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蒼い空

    蒼い空

 

 世界は、止まっている。動いてはいるけど、自分を置いて動いている。流れは速いのに自分を避けて行く。止まっている世界はつまらないけど自分は動くことができない。自分の一生は止まって終わるのだと思っていた。

 俺の名前は、竜胆 真 某大学の法学部生だ。平凡な大学、平凡な生活、何もすることもなく大学も三年が過ぎた。大学では勉強し、友人と一緒に喋って帰り、バイトに行くただそれだけの毎日、退屈はしなかった。大学に行けば、友達がいるし、地元にも友達がいるから毎日が楽しかった。けど、自分の中には空っぽな部分があって、いつも埋めるために友達と一緒にいた。その時だけ幸せだった。あいつと出会うまでは。


 嵐とはいつくるものなのかわからないものだ。あいつが来てから俺の人生は変わった。三回生の前期授業が半分くらい終わったある日、ゼミの終わった後、友人と合流しようと教科書とポケット六法を鞄にしまった時、向かいの席に座っていた女がこっちにきた。名前は・・・忘れた。そして、こっちに来て第一声が

 「好きです、私と付き合ってください!」

言葉が出なかった。こいつとは今回のゼミが初めてであんまり目立つタイプでもないからあんまり気にしてなかった。うちのゼミは、男7人に女1人のゼミだから少しは気にはしてたが・・・興味がなかった。そんな子からいきなり告白されたもんだからどうしていいかわからなかった。

「えと、返事は?」

「・・・え?あ、ああ・・・ええと」

「うんうん!」

「悪いけど、俺は君の事全然知らないから付き合うのは無理だな」

「え?」

当たり前だ、知りもしない相手と付き合うとか普通はしない。それに俺はこいつの名前すら覚えていないんだから付き合う気にはなれない。

「そうだね・・・お互い全然知らないもんね」

「そうだろ?んじゃ、俺は友達待たせてるんで」

これで、いいんだ・・・なんだろう?この罪悪感・・・。そんなことを考えながら教室のドアを開けようとした時

「そうですね!これからお互いのことをもっと知り合えばいいんだわ」

「はい?」

「竜胆君!・・・これからお互いのことを知り合いましょう!」

「はい?」

え?これはどういうこと?そんでなんでこの子こんなにテンション高いの?

 「竜胆君、いいですよね?」

 「・・・ええと、盛り上がってるところ悪いけど、名前なんだっけ?」

「え?私の名前覚えててくれてないの?」

「人の名前を覚えるの苦手でね。それに、最初の授業で聞いたくらいで後は聞いてないから」

「全く、仕方ない人ね。私の名前は綺道 恵よ」

なんだろうか、この人の・・・この人のノリについていけない。女ってこういうのばっかなのかな?

「綺道さんね。了解。」

「で、さっきの続きなんですけど、これから、二人の距離を縮めようと思うのだけど」

「ええと、さっき断ったよね?」

「うん、だから、お互いのことを深く分かり合ってから付き合いましょう!」

この流れは断るのは不可能と見るべきなんかもしれないな・・・って諦めるな!俺!この流れで付き合ったら結末が見えてる。

「はぁー、悪いけど、俺まだ誰かと付き合う気ないんだけど」

まだと言ったけど実際生まれてこの方女と付き合ったことはないけど、まぁ興味も無かったし今回のも告白もあんまり興味ないし。

「・・・大丈夫!かならず私に振り向かせて見せますから!」

なんでここまでポジティブなんだろうか?・・・もう好きにしてくれって言いたくなった。けど、ここでそれを言ってしまうと取り返しのつかないことになりそうだったからやめた。

「そこまで・・・俺みたい人間のどこに惚れる要素があるんだよ」

「それはー、最初はなんとも思ってなかったんだけど、あなたがゼミで先生と討論する時の考え方が面白かったことがきっかけかな?その後、違う授業で友達と話すあなたの笑顔がとっても好きだったから・・・」

顔を真っ赤に染めながら言った。・・・一目惚れというわけではなさそうだ。なんというかまっすぐな子だなー。

「それって惚れる要素なのか?あのなー・・・と電話だ。・・・もしもし、あ!ごめん!ちょっと野暮用で・・・うん、ああ、今から行くから」

友達が遅いと電話をかけてきた。

「悪いな、その話はまた今度」

「え!あ!ちょっとー!」

俺は、綺道を教室に置いて友達の待ってる学校付属の本屋まで向かった。

「真―遅いぞー!」

本屋の前で苗村が俺に言った

「すまんすまん、ちょっとトイレだよ」

「とかいいながら女の子をナンパしてたんだろー」

笑いながら黒崎が俺に言ってきた。

「俺にそんな桃色の行動があると思ってるのか?黒崎」

「まこっちゃんならありえる」

追い討ちをかけるかのように徳山が言ってきた。

「お前らなー」

いつものようにたわいも無い会話、楽しい一時・・・これで今日は終わる。本当はこいつらと同じゼミに行きたかったがくじ運悪かったのか別のゼミに行ってしまった。みんな同じゼミなのに俺だけゼミが違うこの不幸を嘆いたこともあった。でも、今は気にしてない。今のゼミも嫌いじゃない。

「全く、お前らという奴は・・・まぁいいや、帰ろうぜ。バイトあるし。」

「あ、今日はバイトか。その割にはのんびりしてたな」

苗村が笑いながら言ってきた。好きでのんびりしてたわけじゃないんだけどな。ええと確か綺道とか言ったな。あいつのおかげで遅れたんだよ・・・早く帰ろ。

「ちょっとねー・・・ってまじで早く帰らないと時間が!」

時計を見ると午後四時半・・・バイトは六時から危ない、電車を使って一時間そこから自転車で十五分・・・ぎりぎりだ・・・大学が京都で地元が大阪・・・かなり遠い・・・特にここで勉強したかったわけではなかったが自分のレベルに合わせた大学がここだっただけだった。

「それはあぶないねーんじゃ、ささっと帰ろうか」

徳山が陽気な口調で言ってきた。俺はこいつの陽気さが羨ましい、真面目で生きていくにはこの世界はきつすぎる。

「まったく、真がナンパなんてしてるからー」

こいつは・・・黒崎は俺のいるグループのボケ担当・・・こいつのボケに対応するのは体力がいる。というかよく俺をターゲットにされる俺は特に体力がいる。


「だからしてないって!行くぞ!」

「なんでそんなに怒ってんの?ゼミで何かあったか?」

「別に」

少し不機嫌なのは、あの綺道の性だ・・・あのポジティブ・・・まぁこれだけ冷たくすればあいつも俺から離れるだろう。

「竜胆君!私を置いて行くなんてひどい!」

綺道が後ろから声をかけてきた。

「おい、真・・・呼ばれてるぞ?あれ誰?」

苗村が不思議そうにこっちを見てきた。黒崎、徳山はニヤニヤしながらこっちを見てきた。

「ゼミの友達だよ。おい行くぞ・・・本当に行こう」

 早くのこの場から逃げたかった。というか、追いかけてくるなよ。

 「もう、話はまだ終わってないんだけど?」

 「今日はバイトがあるからまたね」

 「え?あ、それはごめん」

 恐ろしく素直だった。正直この回答は予想してなかった。

 「それじゃ」

 「え・・・あ、うん」

 これで、帰れ・・・時間がやばかった。

 「俺、さき帰るから!またな!」

 ニヤニヤと笑っている三人と少ししょんぼりしている綺道を置いてダッシュで駅に向かった。いつもの平穏を崩された気がした。



 危なかった・・・あいつのおかげで普通にゆったり着いたはずのバイトが時間ギリギリで着いた。バイトは、ケアーズドラッグの店員をしている。開始五分前に着いた・・・俺の平凡な日々に嵐が来た気がした。あいつは・・・綺道はゼミではあんまり目立つタイプでないし、お洒落なのかな?女性らしい落ち着いた服装でよく見る・・・顔も綺麗なほうだと思う。だと思うというのは自分自身が女性に興味がないからだ。それに、今まで女性に付き合ったことが無い。それ以前に大学に入るまで女嫌いだった。

