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The Great Punks  作者: 李中龍
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Track 2:Punk Rock High School②

 翌日――。

 龍馬たちは朝から上機嫌だった。特に龍馬のハイテンションぶりは誰の目から見ても明らかだった。

 ムリもない話である。

 中学時代から憧れていた人物からセッションの申し出を受けたのだから、胸が躍るのも当然だろう。

龍馬「フンフンフ~ン♪」

龍馬はずっと鼻歌を歌ったままだ。

美穂「リョウちゃん、見るからに嬉しそうだね」

美穂と明子は、そんな龍馬を微笑ましく見ている。

祐介「まったく、しょうがねーなぁ…。あいつは昔っからああなんだよ」

そう言うと、祐介はThe Blue Heartsの『情熱の薔薇』を口ずさむ龍馬のもとへ歩み寄った。

祐介「おいリョウ、嬉しさを体現しすぎだぞ。周りが引く前にやめとけ」

龍馬「いや、だってよぉ、あのケンさんがだよ、“一緒にセッションやろう”って言ってくれたんだぞ? これが喜ばずにいられるかってんだ」

祐介「…そんな露骨に喜ばなくても、お前の気持ちは充分に伝わってるから大丈夫だよ」

龍馬「あ、そう? それならいいんだけど」

祐介「何がいいんだよ。意味わかんねぇっての」

 祐介にはわかっていた。龍馬はどうしても感情が表に出てしまうタイプの人間なのだ。そして龍馬には、時々露骨にその時の感情を体現してしまうクセがあることも充分に理解していた。しかし祐介は、その悪いクセを意識して直して欲しいと密かに願っていた。


 一方、所変わってここは龍馬たちの憧れである健の教室。

 自分の席でマンガを読んでいる健のもとに、充代と1人の巨漢がやってきた。

 クセの強い短髪で少しハーフっぽい顔立ちをしたその巨漢が、軽く健の肩を叩く。やや驚きつつ、健が振り向く。

健「お、おぉ、ジュンか」

この男、健と同じ軽音楽部に所属し、なおかつ健とバンドを組んでいる桐田きりた順一じゅんいちである。現在、南陽高校でいちばん腕のたつドラマーだと言われている。力強いドラミングはその巨体から容易に想像できるが、実は細やかなテクニックも持ち合わせている。ちなみに、「順一」という名前から「ジュン」と呼ばれている。

桐田「ケン、聞いたぞ。また1年に将来有望な入部希望者が来たんだってな!」

健「おう、そうなんだよ。フミオさんの弟子だって」

桐田「フミオさんの弟子? それどういうこと?」

健「いや、昨日は3人来たんだけど、うち2人はフミオさんから楽器を教えてもらったヤツらだったんだよ。だからなかなかうまかったぜ」

桐田「へぇ~……」

充代「ギターヴォーカルの子は歌もうまかったしね」

桐田「ほーぉ。オレも会ってみてーな。そんでケン、お前今日そいつらとセッションやるんだって?」

健「あぁ。お前も一緒にやるか?」

桐田「うーん、そうだな。まずはそいつらの演奏を見てからにするよ」

「そうか」と健は微笑んだ。

桐田「しかし、今年の1年は楽しみだな。おとといも入部希望の1年が来たじゃん? あいつらもなかなかのもんだったしな」

健「あ、そーいや来てたね。オレはバイトだったから途中で帰ったけど」

充代「え? おとといも来たの?」

桐田「うん。あ、ミチヨはおとといスタジオだったから知らないんか。なんかさ、そいつらも中学から楽器いじってるみたいでさ、Hi-STANDARDやらせたらキマッてたんだよ」

