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The Great Punks  作者: 李中龍
8/14

Track 3:南陽ルーキー争奪戦①

朝イチから龍馬たちの前に現れた男とは…?

 軽音楽部への入部を認められた龍馬たち。既に入部届も提出済みだ(タイマンバンド演奏対決の直後に提出したらしい)。前話では書かなかったが、対決に参加しなかった美穂と明子も龍馬たちと共に軽音楽部へ入っていた。


 それから2日後の朝。

 1年4組の教室に、楽器を抱えた龍馬と祐介が登校してきた。

美穂「あ、おはよー」

先に登校していた美穂と明子が話しかけてきた。

龍馬「おっす」

祐介「おはよう」

明子「あれ、二人とも楽器持って来てるけど、今日部室使えたっけ?」

美穂「そうだよ。今日は上級生との初顔合わせがあるじゃん」

 美穂の言うとおり、この日は上級生と新入部員の初顔合わせが部室で行われることになっているのだ。それなのにもかかわらず、龍馬と祐介が楽器を持って来ていることに美穂と明子はちょっとした疑問を感じていた。

龍馬「いや、昨日ケンさんが“顔合わせの後は誰も使わないから使っていい”って言ってたから、ちょっとやっていこうと思って」

美穂「へぇ~、やる気だね!」

龍馬「まぁね」

そう言って、龍馬は照れ笑いをした。

祐介「あんまりおだてないほうがいいぞ。こいつ、すぐ調子にのるから」

龍馬「黙れユースケ!」

美穂「あははは。リョウちゃんってそういうタイプなのね」

 そうやって楽しく談笑しているところへ、延彦がやって来た。

祐介「おう、ヤマさん。スティックは持って来たか?」

延彦「おぉ、持って来たぞ。顔合わせの後で部室を使わせてくれるんだろ?」

龍馬「そうだ。これで練習できるな! あー楽しみだ」

そう言いながら、龍馬は教室の奥へ自分のエレキギターを置きに行った。祐介もそれに続く。

 教室の奥、いちばん窓際の角には掃除用具を収納するロッカーがある。そのロッカーと壁の間に、ちょうどよい隙間がある。自席の側に置けば何かと不都合が生じるので、教室奥の、人目につきにくいロッカーと壁の間に楽器を置いておくのだ。


 龍馬と祐介が楽器をその隙間に押し込んだ時、教室の入口からドタドタと荒々しい足音が聞こえてきた。龍馬と祐介がその方向へ振り返ると、何人かの生徒が入口の方に注目している。美穂と明子、そして延彦もそちらを見ていた。

 入口には、男子生徒が立っていた。体格は龍馬とほぼ同じか、少し龍馬より大きいぐらい。さっぱりと刈り上げられた黒い頭髪とりは深いが精悍な顔つきは、いかにもスポーツマンといった風貌だった。

龍馬「あ……」

祐介「あいつは……」

龍馬と祐介はその男子生徒に見覚えがあるようだ。

明子「ねぇ美穂、あの人確か……」

美穂と明子にも見覚えがあるようだ。

延彦「知ってるのか?」

美穂「うん。あの人は確か大和田中バスケ部出身の外山くん。去年の夏の大会でリョウちゃんやユースケくんと戦った相手よ」

延彦「何だって?」

 男子生徒の名は外山とやま勇一郎ゆういちろう。大和田中バスケットボール部の出身で、かつて龍馬と祐介がいた上加中学校バスケットボール部を試合で打ち破ったことがある。ポジションはパワーフォワード。フィジカルが強く、攻守共に優れた選手であった。