「竜胆君、もう店閉めるからほら!」

ハッとなって作業に戻る。仕事に集中できない・・・これは綺道に好きと言われて動揺してるからに違いない。俺の人生で初めて好きと言われたことに俺が動揺していることが原因・・・そう考えるとなんだか虚しい気がした。虚しい・・・虚しいんだと思う。俺の人生で一度も恋をしたことがいのだから、友達にも言われてる・・・恋しろって。けど女性を見てなんとも思わないのに誰かと付き合うのは筋違いだと思ってるし、俺は長い事女嫌いだったから今更恋なんて言われても実感がわかなかった。

「恋かー・・・」

「何?竜胆君、恋でもしたの?」

「そっそんなことはないです。店長!からかわないでください」

「何動揺してるの、顔真っ赤だよ?」

「え?そうですか?」

俺は、慌てて自分の顔に手を当ててしまった。

「ふっふっふ、やっぱり恋か」

「そんなんじゃないですよ!それに私が恋なんてないですよ。今までだってそんな色恋ざたなんてなかったんですから」

店長は、こういう恋話には食いついてくる。というか大好物な人だ。

「何、竜胆君、恋してるのかー。おじさんに詳しく聞かせて」

・・・

店長の顔がものすごく笑顔だった。

「店長・・・俺が話すまで聞く気でしょ?」

「・・・そんなの当たり前じゃないか。おじさんがその話を見逃すわけないじゃないか!」

「残念ですが、そういう風な話じゃないです。断りましたし」

「え?断ったの?なんでー、ブサイクだったの?それとも高いレベルを求めてるの?」

「ちっ違いますよ、お互いによく知らないのに付き合うとかしたくなかっただけですよ!」

「お堅いねー、俺が若かった頃は女の子にほいほい声かけてたよー」

「店長と一緒にしないでください!私は私のやり方があるんです!」

この人は・・・

「いいんです。それに私に似合わないようなかわいい子なんです。」

内心、本当にそう思った。俺は、ファッションなんて気にしたこともないし、顔も別にかっこいい訳でもない。それに・・・それにああいう人は俺よりもいい人を見つけて欲しい。俺のようななんの取り柄も無い男より

「そう、つまんないなー」

「店長のために生きてるんじゃないんですから!それに」

「それに?」

「彼女は、私にはもったいない。私みたいなダサい男が彼女と付き合うのは不釣合いです」

「竜胆君・・・君って聞いてもいないところまで話してくれるから好きだわ」

店長は笑いながら、俺の顔を見た。

「その子は、竜胆君のそういうまっすぐなところに惚れたんじゃないのかな?」

「・・・そんな夢物語はそこまでにしてください。いいんです。私は恋なんてしなくても!それに、あれだけ突き放す行動したんです。相手も諦めたでしょう」

「うわー・・・その行動は引くわー」

俺でもわかってる、普通こんな行動していいわけがない。けど、これでいつもの毎日に戻るだろう。



バイトも終わり、着替えて帰ろうと思った時、携帯に着信履歴が十件あった。誰からだろうか?アドレスに登録してないと言うことは・・・いやな予感しかしない。そんな予感を持ちながら俺は携帯を開きメールボックスを開いた。

[竜胆さん、今日はいきなりすいません!綺道です。これからもよろしくお願いします!]

・・・綺道だ・・・なんで、俺のアドレス知ってるの?というか残りのメールも似たようなもの・・・あれ?これは逃げるの不可能?

 「俺はまだ恋したくないのになんで・・・なんで・・・」

 他のバイト仲間に聞こえない程度の声で呟いた。

 「今日のことはもう忘れよう」

俺は、着替えてダッシュで家に帰った。風呂に入り寝ようとした時、電話がかかってきた。

「竜胆君でしょうか?」

「・・・・なんで俺の番号を知ってる?」

「黒崎君に聞いたの」

「あいつら・・・綺道さん・・・俺はあなたと付き合う気はない!」

「知ってる、だから私に振り向かせて見せる!って言ったじゃないですか」

「はぁー、つか、なんでこの時間に寝るの知ってるの!」

「え?寝る前だったんですか?黒崎君はこの時間なら絶対出るって教えてくれたんですけど?」

「後でしばく・・・とりあえす、今日はもう寝かせて・・・君のおかげで疲れた」

「私ですか・・・わかりました。ではおやすみって言ってください」

「なんでところどころ敬語なの?」

「かわいさアピールだけど?」

「それって自分で言ったら意味無くない?」

「え?あ、今の無し!今のは無しで!」

こいつ、結構天然だな・・・面白いけど恋人にはしたくない

「そう、わかったから寝かせて」

「あ、うんおやすみ!」

「ああ」

通話を切ろうとした時声が聞こえた。

「竜胆君もおやすみって言って!」

はい?なんで?

「なんで言わなきゃだめなの?」

「お互いの中を深めるためです!」

「言わなきゃ何度でもかけてくる気か?」

「当たり前じゃない!」

うわ、もうこれは電源切ってやろうか・・・でも切るとアラームがならない。かと言って、置いておいたら電話がかかってくる。

「負けました。綺道おやすみ」

「え?あ、うん!お休み竜胆!」

あれ、呼び捨て?・・・もういいや眠いし、寝よう・・・もう疲れた。綺道・・・なんで俺なんか・・・。


次の日

 「・・・ふあぁー!・・・ん?・・・げっ!遅刻する!」

 授業は、十時から、起きたのは九時ちょうど

 「うわ!母さんなんで起こしてくれなかったんだよ!」

 「真ちゃん?あれ?今日はその時間帯だったかしら?」

 「母さんぼけてる場合じゃないよ!うわぁぁ!遅刻する!」

 うちの母さんは少し抜けてる。兄弟が三人いていつもその中の一人のスケジュールを忘れる。というか、毎回大事な時に限って忘れる。今日の授業は遅刻が三回を超えると単位をくれない教授が授業をしている。なんでこの人の授業が必須なのだろうか・・・。

 「真ちゃん、ご飯は?」

 「んなもん食ってる時間が無い!つか、起こしてって言ったじゃん!」

 「食べないと、勉強できなわよ?」

 「はいはい、んじゃ行って来ます」

 今日は、寝すぎた・・・そこまで疲れてたのかもしれない。なんか忘れてる気がしたけど、いつものように大学に行って、授業を受けて、今日はバイトもないから終わりに黒崎の家で遊んで・・・なんだろう?何か忘れてる?そんなことを考えてたら大学に着いた。

「ハァハァ・・・時間ギリギリ・・・まだ先生来てない・・・黒崎・・・苗村・・・徳山・・・おはよう・・・」

「時間ギリギリだねー、毎度のことながら」

「毎度のことじゃん。なぁーまこっちゃん」

黒崎と徳山は、大学近くで下宿してるから遅刻はそうそうない・・・羨ましい

「ちゃんとねてるのかい?真」

苗村は俺の家の近くに住んでるのに俺より早く着いて無遅刻無欠席という皆勤賞の奴だ。

 「うるさい・・・疲れてるんだよ!・・・なんでだっけ?」

 「竜胆疲れてるんだー、バイトそんなに大変なの?」

 後ろから女の声が聞こえた。ん?聞き覚えが・・・

 「おい、まこっちゃん、彼女が呼んでるぞ!」

彼女?女の声?