桐田は興奮気味に、もうひと組の入部希望者について説明した。

健「うん、そいつらもなかなかのモンだったよな。そいつらも今日来るかな?」

桐田「それが今朝、楽器背負って学校来るの見かけたんだよ。十中八九来るよ、ありゃあ」

健「おぉ、やる気あるなぁ」


 そして放課後。

 帰りのショートホームルームを終えるやいなや、龍馬はクラスの誰よりも早く立ち上がり、ギターを素早く担ぎ上げて教室を飛び出していった。

祐介「お、おいリョウッ! ちょっと待てよ!」

延彦「オレらを置いてく気かぁー!」

龍馬「だったら早くしろよ! 日が暮れちまうぞー!」

5メートルほど先から龍馬が大声で返事を投げ返す。

祐介「暮れるわけねーだろが! まだ4時前だぞ! そんな焦るな!」

慌ててベースを引きずりながら祐介が教室から出てきた。その後ろに続く延彦は、かばんが半開きになったままだ。

祐介「いいからそこで待ってろ!」

まるで幼稚園児を連れた父親である。龍馬は明らかに落ち着きのない様子で祐介と延彦が追いつくのを待っていた。

明子「リョウちゃん、ホントに嬉しそうだよね」

美穂「うん。まるで小さい子みたい」

美穂と明子はクスクス笑っていた。


 龍馬たちが軽音楽部の部室へ着くと、すでに健と桐田、他のメンバーが集まっており、輪になって雑談をしていた。

龍馬「ちわーっす」

健「おう、来たか」

龍馬は目玉だけを動かし、桐田や他のメンバーをひと通り見回すと、軽く会釈をした。

桐田「えーと、もしかして昨日来たっていう1年生?」

龍馬「あ、はい!」

健「今日はオレとセッションするんだよな!」

龍馬「はい! 今日はよろしくお願いします!」

龍馬は改まって一礼した。

健「はっはっはっ。そんな固くならなくてもいいって。そんなことより、そんな入り口付近につっ立ってないでこっち来いよ」

健は部室の入り口で固まっている龍馬たちに手招きした。龍馬たちは緊張した面持ちで健たちの輪に混じっていった。

龍馬「失礼します……」

健「だからそんな緊張すんなって。昨日あんなに打ち解けてたのに!」

龍馬「あ、はい、すいません」

健たちに小さな笑いが起こる。

桐田「なんか変に礼儀正しいな(^^; ところでみんなウチに激しく入部希望らしいね。名前何ていうの?」

龍馬「オレは沢村龍馬っていいます。1年4組です。ギターと歌をやりたいっす」

祐介「同じく、佐山祐介です。ベースやってます」

延彦「同じく、山崎延彦です。ドラムをやろうと思ってます」

龍馬たちが自己紹介を終えると、今度は桐田が態度を少し改めた。

桐田「オレは桐田。桐田順一です。ケンの後ろで太鼓叩いてるよ」

延彦「ドラムやってるんですか?」

桐田「一応ね」

健「ジュンのドラムはすごいよ。ウチの学校でいちばん力強いんだ」

延彦「そうなんですかぁ~…」

延彦の目が輝き始めた。

健「後で見せてもらえよ」

桐田「よせよケン。照れるじゃん」

健「何を照れてんだ。減るモンじゃねぇだろ。おう、そうだ、リョウたちにもみんなを紹介しなきゃな」

健は龍馬たちと一言も交わしていないギタリストとベーシストに自己紹介を促した。

健「じゃあ…ナミーから自己紹介!」

ナミーと呼ばれたその男は椅子から身を乗り出し、長い前髪をかき上げた。『スラムダンク』の流川楓より少し長いミディアムヘアで、若干やせた感じの男である。

ナミー(※以下南)「えーと、3年のみなみ昌利まさとしです。ギター担当してます。南だからナミーって呼ばれてます」

南はそれだけ言うと、照れ臭そうにベーシストの肩を軽く叩いた。「早く自己紹介しろ」という意思表示らしい。おそらく口数が少ないタイプの人間なのだろう。