 外山は黙って教室の中を見回していた。やがて奥にいた龍馬と祐介を見つけると、一直線に二人を目がけて両足を踏み鳴らしながら突き進んで行った。

 龍馬と祐介の目の前で、外山は足を止めた。何も言わずに二人を睨みつける外山。

龍馬「……よ…よう、久し振りだな」

祐介「ま、まさか同じ高校になるとはなぁ。奇遇だな」

何ともいえぬ雰囲気に負け、とりあえず当たり障りのない挨拶で会話の糸口をつかもうとする龍馬と祐介。

外山「……どういうことだ」

龍馬「…え?」

外山「沢村、佐山…お前ら……お前ら……軽音楽部に入ったってどういうことだ!」

祐介「なっ、何だよ急に!」

外山「どうしてバスケ部じゃないんだ!」

龍馬「おっ、お前、わざわざそんなこと言いに来たのかよ!? 何部に入ろうとオレらの勝手だろ!」

外山「もったいないぞ! 何でバスケを選ばなかった!」

祐介「いや、だから……」

外山「考え直せ! 今からでも遅くはねぇ!」

激しく龍馬と祐介に詰め寄る外山。

外山「なぁ、一緒にバスケやろうぜ! オレ、お前らが南陽入ったって聞いて嬉しかったんだよ。お前ら二人の腕があればもっと強くなる。インターハイも夢じゃない。だからよぉ、バンドじゃなくてバスケやろうよ!」

龍馬「外山、わりーけどそれはできねぇ」

外山「何で? バスケが嫌いになったのか?」

龍馬「そうじゃねぇ。オレらは中学の時から南陽の軽音楽部でバンドをやるって決めてたんだ。バスケは嫌いじゃねーけど、今はそれ以上にバンドがやりてぇ」

外山「おいおい、それじゃ体がなまっちまうぜ? せっかく高い身体能力を持ってるんだから、使わなきゃ損だぞ?」

祐介「そういう問題じゃなくてな、オレらはバンドがやりてーんだよ。この意味がわかるか?」

外山「ぐ……」

外山の顔が引きつり始めた。

外山「お前らぁ! バスケへの情熱はどうしたぁ! あの勝負は何だったんだ!」

再び激しく龍馬と祐介に詰め寄る外山。それを必死に引き離そうとする龍馬と祐介。

祐介「やっ、やめろ! ちょっと離れろ!」

龍馬「あのな、もう決めたんだよオレらは! いい加減理解しろ!」

外山「バスケ部に入れぇー!」

外山の興奮は収まらない。

 ――と、そこへ事態を見かねた延彦が割って入る。

延彦「おっと、そこまでにしな」

龍馬「ヤマさん!」

外山「何だ! 止めるな! オレはこの二人を説得に来たんだ!」

延彦「えっと……外山くん…だったっけ? みんな見てるよ。もうこの辺にするんだ。それに、リョウとユースケの意思は固まってる」

外山「しかし――」

続きを言いかけて、外山は教室全体を見回してみた。

 確かに、延彦の言うとおり1年4組の生徒全員がこちらを見ている。外山は、一瞬にして気まずい思いに駆られてしまった。

外山「……ちっ」

外山は、そうやって舌打ちするのが精一杯だった。左足を軸にして素早く体を後方へ反転させると、彼は誰とも目を合わすことなくそそくさと教室を出て行ってしまった。

龍馬「――ふう、やれやれだ」

祐介「まったくだ。朝からとんだ目に遭ったぜ」

美穂「リョウちゃん、ユースケくん、大丈夫?」

美穂と明子も心配して駆け寄って来た。

龍馬「おう。大丈夫だよ」

延彦「それにしても、何なんだあいつは? 中学時代にバスケの試合でお前らと戦った相手らしいけど……」

祐介「あぁ。あいつは大和田中の外山だ」

明子「だけど、急に押しかけて来るからビックリしちゃったよ。外山くんってあんな人だったの?」

龍馬「いや、オレも驚いたよ。中学の時はもっと爽やかな感じのキャラクターだったと思ったけど」

祐介「まぁ、こうなることはある程度想定してたけど、まさか教室にまで押しかけて来るとはな。リョウ、当分は気をつけた方がいいな。あの感じだと、これで外山がおとなしく引き下がるとは思えねぇ」

龍馬「ああ、そうだな。なんだかめんどくせーけど」


 昼休み。

 龍馬と祐介、そして延彦の3人は学生食堂へ来ていた。

 祐介と延彦は既に食券を購入し、カウンターに並んでいる。

 龍馬が券売機に500円硬貨を投入しようとした時、何者かが後ろから龍馬の肩をポンポンと叩いた。いったい誰だろうと、背後を振り返る龍馬。

 龍馬の後ろには、中年男性が並んでいた。体格は龍馬よりやや小さめだが、髪型がオールバックなうえに、半ば伸び晒したようなヒゲをたくわえており、わりといかつい風貌である。しかし、どう考えてもこの学校の教師であることは間違いない。

