(11)
こんな時間にどうしたんだろう?今日は休みかな?
「“HOS”彼女ひとりか?」
「お1人です、マスター。」
以前、この“HOS”付のマンションに住んでいる事を女の子達に自慢して彼女達をマンションに招待した事があった。彼女たちにとって家事全般を助けてくれる“HOS”は憧れのツールなのだ。それ以来、彼女達は連れ立ってよく訪れるようになった。ある時は“朝まで女子会”の会場として提供した事もある。“ハーレム”を自慢してるのか?冗談じゃない!ボクが怒らないのを好い事にパーティではボクは“蚊屋の外”なのだ。でなければ、テイクアウトのピザやらオードブルをねだられる。むしり取られない内に後は“HOS”にまかして避難するしかない。何故、怒らないかって?
カワイイからに決まってるじゃないか!
そんな彼女たちも決して1人ではやって来ない。
珍しい事もあるもんだ。
「“HOS”お通しして。」
「イエス、マスター。」
いつもの笑顔がない。具合でも悪いのかな?
「Aちゃん、どうしたの?」
「疲れてるなら、ベッド使ってイイよ。」
「少し早いけどボクは仕事に行くし、後は“HOS”が助けてくれるから自由にしていいからね。」
ボクがソソクサと支度を始めると彼女が後ろから抱き着いてきた。
固まるボク。流れ込んで来る彼女の思考。そういう事か…。
「ベッドに…。」残りの「連れて行って」が小さく聞こえる。
腹が立ってきた。ボクがいつもジェントルマンだと思うなよ!
彼女を抱え上げる。ベッドルームに向かいながら
「“HOS”照明おとして。」
「イエス、マスター。」
途端にメインライトが消えてサイドライトだけが点る。
腕の中の彼女は身を硬くしている。あっ、「マダム・ジュジュ」の新作の香り。
たまらんなー…、じゃない!
乱暴に彼女をベッドに放り投げる。起き上がり身を縮めながらしばらくジッとしていたが観念したようにブラウスのボタンに手をかける。ボクの顔をみようとしない。
「Aちゃん、Tと同棲してるって本当?」彼女の手が止まる。
「何故、ココに来たの?」
「ボクがこんな事しないと思った?」
彼女が泣き出した。子どものように大声で泣き出した。
泣きたいのはこっちだよ。ボクは彼女が落ち着くまで隣の部屋で待つ事にした。
「“HOS”リビングの照明つけて。それから彼女にティッシュ…じゃなくてタオルあげて。」
「イエス、マスター。」
どうやら、Tが浮気をしてその当てつけにボクと関係を持とうとしたようだ。しかも彼女は心の底ではボクがそんな事はしないと確信していた。それどころかボクが優しくグチを聞いて慰めてくれるモノだと信じていた。
彼の浮気だって真偽もハッキリしてないのに。これがボクじゃなかったらヤラれちゃってるゾ。ボクのほうだって、Tと同棲してるなんてさっき知ったんだからな!なんで思わせぶりに「イシカワさんと一緒なら…」なんてボクに言うんだ!Aちゃんといい龍の奥さんといい女なんてウソつきで大嫌いだ!
「またもアクセス伸びてるゾ。今日は調子いいんじゃない?」
相棒のダダだ。人の気も知らないで。
気がつくと彼女のすすり泣きが聞こえなくなってた。
「Aちゃん?」声をかけながらベッドルームに入る。
小さな寝息を立てて寝てしまってる。こんな無防備でいいのか?
化粧もすっかり崩れちゃって…。顔を濡れタオルでふいてやって体を抱き上げてちゃんとベッドに横たえる。枕を頭に当ててブランケットを掛けてやる。
動かす度に香水の香りが鼻をくすぐる。ムラムラするじゃないか。バカーッ。
こうして見るとやっぱりカワイイ。ニヤついてると
「“オレの姫に汚い手でふれるな!”のクレームが多数寄せられてるけど。」
ダダだ。わざとAちゃんのホホを手の平で包む。スベスベだ。ザマーミロ!
「出勤のお時間です。マスター。」“HOS”だ。
「ありがとう、彼女が部屋を出るまで助けてあげてくれ“HOS”」
「イエス、マスター。」