俺は恐る恐る後ろを向いた。

「おはよう、竜胆―!」

寝ぼけた頭に現実が突き刺さった。綺道だ・・・そうだこいつのせいで疲れてたんだ。おまけにこいつの連れも俺たちのグループの後ろにいた。

「メグー、なんでこいつなの?ダサいじゃん」

グループの化粧の濃い金髪のロングヘアーの女が俺を見てそう言った。

「だめだよりっちゃん、見た目でなんでも言っちゃ」

 小学生?と思わせる容姿にショートヘアーの女にフォローされた。

「まぁ、恵は昔から変わってるからねー。変わってる男に惹かれたんじゃないか?」

綺道と似たような風貌のロングヘアーの女にそう言われた。

どうやら俺はこのグループで評価は最悪のようだ。


「おい、お前ら、初対面の相手に言いたい放題って言うのはどういうことだ?」

俺は、こいつらの反応に少しイラッとし反論した。

「「「だってファッションセンスと顔がいまいちなんだもん」」」

三人に言われた・・・ちょっとショックだった・・・そうさ、服装も髪型も気にしたことは無いけど・・・お前らに言われるようなことはしたことないぞ。内心そう思いつつも黙っておいた。

「そんなことないよ」

助け舟?綺道が喋りだした。あんまり期待してないけど。

「確かに、ファッションセンスはないし顔もかっこよくないけど、ええとー、その・・・」

言葉に困ってる・・・こいつ追い討ちかけただけだ・・・やっぱ天然だこいつ・・・俺の周りはどうやら天然とボケしか集まらないようだ。

「ていうか、お前ら誰だよ?」

もう、俺の評価はどうでもいい、とりあえずこの状況を把握したかった。

「え?あ、うんこの子は」

綺道が自分のグループの説明をしようとした時、教室に教授が入ってきた。空気呼んでくれ。

「さて、授業を開始するぞーお前ら、今日はグループに分かれてレポートを書いてもらうからー。そうだな班分けは・・・私が決める。そうだな・・・4~5人がいいな。」

アバウトだ・・・後ろで綺道が自分と一緒になれるよう願ってるのがわかる。俺は一緒になりたくないな。隣で黒崎達が一緒になれるといいなとニヤニヤしながらこっちを見ている

「んじゃそこの4人とこっちの5人そんでそっちの5人・・・そこは・・・8人か・・・よし、ちょうどいいからそこ男女二人ずつで分かれろ。そうだなーここの線で別れろ。」

俺と苗村、子供にええと人のことを変わってると言った女で一つのグループ?徳山と黒崎に綺道に化粧の濃い女で分かれた。綺道は残念そうな顔して「残念だね」と笑顔を向ける。・・・よかった。これでこいつから解放される。

「おい、竜胆とやら」

変わってると言った女がこっちを見て話しかけてきた。

「実は俺他学部で、今日初めてここに来たんだ・・・で法学について何もわかってない。そういうわけだからよろしく頼む」

足手まといだ・・・それにこっちの小学生も役にたたなそう出し・・・これは苗村と二人でレポートを書くことになりそうだ。

 「ええと竜胆君と苗村君、サエちゃん頑張ろうね!」

 「その前に、君ら自己紹介してよ、誰が誰やらわからないんだが」

 「ええとね私は前原 良子。で、こっちのサエちゃんは橘 冴だよ」

 「橘 冴だ、よろしく!」

 二人の名前はわかった。というかこいつ本当に大学生なのか?ものすごく小さいけど、大きく見ても中学2年生の身長しかないし・・・容姿は確かに大人ではあるけど。問題はこの化粧の濃い女は誰だ?

「んじゃ、こいつは?」

「あんたね、こいつとは何よ!」

「名前がわからないんだからこいつしとか言えないだろ」

「あんた、腹立つわ」

「あー、俺もだ」

別に怒りの感情を感じてるわけではないけど、一応そう言っておいた。前原がどうしよう?って顔しながら俺とこいつを眺めている。

「ええとね、この子は金井 理未ちゃん。ええと、サエちゃん以外はみんな法学部だよ」

ふむ、これで全員か・・・俺の平穏はどこ行ったんだろうか?

「おい!そこ!無駄話はそこまでにしてとっととレポートの課題を決めて作業にかかれー」

教授がこっちを見て怒鳴った。俺以外はビクッとなっていた。俺は、そんなことよりもこんなメンバーでレポートが書けるか!という思考に頭が一杯だった。はぁ、苗村がメンバーでよかった。こいつがいてくれてよかった。俺のグループの頭である苗村が、けどまとめる作業とかで呼ばれるんだろうなー。いつものように・・・まぁ、慣れたけど。

「んじゃ、さっさと課題を決めようか」

「ういーす、苗村―良子―任せたぞー」

「橘さん、あんたも働くんだぞ?例え他学部だからってさぼらせんぞ」

「なんでだよー、めんどくさい」

「俺らもめんどくさいんだよ」

「そこらへんで漫才を終わらせてくれるか?」

少し、苗村が真面目な顔をして話しかけてきた。苗村は、いつも冗談とかを言うけど、勉強をするとなると俺以上に真面目になる。その顔に圧倒されたのか橘も前原黙って苗村を見た。しかし、他学部がいるのになんで教授は気づかない・・・まぁこの人なら仕方ない気がする。この人は出席を取らないくせに遅刻を誰がしたか出席者を見ただけでわかる。どこかの一流大学出身らしいけど・・・記憶力はすごいものがある。もしかして、わざとか?そんな気がしてならなかった。

「そうだな、苗村すまん。んじゃ始めるか。そうだな。とりあえず刑法のレポートだから・・・ふむ、あの事件について考えるか」

俺も勉強のスイッチを入れた。そして、最近起きた殺人事件のレポートを書くことに決めた。その事件とは、強盗から子供を守るために母親が強盗犯を殺したと言うものだった。普通に考えれば刑は軽いのだが、そこで母親は殺してしまった恐怖からその強盗犯を山に捨て、家に残った血を全て綺麗にし証拠隠蔽をしたと言うものだった。

「あの事件ってなんだ?」

全くわかってないような顔で橘がこっちを見てきた。

「橘さん、新聞読んだりしてる?」

「外国語学部だから読んでないなー」

読まないことに呆気に取られたがこの性格で外国語学部・・・そこに驚いた。

「ええとね、サエちゃん・・・・・・」

前原があの事件について話してくれたおかげで俺の仕事は減った・・・助かった。女嫌いだった俺には長時間女と話すのが苦手だ。

「うわー、ひでー事件だなー。俺こういう血なまぐさい話はNGにしてもらいたいんだけど」

「ん?調べるのは俺たち二人でするから橘さんには、まとめた文章をレポートにするのを頼むからそれまで自由でいいよ。ただし、調べ物するときはちゃんと来てくれよ。内容もわからずレポートにはできんだろ?」

「あー、俺授業あるしさー」

「わかった、授業が無い時に調べ物しよう」

「ゲーー」

橘という女はどう見ても男みたいだ、見た感じは女にしか見えないのに・・・見た目は人を見る基準にはならないな。

「サエちゃん、大丈夫だよ。私がついてるんだから!」

自身満々に、胸を張りながら前原が橘に言った。見た感じ逆じゃないか?っとツッコミそうになるけど黙っておいた。

「竜胆といいなー」


後ろから急に声がしてビクッ!となって後ろを見ると机に伏して綺道が俺のこと見ていた。・・・ちょっと怖い。その一言でしか言い表せなかった。俺は何も言わずに前を向いた。

綺道の視線が痛い・・・というか今にも刺されそうな感じだった。他にも何か言ってる気がしたけど無視した。怖いし。

「んじゃ、課題が決まった連中から帰っていいぞー今日の授業はここまでだ。」

教授!まだ授業始まって三十分しかたってないぞ!いいのか!

