大団円(1)
その後のイシカワ夫妻とAとTの話です。
SF要素「0」です。
「オレはアイツに何もしてやれなかったヨ…。」肩を落とすダーリン。
「水くさいじゃないか!何も言わず、何処で習ったか知らんが
あんなマジック使って逃げやがって!」
泣いたり怒ったり忙しいわね、ダーリン。
ススムくん、お父さんをなだめてあげてね。
ススムくんは手の平でダーリンの顔をなでなでする。
「終わってしまった事を…、しょうがナイじゃない。」
「それより明日引越しの荷物が来る前に下見しとかなきゃ。」
「彼に“まだ、そんな事ひきずってるんですか?”って笑われるわよ。」
“HOS”のセンサーの前に立って手をかざす。
「イシカワとその家族、汝と契約する者達なり。主と認めるか?」
「イエス、マスター」
センサーから私達をスキャンする光が出る。
「どうぞ、マスター」部屋への通路が開く。
何で登録にこんな芝居がかった文句言わなきゃイケナイのかしら?
“HOS”の開発者ってマンガの読みすぎじゃない?
さて、中のモノは処分するなり使ってもらうなり自由にしてイイって
ナカムラ君は言ったけど…。相変わらず生活感の無い部屋。
これなら、何もする事ないわね。
テーブルの上に置かれた映像メモリ。
ナカムラ君からダーリンに伝言かしら?
「ダーリンちょっと来て。」
「何だい、ハニー。」ススムくんを抱いてやってきた。
「“HOS”コレ再生して。」
「イエス、マスター。」
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3日後、イシカワ宅
モニターに次々映るのは女の子達のコスプレ映像。
姿見に映る姿が変わる度、「イヤー」だの「ハズカシー」だの彼女達自身の声。
そして、B姉御の怒声。
「反省しなさい!アナタ達。ナカムラ君を甘く見たわね。こんなモノ撮られちゃって!」
「幸い見られても笑われるくらいの映像だったから良かったモノの…。気をつけなさい!」
そのうち彼女たちの声は「ナカムラのバカー」だの「ナカムラキモイー」に変わっていった。
コレでいいのかしら?ナカムラ君。
これ見よがしにメモリを置いていったのは
彼女たちの無防備さを注意したかったんでしょ?
それとも、Aに見切りをつけてほしかったの?
一通り見終わって後、お茶になり、久々の姉御と女の子達の女子会になっていった。
それぞれススムくんと遊ぶ者、ダーリンからアメリカでの話を聞く者、ナカムラの悪口に花を咲かす者。と楽しんでいた。その中で例のコスプレ映像をリプレイして見ている者達の中にAがいた。
「久しぶりね、A」
「お帰りなさい、Bさん。」相変わらずカワイイ笑顔。コレに彼らはやられちゃったのネ。
「ナカムラ君、とんでもない奴だったわね。やっぱりT君のほうが正解だったでしょ?」
「でも…。そんなに酷いモノないですし。カワイク撮れているのもありますよ。」
まだ、彼をかばうの?
