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現代ギルド  作者: あに
序章 帰国
7/18

07 能力



爆発事件から2日後、コンサート前日になり取材などで引っ張りだこになる冷華を付きっきりで護衛をした。

カメラに映るわけにもいかないが、何が起きるかわからないような時に気にしている場合ではなく、サングラスをかけることにした。

真っ黒なガードマン姿になった風芽は髪形もとりあえず変え、カメラに写っても差し支えないものに変装していた。


カメラのシャッター音とフラッシュが冷華を包み、マイクが差し出される。


「今回のコンサートは初の単独コンサートということですが」


「はい。応援してくださる皆様にお応えできるよう、私の全てをお聴かせします」


写真を撮られていてもその表情は変わることなく無表情で冷めている。

彼女はいつもインタビューの時はこの調子で、ファンには「そんなところが魅力的」と言わせているらしい。

まだ、海外に進出はしていないが、一度大きなコンクールで優勝し、その後大きくデビュー。

国内のコンクールに気まぐれに参加しては優勝をかっさらって行く。

その音色はまるで妖精の奏でる魅惑の心地……


「『後に、ピアノの妖精として注目される』、と」


コンサートの最終チェックでスタッフと打ち合わせしている部屋の隅に椅子を置き、雑誌を読む。

風芽の仕事はあくまで護衛のため、コンサート自体はどうでもいい。

爆発事件以来、何もしてこないと言うことはコンサートで何かをやらかす可能性が高く、とりあえずのところ彼女の評判について知る為に雑誌を買ってみた。

音楽雑誌、女性雑誌、新聞、あらゆるところに彼女の写真が載せられている。


手元にコーヒーを用意して、隣に置いたもう一つの椅子に乗せ、ページをめくる。

今回のコンサートは大々的に宣伝しているらしく、チケットは完売、オークションでは何万円もの値打ちが出ているとか。

なんとなくプロフィール欄を読んでいると、意外なことが書かれていた。


「『好きなものはピアノ、嫌いなものは……飛行機』ぃ?」


「悪い?」


不機嫌そうな声色で、雑誌に影を作ったのは写真に写る顔だった。


「飛行機嫌いなのか?」


「浮遊感が嫌いなの」


椅子に置いてあったコーヒーを取り、そこに座る。

風芽は何も言わず、雑誌を見て「ふーん」と言った。


「そう言う人はたまにいるよ」


「お父様も苦手らしいわ」


「親子でか」


そう、とコーヒーのカップの蓋をとり、勝手に飲む。

勝手に飲むなとはいまさら言えず、放っておくことにした。


「打ち合わせは?」


「あとはスタッフに任せるわ。私は演奏に集中したいから」


目の前で真剣な表情で話し合うスタッフを見ながらそう言った。

打ち合わせをしている時に一生懸命に確認をしているのを見て、余程冷華を慕っているらしいということがわかった。


「風芽のことはちゃんと言っておいたわ。何かあったらコンサート会場を自由に行き来できるようにしておいたから」


「じゃあ今日明日で周りを下見しておく」


また爆発物が仕掛けられでもしたらたまらないからな。

彼女の持つカップをとり、口をつける。

冷華が俯いたが、気にせずに飲みほしてしまいそれに気づいて首をかしげた。


「なんだ、新しいの持ってきてやろうか?」


「いえ、結構よ」


「そうか?」


空になったカップを持って立つと、冷華はこちらを見上げてきた。


「どこ行くの?」


「とりあえずグルッと一回りしてくる」


ズレかけたサングラスをかけ直し、カップを握りつぶす。

座ったままの冷華にここにいるように言ってから打ち合わせ用の部屋から静かに出た。



廊下には時々スタッフカードを下げた人間が通るだけで、それ以外の人間は立ち入り禁止となっている。

冷華の言ったとおり、風芽が歩いているとスタッフが丁寧にもあいさつをしてきた。

それに手を軽く上げることで返すと角を曲がり、前に覚えた会場の図面と照らし合わせながら非常出口を見つける。


「鍵はかかってねぇな」


扉を開けて外に出れば、会場を囲む森林が見える。

ここは裏手になる為、人は滅多に通らないようだった。

円形の建物になっているコンサート会場は駐車場も入口も正面に位置している。

裏手を通るのはスタッフやただの通行人などだけになるだろう。





「ん?」




ふと鼻を掠めた異様な匂いに風芽は立ち止まった。

風に乗って飛んでくるそれに眉を顰め、気配を消して近づいて行く。


「(これは……火薬の臭い)」


壁に背をつけ、そっと臭いの元を見るとそこには蹲るようにして座っている小太りな男がいた。

カチャカチャと音を立てて何か作業をしているようだ。

こちらの気配に気づいていない所を見ると、『素人』であるらしい。


それに、この男の気配はあの時の爆発事件の近くにいた奴の気配だ。


足音を立てずに胸元からゆっくりとある物を取り出し、男の首に当てる。



「今度は何を爆発させるんだ?」



耳元で囁くようにいうと、男は肩をびくっと震えさせ、ひたりと添えられているナイフに気づいた。

手元が止まり、冷や汗をかいている男にナイフを皮膚まで1㎜という所で止め、ぴくりとも動かさずに問う。


「お前だろ、脅迫状作ったのは」


「あ……ああああ……ぼぼぼぼ、僕はっ」


男が何かを言おうとすると、風芽は男の首をホールドし、横に飛退いた。


―ドガァアアアン!