「ただし、残りの時間は図書館で、課題をするようにー、明日の授業で課題とどういう風にレポートにするかを聞くから覚悟しとけー!提出期限は二週間後だからなー。下手な奴は単位なしなー」

だと思いましたよ。この人は掴みどころが無いから苦手とする生徒も多い。

「ええと、もう終わりなんですか?」                     

前原が教授に尋ねた。黙っていたらいいものを

「ああ、これから学会があるのでな。今日は、本当は休講にしたかったんだが。課題を早めに言わなきゃならなかったからこれだけのために来た。そういうことだから頑張れよ。前原」

さて図書館に、行くか。

「苗村、橘さん、前原さん図書館に行こうか」

そう言って行こうと荷物を片付けて行こうとした時後ろから殺気を感じた。

「竜―胆―・・・どうして無視するのー?」

「綺道・・・授業中は、そういうもんだぞ!」

俺はそう言って、教室を出ようとした。その時肩を誰かに掴まれた。綺道か!と思って振り返ったら、それは徳山だった。

「おい・・・まこっちゃん・・・」

「どうした徳山・・・顔色悪いぞ・・・」

「綺道って子頭悪いぞ・・・そんで金井って子が・・・」

この流れだと、この二人頭悪いんだろうなーと思った。

「ものすごく頭いい・・・なんだこの差は・・・そして口が悪い・・・」

頭がいいのは少し予想外だったけど口の悪さは同意ができ「だろうな」と言った。

「そして、綺道って子・・・お前のことブツブツ言ってて怖いよー」

それを直に感じてる俺は、どうしたらいいんだよ。

「とっとと、図書館行くぞ」

反応に困るし何より後ろにいるこわーい女から離れたかった。

「あ!待ってよー!竜胆―」

うわ・・・追ってきた。

「綺道さん、俺と君は違うグループだから向こうと一緒に行動しないとね」

さすがにこれだけいえば綺道も

「そんなのじゃ分かり合えないよ?お互いのこと」

「・・・というか、これやらないと先生に怒られるぞ?」

「恋にそういう物は些細なことよ!」

些細で終わらせたよ・・・この子ある意味大物だ。俺の意見を無視し、教授の指示すら些細だと言う・・・俺はこういう人間にあったことが無い。

「そういうことだから、ね!一緒にやろ」

無邪気な笑顔で言われても・・・課題が違うだろうに。

「ところでいいかな、綺道さん」

「さん付け禁止!綺道って呼んで!」

「・・・綺道・・・近い!腕を持つな!何よりお前らニヤニヤしてこっち見んな!」

俺と綺道の後ろで6人がニヤニヤしながら見ていた。

 「真・・・お幸せに、課題は俺と前原さんと橘さんでしとくから」

 「なるほど、ナンパの結果がこれか・・・」

 「まこっちゃんに先こされるとはなー」

 「暑いねーお二人さん、こっちが火傷しそうだよ」

 「メグちゃん幸せそうだね」

 「不釣合いだけど、メグが幸せそうならまぁいいか」

・・・帰りたい。今日はもう帰りたい・・・まだ授業あるけど、こいつと離れたい。

「お前ら・・・もういい!とっとと行くぞ!」

大学の図書館に向かった。綺道が腕を持つから動きにくかったし、ずっと話しかけてきてうるさかった。ほとんど無視してたけど、そういえば、俺もこいつもお互いのこと何一つ知らなかったな。

「で、私のパパは・・・って聞いてる?」

「え?ああ聞いてる聞いてる。そうだなもうじき夏だな」

「聞いてなかったでしょ、もう!せっかく私のこと知ってもらうために色々話したのに聞いてくれてなかったの!」

「すまんすまん、考え事してた。お!図書館に着いた。おし、グループに分かれて調べるか」

俺はそう言うと、苗村達の方に歩いていった。綺道は悔しそうに俺を見ている。

「奥さん放っておいていいのか?」

苗村が、綺道を見ながら俺に言った。

「奥さんって、俺ら付き合ってない!つか、好きなの綺道だけだろ」

「そんなこと言っていいのか?」

「いいんだよ、俺は好きじゃないし。それに言い出したのは向こうだ」

「いや、こっち」

「ん?」

前原と橘が俺を見て怒っていた。

「メグちゃんを悪く言うと許さないからね!」

「竜胆―わかってるよな?」

二人とも怖い。昔この怖さから女嫌いになったんだよな・・・。

「はぁー、申し訳ございません。苗村・・・なんで俺こんな目にあわなきゃだめなんだ?」

「そんな、幸せな相談しないでよ」

「ほう、こんな目にお前はあいたいと?」

苗村は、少し考えて

「あー絶対やだな。この生活に耐えれるのは真くらいだな」

「おい!はぁー・・・俺の平穏」

綺道に出会ってから、俺の人生はおかしな方向へ向かってる気がする。

図書館では、さっきの授業メンバーが課題をするために資料集めをしていた。

「早くしないと欲しい資料持っていかれそうだな。」

俺たちは、分かれて資料を集めることにした。約一名を除いて、橘はどういう本を探していいかわからず前原の後ろで本を見ていた。


  三十分後

「ふぅー、これだけ探して本5冊か・・・来るのが遅すぎたか・・・」

「そうだなー、真が綺道さんといちゃついてるから遅くなったんだよな」

こいつ・・・嫌味か・・・まぁこいつはさりげなく人をネタに遊ぶのが好きな奴だ。

「法学部って面倒だなー外国語学科でよかったー」

本心から言ってるのがよくわかる顔をしていた。こいつ噓をつけないタイプだな。

「もうサエちゃん!」

前原が橘に話しかけていた。どうやら、本探しの邪魔になっていたようだ。

「さて、この本でできるところまでやろう」

俺たちは(一名を除いて)、作業に入った。



  一時間後

「ふぅ、少しはまともなのができたかな?まだ期間あるしこれくらいでいいだろ」

「俺は納得できるレベルじゃないけどな」

少し不満げにできたレポートを見ながら苗村が言った。

「もう疲れたー・・・休ませてー」

「お前は横で俺たちの会話を聞いてただけだろ」

「こんなちんぷんかんぷんな話されて疲れないわけないだろ!」

威張られても困るのだが、確かにここまで本格的なのは久々だけど

「すごい・・・みんなこういう本格的なのかくんだー」

前原ができたレポートを見て率直な感想を言った。まぁ苗村がいてのこのレポートなわけだが俺だけだったらここまでの物は書けなかった。

「だが、俺は満足できないな、もう少し時間があればな・・・」

苗村は真剣な眼差しで言った。

「へぇー・・・かっこいいね」

前原の目が少し和らいだ気がする。さっきまで苗村の発言にビクビクしていたのに、心を許したのかもしれないな。このまま行けばこいつらとも友達になれるかもしれないな。綺道とは、恋人よりも友人になりたいとは思うが・・・さすがに恋人はちょっとなー。そんなことを考えていると食事時の時間になった。そこで俺たちは食事を取るべく図書館を出た。

「さて、昼でも食うか。お前らはどうする?」

俺は綺道グループのメンバーに聞いた。言った後俺は後悔した。綺道がこの誘いに乗らないわけが無い。

「うん。一緒にご飯食べよ」

そうですよね・・・。課題に集中しすぎて、この現状を忘れていた。そして、ここで断るのは無理そうだな・・・。

「真・・・お前そこまでして綺道さんと一緒に居たいのか!」

黒崎がこの流れを待ってましたと言わんばかりに言った。

「あ、ええ?待て!そういう意味じゃ!」

「竜胆・・・そこまで・・・うれしいなー」

「待て!俺の話を聞け!」

「何?まこっちゃんそういうことなら俺らとは別行動する?」

徳山も乗って言って来た。

「はぁー、もういいよ。一人で食うから」

さすがに、少しカチンと来たので俺はグループから離れようとした。

「冗談!冗談だから!」

追い討ちをかけた徳山が、俺の肩を持って静止させた。

「本気にするなよ」

それを言った後小声で

「どうした?ここまでマジな反応するとか珍しいな」

「・・・わかってるだろ?」

「もう、素直になれば楽だろうに」

「俺は素直だよ」

徳山との会話が気になるのだろうか、後ろのメンバーがこっちを見ていた。

「おい、行くぞ」

俺はそういうと食堂に向かって歩き出した。さっきの不機嫌が気になったのだろう綺道が俺のところに来て

「私何か変なこと言ったかな?」

怯えた子供のような顔をしていたので

「気にしなくていいよ、お腹がすいてイラッとしただけだから」

「ほんと?私のこと嫌いになってない?」

「こんな些細なことで人を嫌いにならんさ」

それを言うと綺道は安堵の顔でみんなの所に帰っていった。それを確認して俺は食堂に向かった。今日は、親から弁当をもらってなかったので学食で食べることになりそうだ。財布の中身を確認した。五千円札一枚に三百円・・・これで今月末か持つかな?そんな悲しい現実に心を打たれてると隣から苗村が俺の財布を覗き込み

