(10)
「お迎えに上がりました。」
タマミさんの病室に突然現れるボク。
この間は地球人のフリして現れたけど、正体バレてるし
本来はこの方がラクだしね。奥さん、ビックリしたかな。
ってボクがビックリした。
タマミさん管だらけ!呼吸を助ける装置のモーター音が室内に小さく響く…。
“アナタが帰ったあと大変だったのよ。
今は落ち着いてるけどそろそろ、お別れみたい。” 龍の奥さんの声が頭に響く。
時間がない。
「では、行きましょう。彼は貴女に気に入られようと頑張ってくれました。」
「嬉しいわ。」
ボクと奥さんは“場所”を通って龍のもとへ。
青年の姿の龍はコスモスの花束を持って待っていた。
奥さんの方は彼を見て驚いたカンジ。やがて言った。
「そういう事なら、私も」
隣に現れたのは白いワンピースの若い頃のタマミさん。
彼の方へ駆け出す彼女。彼女を受け止めようと落とす花束。
抱き合う二人。韓流ドラマ?
ボーッとしてると奥さんの声が頭に
「アナタのウシロにたくさんの視線を感じるのよね…。」
「気を利かしなさい。私も抑えられそうに無いし…。ア…ッ。」
気づくと2人の姿は消えて、中空に浮かぶ巨大な虹色のシャボン玉?
そのシャボン玉にまとわり、這いずり回る龍。玉の中に入ろうとするかのように
頭部をその球体に叩きつける。その度に頭に響く奥さんのあられもない声。
ボクはその場から急いで逃げた。あの気に呑まれたら…。
気がつくとボクのマンション。疲れたワ。
あの奥さん、勝手なんだから。何が「恐いの…。」だ!
でも、鋭いねボクのウシロの視線に気づくとは。
目を閉じると頭の中に声が響く。
「オーイ、ナカムラ。お前のチャンネル、アクセス数うなぎ登りだゼ!」
向こうの世界でボクの身体とチャンネルの管理を任せてる相棒のダダだ。
「龍の奥さんの声が色っぽいって!戻ったら?」
「バーカ!」
“覗き見野郎!” 石川先輩の罵倒する声を思い出した。
意図して、そういう映像を集めてるヤツらも知ってる。でも、ボクは…。
夜勤まで、まだ時間がある。少し休もう目を閉じる。
ウトウトしてるとHOSの声。
“マスター、来客です。”
誰?ベッドボードのモニターにマンションロビーに立つ若い女性の姿が。
Aちゃん?