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天翔ける龍  作者: たたみ
16/19

(16)

「ナカムラ、生きてるか?」ダダの声で起こされた。

「生きてるよ。身体はそっちにあるんだ。からかってるの?」

「“ココロ”がさ…。」


頭ん中がカラッポの感じ。昨日の事も昔のようだ。

出勤できるか不安だったけど大丈夫そうだ。

大泣きしたからかな?

そういえば、Aちゃんも随分サッパリした顔してたもんな。


「惜しいけどサ、戻ってくるか?」とダダ。

「オマエへの同情の声もあってね…。許してくれると思うよ」


みっともないモノ流されたな。「回線繋がってる?」

「イイヤ、切ったままだ。」気遣ってくれてるのかな?


「…海の近くにプール付の豪邸建てて、一生遊んで暮らせるだけの金が儲かるかな?」

「?」

「もう、こんな思いしたくないモノ。辞めるよ。」

「だから、今回が最後。Aちゃんで稼がせてもらおう。」


「お前、けっこうしぶといな。じゃ、抱き枕OK?」

「ダメ!」


今日も軽薄浮かれ野郎のナカムラは総務部のAちゃんの所へ向かう。

「今日もカワイイねー。」とニヤついて。他の娘にも軽口叩いて笑わせる。

どうって事ないさ。ホラ、スキップだってしちゃうよ。

でも、Aちゃんの笑顔を見ると胸がイタイ…。大丈夫、どうって事ないさ。


イシカワ夫妻がアメリカに行った。ほら時間はアッという間に過ぎてく。

1年なんてスグさ。


夏になった。

Aちゃんの歌声もしくは水着姿が欲しいとリクエストがあった。

水着はダメ。歌声なら。


コスプレの要領でカラオケをリビングに置いてみた。録音機も仕掛けた。

ボクは歌が苦手だ。ハッキリ言って音痴だ。

どうせ追い出されるとタカをくくったのに、引っ張り出された。

イヤイヤ歌わされ、罵倒され、嘲笑された。でもAちゃんは笑ってくれた。

それだけで嬉しい。そして彼女の歌声もけっこうな稼ぎになった。


彼女は親衛隊の中で“姫”と呼ばれ、崇められてる。

ポスター、カンバッジ、マグカップ、キーホルダー、その他多数。

グッズは数知れず。人気の勢いは衰えない。

彼女がこの事を知ったら怒るかな?

ちょっと、心が痛む。


秋が過ぎ、冬がやって来た。クリスマスシーズン。

さすがに彼氏のいる子の来訪は少なくなった。

たまに、彼氏が仕事でデートをすっぽかしたと

グチをぶつけにやって来る子もいた。

話を聞いてやり機嫌を取って

“HOS”のケーキをご馳走し帰ってもらった。

ホラ、こんなに上手にかわせるじゃないか。

Aちゃんは来ない。職場でしか顔を見れなくなった。

イブにTと…と思うとたまらなくなるので考えないようにする。


年が明けた。珍しく大雪が降って昼休みにAちゃん達と雪で遊ぶ。

Tが睨んでる。大の男が昼真っから女の子達と雪で遊ぶのはダメなのか?

悔しかったらやってみろ!


3月になった。そろそろ1年。ほらアッという間じゃないか。


お昼に食堂でAちゃんが勉強してる?