「おやおや、また財布の中が寂しいな」

「うるさい、いいよ、一番安い素うどん食べるから」

俺の経済状況は非常に悪い、学費をバイトで補っているためバイトをしていても手持ちはいつも少ない。

「竜胆、何食べるの?」

「学食の素うどんだけど?」

「それだけ?」

「いいの、お金ないし、それにいつも通りだ」

 「竜胆・・・あの・・・」

「ん?何?」

「竜胆・・・あの・・・これ・・・」

綺道は、カバンの中から弁当箱を取り出した。

「・・・・ん?それは何?」

「あなたのために作ったんだけど・・・」

あー、これが世間で言う愛妻弁当という奴なのだろうか。しかし、これを渡されるのは気恥ずかしい・・・まだ付き合ってもいないのに弁当渡されるのは恥ずかしい。

「ええと・・・」

お互いどうしていいものかと黙り込んだ。

「・・・・・」

橘がこっちを見てじれったそうにしていた。

「ええい!じれったい!受け取れないようなら私が食う!」

橘が、綺道から弁当箱を取って食堂の席についた。

「お前みたいにじれったいのは腹が立つ!なんでメグこんな奴を選んだんだよ」

じれったいってそりゃー付き合ってもいないのに簡単に受け取れるか!と思ったけど言えなかった。言ってしまえばこの弁当を受け取らなければならない気がした。なんでかわからなかったけどそれだけはできなかった。

「いいのか?食べるぞ?・・・・ふん」

「サエちゃん!竜胆のために作ったのに!」

「こういうのは一度痛い目に合わせた方がいいの!」

橘は、綺道から取った弁当を食べ始めた。・・・なんだろう?おしいことをした気がした。俺は・・・本当はもらうべきだったのだろうか?今となってはこの行動が正解か不正解なのかはわからない。

「うん、うまい!メグ、また腕上げたな」

「もう!ひどいよサエちゃん」

「どれどれ、・・・私も一つ」

俺のことがそんなに気に入らなかったのか俺に近づかなかった金井がこっちに来て綺道の弁当を食べた。

「おお!本当にうまい!こいつにやるにはもったいないくらいに」

この話をこれ以上聞いてると受け取らなかったことを後悔しそうだ。


俺は食堂に行き素うどんを注文した。すると後ろから前原が話しかけてきた。

「あの竜胆くん・・・さっきの話なんだけど、どうしてお弁当受け取らなかったの?」

その話か・・・あんまり言いたくは無いけど

「んー、自分でもよくわからない。でも受け取っちゃだめな気がした」

「それでメグちゃんが傷つくってわかってても?」

「・・・・前原さん、君はどう思ってるんだ?俺と綺道が付き合うのいいと思うか?」

「そっそれは、わからないけど」

「わからないね、それは俺も一緒。あ、ありがとう、おっちゃん」

俺は、素うどんを受け取った。

「若いっていいねー」

食堂のおじさんにそんな事を言われて苦笑いをしつつお金を払い席に戻った。

「さて、食べるか・・・橘、弁当もう食ったのか」

弁当を空にして満足げに椅子に座っていた。

「あー、うまかったぞ。特にこのから揚げが」

橘はから揚げがあったであろう場所を指指しながら言った。

「そうかい、というかまだ五分もたってないぞ。体に悪い」

「んー、どうでもいいじゃん。お腹一杯になれたらさ。それに、今日の昼飯代浮いたしさ」

微笑みながらそう言って来た。言葉遣いさえ直せばもてそうな顔してるのに。まぁ、どうでもいいけど。そうすると前原がカレーを持って来た。俺たちは席について

「「いただきます」」

食事が始まった、約一名を除いて

「あぁー、メグの弁当食べたけどまだ食いたくなってきたな」

そういうと、橘は食堂に食べ物を買いにいった。

「私のお弁当・・・竜胆に食べてもらいたかった・・・」

綺道が悲しそうに空になった弁当箱を見ながらそう言った。そこまでして・・・ごめんと思ったけど言わなかった。へんな罪悪感にとらわれた。俺・・・まさか・・・いやないな。

「ただいまー」

笑顔で、橘がカツ丼をもって帰ってきた。うわぁー食うなーこいつ。そう思いながら俺は素うどんを食べた。綺道に「ごめんね」と言われたけど「気にするな」と言って置いた。今はこれでいい。

「さてご飯も食べたし、次の授業に行くか」

 「前原さんたちは次はなんの授業?」

苗村が、さりげなく聞いた。

「行政法だよ」

「そうか、こっちは保険法だからこっちと一緒じゃないな」

「そうだね、竜胆―またねー!授業終わったら合流するよ!」

綺道がそう言ったが合流したくない・・・。授業後黒崎の家で遊ぶつもりだったのに

「あーはいはい、まこっちゃんもわかったてー!」

徳山は笑顔で言い返した。こいつ・・・

「綺道さんに、真の変な性癖ばれないようにしないとな」

黒崎がいつものノリで話し出した。

「性癖は、お前らが勝手に付けたんだろうが!つうか無茶苦茶な設定ばっかりだろうが!矛盾が生まれるのばっかりだし。なんでゲイにとか言いながら、ロリコンってつけるんだよ!」

「え?だって間違ってないし、それに・・・前原さんみたいなのが好みなんだろ?」

「黒崎・・・ちょっと来いよ?」

「アハハハハ、真が怒こったー」

「あ!待て!黒崎!」

全く・・・そういえば、黒崎に4つくらい無茶苦茶な設定つけられたな。ロリコンにゲイ・・・コスプレ好き・・・・熟女しか結婚しない・・・なんて・・なんて設定考えやがる・・・矛盾しまくってるし・・・

「まこっちゃんの反応面白いからいいわー」

「そうだな、弄るなら真だよな」

二人とも笑いながらそう言って来た・・・こいつら・・・

「もういいから教室行こう。もう突っ込むの疲れてきた・・・ただでさえ綺道で疲れてるのにもう体力無いわ」

「うわ、ツッコミが仕事放棄しやがった!」

徳山が笑いながら言った。ツッコミって寿命を縮める役回りだと思うようになった。あーだこーだしていたら教授が来た。

「おし、授業を始めるぞー」

保険法の先生はユニークだ。法律の話をしながら普通に雑談するし、他の教授の悪口も言う。他の教授にはないものを持っていると思う。授業が始まってさぁて勉強!と気合を入れたかったのだが・・・恐ろしく眠い・・・疲れてるのかな?・・・・・・・



