04 立場
ギルドは多くの依頼が集まる、いわば何でも屋のような機関だ。
金を払えば、どんな内容の依頼でも受ける人間がいれば受領される。
そんな場所に出入りする人間はそれぞれ事情を抱えた人間や、金を必要としている人間。
しかし、最も多いのは“特別”な力を“持ってしまった”人間だ。
一言で言えば、『超能力』。
人間が持ちえない特殊な能力を生まれた時から持っている人間……最初に発見された地は日本であり、超能力を持つ人間その力を制御しきれず、全てを壊しまくり、人をも殺めてしまった。
大量殺人が起きてしまったその事件をきっかけに『その能力は災いをもたらすもの』とされ災いのもと、『SAI』と呼ばれるようになった。
SAIの能力者は年々増え続け、今では人類の進化だと言う人間もいるが、その力のために虐げられる人間がいるのも事実。
そこで、彼等に特殊な居場所を与えることでその能力を活かすことを決めた。
それがギルド。
機関に所属する人間はSAI能力者が多い。
もちろん、普通の無能力者もいるが、活躍しているのは能力者であり、より強い能力を持つ人間は尊敬され、羨望される。
それでいて、ギルドに存在するRANKはその者の地位を表し、それが高いほど重要なポジションについているとも言っていい。
規則を破れば制裁がある。
その制裁は強い者が執行しなければならない。
しかし、それは能力者の頂点に立つということであり、実際に存在することはなかった。
『能力者殺し』と呼ばれる存在が現れるまでは。
――――――――――――――――
「はい、次の方ー」
カウンター内に座る女性の横に番号が表示される。
「ライセンスの更新を」
パソコンを操作しながら器用な手つきで作業を行う女性の前に書類が差し出される。
受取り内容を読むと、初めてそこで相手の顔を見た。
相手はまだ学生くらいの年齢に見える整った容姿の少年で、初めて見る顔だった。
書類には『ギルド免許証更新願』と『免許有効国登録推薦書』と書かれている。
「ではライセンスを拝見いたします」
ポケットから取り出したカードを渡され、女性は目を見開き少年とカードを交互に見る。
この仕事に就いてから初めて見る最高ランクSの“黒”ライセンスカード。
どうかしました、と言われ慌ててカードの認証を行う。
コンピューターに表示されたデータには『unknown』と表示されている部分が多い。
ハイランカーの人間にはよくある秘密保持の上級権利だ。
低いランクの人間にはないが、ランクが上がるごとに与えられる特権は多くなる。
「で、では日本を有効国としライセンスの更新を行いますので少々お待ちください」
カタカタとキーボードをたたき、ライセンスの更新手続きを行う。
その間も少年はその場にいるが、視線は室内を見渡している。
「この支部は初めて……ですよね?」
作業を行いながら女性が話しかけると、「はい」と返事が返ってくる。
ライセンスには日本以外の国が多く有効国として登録されているため、今まで外国で依頼を受けてきたのだろう。
国籍は日本なのに、肝心の日本の登録がされていなかったことは珍しい。
少年は周りを見て物珍しそうな表情をしていた。
「何かわからないことでも?」
「いや……更新してすぐ受けられる依頼が欲しいんだけど」
更新後に依頼を受けるときは試験的な依頼を受け、更新の最終確認的なことを行う。
日本でもそうだと思っていたが、女性は笑ってそれを否定した。
「日本では更新後に通常依頼を受けることができます」
「そうなの?」
「はい。あちらの機械にライセンスカードを入れて、受ける依頼を選択し、こちらの受付にお持ちくだされば受領になります」
女性が指している機械はタッチパネルとなっており、操作している人間も数人いる。
まるで銀行のATMを操作しているような手つきだ。
それを見ている間に更新手続きが終わり、カードが機械からピピッと音をさせ出てくる。
書類に判を押し、ライセンスを少年に渡す。
「では、志方風芽様、更新手続きが終了しました」
「ありがとう」
微笑んだ風芽に女性は頬を染める。
ライセンスカードをポケットにしまうとすぐにカウンターを後にする背中に、女性は事務的なセリフを忘れ、呟いた。
「この支部でよかった……」
――――――――――――――――――――――――――
一通りの依頼を見るが、Sランクの依頼はそうあるものではなかった。
一番高いものでAランクだが、内容はそう高度なものではない。
「手短なものでいいか……」
風芽はギルドの仕事をバイトと称している。
仕事というほど重い存在にはしたくはないからだが、彼にとっては何よりも大事なものである。
“生きる価値”と義務、というものを生み出している場所だと言っても過言ではない。
それほど重いものを、“仕事”や“使命”という重たい言葉で飾りたくないのだ。
だから、見かけだけでも軽くしたかった。
母を安心させるためでもある。
仕事はきちんとこなすが、風芽は仕事を選ぶ人間だ。
Aランクの中でも身体を動かせそうなものを選ぼうとするが、なかなかそういったものは見当たらない。
どれもこれも自分のやってきたものとは異なり、選択肢がかなり限られていた。
今まで手当たり次第に依頼を受けていたわけでもなく、自分の能力を発揮できるものを選んできた。
「んー……犯罪組織の殲滅とかないのかな」
そう呟いた風芽に横で機械を操作していた人間はバッと振り向き、彼を凝視していた。
物騒なことを言う彼を見たこともなく、誰だ、と噂しているが、ギルドの個人情報は完璧に守られているため、簡単に知ることはできない。
知るには話しかけるしかないが、誰もが今の言葉でその気がなくなっていた。