ヒョイっと覗く。

「何してんの?」ボクを見上げて微笑む。

この笑顔ともお別れかと思うと涙が…。

「どうしたの?」Aちゃんが慌てる。

「何でもないよ、それより何ソレ?」


「経理の資格を取ろうと思って…。」

「私ね恥ずかしいけど、この職場で簡単な仕事しかできないの。」


「学校卒業したら、ココにすぐ就職が決まってね。

そのうちステキな人と入籍して寿退社して家庭を持つ事が幸せだと思ってたのね。」

「そんな時みんながステキだって言うTさんに誘われて

一緒に暮らすようになって、それなりに幸せだったの」

「でも、Tさんの他に好きな人ができたの。」

「酷いわよね。同時に二人の人を好きになるなんて。

でもTさんへの気持ちが“キライじゃない”ってダケな事に初めて気づいたの」

「こんなもんだって簡単に考えて、一緒に暮らしてTさんを傷つけてしまった。」

「でもね情けないけど出て行く事もできなかった。行くあてもなかったの。」

「だから、自立できるように資格取ろうと思ったの。」

「手始めにコレから取ろうと思って。資格が取れたらお給料高くなるのよ。」

「自立したら…。その人に“あなたが好きです”って言いたいの」


Aちゃんがボクを見つめる。

ボクは君に応えられないよ。

ボクは視線をそらし気づかないフリして

「すごいや、がんばってねー。」と逃げた。


あの無邪気で儚げで気弱なAちゃんがあんな事、考えてたなんて。

強くてステキな女性になったんだね。それに比べてボクは…。


4月のお天気の休日。

「お客さまです。マスター」“HOS”の声

「誰?」

「イシカワ様です。」

エッ!モニターを見る。

イシカワ夫妻と赤ちゃん!生まれたんだ!


「いつ生まれたんですか?」

「1月よ、満3ヶ月。」

「ワー、肌がムチムチ。女の子達みたい!」

「バカ言わないの。コッチがスベスベよ。」

「名前は?」

「ススムよ」

「いいじゃないですか!ポジティブで!」

「バカにしてる?」


グズリだした。お腹空いた?


ミルクを作ってイシカワさんがやって来た。

すっかりパパだな。

「イシカワさんも子育てするんですか?」

「もちろんだよ、今時のパパとしてはね。」

ススムくんを抱き。ミルクを含ます。慣れたもんだ。


「まだ内示なんだけど、部署がこっちに変わるんだ。」

「嬉しいな、又にぎやかになりますね。」

アッ、でもボクは…。


ミセス・イシカワがボクを引っ張りバルコニーへ。

「アナタはAと暮らしてない。T君とAは入籍していない。どういう事なの?」


そうだ、ボクら男は意気地なしだ。よっぽど、Aちゃんの方がしっかりしてる。


「以前、Aちゃんの事“流される子”って言ってましたけど、彼女とても強くなりましたよ。」

「どういう事?」

「会ってみれば判りますよ。」

「それに、ボクはこの職場辞めます。」

「身を引くって事?」

「イイエ、彼女の為じゃなく一身上の理由です。」


彼女はタメイキをつく。


「この部屋ね、前に来た時から思ってたけど 相変わらず生活感がないのよね。」

「何時でも、すぐに“消えれる”カンジ?」

「最初は潔癖症かと思ってた。思えばアナタが食事をおいしそうに食べるのを見た事ない。体臭もない。悪いケド幽霊のようだと思ったわ。」

「Aからね“ナカムラさんの事が好きになった。でもTさんに申し訳ない”って

泣いて相談されたの。“このままだと3人が傷つくだけよ”と忠告したわ。

そして私はTを押した。でも、イシカワが“ナカムラはイイ奴だ”って言うのね。」

「それで、アナタに確認したの。」


そういう事でしたか。相変わらずスルドイですね。


ススムくんがミルクを飲み終えたようだ。

「イシカワさん、ボクあやしてもイイですか?」

「若いのに珍しい奴だな。泣かすなよ。」


思い出すな氷河期の南下中、“彼女”の変わりに育てた子ども。

大変だったけど、可愛かった。

直接じゃないけど、この人たちもAちゃんもあの子の子孫なんだ。


「おんもに出ましょうねー。」バルコニーに出る。気持ちいい風

大人しいなー。

「アレッ?この子もしかして…」


“場所”を意識する。真っ暗な中の騒音。

ススムくんも一緒に来れてる。

やっぱり、この子も能力者だ。


龍の起こした太陽風はヒトのDNAに作用したんだろうか?

そんな事はどうでもイイや。

それより、ススムくんに教えておいてあげよう。


ススムくん、ココで“龍”のおじちゃんに会ったらね。

ちょっと恐いけど寂しい龍なんだ。遊んでやってね。

ナカムラがそう、言ってたって伝えて。


ボクとススムくんの意識はバルコニーの身体に戻った。

一度行けば、身体が覚えてるからね。君が皆の先生になってね。


“場所”は水樹和佳の「樹魔・伝説」からヒントをもらってます。

意識のクラウドコンピューター的な存在ってのは

ありそうな気がします。

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