   授業後

「おい!まこっちゃん!起きろー」

「んー・・・あれ?授業は?」

 「とっくの昔に終わったよ、ほら綺道さん達と合流しに行くぞ」

 「・・・やっぱり合流するのか」

 「なんでー?かわいい子じゃん」

 「疲れる」

 そう言って、俺は机に伏せた。「幸せな証拠!」と肩を叩きながら徳山が言った。

 「嫁さんが来たぞ」と黒崎が俺を起こした。

 「嫁ってだからまだ付き合ってないって!」

 「竜胆―、遅いから来たよー」

噂をすればなんとやらだ・・・

 「はいはい・・・今行くよ」

 俺は荷物をカバンの中に入れて、教室を出た。

「お待たせ・・・ってあれ?橘さんは?」

「ええとねー、もうすぐ来ると思うよ。サエちゃんさっきの時間授業無いから図書館で寝てるんじゃないのかな?」

「図書館は寝るところじゃないだろ・・・」

「授業中ずっと寝てたお前が言うか」

苗村が、さりげない感じで言った。

「え?寝てたの?大丈夫?」

綺道が上目遣いで言って来た・・・これは狙ってやっているのだろうか?わからない、けど、顔が少し熱くなるのを感じた。

「なに・・・君らのおかげで疲れただけだ」

「私たちの?・・・ごめんなさい」

あんまり素直に謝るものだからどうしていいのかわからず「うん」とだけ言った。

「真―、そうやってまた人の性にするー。だめだよー。責任転嫁しちゃー」

黒崎が後ろから俺の肩に手を乗せ言って来た。

「・・・黒崎・・・一番疲れさせてるのはお前だー!」

俺は、黒崎を捕まえて軽く絞めた。

「イタタタタ、もう怒ったらすぐ暴力。君みたいなのがいるから最近の若者は切れやすいって言われるんだよ」

「暴力を振るわせてるのはお前だろうに!」

いつものように二人で言い合いをしていると、綺道が心配そうにこちらを見ていた。

「綺道さん、いつものことだから気にしないで」

苗村がそういう風に言っているのが聞こえた。どうやら綺道には本当に喧嘩してるように見えたらしい。

「イテテテ、そうそう、綺道さんいつものこと・・・イタタタタ、真!ギブギブ」

軽く悲鳴を上げるように俺は黒崎の頭を脇に挟んで締め上げていた。痛みに耐えながえら言った。

「まぁ、そうだな、いつものこと・・・だけど、絞めるのを緩めてはやらんぞ?」

ギャーーと黒崎は悲鳴を上げて

「竜胆様・・・私が悪かったです。申し訳ございません」

軽く緩めてからまた強く締め上げて腋から首をはずした。黒崎は軽くふらつきながら

「真・・・今日のお前・・・力入れすぎ」

「知るか!」

何時ものノリでやっていると

「黒崎君がかわいそうだからあんまりいじめちゃだめ!」

前原が俺の前に立って言った。しかし、身長があまりに小さいのであんまり迫力は無かったが怒っているようだ。

「そうそう、いつも真は暴力振るんだから」

「・・・わかったよ!俺が悪かったよ!黒崎が悪いのに俺が悪者みたいじゃないか・・・」

いつものノリではある、黒崎がボケて俺が激しく突っ込むいつもの流れなのだが・・・誰か助け舟を出してくれないかな・・・

「前原さんも気にしない気にしない。真はすぐに手が出ちゃう体質なんだよ」

助け舟かと思いきや、追い討ち・・・あれ?俺が悪者?

「竜胆君は、もう少し他人をいたわるという心を持つべきだよ!」

「はいはい」

俺は、生返事をして帰ろうとした。すると後ろから服掴まれて俺は振り返った。

「あの竜胆・・・、この後暇?」

「んー?これから黒埼の家で遊ぶから暇ではないなー」

「そうなんだ・・・ごめん、んじゃあさ、いつ暇?」

「・・・日曜なら」

あ!心の中でそう思った。暇な時教えたら、こいつ・・・

「日曜か・・3日後だね・・・よし!デートしよ」

「デッデート?まてそれって恋人になった時するもんだろ!」

俺と綺道の話を聞いていた黒崎が

「あ、悪い真、今日急にバイト入ったから無理だわ」

と言い出した・・・おい、お前・・・

「バイトなら仕方ないね。んじゃ今日はここで解散するか」

徳山もそれに乗って言い出した。

「お前ら!」

「竜胆・・・これで暇になったね」

「え?ちょ!綺道まで!」

綺道もその流れに、便乗して言ってきた。予想はしてたけど本当に来られると戸惑いを隠せない。

「だって、この気を逃したら来てくれなさそうだもん」

そうだな、と言いかけたが飲み込んで

「それに、もう三時半だぞ?どこ行くって言うんだよ」

「・・・そういえば、そうだね・・・竜胆カラオケでも行く?」

「金ないって言わなかったか?」

「大丈夫、私が奢るからさ」

綺道が新しい玩具を買ってもらった子供のような笑顔を向けてきた。

「そんなの悪いよ。それに、カラオケとか全然歌わないから下手だし」

「私はそんなの気にしないから行こ」

無邪気な笑顔で言われても、俺が気にするし・・・つか、女に奢られるのは嫌だ。

「やっぱり、行か・・・・!」

綺道の後ろで女性陣が俺を睨んでる・・・これは断ったら俺が危ない?


「・・・はぁー、今回だけだぞ」

「え?ほんと!やった」

綺道は小さくガッツポーズをした。もう好きにしてくれ

「それじゃ俺らも帰るか」

橘がそういうと女性陣を連れて帰っていった。そして、徳山がこっちに来て

「お前、恋愛にうといから失礼の無いようにな」

そういうとあいつらも帰っていった。この場に残された俺と綺道を置いて

「さて、竜胆―!カラオケ行こー」

「ちょっと!まって!」

俺は綺道に手を引かれて、俺は大学近くのカラオケに着いた。

「手続きしてくるから学生書貸して」

「え?ああ、ええとこれか」

俺は財布の中から学生書を取り出した。あー、やっぱりするんだなー・・・

「ありがと、んじゃ書いてくるね」

そういうと、手続きをしにカウンターに行った。・・・そういえば、女とカラオケ行くのはじめてかも。それも、自分のことを好きという女からの誘いで・・・世の中何が起きるかわからないものだ。

「竜胆、ほら早く行こ♪」

この子はほんと強引だ・・・いや真っ直ぐというべきなのだろう。個人的には・・・あくまで個人的には好きなタイプではある。

「おい!腕を強く引っ張るな!痛いって!」

「だって竜胆遅いんだもん」

「お前が早すぎるんだよ!」

 本当のカップルみたいだ・・・これが恋愛なのかな?

「んじゃ、何から歌う?それとも私と一緒に歌う?」

「遠慮します。第一綺道の知ってる曲と俺の知ってる曲が同じになるとは思えん」

「そんなこといって恥ずかしいだけの癖に」

「馬鹿!そんなことない!」

「なら、歌おう」

売り文句に買い文句とはよく言ったものだ・・・乗せられた・・・

「え・・いや、その・・・だーー!」

「どうしたの?急に声だして?」

「腹を括ったってだけ・・・もういいよ。歌うよ」

「え?ほんと?じゃあこれからね」

そういうと、いきなりデュエットのラブソングを入れた。それも最近流行のラブソング

「これならいけるよね?」

「狙ったな?」

「それはどうかな?ウフフフ」

狙い道りだな・・・

「それじゃ、スタート」

正直驚いた・・・こいつの歌声、歌手みたいにうまい・・・一緒に歌ってる自分が下手くそだ・・・

「ふぅー、竜胆音痴とか言いながらうまいじゃん」

「お前と比べたら天と地の差だよ・・・」

「だってそういう教育受けてきたもん」

「はい?」

「あー、やっぱり聞いてなかった!図書館行く時言ったよ!」

「そうだっけ?」

「私は、大学の理事長の娘だよ」

・・・・え?娘?あそこの大学は確かにお金持ちはたくさんいるがその理事長の娘?なんでそんな子が俺なんかと?突っ込むところがたくさんありすぎて困惑してきた

「え?娘?てか、なんでそんなお嬢様が俺なんかと?」

「・・・今はそんなことより歌おう!ね?ほらー、フリータイムなんだから歌わないと損だよ?」

そう言うとマイクを握り曲を入れだした。・・・その数、十曲・・・すごいこれを一気に歌うつもりらしい。色々はぐらからされたがとりあえず今はカラオケに集中しようと思った。この話題を振った時の綺道の顔が悲しげに見えた。何か聞かれたくないことを聞いてしまったようだ。

「ふぅー、さすがに十曲はきつかったかな?咽痛いや」

「ご苦労様、咽痛いんだったらジュース取ってくるよ。ドリンクバーみたいだし、何がいい?」

「コーラ頂戴―」

「はいはい」

色々、考え事してるといつの間にか歌終わってたな・・・俺も歌おう、色々ストレス発散になるだろう

「コーラ、コーラと・・・・おお!」

ここのカラオケのドリンクバーはジュースが三十種類もあった。豊富だ・・・豊富すぎる・・・俺はここまでジュースが豊富なカラオケ店は行った事がない。どうしよう?悩むな。後ろに人が溜まってきた・・・ここは悩まず俺もコーラにしておこう。コーラをコップに注いで俺は個室に戻った。