着地すると機械の手前に大きな爆発音とともに小さく爆発が起きた。

地面に焦げ目が付き、かろうじて爆発物らしき機械には被害はない。

その衝撃で男は気絶してしまい、邪魔になる為草むらに放って隠す。


「(手榴弾ではない……火炎系のSAIか)」


次々に放たれる火の玉を避けながら、位置を把握し持っていたナイフを木の陰に投げる。

わざと外し、舌打ちをした相手をそこから引きずり出す。


影から出てきた能力者は掌に火の玉を出現させては闇雲にこちらに向かって放って来た。

その表情は今まで見てきたのと同じ、『狂った』もの。

自分の知っている能力者の顔ではない。


風芽は心の中で笑った。


草陰で気絶しているデブはこいつに指示されたのだろう。

この装置もブラフだ。


懐から改造銃を取りだし、会場から離すため誘導するように狙い撃つ。



誰も通らないような場所に来ると、能力者は火の玉を持ったまま止まった。


「てめぇ、九条院冷華の護衛か?」


発せられた声は低いもので、息が切れている。

弾倉をかえながら風芽が肯定すると男は舌打ちをした。


「どいつもこいつも、九条院、九条院……」


男がつぶやくたびに炎が揺らめき、怒りと共に大きくなっていく。

SAI能力者としては覚醒しているようだが、制御に関してはまだ完全ではないらしい。

能力が感情に左右されるようではまだ完全なSAIとはいえない。


「(はぐれか)」


能力者は覚醒したとき、その能力を管理するためにギルドに記録されることになっている。

ギルドのライセンサーにはなることはないが、能力者は犯罪者になることが多いため、それを管理する必要があるのだ。

しかし、故意でギルドに記録されていない能力者は『はぐれ』と言われ、罪を犯す可能性ありとして危険視されるのだ。


「俺は特別なんだ。なのにぃ!」


「火炎能力はそう特別な能力じゃない。発火なんて道具を使えばいくらでもできる」


「無能力者が偉そうに……」


男は火の玉を風芽に向かって放った。

しかし、風芽は首を傾けるだけで避け、銃を懐にしまった。

それを見て、男は高笑いをする。


「もう降参か、だから雑魚は」


「お前如きにあんなおもちゃでも、もったいないな」



黒いネクタイを緩め、サングラスをとる。

その瞳はゆらりと光り、獲物を狩る鷹のように鋭いものだった。


「別に、お前が九条院冷華を狙ってる理由はどうでもいい」


胸ポケットにしまわれたサングラスがかちりと音を立てる。

風芽の一挙一動に男は掌に火の玉を浮かべながら見ていた。


「(動けない)」


視線に捕らわれた瞬間から男は息を飲むこともできない。


「お前がはぐれである以上、どんな“雑魚”でも見逃さない」


「無能力者に何ができる!」


馬鹿の一つ覚えのように火の玉をむやみやたらと投げつけてくる男を鼻で笑い、動く。


その瞬間風芽が視界から消えた。



男は周囲を見渡すが焼け焦げた木々しかない。



「ど、どこにっ」



すると、背後にわざとらしい気配が現れる。


「能力者として消えたいか?それとも……」


冷たく言葉を紡ぐ風芽の声が鼓膜を刺激する。

その問いに男は足が震え、威圧感に耐えきれなくなりつつあった。


風芽が口を開き、手をあげたと同時だった。





ドガァアアアアアアアン!





