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現代ギルド  作者: あに
序章 帰国
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02 出会いは突然に













チラ、チラ


『次は、中央学園前―中央学園前……―』


バスに揺られながら、日本に着いてすぐに買った小説を片手に吊革につかまっていた。

土産の入った袋と着替えの入った小さめの鞄を、隣の客に当たらない様に脇へ固定した。


フライトは長く、やっと日本に着いたと思い、すぐにタクシーを拾おうとしたがなかなかつかまらず、新幹線と電車を乗り継いで試験会場行きのバスに乗り込んだ。

周りは制服だらけで、1人だけ多荷物に私服はかなり目立っているらしい。


チラチラ


先ほどからかなり見られている。

視線を向けるとなぜか逸らされ、こそこそと何かを話し始める。


「(俺、なんか変だろうか?)」


志方風芽は5年ぶりに日本に帰国した。

外国暮らしが長かったせいか、久しぶりの日本はかなり新鮮だった。

周りが黒髪だらけというのも同じで、自分と同じ黒がたくさんいると少し変な感じだ。


しかし、一つだけ日本人らしくないのは瞳の色だった。

先祖帰りといわれるそれは、風芽の瞳を孔雀色……ピーコックブルーに染めていた。

それ以外は生粋の日本人らしいと思っているが、他者から見ればその妙に整った容姿は人目を惹いていた。


そんなことにも気付かないことを彼の海の向こうのギルド所属の友人は鈍感という言葉で片付けようとするが、本人が否定。


今でも好奇心で見られていると思っているのだった。


「(そういや、日本支部の場所きいてなかった)」


小説のページをめくり、思い出す。

後で探すか、とふと窓の外を見ようと小説から目を放すと目の前に座っていた女の子が風芽を見ていた。

長い黒髪をツインテールにして控えめな雰囲気を出している。

白すぎない肌はシミひとつなく、静かな印象がある美少女だ。

これが大和撫子か、と彼女の眼をじっと見ながら考えた。


その状態が続き、しばらく経つと彼女の顔がだんだんと赤く染まり、ボンっと爆発した。

茹でダコのように真っ赤になった彼女は視線を逸らし顔を俯かせる。


窓の外を見て、再び彼女を見ると、また目が合った。


「こんにちは」


「こ、こんにちは」


何も言わないのもあれなので取り合えず挨拶をしてみると、戸惑いがちに彼女からも返ってきた。

もじもじとした反応に首を傾げる風芽。

その時、バスが停留所に停まり、小説を閉じて鞄にしまった。

立っている人から降りていったため、彼女よりも先に降り、周りを見る。


バス停の目の前が直接校門の前で、かなり大きな敷地であることがわかる。


『九十九中央学園』と書かれたそこは風芽が受ける学校だ。

中学を出ていないまま外国にいた風芽はもうすでに16歳だが、高校1年として入学試験を受ける。

ようするに周りは皆年下だ。


—―じろじろと見られるのもそのせいだろうか。


とにかく母を探すため、校門を見ると、1台の小型車が止まり、そこから1人の女性が出てきた。

小柄な彼女はキョロキョロとした後、こちらを見て手を振る。

風芽も手を振り返し、荷物を持って歩み寄った。



「久しぶり、母さん」


「おかえりなさい、大きくなったわねぇ」


別れた時よりも視線を下にしなければ目が合わない母を見下ろす。

嬉しそうにそう言う母は変わらず若造りで、セーラー服でも似合いそうだ。


「あ、そうそう。これ、受験用の書類ね、これが受験票、あとあと……」


「はいはい、わかったから」


落ち着きなく書類をばらばらと出そうとしている手を止めさせ、受け取る代わりに土産の入った袋を渡した。

軽く重さがあるが、母でも持てる重さだ。


「生ものは無理だから服とかハンカチね。あとはワインとかも買ったんだけど、届けてもらうことにしたから」


「まぁまぁ!ありがとう!」


車の後部座席に土産と鞄をしまい、手荷物を書類とそれが入る鞄のみにした。

母は嬉しそうに扉を閉め、運転席に乗りこんだ。

窓を下げ、中から顔を出した。


「あとね、覚えてる?近所に住んでた(とおる)ちゃん。この学園に通ってるのよ」


「あー……そんなのもいたっけ」


はっきり言って覚えていない。

日本での思い出はあまりいい物はなかったような気がする。

ギルドで依頼を受けることになってからそっちにかかりっきりだった。


透なんて名前も覚えていないし、自分の小さい頃の記憶もさっぱりだ。


「酷いわ、風芽!ちゃんと会ったら挨拶するのよ?」


「会ったらな」


ざわざわと受験生が校門の中に入っていく。

そろそろ受付が始まるらしく、どんどんバスが停留所に集まってくる。


「そろそろ行くよ」


「うん、がんばってね」


窓が閉じ、車が遠ざかっていった。


軽くなった身で書類を片手に門をくぐる。

受験生らしき学生たちの波に乗りながら渡された受験用の書類を見た。


この学園はそれぞれ学科があるらしく、かなり珍しい学校みたいだった。


「へぇ、普通科と、特殊学科は芸術科に特別教育科……学科の中にも色々あるのか」 


風芽が受ける九十九中央学園はマンモス学校で有名らしい。

様々な所から資金提供やコネクションにつながっており、芸能界や政界にも出身者が多く居る。

学科は普通科と特殊学科でくくられる芸術科と特別教育科。

