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現代ギルド  作者: あに
第1章 高校入学編
16/18

15 再動










煌びやかな雰囲気のある店。



他愛のない談笑や怪しい会話で包まれるそこは、入口やあちこちに立っている黒服を除けば一見ただのクラブ。

人間は娯楽を求めて立ち寄り、女性を席に着かせる。

決して静かではないが、下品な賑やかさもない店のベルがチリンと鳴った。

入ってきたのは帽子を深くかぶった少年だった。

扉が閉まった瞬間に黒服に止められそうになったが奥から一人の男が現れ、彼を通す。

案内されたのは店の奥……VIPルームとも呼ばれる部屋で、そこには数人の男達がいた。

その中でも一際異質な空気を纏っている上品なスーツを着た男は少年を見て銜えていた葉巻を灰皿に押し潰した。


「どーも」


そう言ってどかっと向かいのソファに座った少年に男も鼻で笑うことで返事をした。

部下に顎で合図をすると後ろに控えていた部下が懐から数枚の写真を取り出し、テーブルに並べた。


「この男を知ってるか?」


写真に写っているのはどれも同じ人物だが背景は全く違う。

隠し撮り写真なのは確かだ。


「さぁ?」


帽子のつばで表情が見えないが、口元は笑っている。


「というか、僕の仕事は終わりましたから。あなたたちとはもう依頼料を頂いた時点で縁が切れたはずなのですが」


わざとらしい溜息としぐさをし、まったく、と呟く。

で、何をしたのかと尋ねれば男の眉間に皺がより、問題が起きたと返された。

並べられた写真とは別に一枚の写真を提示され、少年はピクリと誰も気づかれないような微かな反応を示した。


「お前から例のモノを受け取った直後だ。部下が10人以上殺され、ブツも盗られた」


古いホテルの広いリビング。

そこに転がる屍と、飛び散った赤黒い液体。

まるで地獄絵図のような光景だ。


だが、少年の心は冷めていた。


「だから?」


余裕の口調に男は眉を顰めたが、少年は続ける。


「言ったでしょう?僕がアレを盗み、貴方が金を払う。その取引が成立した後は、アレが紛失しようが、誰かに盗まれようが、貴方達が狙われようが、もう僕の知るところではありません」


金の切れ目が縁の切れ目、ですっけ?