先ほどの機械があった場所から爆発音が。

思わず手を止め、そちらを見ると、煙が立ち込めている。


あそこには気絶しているデブがいたな。

今回はなるべく死人は出さない方針のため、死んでいられたら少々厄介だ。


風芽は手を下げ、そちらに向かって歩き出した。


「ぁ……あ……」


「今回は見逃してやるが、次に会った時には決めておけ」


そう言われた男は崩れかけていた足を叩き、悔しさの表情と共に逃げ去っていった。

爆発音のした方へ行くとまだ人は集まっていないらしい。

会場は防音設備になっている為外の音は聞こえにくくなっているのだ。


冷華に気づかれると、何かを言われる恐れがある。

面倒なことは避けたいため、気絶している男から事情を聞きだす前に、飛び散った機械の残骸と焦げ跡を見渡す。


「(小型の爆弾だったか)」


はぐれのSAIを逃がしたのはまぁいいとして、依頼に支障をきたすのはよろしくない。

風芽は爆発痕に手を添える。






彼の手はただ添えられているだけだった。


「『復元レストレーション』」


自身の呟いた言葉は本来意味はない。

ただ言葉にすることで強く働くと自分で思いこむことができる。


すると掌が接している場所からだんだんと焦げ目がコンクリートに戻り、地面が意思を持っているかのように抉れた部分をふさぎ、黒くなった地面も薄い茶色に戻っていく。


まるで魔法のように何もなかったようにもどったそれを確認し、風芽はネクタイを締め直した。

草陰からデブを引きずり出し、首元を持って近くの倉庫に放り込んだ。


「大人しくしてろ」


扉を閉め、手を添える。

何の変哲もないように見えるが、扉はズズッと音を立てて地面にめり込んだ。

まるで、急に重くなったかのように地面にめり込んでいることで開くことのなくなった扉。


携帯電話を取り出し、画面を見るとかなり時間がたっていた。



冷華を待たせたままだったことを思い出し、急いで打ち合わせの部屋に戻ると、さっきと同じように椅子に座る彼女がいた。

不機嫌そうな面持ちでスラッとした足を組んでいる。


「遅い」


「ちょっと迷子がいて、“安全な場所”まで連れて行ってやってた」


「そう。打ち合わせも終わったし、帰るわよ」


「ああ」


荷物を受け取り、彼女のあとをついて外に出る。

すでに車が付いており、今度は不審物の確認はすんでいる為、安全だと扉を開ける。

風芽は荷物をトランクに入れ、車内に入った冷華を見て扉を閉める。

自分は車の外にいるままだ。


「どうしたの」


「用事ができた。今日は“何も”起こらねぇから、安心して帰れ」


「用事って?」


「こっちの話だ。君には関係ない」


そう言うと、冷華はむっとし、ウィンドウを閉める。

「出して」と強い口調で言う彼女は最後までこちらを見ることはなかった。



「さてと」








デブは能力者の男の兄らしい。



拷問のように脅しをかければぺらぺらと話したそいつの兄は元ピアニストだった。

そこそこ実力があり、あるピアノコンクールで優勝候補と呼ばれていた。


しかし、そこに突然現れたのは九条院冷華だった。


急に現れた彼女に優勝を搔っ攫われ、名誉を傷つけられ失望し精神的におかしくなっていったのだと。

そして、あるとき怒りが爆発するかのように発火能力が覚醒したという。


その力と弟を使って復讐をしようとした、というのが今回の事件の全てだ。



弟はもともと爆発物に詳しい、いわゆるオタクだった。

それを利用し、兄という立場をも使って強制的にやらせていたのだと言う。


「く、車を爆発させるだけって言われて……でも、気になってみにいったんです」


そうしたら、人が巻き込まれて……そう言って愚図りだす。


「主犯はあんたの兄だが、あんたも共犯者としての責任がある。わかってるな」


「はい」


どうやら聞き分けがよく、風芽が兄を捕まえたら自分は警察に、兄はギルドにそれぞれ責任を果たすと誓った。


問題はその兄だが、必ず明日のコンサートには来るだろう。

あの程度の能力ではコンサート会場ごと爆発させることは無理だ。

それに、協力者の弟の爆弾ももう使うことはできない。


狙われるとしたら直接冷華本人を襲ってくるだろう。


「あんたはことが済むまでここにいろ」


「は、はぁ」


「出ようとしても扉は開かないからな。食事も抜きだ。良いダイエットになるだろ」


風芽が施した何らかの作用で扉はかなりの重量を持っている。

そのためか、人一人じゃ絶対に開けられない。


「逃げません」


「まぁ、逃げたらその時はもう簡単に死ねないと思え」


きらりと笑顔でナイフを見せる。


「は、はひぃいいい!」





ガチャリ




倉庫の扉を閉め、再び手を添え沈むのを確認して立ち去る。


「(俺の笑顔はそんなに怖いか)」


よく愛想笑いなどで笑うと顔を背けられたり、逃げられたりする。

自分の顔にはあまり興味はないが、そこまで避けられると自信がなくなってくる。


ブルルルルル


ため息をついて先ほどから振動している携帯を取り出す。

会話ボタンを押し、耳に当てた。


「はい」


(あに)様』


電話の向こうから聞こえたのは小さく掠れる女の子の声だった。

聞き知っている声に、「ああ」と返事をする。


『兄様、日本にいるの?』


そう言われて、彼女に帰国したことを伝えてなかったのを思い出した。


「悪い、教えるの忘れてた」


その言葉に向こう側から何やら引きつるような音が聞こえてきた。


織華(おりはな)は、兄様に会うために、ひっく、イタリアまで来たのにっ』


自分を『兄』と慕ってくれている少女、織華は風芽の妹ではない。

しかし、それに近い関係はあると思っている。


「本当に悪いな。今里帰り中で、しばらくは日本から出ないんだ」


『……も……る』


「ん?」





『織華も兄様と一緒に日本に住む!』




「へ?は?」


『すぐに、行く!』



ブチッ






急に切られたそれをぼーっと見て、意向が停止した。

ツーツーツーとなっている携帯をしまい、頬を掻く。







「なんてこった」













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