芸術科はその名の通り、美術、音楽、芸能などの芸術関係を専攻する科。

そして、特別教育科は1つの技能を特化して教育する科。

詳細は書かれているが、別段興味も無く、風芽はパラパラとページを捲った。


書類に挟まっていたパンフレットを見た後、書類を再び見る。

「普通科」と書かれた希望学科欄は母が勝手に決めたらしい。

実際、どこでもかまわないと思っていた風芽は専門的な学科でないことを少し喜んだ。


「部活も結構種類あるな……射撃部かぁ、おもしろそう」


「あの」


声をかけられ、振り向くとさっきバスの中で目が合ったツインテールの大和撫子がいた。

中学の学生鞄らしきものを抱え、自分と同じ書類封筒を持っている。


「さっきの……」


「あの、突然申し訳ありません。私は古野枝(このえだ) (さき)と申します」


そう名乗り、綺麗なお辞儀をした咲。


「俺は志方風芽」


お辞儀をした彼女と違い、手を差し出す。

咲は手と風芽の顔を見比べ、ハッとしたように両手で差し出された手を包んだ。


「あの、握手のつもりだったんだけど」


「え?…………はっ!!」


すみません!と手を放し、自分の頬に手を当てて後ろを向いてしまった。

放された手をどうしていいかわからず、とりあえずその手で風芽は自分の頬を掻く。


「俺のことは風芽でいいよ」


「私も、咲とお呼びください!」


「あ、ああ」


日本の女性は淑やかじゃないのか?

かなり積極的な言葉に、たじたじになるが、ここはイタリアからの帰国子女……という設定だ。

紳士的に接しなければ。


「これも何かの縁だし、一緒に会場行かないか?」


「はい!ぜひご一緒させてください!」


風芽より低い頭が隣に並び、一緒に歩き始める。

他の受験生は周りは皆ライバル、とでも教えられたのであろうか、緊張した空気が漂っている。

風芽も咲も受かる可能性は100%というわけではないが、緊張はない。


歩きながら紹介も兼ねて会話をしていた。


「へぇ、じゃあ咲は芸能科受けるんだ?」


鈍い風芽でも咲は美形の部類に入るとわかっていたが、芸能科を狙っているとは知らなかった。

実家は有名な御家柄らしく、歌手なんてチャラチャラした物は反対されたらしいが、咲はアイドルに憧れているとか。

それでもなんとか説得して、この学園を受かれば自由にしても良いと条件をだされたのだ。

アイドル以外にもモデルや役者といった数多くの有名人を輩出して来た学科だ。

そういったエンターテイメントには疎い風芽にはよくわからない領域だが、咲にとっては惹かれるものがあるのだろう。


「はい、合格率はかなり低いらしいのですが、歌が好きなので。風芽さんは?」


「俺は普通科」


そう答えると、眼を丸くした。


「そうなんですか?」


「意外?」


「いえ、その……風芽さんなら芸能科でも、えと……」


ごにょごにょと口籠る咲。

よく聞こえなかったが、風芽が普通科だということが意外だったらしい。

普通科に希望したのは風芽ではなく、母親だったため、なんと言われても気にはしなかった。


「俺はとにかく卒業できればいいんだ」


「え?」


「もともと、学校とか通う気なかったし、日本に帰国の予定もなかったから」


そう言うと受付の列が見え、受付の教員に書類を手渡す。

横で咲もそうしていて、受験表の確認と受験の教室の場所が書かれた紙を渡される。

地図で場所を確認した後、受付を済ませた咲が追い付いてきた。


「あの、教室は……」


「学科別だから別々」


場所を確認せずにきたのか、えっと驚き、紙を見る。

大和撫子ががっくりと肩を落とす姿はなんともいえない罪悪感が……。


「咲なら受かるよ。試験頑張って」


「~~~。」


バッと顔を上げ、なぜか目がうるんでいる咲は「はい、ご期待にこたえてみせます!」と張り切った声で言った後、ダッシュで教室に向かって行った。


「は、走ってどうする……」



すでに見えなくなった小さな背中を見送り、手にしていた地図を見た。

教室は2階にあるらしい。


「階段か」


受験生の流れは止まってはおらず、それにそって歩いて行く。

その途中でもチラチラと見られ続けていた。

咲と歩いていた時もかなり見られていたが。


「2-A、2-A……っと、ここか」


教室にはほとんど受験生が座っており、そのすべてが学生服を着ている。

唯一私服姿でいる風芽はかなり目立ち、黒板に張られている番号の席に座っても、じろじろと視線は来る。

参考書を見て悪あがきをしている学生もいるらしいが、気が散っているように見える。


「(なんか、俺、場違いだな……)」


黒い学生服を身にまとっている生徒たちの中でジーパンにシャツとパーカーといったラフな格好でいる風芽。

この服以外はすべて受験会場には合わない服だったので、これしか着るものがなかったというのもある。


鞄から筆記用具を取り出し、もちろん参考書など持っているはずもなく……小説の続きを読むことにした。

試験が始まるにはまだ30分も時間がある。


「(そう言えば、咲は芸能科を受けるって言ってたな……芸能科って何するとこだろ)」


パラ見したパンフレットを再び開くのも面倒だったので、あとで咲に尋ねよう。




「あ」










咲と連絡手段がない。











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