龍馬「あの……何ですか?」

教師「あのさぁ、悪いんだけど、20円貸してくんないかな?」

龍馬「20円?」

教師「ああ。あと20円あれば、小銭でAランチが食えるんだ」

龍馬「はぁ……」

 この時龍馬は、「この男は何を言い出すのだろう」と思った。生徒とはいえ、普通は初めて見た人間に対して小銭を貸してくれと頼むだろうか。金額の問題ではない。だが、この教師が小銭入れを見てしかめっ面をしている様子を見ると、20円ぐらい貸してもよいだろうと思ってしまう龍馬であった。

龍馬「…いいですよ。20円ですよね」

教師「おっ、いいの?」

龍馬「はい。どうぞ」

10円玉を2枚、教師の掌に置く龍馬。

教師「すまん、悪いな。後でいいことあるぜ! はっはっはっ!」

教師はそう言って龍馬の肩を強めにバシッと叩いた。ちょっと痛い。

龍馬(……何なんだ、この人は)


 そして、それぞれがカウンターで注文した品物を受け取り、空席を探していると、偶然にも先に食堂へ来ていた難波や恒一、そして畑野の3人に出くわした。しかも彼らの隣に3人分の空席があったので、龍馬たちはそこで食べることにした。

 食べ始めると同時に、龍馬が外山と朝一番にもめた話をした。

難波「へぇ~、そりゃ大変だったねぇ」

龍馬「ああ、朝から疲れちまったぜ」

祐介「しかも、オレらが絶対バスケ部へ入るって思い込んでるところがある意味すげぇ」

延彦「まぁ、そうだな。いきなりあんな言い方されりゃあ対応に困るよ」

恒一「そういやハッチ、お前昨日の放課後、体操部の人に声かけられてなかったか?」

「ハッチ」とは、畑野のあだ名である。

龍馬「体操部?」

畑野「うん。中学時代は体操部だったんだ。そんでさ、オレもリョウたちみたいに“体操部に入らないか?”って言われた」

難波「オレも水泳部からスカウトされたよ。中学の時水泳部にいたからさ」

恒一「オレは剣道部から声かけられたよ。どこからオレが経験者だって情報が漏れたんだろうな」

祐介「なんだよ、どこもかしこもスカウトだらけだな」

難波「まぁ、まだ新年度が始まったばかりだからしょうがないよ」

祐介「…それもそうだけど、オレらはもう軽音楽に決めてんだぜ? そこんとこ理解してくれないと困る」

龍馬「確かに」


 その時、龍馬は背後に人の気配を感じた。

 カレーライスを口に含んだまま、後ろを振り返る。

 外山だ。外山が腕組みをして龍馬と祐介を見下ろしている。

延彦「また出たか」

外山「見つけたぞ~……こんな所でメシ食ってやがったか」

龍馬「どこでメシ食おうと人の勝手だろうが」

祐介「あのな、どんなに説得してもバスケ部には入らねーぞ!」

外山「どうしてもか?」

龍馬「どうしてもだ!」

外山「そうか……」

 外山は、一度天井を見上げた。

 そして、今度は何か意を決したような目つきで龍馬と祐介を見下ろした。

外山「そんなにバンドがやりたけりゃ、オレと勝負しろ!」

龍馬「は!? 勝負だと!? タイマンでも張ろうってのか?」

外山「ケンカじゃねぇ! 1on1で勝負するんだよ! 勝てばもうバスケ部へは勧誘しない」

祐介「あ? お前何言ってんだ? そんな勝負のるわけねーだろ!」

外山「のれよ! のらないと、お前らの秘密をばらすぞ!」

龍馬「秘密だぁ? んなモンねーよ!」

外山「ふっふっふっ……オレは知ってるんだぞ。ばらされてもいいのか?」

祐介「残念だが、オレにもばらされて困る秘密はないぞ」

外山「まぁいい。とにかくお前らはこの勝負にのらざるを得ないってことだけは覚えとけよ」

それだけ言うと、外山は食堂の外へ出て行ってしまった。