「これで腕試しかな」
一番上に表示されていた依頼を選択し、カードを取り出す。
データはカードに入力されているのか、すぐにカウンターで受領は終わった。
受けた依頼はAランクの中でも高いレベルの物で、護衛の依頼で報酬もかなり設定が高く自分としては手ごろなものだ。
ちなみに場所も近い。
受領の知らせは依頼主に直接連絡がいき、今から来てくれとのことだった。
準備は何もせずにその身のままで行くことにした。
日本に帰国する際、所有していた武器は全て知り合いに預け、後々裏から届けてもらうことになっている。
飛行機内に持ち込もうにも、日本はまだ有効国ではなかったため、出発の時はいいが、到着してからは許可が下りない。
かろうじて改造銃が2丁とナイフが数本あっただけで、それも持ってきてはいない。
護衛といってもただ武器を装備していればいいというものでもないし、この身一つでどうとでもなるだろう。
「問題はこれだな……」
案内されたのは広い接待室で、座った瞬間に軽く沈む感じが妙にむずがゆかった。
メイドのような服を着た女性が紅茶を淹れ、礼を言うとお辞儀をして部屋を出ていった。
「なんか、場違いな……」
風芽は気慣れない服の襟首を軽くひいた。
今着ているのは先ほど着ていたズボンにパーカーといったラフなものではなく、白いYシャツに黒スーツ、黒ネクタイだ。
条件に書かれていたのは、「スーツ着用」と一言であり、どんなとまで書かれていなかったためかなり迷った。
護衛、ならば黒スーツだろうと偏見をもった考えの風芽は、この格好しか思いつかなかった。
たまに依頼で着ることがあるが、その場で着捨てるためこのスーツは新調したものだ。(その他にも、その時着ていた服は血痕が残ってしまったり、切れて着れなくなったりするため捨ててしまうことが多い)
まだ伸び続けている身長のせいで、ぴったりだと思っていたサイズは少々小さめだった。
動くには問題ないが、意識してしまうとそう感じてしまう。
カップを傾け、室内を視線だけで見渡す。
あちらこちらに監視カメラが設置されているのは防犯のためか、ずっと見られているのは少々息が詰まる。
ネクタイを締め直し、位置を整えると奥の部屋から男性が現れた。
後ろに燕尾服の男を従わせている。
「お待たせして申し訳ない」
そう言って正面に座り、燕尾服の男が紅茶を淹れる。
風芽は依頼書を内ポケットから取り出し広げ、ギルドのライセンスカードと共に提示した。
「ギルドで依頼を受領したカザ……志方風芽だ。今回、護衛依頼ということで」
敬語を一切使わずに話す風芽に燕尾服の男は顔を顰める。
依頼主らしき人物も目元をぴくりと動かした。
基本的に風芽はギルドの仕事で敬語は使わない。
ギルドの依頼主と自分はホストとVIPではない……同等の位置にいる共犯者の方が近いと考えている。
依頼主は報酬を払い、自分は依頼を引き受ける。
どんなことにもリスクは伴い、それを共有する関係。
同じ位置にいる者に敬語など必要はないというのが風芽の態度の理由だった。
「私は九条院家当主、九条院雅治。依頼は娘……冷華の護衛を頼みたい」
そういうスタイルなのだと思ったのか、依頼主の九条院家当主はそう返した。
九条院冷華。
小さな頃から“ピアノの妖精”と謳われ、その音色は誰もを虜にするといわれている。
現在、九十九中央学園高等部2年、音楽科のピアノコース所属。
成績は優秀で定期試験は常にトップ3に入る。
すでに自分のコンサートを開く程の有名人……と資料で読んだ。
「もうすぐピアノのコンサートがあるのだが、この手紙が来たのだ」
差し出されたのは一枚の封筒で、中には切り貼りされたいかにもといった脅迫状が入っていた。
『コンさートを中シしろ。さもなくば、お前はハ死ぬ』
「まぁ、見たまんま脅迫状だな」
「今回のコンサートは外国からの巨匠が来る。留学するための機会をつくるチャンスなのだ。成功させなければいけない」
普通、脅迫状なんてものがくれば娘を守る為にコンサートを中止させるのがセオリーだが、やりたいというのならやらせる。
風芽は依頼主の行動を制限することは一切しないし、無駄な口出しもしない。
別に留学だろうがなんだろうが言われようと関係ない。
「そんなことはどうでもいい。期間は犯人確保と護衛対象の安全が完全に保証されるまで。内容は九条院冷華の護衛、で確認はいいか?」
「あ、ああ」
「で、本人は?」
部屋には九条院家当主と燕尾服の男しかいない。
本人がいないのはなぜかと問うと、現在学校でピアノの実技試験を行っているらしい。
もちろん厳重な護衛付きで。
「明日から休みに入るが、明日から護衛を頼みたい」
「わかった。今日はこれで失礼」
「娘を頼みます」
「やっと監視カメラから解放ー」
首を傾け、コキコキと鳴らす。
ネクタイをほどいてポケットにつっこみ、ボタンを三つほど外して楽にする。
大きな門を出て高い塀沿いに歩く。
「お嬢様の護衛でAランクなんて、レベルが低いな」
広い道の端を歩いていると目の前からシルバーの外国車が走ってきた。
すれ違い際に窓の向こうに女の子と目が合う。
たった一瞬だったが、風芽は鼻を鳴らし笑った。
「お嬢様、ね」
―――――――――――――――――――――――――
「どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ」
膝に乗せた楽譜をぺラリとめくる。
ふと見た窓の外にいた黒スーツの綺麗な男と目が合った気がした。
不思議な感じがしたが、その一瞬は偶然だと思い音符に目を走らす。
「コンサート、成功すると良いですね」
「成功させるわよ」
「そうでございましたね、冷華様」