表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔ける龍  作者: たたみ
17/19

(17)

「ダダ、金は貯まったかい?」

「海辺に雨漏りしない程度の家と、たまにアルバイトをすれば遊んで暮らせる

程度の金ならアルぞ。」

ボクが笑う

「じゃ、もうちょっと頑張ってみようか?」

「イヤ、お前は限界だ。戻っておいで。」

「ありがとう。」


「あのクスリはメンタルの状態で消費量が左右されるようだな。」

「以前オマエはあのクスリ2錠でそちらの時間で12年間、力を持続できたのに

今度はたったの4年間だ。このデータは製薬会社に売れるよ。」


「そうなの?」「ああ。」「なるべく高く売ってよ。そのへんは任せる。」


不動産屋に賃貸マンションの手続きをお願いした。

イシカワ一家が修繕費なしで入ってくれる事になった、

ミセス・イシカワも満足の取引となった。


「今月イッパイは居るんだろ?」イシカワさんが聞いた。

「どこに行くんだ?」

「決めてません。」

肩をバンバン叩く。表現が不器用ですね。


次の日。辞表とセンターから支給されたIDカードやら諸々の入った封筒を

「イシカワ次長」の机に置いた。彼はまだ出勤してない。


今日の格好はスカシてるゾ。夜会服に黒マント。そしてバラの花束。

イメージは美女をさらう怪盗、もしくはドラキュラだ!

テンション上げるゾー!


まず、Tのいる分析室を襲撃だ。

天井は高いのに通路は狭い。ヒールの音が響く。

通路の奥の部屋からドアが開いてコチラに向く男 。

Tだ。都合がイイ。


「なんだソノ格好は?学芸会か?」

Tから発するボクへの敵対心。イイネー。そうでなくっちゃ。

わざとあおるように気取ったポーズで。

「お別れのあいさつに来てやったよ。」

「キミのAちゃんには色々世話になったからね。イヤ、世話をしたのかな?」


彼の気がメラメラと立ち上る。うまく使えば人を殺せる程だ。

その敵対心の強さは彼女に対する愛情に比例してると…信じてイイナ?


「“早く来てね、龍子より”をAちゃんに説明したのか?」

「アレはイシカワ・チー…次長が彼女に説明してくれたよ。何で、そんな事を聞いてくるんだ!」

「オマエの口からAちゃんにだよ!“すまなかった”の一言もあったか?」

「オマエが血相変えて出ていった後、彼女がどんな気持ちだったか考えた事あるのか?」


その表情は言ってないな。だからオマエはダメなんだ!


「何故、1年以上も彼女を、ほったらかした?」

「彼女から入籍を拒否されそうで、恐くて言えないんだろう!」


「だまれ!」

図星だろ。そうだよ、ボクも同じだ“さようなら”が恐くて言えないんだ。

オマエの気持ちがイタイぐらい判るよ。


「さっさと入籍しちまえ!」「大きなお世話だ!」


「…たのむからさ。」急に弱々しくつぶやくボクに、表情をかえるT。

「オマエ…?」


通路の騒ぎを聞き付けて他の職員も駆け付けてきた。

ボクを蹴飛ばした、Eちゃんの彼氏もいる。


「彼女たちは、話しを聞いて側に居てほしいダケなのに何でオマエ達は出来ないんだ?

 仕事か?つき合いか?何でゴメンの一言もないんだ!みんなボクに押し付けて!」


「一緒に暮らすようになったくらいで安心するなよ!ボクが奪いにいくからな!」


女性職員の間からキャーと声があがる。歓声?それとも悲鳴?


ボクはその場から逃げた。次は総務のAちゃんだ。


「どうしたの?その格好。」

ボクの姿を見て、驚くAちゃん。

「お別れのあいさつにネ。」バラの花束を渡す。


ボクに気付いて廻りがざわつく。ジャマされない内に…。


彼女の手を取り、引き寄せ抱き締める。強く強く抱き締める。

ボクの指に彼女の髪が絡む。“フルール”は変わらない。

今までの事が、君の笑顔が、頭の中で現れては消える。

抵抗しないんだね。安心しきってるの?