 以外にも早く話をふられたベーシストは、「しょうがないなぁ」と言わんばかりの笑顔を見せた。その笑顔は、龍馬たちに人懐っこい印象を与えていた。

ベーシスト「えー、ベースの小林こばやし雁之助がんのすけです。雁之助なんて珍しいでしょ? みんなからはガンちゃんって呼ばれてるよ」

雁之助は、『BECK』の南竜介よりも少しクセが強い長い黒髪をダイナミックにかき上げながら軽く笑った。

健「みんな名前覚えたか?」

龍馬「はい。大丈夫っす」

健「ちなみにオレはこのバンドのボーカルです。バンド名は“THE BIG BOSS”っていうんだ」

名前からしてレベルの高そうな感じがする。

龍馬「なんか、ものすごく強そうな名前っすね」

健「だろ?」

延彦「バンド名は“メタルギアソリッド”からですか?」

龍馬「いや、ブルース・リーの映画からだろう」

健「おっ、よくわかったなリョウ。お前の言うとおりだ」

延彦は「何でわかったんだ?」と言わんばかりの表情で龍馬を見た。

龍馬「やっぱり! 『ドラゴン危機一髪』の英語版タイトルですよね?」

健「そうそう! もしかしてリョウもリーをリスペクトしてる人?」

龍馬「はい! オレにとってリーは武術の神っす!」

健「キター!! ここにも仲間がいたぞ!」

龍馬「オレも、まさかケンさんと趣味が同じだとは思わなかったっすー!」

かくして、男たちはブルース・リー好きという共通項を以って気持ちが通じ合ったのだった。

雁之助「ま、まさか、2人にこんな共通点があったとは……」

龍馬と健はしばらくブルース・リーの話題で盛り上がっていた。彼ら以外はみな、その空気に入っていくことができずにいた。

美穂「すごい…リョウちゃんって、ホントにブルース・リーが好きなのね」

明子「うん……」

 数分後、話が一瞬途切れたのを見計らって、桐田が違う話題を切り出した。

桐田「あのさぁ、ケンが言ってたんだけど、みんなフミオさんの弟子なんだって?」

延彦「あ、自分は違います。独学です」

龍馬と健も再び話の輪に戻ってきた。

健「独学であそこまで叩けりゃすげーと思うよ」

延彦「あ、そうですか?」

延彦は少し照れ笑いをした。

雁之助「ちょっと見てみたいな、みんなのプレイ。なぁ、ナミー」

南「うん…そうだね」

南は静かな口調で答えた。

 そうなると、場は必然的に龍馬たちが健たちの前で何かバンド演奏をしなければいけない空気になってくる。もっとも、龍馬たちには義務感のような精神的負担はないのだが。あるとすれば前日以上の緊張感だろうか。

龍馬「じゃあ…やりますか」

龍馬はサッと椅子から立ち上がり、エレキギターをソフトケースから取り出した。

祐介「なんだ、やる気マンマンだな」

祐介がそっと耳打ちする。

龍馬「何言ってんだ。お前だって同じだろ?」

言われて、祐介はニコリと微笑むだけだった。

 その時だった。

?「すいませーん、失礼しまぁーす」

少し控えめな男の声が部室に響いた。

 出入り口を見ると、3人組の男子生徒が何やら様子をうかがうように立っている。

 控えめな声で挨拶した男(仮に男子生徒Aとする)は、祐介と同じぐらいの背丈で、ふわりとした感じのミディアムヘアがよく似合っており、清々しい顔立ちをしている。肩にはベースを担いでいる。

 男子生徒Aの右隣には、推定身長170㎝ぐらいで、龍馬よりも少し長めのベリーショートヘアをダークブラウンに染めた男がギターを左手に持って立っている(仮に男子生徒Bとする)。男子生徒Bは、ただ何気なく部室の中をなめ回すように見ていた。

 男子生徒AとBの後ろには、ロングヘアーに近い髪を真ん中で分けた、切れ長の目をした男が部室を覗き込むように立っている。背丈は175㎝あるかないかぐらいだろうか(仮に男子生徒Cとする)。