「ほい、ってさっき咽痛いって言ってなかったか?」

帰ってくると綺道はもう新しい曲を入れて歌っていた。

「竜胆が遅いから、暇だったのー!」

「そうかい」

俺はそういうと綺道の前にコーラの入ったコップを置いた

「んじゃ次は俺が・・・おい綺道・・・」

「何?」

「予約がもう六曲ってどういうことだ?俺がジュース取りに行ってた時間って三分くらいだぞ?」

「三分は長い!それに、待たなくても割り込みで入れたらいいじゃない」

笑顔で言われても・・・はぁーこいつと付き合うと恐ろしく疲れそうだ。このノリについていくのはしんどい。俺のゆっくりした動きの世界はどこ行った?ほんと、こいつは俺にとって嵐の何者でもないな

「割り込みね・・・はいはい。それじゃあ割り込みと」

俺は、カラオケに行ってもあまり流行り曲は歌わない。古い曲だったり自分が気に入った曲だけを歌う。まぁJ―POPというジャンルらしいがよくわからない。そうこうしてると綺道の歌い終わったようで自分の番が来た。

「さて、俺の番だな・・・」

歌おうと思った時、綺道が

「うわー、この曲懐かしいー。いつもこういうの歌うの?」

と聞いてきた。

「出鼻折るなよ・・・ああ、そうだよ。歌いなれてるって言うのもあるけどそれ以上に好きだからね」

「好きかー。私も言われたいなーウフフフ」

「誰に?」

俺は即効で聞き返した。言うまでも無く俺だとわかっていても聞き返した

「決まってるじゃない。竜胆、あなたによ」

「ふーん。さてはて、俺に好きと言わせられるかねー?」

「言わせて見せる!」

笑顔でそう言っていた。その顔から本当のことを言っているのだと思った。真っ直ぐ向いた目、させて見せるという気迫・・・本当に俺のことが好きなんだろう。だが、俺はそんな感情はなかった

「なら、頑張るこった」

そういうと、俺は歌の途中だったけど歌い始めた。曲は半分以上終わっていてほとんど歌えない状態だった。好きな曲だったのに

「何か他人事だね」

当たり前の返しを俺は無視して歌っていた。そうだ、他人事だ・・・俺はそんなことどうでもいい。ただ、仲間と一緒に居られればそれ以外のことはどうでもいい。他人も恋も未来も過去も何もかもどうでもいい。

「自分でもなんでこうなのかわからないんだよ」

俺は小さくこぼした。なんでこうなのか俺にはわからない。わかりたくもない。


「何か言った?」

「別に・・・次の曲始まるぞ」

「あ、うん」

今はそんな些細なことより綺堂の綺麗な歌声でも聞いておこうと思った・・・なんだか落ち着く・・・なんでだろう?

「さて、俺も歌うか・・・どれにしよう?」

俺も歌わないと、綺道が残り時間全部歌われそうだ。俺はまた昔なつかしの曲を選択した。昔好きだったラブソングだけど

 

    カラオケ終了

「ふぅー、歌ったね竜胆」

「ああ、ほとんどお前がな・・・俺が歌ったの十曲もなかったぞ?」

「あれ?そうだっけ?」

「そうだよ、おまけにデュエット曲六曲も入れて!俺知らないのばっかりだったし!」

「けど、歌ってくれたじゃん。音程に乗ろうと頑張る竜胆かわいかったよ」

うっ・・・女にかわいいなんて言われたことなかったから俺は少し動揺した。何より、かわいいといった時の綺道の顔がとてもかわいかった。

「どうしたの?」

綺道が俺の顔を覗き込もうとしたから俺は顔を反らした。

「かわいいなー竜胆は、顔真っ赤にしちゃってさ」

笑いながら綺道は言った。顔が赤いのはお前の顔がかわいかったからだよ。こいつは無意識の反応が時折かわいく感じる・・・生まれて初めてかもしれない。かと言って、惚れるわけではないが、そんなカップルみたいなことをしながら会計をしにカウンターに向かった。

「お会計はお二人フリーパックで千九百八十円になります」

・・・何?このドリンクバーの充実さに、登録局数も他を超える。ネットで評判の曲ですら入っていて個室も広い・・・ここまでいたれりつくせりの場所で二人で千九百八十円?・・・噓だろ?

「はい、二千円」

「おつり二十円になります」

「ありがとうございます」

俺が、この店のすばらしさに呆気にとられてる中、普通に会計を済ませていた。

「竜胆、何呆けてるの?」

「え?あ、なんでもない・・・」

俺は大学の近くにこんなすばらしいカラオケがあることを知らなかったことに絶望した。

「竜胆?おーい、竜胆―?」

綺道が軽く俺の頬を叩きながら聞いてきた。それで我に返って

「あーすまんすまん、ええと千円だな」

俺はそういって綺道に千円札を手渡した。

「いいよ、私が誘ったんだし、それにお金ないんでしょ?」

「女に奢って貰うのは俺の主義に反するから受け取れ、いいよまた稼ぐから」

そう言って、俺は無理やり綺道の手に千円札を渡した。

「でもー」

「いいから」

綺道の声があまりに綺麗だったからむしろこっちが奢らないといけない!なんて思ったけど黙っておいた。これを言ってしまえばどうなるかわからないし

「そんじゃ、帰るか。綺道って家どこ?」

「え?送ってくれるの?」

予想外の言葉だったらしい、子供のような笑顔をこっちに向けて言った

「日も暮れたしね、それに女の子を一人で帰す訳には行かないだろ?」

「優しいんだねー」

「優しくないよ、普通だよ普通」

「照れちゃってかわいいなー」

「おちょくると一人で帰すぞ?」

「噓々!そんなこと言わないで送ってよー」

「たく、調子狂うなー」

「エヘヘヘヘ」

「褒めてないし、そういうことしても俺はお前のこと好きにならんぞ?」

「そんなつもりでしたんじゃないよー」

そういうと、綺道は俺の腕にしがみついてきた

「ちょ!辞めろ!恥ずかしい!」

「これくらい、いいじゃん」

「重いから辞めろって」

「ひどいなー・・・こうしてると私たちカップルみたいだね」

端からみればカップルにしか見えないだろう・・・だから離れて欲しいのだが

「どうみてもカップルにしか見えんだろ」

「やっぱり?ウフフフ」

綺道は上機嫌で自分の家に帰る道を先導してくれた。

「日曜も忘れないでよ?」

「何か約束したっけ?」

「もう、忘れたの?デートしようって言ったでしょ?」

「俺承諾してないぞ?」

「嫌なの?」

今にも泣きそうな顔で言ってきた。これは脅しか?

「どこ行く気だよ?」

「行ってくれるの?」

やはり、演技だったようだ。

「聞くだけ聞いてやる」

「ええとね、服買いに行こうと思うんだけどどうかな?」

「女の服の買い物は長いと聞く。却下」

「違うよー、竜胆の服買いに行くの」

俺の服装を見ながら笑顔で言った。


「俺の?金無いの知ってるよな?」

「うん、だから私が出してあげるって。お金は気にしなくていいよ」

「だから、女に奢られるのは好きじゃないって言ったろ?」

「どうしてもだめ?」

「お前なんの得ないだろ?」

「得?竜胆の服装をいじれるから得しかないけど?」

「はい?」

「それに、みんなに竜胆の悪口言われるの嬉しくないし。だから私がコーディネイトしてあげるよ」

「・・・俺のことは放っておけ、俺がお前から離れればいいんだからさ」

「竜胆が離れる?絶対に嫌!日曜日!絶対来てよ!」

そういうと、綺道は走って帰ってしまった。

「たく、場所も決めずにどうする気だ・・・ん?」

ポケットに紙が入っている。綺麗に折りたたまれた白い用紙。俺は用紙を広げて中身を確認した。

「ええと、朝・・・十時・・・に家に来る!え?なんで俺の家知ってるの?あいつらの中で知ってるのって・・・あ、苗村がいた・・・あいつから聞いたか・・・」

はぁーっと大きいため息をついて駅を目指した。駅に着いた時電話が鳴ってるのに気がついた・・・綺道?

