第一章 僕らの日常
午後 4時23分
場所 裏庭
「好きです!!」
神崎 冷。ただいま、告白を受けています。いやいやいや、告白?嘘でしょ。
もちろん、初めて告白された訳ではない。過去にも告白されたことはある・・・・・・が、目立たないよう過ごしてきた俺としてはとても困るのだ。
何故なら僕は、『道化師』だから。
『道化師』とは、殺し屋のグループの名前。またの名を『clown』という。殺し方は人それぞれだが、暗黙のルールとしては“罪のない人は殺さない”となっている。
だけど、殺し屋であることに変わりはない訳で。表には情報を流さないように仮面を被ったり、嘘を吐いたり、自分の情報をいじったり・・・・・・等。まあ、個人でばれないようにしている。
そうゆう、俺も仮面は被ってるわけで。
「あの・・・・・・冷君?」
ああ、語りすぎた。
「ごめんね。ちょっと驚いちゃって・・・・・・まさか、一条さんみたいな綺麗な人に告白されるなん て思わなくて・・・。」
これは、お世辞なんかじゃない。俺に告白してきた彼女・・・・・・一条 優美は、はっきり言ってモテる。学園のマドンナと言っても過言ではない。
「・・・名前・・・・。」
「・・・え?」
「名前、知っててくれたんだ・・・。」
そう言って顔を赤く染める。
・・・・・・・・・・なんかかわいいんだけど・・・・。
「そりゃもちろん、学園じゃ有名な人だからね」
「そ、そんな、有名なんかじゃ・・・」
美人の上に謙虚で優しくて頭もいいとか・・・・・・完璧じゃねーか。
・・・・・・。
甘い香りが鼻を掠める。香水だろうか。
普通なら、学園のマドンナに告白されて、浮かれて、OKするだろうが、生憎、俺は
・・・・・・・『殺し屋』なので。
「一条 優美さん、・・・・・・ごめん。僕、好きな人いるんだ」
・・・秒殺。
今にも崩れ落ちそうになっている。これは、まずい!!
「あのね、優美さん。僕はお互いの気持ちが曖昧なまま付き合うなんてこと、したくないんだ。分かってくれる、かな?」
涙目になりながらも、コクコクと頷いてくれる。
「ごめんね。でも告白してくれてありがとう」
「ううん、こっちこそ、聞いてくれてありがとう」
そう言って微笑んだ。綺麗だった、見惚れてしまうくらいに。
彼女は、立ち去った。なんだか、すごく悪い事をした気分になる。
あああ~、なんか、罪悪感が・・・・・・。
「ヒュー♪さっすがぁモテる男は辛いねぇ。」
後ろの方から聞きなれた声が聞こえた。イラッとするなあ、もう。
「いつから見てたんだよ、楽。」
「うんとね、“好きです!!”のあたりから?」
「最初っからじゃねーか、コノヤロー。」
彼は、川原 楽。俺の、幼馴染であり、親友。そして、
・・・・・・道化師だ。
正式に言うと俺のパートナーである。
見た目は、金髪に蒼いカラーコンタクトという、まぁ世間でいう チャラ男 という奴だ。だが、頭もよく、実績もある優秀なパートナーだ。・・・・・・性格を除けば、だが。
「もったいないねぇ。学園のマドンナからの告白を断るなんてさ」
「付き合っても、仕事で相手してやれないだろ」
「まーね」
「で?要件は?」
「あれ、きずいてたの?」
「早くしろ」
「・・・・・・仕事だよ」
「そうか、分かった。それじゃあ・・・・」
そう、言いかけて、止まった。楽にかけていた眼鏡を取られ、ジッと見つめられる。
「・・・・・・なんだよ」
気まずいし。
「うーん?いやぁ、真逆だと思ってさぁ」
はぁ?
「墨みたいな黒い髪も、澄んだ眼も、性格も。俺にはないモノばっかり」
・・・・・・・・・。
「・・・当り前だろう?同じ人間なんて存在しないんだから。それに、楽は楽だ、俺と同じじゃなくていいんだよ」
「・・・ッ・・でも!」
「お前はそのまんまでいいんだ。変わる必要なんて無い。むしろ、そのままで居ろ」
「・・・・・うん。ありがとう」
楽は、たまにこんな風になる。情緒不安定というのだろうか。“本当にこのままでいいの?”とか“俺でいいのかな”と変に疑う癖がある。
「よし、仕事に行くか」
「え、今から?」
「ああ、早い方がいいからな」
そう、早い方がいい。そうじゃないと、自分が自分じゃなくなってしまう。
・・・・・この時、俺達はきずかなったんだ。彼女が、
「私、諦めないよ・・・?もうすぐしたら、迎えに行くからね?まっててね、冷」
と、呟いていたなんて・・・・・・。