「それに、今日僕がここに来たのは貴方達の文句を聞きに来たのではないのです」


「どういうことだ」


「今日は忠告に来たんです。貴方達が『僕達』の邪魔をしなければいいんですが、とりあえず」




「日本で好き勝手はしないでくださいね」




そう言ってニコリと笑った瞳の奥には何の感情も込められてはいない。

男は背筋が凍る感覚に襲われながらも席を立とうとする少年を引きとめる。


「それはどういう」


「物分かりの悪い屑は嫌いです」


「っ?!」


「貴様っ」


主人を貶された部下たちは我慢の限界だったのか、懐に手を差し入れた。

それを見た男はやめろ、と諌める。

少年は立ちあがり、思い出したかのようにふとポケットから折られたメモ用紙を男に放り渡した。


「まぁ今回は面白いモノを見つけられましたから、これは特別なアフターサービスです」


それでは、と部屋を出ていく少年を今度は引き留めることはなかった。




彼が出ていくと同時に固まっていた部下たちは息をつく。


「あの餓鬼、どういうつもりでしょうか」


「さぁな」


もうどうでもいいといった様子で男は渡されたメモ用紙を開く。

そこには写真に写っていた男の名前とその詳細な情報が記されていた。

一通り目を通し、部下に渡す。


「とっとと見つけてデータを取り戻せ」


「はい」





――――――――――





店を出た少年を待っていたのは背の高い青年で、首にまるで首輪のような刺青が入れられている。

不機嫌そうに黒いズボンのポケットに手を入れ、少年の横に並び立つ。


(アリ)、あのデータは良いのか?」


「はい、あのくらいのものならいつでも入手できますから」


その身長差から青年は在と呼ばれた少年に合わせ、ゆっくりと歩幅を縮めた。


「やっぱあいつだったか?」


「ええ……ギルドのデータベースを確認しましたから」


「そ、そっか」


目線をそらす青年に在はクスリと笑う。


「そんなに会いたいんですか?」


青年はその言葉に顔を真っ赤にし、焦り始めた。

もし、これが犬だったら耳をぴんと立てて尻尾をぐるぐると振り回していることだろう。


「お、俺は別に会いたいわけじゃねぇ!殺してぇだけだ!殴りてぇだけだ!や、八つ裂きにしてやりてぇだけだ!」


八重歯をむき出しにして断固抗議だ!という勢いで言う青年に在はただ笑うだけだった。


「大丈夫ですよ、近いうちに会えますから」





そう、この日本にいれば。





――――――――――





そのメールは唐突に来た。


『8:00に○○駅前の公園に集合!戦闘服できてね!』


携帯電話のボタンを操作し、その文章を見た後、右上の時間に目をやる。


『7:40』


「……」


風芽は溜息しか出なかった。




ん?