「もしもし・・・何?」

「ええと、さっきは強く言ってごめんね・・・私のこと嫌いになちゃった?」

「俺はそう簡単には人を嫌いにはならないよ。それに俺も悪かった・・・少し空気を読まない発言をしてしまったな」

「ううん、私が無茶なお願いばかりしてるからだよね」

「はぁー・・・綺道!」

「はっはい!」

「日曜・・・任せたぞ」

「え?・・・えええーー!」

相当予想外だったらしい、携帯を耳から話すほどの大声で叫んだ

「もう一度いい?」

「日曜は任せたぞ!綺道!」

「う、うん!任せて!竜胆が喜ぶような服選ぶから」

どうしただろうか?あれだけ嫌だった綺道の誘いを了承するなんて・・・焼きが回ったな俺も

「日曜が待ちどうしいなー」

「そうか、なら案内は任せたぞ。俺はそういうのにはうとい」

「任せてよ!」

綺道の嬉しそうな声を聞いたとき何か暖かい気持ちになった気がした。

「んじゃ、また明日」

「うん、また明日!」

俺は、電話を切って電車を待った。日曜か・・・んー、急用入らないといいけど


  家

 家に着いたときにはもう外は暗くなっていた。

 「ただいまー」

 「あ、真ちゃんおかえりなさい。ご飯できてるけどどうする?」

 「んー、食べる。今日は飯ろくに食べてないからな。母さんが起こすの遅かったから朝ごはんも、お昼もそんなに食えなかった」

 「もう、お母さんも忙しいんだからそういう嫌味言わないでよ」

 「事実でしょうに・・・まぁいいや、ご飯くれ!」

 「はいはい、少し待って器に盛るから」

 母さんはそういうと台所に行きご飯とおかずをお皿に移してこっちに持ってきてくれた

 「は、今日は豚肉が安かったからトンカツにしたの」

 「へぇー、・・・うん、うまい!」

 空腹が最高の調味料となってトンカツが普段の何倍もおいしく感じた

 「そう言ってくれると作りがいがあるわ」

 「モグモグ・・・」

 俺は、かき込むようにご飯を食べた

 「コラコラ、そんなに一気に食べたら咽に詰まらせるよ」

 「んー?いつもの事じゃん。それにお腹空いてるんだから大丈夫だよ」

 そういうと、また食べはじめた

 「兄貴、帰ってたのか」

 弟の洋二が二階から降りてきた

 「あー、ただいま」

 「おかえりー」

 「吉城はまだ帰ってないのか?」

 「吉城兄さんはまだ仕事から帰ってきてないよ」

 吉城は俺の一個下の弟で今はサラリーマンをしている。俺と違い大学には行かず高校で就職した。時々、大学に進学した俺に就職の厳しさをグチグチ言ってくるので疲れる。今会話している洋二は俺の四個下、大学に進学を決めそれの勉強をしているらしい

 「そうか・・・まぁいいや」

 「兄さんに何か用あったの?兄貴」

 洋二は俺の事を兄貴と呼んで、吉城のことを兄さんと呼ぶ・・・これは、吉城が俺の事を兄貴と呼んでいたのが始まりだった。

 「いや、そういうわけでもないけどいるかな?って」

 「ふーーん」

別段用事があったわけではなかったが近いうちに飲みに行こうと約束してたのでそれの話をしようかと思ったのだけど

 「お前にはどうでもいいことだよ」

 「そうかい・・・兄貴携帯鳴ってるぞ?」

 俺の携帯が鳴っている。誰からだろう?

 「兄貴・・・綺道って誰?」

洋二が、俺の携帯を開けて聞いてきた。

「ん?友達だけど?」

俺は即答した。

「へぇー・・・女友達なんて珍しいね」

「おい、俺の携帯を返せ。中身読むな!」

「日曜にデートって書いてあるけど本当に友達?イテッ!」

俺は洋二の頭を軽くど突いて携帯を取り返した

「女と男で出かけるのをデートと言う奴なんだよ」

「へぇー、でも兄貴女友達いなかったよね?」

「何が言いたい?」

「べっつにー、ふーんそうかー、兄貴にも・・・」

こいつ・・・全部わかってるな・・・でなんてメールだ?

『ポケットにデートの予定入れておいたけど気づいてくれたかな?』

ふむ、これだけの内容だった。

『気づいたけど、なんで俺の家を知ってるんだ?』

電話では、聞くのを忘れていので聞いてみた。返信は一分もかからなかった。

『苗村君が教えてくれたから、それにもう地図で調べたからもうバッチリだよ』

もう調べたのか・・・色々早いな・・・

『そうかい、で何か用?』

なんの用事かはわかっているけど、聞いてみた

『うん、デートなんだけど、全部私がきめてもいいかな?』

決めるも何も俺は何もわからないから決めてくれないと困るのだが

『任せるって言ったろ?俺はそっちはチンプンカンプンだから任せるよ』

「兄貴も隅に置けないねー」

メール送信をした時、俺の携帯を覗きながら言った。

「うるせー、ご馳走様!」

俺は自分の部屋に戻った。狙ったかのように綺道からメールが返ってきた。

『うん、竜胆もどこか行きたい所あるのかなーって思っちゃって、希望ある?』

「ええい!面倒だ!」

俺は、綺道に電話をかけた。

「もしもし、どうしたの?急に電話かけてきて」

「メール打つの面倒になっただけだよ」

「そうなんだ・・・で何か行きたい所ある?」

「んー、うまい物が食いたいな。ところでどこ行くんだ?」

「そうだねー・・・・大阪行こうよ!大きいし色々な物あるよ」

 「大阪?いいけど俺詳しくないぞ」

 「ウッフッフ!任せてよ!みんなとよく行くからおいしい店はばっちりだよ」

 「それは、期待できるね」

 「竜胆をびっくりさせてあげるからね」

 「そんなに期待させて大丈夫か?」

 「大丈夫!初めてのデートだもん頑張っちゃうよ!」

 「デートねー、付き合ってないんだデートはおかしいだろ?」

 「・・・デートはデートだよ!」

綺道が力入れて言ってきた。

「そうかい、んじゃ用件は言ったし切るな」

「ええー、もっと話そうよー」

「電話代がかかるし、それに・・・」

言い終わる前に、綺道が遮った

「なら私がかけなおすね!」

「え!ちょっと!・・・切りやがった」

少し間を空けて電話がかかってきた

「おい、綺道!人の話を最後まで聞けって!」

「そんなことより竜胆って何が好きなの?」

「え?ええと海鮮物だけど刺身とかが一番かな?ってそうじゃなくて」

「ふむふむ、海鮮と・・・御寿司屋さんでも行く?」

「綺道・・・とりあえずいいか?」

「何?」

「この会話どんだけ続ける気だ?」

「んー、とりあえず竜胆のことを知れるまでかな?」

「俺のこと・・・俺は真人間!以上!切るな」

「ちょっと待って!」

「日曜日、一緒に行動すればおのずとわかるだろう。んじゃ」

俺はそう言うと、電話を切った。そして、携帯の電源を切ってベットに横になった。

「さて、何しようかな?」

俺はベットに横になりながらダラダラしていた。いつもならPCを起動して適当にゲームをするのだがそんな気も起きずボーっとしていた。

「兄貴―!おおーい!」

不意に、誰かに呼ばれた気がして目を開けた。どうやら寝ていたらしい。

「んー、なんだー?」

寝ぼけ眼を擦りながら体を起こした。

「俺に用事あったんだろ?」


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