第1話
結婚を迫る私。
「ねえ。私と結婚してよ」
会話が途切れた途端、急にテーブルに両肘を上下クロスで組み顔を付けながら、少し甘えた声で何も考えず約2年振りに再会した慎ちゃんに対して、返事も期待せず唐突に結婚を迫った。
数分前までは、右足を上に脚を組み、背もたれに寄りかかりながら、左手の人差し指の爪の周りの甘皮を右手の人差し指の爪で、少しずつ爪の根元へ押しながら、互いの2年間の空白を埋めるかのように近況について話していた。私は自分の空白の時間など話す気もなく、慎ちゃんの過去の話にも興味がなかったので少しイラついていた。こんな話をする為にわざわざ居場所を探し出してまで、新幹線で会いに来た訳ではないと。
数時間前、携帯の買い替えと同時に電話帳も一掃してしまい、連絡先が分からなくなってしまった彼に会う為に、私が持っているわずかな手掛かりで探そうと行動した私は、黒色の上下のスーツを着ると、彼の勤務先の店舗に車で向かった。駐車場に車を止めると、大きく深呼吸をしてルームミラーで髪型、化粧のチェックを入念にすると車を降りた。いざ店舗へ入ろうとしたが、なかなか足を踏み入れることが出来ず、しばらく店先の軒下に並ぶ本の前で店内の様子を伺っていた。露骨にお店の中で挙動不審な行動は出来る限り避けたかった私は、店員に直接尋ねたほうが早いだろうと聞き出す相手を探していた。
丁度誰に話し掛けようか選定していると、数名いるスタッフの中から声をかけ易そうな高校の制服を着た女の子が、私の方に向かってきた。私の左足元の四角四面に並べてある本が1冊だけ通路にはみ出ていたのを、元に戻そうとしゃがんだ瞬間、私はさりげなく小声で彼女に話しかけた。
「あのう。大山さん居ますか?」
彼女は、ゆっくりと姿勢をただしながら起き上がると、私を見ると、
「彼女さんですか?」
予想外に勘がいい高校生の彼女の言葉に動揺を抑えながら、懸命に、
「いいえ。違いますよ。知り合いですよ」
と言ってみたものの、ごまかすようにうつむきながら言うと、
「今日はこのお店にはいません。白河のお店にいますよ」
「そうですか・・・。」
不在だったことで、勇気を出して尋ねたことが急に恥ずかしくなり持っていたA4サイズのバックを足元でふりまわしていると、
「大山さんってかっこいいですよね。」
と、彼に憧れているかの眼差しでで私に言うので、
「そうですね・・・・」
私も憧れているように真似て彼女に言うと、これ以上話かけられないよう慌てて会釈をし駐車場へと向かった。