「(ってか、戦闘服ってなんだ?)」






とりあえず遅れることを返事してからマイペースに朝食を食べ、着替えると駅に向かった。

戦闘服というものがどんなものかわからなかったため、普段着を選択した。

ウエストバッグに必要最低限のものだけを入れ身軽な姿だ。


休日ということで電車は家族やカップルが多く、たまに休日出勤らしきサラリーマンなどがちらちらといる。

駅に着くと公園はすぐに目に入り、周囲を見渡す。

待ち合わせ時間からかなり時間が経っているが風芽は急ぐことはなかった。

と、いうよりもあの時間にあの集合時間はないな、と開き直っている。


結構な広さのある公園を歩きまわっていると草むらの中からガサガサと音がした。

その下からは人間の足がはみ出ており、たまに奥に引っ込む。


風芽はそこを覗きこみ、「おはよう」と話しかけた。

その声に驚いたのかバサッと立ちあがり、振り返った。


「あ、風芽君!おはよう!」


いつものポニーテールに草をはっつけている姿はメールの送り主である祈だった。

草むらの中から出てきた祈の草を払ってやると祈はありがとうと笑う。

彼女が来ているのは学校指定とは違う種類のジャージだった。


「それが戦闘服?」


「そう!通気性、運動性に優れる軽装備!っと、それよりも仕事だよ仕事!」


そう言って祈がポケットから取り出したのは一枚の紙だった。

すでに依頼人に話を聞いてきた彼女が言うには、依頼人が落としたのは小さなUSBメモリで、この公園で落としてしまったらしい。


「ここら辺、あんまり人が来ないから落し物として拾われることとかまずないから、地道に探すの!」


「わかった、俺も手伝おう」


「ありがとー!」


祈から紙を受け取りそのUSBメモリらしき絵を見て風芽は不意に眉を顰めた。


「(これは……見たことのある型だ……)」


「どうかした?」


再び草むらに頭を突っ込もうとしている祈が動かない風芽に気付き、声をかける。

いや、と返事をして紙を折りたたんで返す。


「俺はあっちを探す」


「うん、よろしくね!後輩君」





手を振る祈から離れ、風芽は上を見上げながら歩きだした。

地面に落ちているはずのUSBメモリではなく、他の物を探しているのだ。


「(見つけた)」


風芽の目線の先にあるのは小さなカメラ……監視カメラだった。

人気のない場所にある監視カメラなど役に立たないと思われているが、こういう場所では犯罪が起こりやすく、管理局が担当して設置していたりすることが多い。

この地域にも数台カメラが設置されており、風芽はそのことを把握しているためそれを探していたのだ。


カメラのケーブルは小さなコンクリートの管理室に繋がっていて、この地域の監視カメラはすべてそこで管理をされている。

扉にはタッチパネル式のロックがかけられていた。


風芽はそこに手を置き能力を使う。


『連結』


発現された能力は風芽にすべての情報を与える。

かけられたロックも、その暗証番号もすべてが風芽に流れ込み、それを操作する。


ピピッ……ガチャン。


その音とともにタッチパネルには『認証しました』と表示され、扉のロックが解除された。


部屋の中にはサーバーのみが置かれ、データだけが蓄積されていくようになっている。

それを見ることになるのは定期的にデータ回収に来る管理局の人間だけだ。

サーバーの近くに置かれた一台のパソコンはデータの読み込み作業のために置かれている。


パソコンを開き、監視カメラのサーバーにケーブルをつないでキーボードをたたく。


依頼人が歩いたルート上にある監視カメラをピックアップして日付を限定していく。


「この日か」


ファイルを選び呼び出す。

パソコンに映された映像には一人の男が歩いている姿があった。

周りは暗いため夜中だとわかる。

スーツを着て周囲を見回しながらひたすら公園の外へと向かっていた。

カメラの範囲から外れると、再び近くのカメラにその姿が映し出される。


何かを警戒しながら歩くその男に風芽は見覚えがあった。

名前は知らない。

だが、知っている。


男はだんだんと急ぎ足になり、カメラから外れる速さが速くなった。



すると、映像の隅から突然黒い姿の不審者が男に襲いかかった。



男と不審者は揉み合いになり、男が相手にがむしゃらに拳を振り上げ逃げ出した。

不審者もそれを追ったが途中で諦めたらしく、悪態をついた様子でその場を去って行った。


それから男の姿はなく、誰も人が寄りつくことはなかった。



パソコンの電源を切り、指紋をふき取る。


「(あの揉み合っているときに落としたのか……にしても)」


あの不審者はド素人。

USBメモリが目的だったのなら銃やナイフの脅しが有効的だ。

それもせずにただ掴みかかっただけ……


気になるところが多々あるものの、とにかく揉み合った場所まで行くことにした風芽はロックを元に戻した。



場所は公園の歩道沿いにある場所で、外灯もあり夜でも明るめになるようだ。

監視カメラの位置を確認し、揉み合った場所を推測してそこに立った。


芝生になっている地面をよく見ると思った通り、USBメモリが芝生に隠れて落ちていた。

メモリの表面が緑色で芝生と一体化していたのだろう。


「ん?」


しゃがみ込んで芝生をそっとかき分けると赤黒い点が草についている。

すでに固まり、草にこびり付いている。


これは血液だ。


「(カメラじゃ刃物は見えなかったのか……どちらが刺したのか)」


不審者が持っていたなら男が。

男が持っていたなら不審者が……だが、一般人であるはずの男がナイフを持っているのは妙だ。


「やっぱり……」


USBメモリを握りしめ、風芽は冷たく目を細めた。

上着のポケットから携帯を取り出し、電話帳を開く。

数回の呼び出し音のあと、ガチャッと相手が出た。


『やぁ、君からの電話なんて嬉しいね。風芽』


「ギルドのセキュリティはどうなってるんだ?以前の依頼で取り返したものがまた外部に出てた」


あんた、一応ギルドの管理者だろ?