「そういう事じゃなくて、盗み撮りが問題なの!」困った顔をするA。
「まだナカムラ君の事、好きなの?」
「私がナカムラさんに好きだって伝える前に“Tと仲良くね”って言われちゃって…。
私、振られちゃいました。」とさびしげに笑う。
「それじゃ、T君に決めたの?」Aは首を横にふる。
「Tさんと暮らすのやめました。今、ひとりでアパート借りて暮らしてます。」
「私、しっかりしてなかったから2人を傷つけてしまいました。だから、自立したんです。」
恥ずかしそうに「偉そうですね。」と笑う。
この子、強くなったわ。ナカムラ君のいう通りね。
「そう、がんばってね。」
「ありがとうございます。」
「ところで、ハゲオヤジの私のコスプレ映像ありませんか?」
「そんなの着たの?」
「チョット、ふざけて…。」恥ずかしそうに笑う。
「あれで、全部だけど…、アナタも意外な人ね。」
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インターホンの呼び出し音。
彼女が大きな袋を持って笑ってる。
「元気でした?」
「呼べば、迎えにいったのに。」
「大丈夫です、これぐらい。」
彼女はダイニングテーブルに袋を置くとガサガサと中の食料を広げた。
エプロンを着ながら言う。
「とんかつ、好きでしたよね?作りますね。」
ボクに背を向け食事の支度をする姿は以前と変わらない。
でも、明るくなった。以前はどこかオドオドしてボクに怯えていたのに。
ナカムラの「一緒に住んでると思って安心するなよ」は耳に痛かった。
たしかに、何も言わなくても、かまってあげなくても、判ってくれるって
キミに甘えてたんだね。
同棲という事実に安心しきっていた。
キミが“ナカムラさんが好きだ”と“アナタと一緒に居られない”と泣いた時、信じられなかった。気の迷いだ、アイツさえいなくなればキミの気持ちはボクの所に戻ると思った。いっその事、子どもでも出来れば…なんて反吐の出るような事も考えた。最低だろ。ボクは自分に嫌悪したよ。それでもキミに側に居てほしくて怒るでもなく自分の感情を押し殺した。キミから笑顔が消えて辛かった。
そんな時にナカムラから襲撃された。「ボクが奪いに行くからな!」の言葉に不安を覚えて、キミを探して総務に走ったよ。そこでキミとナカムラが抱き合ってた。キミは安心しきってナカムラの腕の中にいたよ。怒りよりもボクがキミに強いる束縛がどんなに酷い事かを悟った。でもナカムラはキミを置いて消えた。ボクには「入籍しろ」と告げて。
ナカムラ、オマエは自分自身が身を引けば彼女がボクのもとへ戻ると思ったのか?
彼女はボクらの考えを超えていたよ。
「あなたへの気持ちが“キライじゃない”程度の気持ちだって気づきました。だから好きな人が出来た時、また、あなたをキズつけます。だから出て行きます。」とキミはそう言って出ていった。
「仕度出来ました。乾杯しましょう。」彼女の声で我に帰った。
「乾杯って大げさだな、EUに2年の研修だよ。」
「でも、帰ってきたら昇進だって、同期の出世頭だって分析班の方々が言ってました。」
「そんなの決まってないよ。」
「では、旅の安全を祈って、カンパーイ。」
「なんだか雰囲気変わったね。」「ミセス・イシカワに似てきたよ。」
「それは、褒め言葉ですよね?」彼女が笑う。
「それと………。しばらく、してないしボクも気をつけてたつもりだし。
でも、万が一という事もあるし、そういう時は責任が発生するワケだし
そうなったら一緒に暮らさなくても援助ぐらいはさせてほしい…。
その…キミの身体に変わりはない?」
顔を赤くして、しどろもどろでいると彼女はやっと察してくれた。
「大丈夫です。」と彼女が笑った。
「ボクとしては、やっぱり一緒に来て欲しい。」
「ダメです。“友達から始めましょう”って約束したじゃないですか。」
そうだ、彼女が出て行く日に約束したんだ。
「ボクは“キライじゃない”程度でも構わない。出て行かないでくれ。」と懇願した。
彼女は少し驚いたようにやがて微笑んで言った。
「一緒にいる時、生活をTさんに支えてもらっていました。だから、気兼ねしていました。」
「貴方は優しいのに、言いたい事も言えませんでした。」
「偉そうだけど、対等なお付き合いから始めませんか?」
「私達いきなり夫婦みたいになっちゃったけど、お友達からもう一度始めませんか?」
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空港にて
「メールはくれる?」
「モチロンです。友人として。」
「帰ったらプロポーズするよ。」
「先の事なんて…」と笑う。
ナカムラを真似て彼女の前にひざまづき
「では、姫。行ってまいります。」
彼女は笑って頬にキスしてくれた。
ひさしぶりの香り。
「行ってらっしゃい」
こんな風に彼女と笑い合えるなんて。
彼女の泣き顔もナカムラへの憎悪も自分への嫌悪も
全てが昔の事のようだ。
大団円のタイトルは「未来少年コナン」の最終回のタイトルです。
TのイラダチがAに向けられる事は絶対避けたい。
という事でココに着地させてしまいましたが…。
Tって出来すぎ?イヤ、大人なら…。