(12)
出勤してみると何だか騒がしい。
いつもなら昼の当番と夜の当番の連絡業務で4人なのにそれ以上だ。
何かあったのか?
「ナカムラ、例の“龍”に動きがあったぞ!」
チーフの顔が不安そうだ。モニターを見る。
“龍”に発光現象。位置は変わらず。
データから水素・ヘリウムを含んだ大量のプラズマが噴出しているのが判った。
まるで太陽風だ。
ナカムラには心当たりがあった。途端に顔が赤くなるのを感じた。
宇宙の大王様とお妃様のアレだもの。廻りの心配をヨソにお楽しみの最中だもの。
皆に“心配はない”と言えればイイんだけど。
あらためて廻りを見回す。忌々しいTがいるじゃないか!
「チーフ、Tを呼んだんですか?」
「ああ、彼はデータ分析が専門だからね。
1時間前に緊急メールを出して来てもらったんだ。」
「ボクには来てませんよ。」
「どうせ、夜勤で来るからと思ってね」
「何かあった時はこのメールを送るからヨロシク。」
チーフが携帯を出し緊急メールをボクに見せる。
“早く来てね。龍子より”
「何なんですか、コレ!」
「イヤ、トップシークレットだからね。怪しまれないようにサ。」
十分、怪しいだろ。
Tがこのメールを見る。心当たりのない文面。メアドを見れば職場そして“龍”。
血相変えて出仕度するT。携帯を見て問いただすAちゃん。弁解できずに出て行くT。
残されるAちゃん。そしてボクの所へ…。
目に見えるようだ。
チーフ大雑把にも程がありますよ。なんか、スッゴイ脱力感。
…それもこれも、やがて終わるけどね。
それから3時間後、発光も太陽風も収まった。
ボクが夜勤を終えるまでに“龍”に動きはなかった。
取りあえず昼勤に交代して残りは解散、自宅待機となった。
「ただいま、“HOS”」
「お帰りなさいませ、マスター。A様から伝言です。」
「再生して」「イエス、マスター。」
リビングのモニターに彼女の顔が映る。化粧も直していつもの笑顔。
「ナカムラさんゴメンね。そしてありがとう。」それだけ。
忌々しいけど…カワイイ。
「“HOS”再生して」「イエス、マスター。」
「“HOS”エンドレスで」「イエス、マスター。」
やっぱり、カワイイ。
「“HOS”もう、いいよ」「イエス、マスター。」
お宝映像かも。
「ナカムラ、あのAって娘スゴイ人気だ。今日もアクセスすごいよ。」
ダダからだ。
「コッチでアイドルになるかもね」まさか。
ベッドに倒れこむ。Aちゃんの香りがする。
惜しい事したかな。
イヤイヤ、Aちゃんの裸をチャンネルでさらしたくない。
龍はどうなっただろう。
“場所”を通って龍に会いに行く。
龍はひとりだった。
「奥さん、行っちゃたんですね。」
「彼女は永年の孤独を埋めていってくれたよ。オマエには感謝してる。」
女が彼女になってる。この龍から感謝なんて言葉が出るなんて。
「そんな大した事してないです。…龍さんもそろそろですか?」
「彼女が場所を決めたら直ぐだな。」
「では、地球で見てます。さようなら。」「さらばだ。小さいモノ。」
そう言えば、名のった事なかった。
「ナカムラって呼んで下さい。」
「さらばだ、ナカムラ。」
龍がニッと笑ったような気がした。