電話の相手は風芽の所属しているギルドの総責任者。

ギルドの責任者は2回代替わりしていて、電話の相手は3代目だ。

風芽にとっては嫌悪の対象である男だ。


『ああ、そのことかい。私も頭を悩ませていてね』


そんな言葉を並べているが口調は楽しげだ。

それすらも風芽は不快で、いつもより口調を荒げる。


「研究所のやつがギルドに依頼してきたんだ。これの管理を怠ったのか?あるいは間者がいるのか?」


『管理を怠ったのは支部の人間。裏切り者に関しては……それを処理するのは風芽、君の仕事だろ?』


「……だったら、回りくどいことをするな。直接指示をすればいいだろう」


『風芽、私は君の意志を尊重しているんだよ。義務ではなく、君が依頼を受けるか受けないかは自由だ』


「俺の意志なんてあんたにはどうでもいいことだろ」


『そう思っているのは風芽だけだよ』


それだけを聞き、風芽は通話を切った。

耳に残る声に苛立ちがつのる。


ギルドの総責任者へのダイレクトな接触ができるのはギルドの中でも数人だけだ。

それを風芽は持っている。


USBメモリを握り、ポケットに突っ込んで携帯の履歴を能力で真っ白にしておく。


「自由じゃない……これは義務だ」


そう呟き、携帯をパタリと閉じた。




――――――――――




USBメモリを見つけたことを祈に伝えれば彼女は驚き、喜んだ。

大事そうにメモリを受け取り、ポーチに入れた。


「ありがとう、風芽君!さすがはよくできる後輩!」


「いや……」


「依頼人に渡しに行かなきゃね」


この依頼品はギルドではなく直接依頼人へと渡す条件となっていた。

それと同時に報酬も直接支払うことになっているらしい。


「でも、こんなに早く依頼が終わったのは初めてだよ」


「猫を助けるのにも時間かかってたしな」


「そ、それは言わないでね」


話しながら公園の歩道を出口に向かって歩くが、風芽の思考は他の場所にあった。




普段は人が少ない公園だが、今日は休日で人が多いはず。

だが、入口に近付いても一般人は誰もいない。


風芽は表情を変えずに祈の話に合わせながら周囲の気配を探る。


2……


いや、3人か。


「それにしてもおなかすいたねー。あ、私今日朝ごはん抜いてきたんだった……」


「祈」


「何?」


「足は速いほう?」


突然名前を呼ばれ首を傾げる祈に目線を前方にやったまま話しかける。

このまま会話をするふりを、と伝えるとわけがわからないといった顔をした祈。

小さくため息をつき、風芽は彼女の肩を抱いた。


「へ?は?!」


急な行動にパニックになり、顔を赤らめる。


「よく聞け」


「は、はひっ(わーわーわー!)」


「公園の外まで振り向かず、全力で、何があっても立ち止まらずに走っていけ」


その言葉に近くにある風芽の顔を見る。

真剣な表情に祈は頭の中が落ち着いていくのを感じた。


「あ、えっと……」


「理由は後で。とにかくそのメモリを持って駅の……そうだな、カフェで休憩でもしてろ」


いいな、と問いかける風芽にわかった、と返事をして前方を見る。

風芽は気配を探り、それが動くのを感じたと同時に祈の背を叩いた。



それを合図に祈は一気に駆け出し、周囲からは3人の男が銃を持って現れた。



「女を追え!」



指示をした男に従い、1人が追いかけようとする。

背を向けたその男にウエストバッグからナイフを取り出し足の腱に向かって投げた。

吸い込まれるように命中したそこからは血が流れ、男は痛みに倒れた。


「こいつでいいか」


背後から銃で狙い撃ちをしようとしている男にも額に向かって1本。


ザシュッという音と狙いが外れた銃の破裂音が聞こえた。


「サイレンサーくらいつけろ」


「チィッ!」


仲間がやられ、最後の男は動くな!と正面から風芽をとらえた。

バッグから取り出されたナイフの数は3本。

倒れた男の腱に1本、もうすでに息絶えた男の額に1本。


「データはどこだ?!」


両手で銃を構えた男を見据え、すでに走り去った祈を確認してふう、と息をついた。

恐れも命乞いをする様子もない風芽に男は焦り、声を荒げる。


「どこだと言ってるんだ!」


「前は持ってた」


「なん、だと?」


「面倒な奴らだった。銃さえあればなんでもできると思っていて、哀れだったな。あんなモノのために殺されたんだから」


男は目を見開いた。

風芽の呆れ、そして憐みの表情を見たからだ。


「できればもう会いたくもなかった……なんで日本に来た?」


お前らの拠点はイタリアだろ?



「お、お前が……まさか……」



男は知っている。

イタリアである取引があった。

今後の組織に必要なモノを受けとる……ただ、金とブツを交換するだけの単純な。

潰れたホテルで秘密裏に行われたそれはすぐに終わった。


取引が終わった、その連絡を受けたあと……


「あ、あああいつらを……仲間を殺したのは……」


戻らない仲間を迎えに行くと、そこには仲間はいなかった。

そこにあったのは悲惨な血の海と屍……


「お……」




「お前かああああああ!!」





ズドン!

























ピピ、ピ……


シルバーの携帯を操作してデータを見る。

履歴はどれもばらばらだが、定期的に同じ番号が表示されていた。


それだけを確認して携帯を放り、落とす。


落ちた先は地面ではなく、木陰に佇む風芽の足元に転がる息絶えた抜け殻だった。







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