畑野「……何だあいつ」

龍馬「さっき話したろ? 今朝ウチの教室に乗り込んで来たバスケ部の外山ってヤツだよ」

難波「秘密って?」

龍馬「秘密なんてあるわけねーだろ。あいつ、ああやって脅せばオレらが動揺するとでも思ってんだよ」

恒一「とりあえず執念だけは伝わってきたな」

祐介「ああ。執念だけはな」


 しかしその日の放課後、事件は起きた。

 軽音楽部の初顔合わせに出席するため、部室へ向かおうとしていた龍馬たちの前に、4人組の男子生徒が立ちはだかる。

 「ドラえもん」のスネ夫に似た男、「キテレツ大百科」のトンガリに似た男、「北斗の拳」によく登場するようなモヒカン刈りの男、そして「ちびまる子ちゃん」の丸尾末男に似た男が睨みをきかせながら龍馬たちを取り囲んでいる。恐怖を感じた美穂と明子は龍馬たちの後ろに隠れている。

龍馬「……何か用か?」

丸尾男が、「本物」を思わせるメガネの位置を直しながら、不気味な笑みを浮かべる。

丸尾男「キミたち、沢村くんと佐山くんだね?」

なんだか口調まで「本物」そっくりだ。

祐介「そうだけど?」

龍馬「おたくらは?」

スネ夫男「空手部の者だ」

龍馬「空手部?」

スネ夫男「そうだ。お前たちをスカウトしに来た。空手部に入れ」

祐介「あのよぉ、いきなりやって来て“空手部に入れ”だなんて、ぶしつけにもほどがあるぜ」

龍馬「それに、初対面の人間に対してお前呼ばわりとは、礼儀がなってねーなぁ。武道を嗜む者は礼儀を重んずるべきだぜ」

モヒカン男「いいから一度来てみろよ」

龍馬「断る。オレらはもう軽音楽部に入るって決めたんでね」

トンガリ男「キミたちに“断る”って選択肢はないよぉ~」

まるで「本物」さながらの口調で話すトンガリ男。

龍馬「あ?」

トンガリ男「秘密、ばらされたくないでしょ?」

祐介「何言ってんだ。オレらに秘密なんてありゃしねーよ。まるで外山みてーなこと言うな」

トンガリ男「あぁ……その外山くんも同じようなこと言ってたねぇ。オレらも彼にその秘密を聞き出そうとしたんだけどね、“知らない”の一点張りで何も答えないから、軽くおしおきしちゃった♪」

スネ夫男「だから、直接本人から聞き出そうと思ってな」

龍馬「何だと? お前ら、外山に何をした?」

丸尾男「我々についてくるというのなら教えてあげるよ」

延彦「おい、さっきから聞いてりゃやり方がメチャクチャだぞ。外山とこいつらが空手部に入る話は別問題だろう!」

スネ夫男「部外者に用はねぇ。引っこんでな」

モヒカン男「おい、こいつ確か東遊馬中の山崎だぜ。ついでだからこいつも連れていかねぇ?」

モヒカン男がスネ夫男に提案する。

スネ夫男「そうだな。そこそこ使えるかもしれねーしな」

龍馬「“ついで”だとよ。どうするヤマさん?」

延彦「ちょっとだけならつきあってやるよ。お前らだってそのつもりなんだろ?」

祐介「まぁな。外山を助ける義理もないんだけど」

龍馬「――でも、なんかこいつらはイラッとくるんだよな」

美穂「リョウちゃん……」

龍馬「美穂ちゃん、悪いんだけどケンさんたちに“少し遅れるかもしれない”って伝えといてもらえないかな?」

美穂「大丈夫なの…?」

心配そうな目をする美穂。

龍馬「心配ない。すぐに終わる」

龍馬は、そう言ってはにかんで見せた。

トンガリ男「うふふ、大した自信だねぇ」

龍馬「おい、こっちは忙しいんだ。早く外山の所へ連れてけよ」

スネ夫「……いいだろう。ついて来い」

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