桐田「おっ、来たな! 待ってたぞ!」

桐田が嬉しそうに立ち上がる。

桐田「遠慮しないで入りなよ!」

男子生徒A「あ、じゃあ失礼します」

男子生徒A・B・Cは遠慮がちに部室内へと入ってきた。

 龍馬たちは「この人たち誰?」というような目で3人をただ見ていた。しかし、3人の男子生徒も同じ気持ちで龍馬たちを見ていたのだった。

健「来たな、入部希望の新入生たちよ!」

男子生徒A「はい。よろしくお願いします」

男子生徒Aは軽く頭を下げた。

雁之助「おぉ、さわやかボーイの登場だ! なぁナミー」

南「…うん」

南は静かに答えた。南と雁之助は初対面のようだ。

龍馬「あの、ケンさん、彼らは誰なんすか?」

健「お前らと同じ、入部希望の1年だよ」

龍馬「1年! これはこれは初めまして」

龍馬は男子生徒たちに向かって軽く会釈をした。

男子生徒A「あ、あぁ、どうも」

男子生徒たちも会釈を返す。

健「何あわててんだよ? 早く準備しろって」

健たちがクスクス笑う。

龍馬「は、はい(^^ゞ」

龍馬はまたあわててチューニングに入った。

桐田「今日みんなセッションしに来たんだろ?」

男子生徒A「はい」

桐田「今あの1年が何か演奏してくれるんだって。悪いけど、セッションならその後でもいいかな?」

男子生徒A「はい、いいですよ!」

健「いい返事だなぁ。ガンちゃんじゃないけど、まさにさわやかボーイだ」

男子生徒A「いやぁ、さわやかだなんて…」

少し照れる男子生徒A。

健「そういや、自己紹介まだだったな。オレは甲本健。ケンって呼んでくれ」

健に続き、南と雁之助も自己紹介をした。桐田だけは前日に自己紹介を済ませていたので、この場ではしなかった。

男子生徒A「あ、自分は難波なんば隆太りゅうたっていいます。1年2組です」

男子生徒B「同じく1年2組、横山よこやま恒一こういちです」

男子生徒C「畑野はたのあきらです。オレも同じ2組っす」

健「ほぉ、じゃあみんな同じクラスなんだ」

難波「そうですね」

健「今準備してるあいつらもみんな同じクラスなんだよ。やっぱ同じクラスに音楽好きがいるとバンドなんか簡単に組めるんかなぁ」

難波「そうかもしれないっすね」

 それっきり、健は話すのをやめた。やめたというよりは、何かよさそうなアイディアが彼の中で浮かんだために自然と会話が途切れたという感じである。一方の難波は少し緊張気味だったので、そんな健の態度はまったく気にならなかった。

龍馬「ケンさーん! セッティングできましたぁー!」

龍馬たちのセッティングが済んだようだ。

 健は待ってましたとばかりに椅子から立ち上がり、こう言った。

健「リョウ、プレイすんのちょっと待ってくれ。なぁ、難波くんたちもチューニングしてもらっていいかな?」

難波「え? 何でですか?」

健「オレ今いいこと思いついた!」

龍馬「何すか、いいことって?」

健「わりぃリョウ、オレ今日お前らとセッションの約束したけど予定を変更するわ」

龍馬「え?」

健「リョウたち3人と難波くんたち3人がプレイして、上手かったほうとオレがセッションするってことにしてくれない?」

祐介「ケ、ケンさん、それって…」

健「そう。今から1年同士で“タイマンバンド演奏対決”をやってもらうのさ!」

難波・恒一・畑野「えぇぇ!?」

龍馬・祐介・延彦「マ、マジすかぁ!?」

部室にいた1年生全員が目を丸くして健に視線を集中させている。

桐田「おぉ、そりゃおもしろそうだな」

恒一「…で、ジャッジは誰が?」

健「もちろん、ここにいるオレらがやる!」

延彦「…まいったな、こりゃ」

思わず延彦の顔にも苦笑いが浮かぶ。一気に緊張が高まった証拠だ。

龍馬「まぁ、いいじゃねーか。どうせステージ上じゃ大勢の人間に見られるんだ。ここでビビッてたらバンドマンは務まらねーぜ」

健「お、いいこと言うなぁ。その通りだぜ、リョウ」

祐介「でもさリョウ、お前何気に緊張してない?」

龍馬「う、うるせーな! それはお前だって一緒だろ!」

龍馬は明らかに動揺の色を見せた。部室に笑いが起こる。

健「じゃリョウ、頼むわ」

龍馬「はい!」

 健の発案によって突然行われることになった、1年生同士による“タイマンバンド演奏対決”。この対決に勝利し、健とセッションできる権利を獲得するのは、果たして龍馬・祐介・延彦の3人か? それとも難波・恒一・畑野の3人か?


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