永遠に時が止まればイイのに。


「くるしい…。」Aちゃんの声。

しまった、力いれ過ぎた。

慌てて上体を離す。「ゴメン。」

彼女は一息ついて“大丈夫よ”という風に笑顔で応えてくれる。

Aちゃんのファンの皆さん。イカガですか?最高の笑顔でしょ。

ボクは意を決して言う。「Tと仲良くネ。」と。

途端に彼女の表情が変わる。目に涙をためて“怒鳴った”!

「大きなお世話よ!」


驚いた。…本当に強くなったんだね。よかった。

泣かれるよりどんなにマシか。

「…たのむからさ。」小さくつぶやく。

彼女の目から涙がこぼれる。泣かないで。


次は彼女の親衛隊諸君のために…。


思いっきり芝居がかって気取る。

一歩後ろへ下がって片膝立てて膝まづく。

そして手は胸に。彼女を見上げ


「姫、永遠のお暇を頂きます。」


廻りでキモイーだのバカ?だのブーイング。うるさい。


立ち上がりかけた時、彼女の唇がボクの頬に。

彼女が言った。「さようなら」と…。

ボクの言えなかったソノ言葉を、

Tが恐れてたソノ言葉をキミが言うんだね。


もう自分を保っていられない。

皆の目の前でボクは消えた。


気がつくとマンションのベッドで大声で泣いていた。


「みっともない!回線切るぞ!」ダダの声が聞こえる。


やがて、タオルが降って来て

“you are my sunshine”を歌う“HOS”の歌声が聞こえてきた。


…“HOS”、世話になったね。


_______________



しばらくして、マンションのロビーに降りた。

“HOS”のセンサーに呼びかける。


「“HOS”今までありがとう。」

「どういたしまして、マスター。」

「今度来る、イシカワ夫妻とススムくんをヨロシクね。」

「イエス、マスター。」


ボクは自分の手をセンサーにかざし、言う。

「汝との契約を解除する。」

「新しいマスターに仕えよ。」

赤く光るセンサーの光が消え再び点った。


“HOS”がリセットされた。


さぁ、ボクの身体へ帰ろう。


振り返るとイシカワさんが立っていた。


「辞表を出したその日で辞めれるワケないだろ!非常識だ!」

「それに、あの騒ぎは何だ!“飛ぶ鳥、アトを濁さず”って言葉を知らんのか!」


怒鳴りながら、目が潤んでる。

イシカワさん、視聴者はオジサンの涙なんて見たくないですよ。


「そこは、次長の権限で丸く治めて下さい。お願いしますよ。」ボクが笑って言う。


いよいよ、表情が険しくなる。


「何処に行くんだ!」


それは言えない。それを言ったら皆の記憶を消さなきゃならない。

今回はボクの事、覚えていてほしい。特にススムくんに。


「ススムくんにボクの事、たまには話してやって下さい。」

「“女好きのナカムラ”って部下の話をか?」皮肉るイシカワさん。

「そんなカンジでイイです。」


そう“ナカムラ”こそが大事。彼の記憶の引き金になる。


「ミセス・イシカワとお幸せに!」

「大きなお世話だ!」イシカワさんが怒鳴る。


ボクは彼の目の前で消える。

消える刹那にイシカワ夫妻の、ススムくんの、女の子達の、ボクを嫌ってた奴らの、

バカなTの、そしてAちゃんの幸せを祈ったよ。


ボクってイイ奴だろ?


今回は「鋼の錬金術師」のフー爺さんの最後の言葉を頂戴しました。カッコヨカッタ。(不謹慎かな)

それから“HOS”は永野護の「ファイブスターストーリー」に出てくるファティマですね。

お気づきでした?


主人公ナカムラとミセス・イシカワのイメージはある俳優・女優さんです。タネあかしは後日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