ!」


 脅したのに、一同正座して低頭してきた。


「ははー!」


 下僕入手だぜ!


 始めはともかく、途中からすっかりげっそりしていたからな。本当に開放されて嬉しそうであった。ていうかそんなになるまで意地を張るのが悪い。ある意味すごい根性だが、使いどころは間違えないで欲しいものだ。


 ひとまずのところは仮で文官としておくが、その内役割を決めたいと思う。

 実は下僕となったのは商人の代表たちだ。代表だけあって他より秀でている。商売は引き継ぎしてもらってまで手伝ってくれることとなった。

 これは後々まで、物凄く助かることになるのだった。




 それにつけても腹立たしいのは親父共である。

 商人を扇動していた張本人なのだ。それが最後に人質となっていたという事実のみを取り上げ、さも「我らも利用されていたのだよ」と責任転嫁し体裁を保ちやがった。


 確かに間違いではない。

 だが、そもそも奴らは初めから、俺をおちょくろうと商人の諍い(これも親父が元の流言による)に乗っかっていたのだ。そんな隙だらけな情況を見て、トショーヤが利用しようと思い至ったのだろう。


 諸悪の根源は間違いなく親父共なんだよ!

 なのにだ、領民をけしかけ俺たちをからかう遊びを堪能、危ない玩具を手に入れる、国興し等々、罰もなく欲しいものすべて手に入れているではないか。

 結果だけみるとまるで策士みたいだよ。掌で踊らされていたようで癪に障る。


 もちろん、これで何もしなければ皆に示しが付かない。もうこんな面倒事は勘弁して欲しいし、今後は袂分かつことなく俺の方針に従ってもらわねばまずいのだ。


 だからといって裸縛り晒しの刑は、いくらなんでも前領主にはまずいと考えた。そんな先例作って、もしや俺にも降りかかったらと思うと嫌だしな。


 だからこそ、親父共の持つ技術と出来ることで無茶振りすることにした。

 まあ要は力仕事だね。領土改造計画の指導に携わってもらうのだ。

 対外的な受け入れ施設も、今より整えたいのはもちろんだが、俺は全体を見直したいと思っていた。


 例えば、市街地形成。

 現在は鬱蒼とし放題な森の中に、集落が点在している。森を道で区域ごとに分割、整地し、ある程度人家を寄せて住宅地としたり。道なき道を整備して、移動が楽になるようにしたかった。警備勢にとっても、急な呼び出しでも時間が短縮されるので助かるのだ。


 主な目的は、物流面。

 道をある程度整えたら、陸海領地の境界にあたる崖沿いから、荷運び出来るような滑車装置などの昇降設備を設置したい。

 崖を削って段差に出来れば、さらに便利が良いと思っている。そこは地質調査次第か。


 昇降設備の側には、荷物の集積所を建てる予定だ。

 そこから運河に繋げられたら、かなり楽になる。まあ運河建設は、もっと後になるだろう。


 その他首都機能を強化するとか……しばらくは砦で細々回していくつもりだ。仕事できるだけの部屋数もそれなりにあるから、用は足りている。

 場所も、全領土の中程であるし周りは草原だ。必要とあれば、増築すればいいだろう。




 そういった計画を、親父たち警備勢と街道整備経験者らを中心として、手の空いてる者全員で取り組み計画を進めていくつもりだ。

 何年もかかるだろう大規模工事だからな。

 親父共よ、土木技術を存分に活かすがいい。干からび朽ち果てるまで働くがいいさクク……ククク……アーッハッハッハ!




 後日、現場仕事の初日を見物すべくワクワクしながら迎えた俺。

 親父共の恨めしい視線を受けつつ過ごす、そんな夢を描いた時期が俺にもありました。


 するとどうでしょう。

 親父共の全身から滴る汗と共に、撒き散らされている幸せ効果が見えるではありませんか。


「我天職見つけたり!」


 拳を天に突き上げ高らかに宣言した親父。

 至福の時を過ごす、どこか浮かれた親父共と、弁当を届けついでにそれにうっとりしている母親たちの姿があった。

 なんの罰にもなってやしない!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