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The Great Punks  作者: 李中龍
2/14

Track 1:START TODAY②

 翌日――。

※「あー! おはよー!!」

教室に入ってきた龍馬と祐介にどこかで聞いたような黄色い声が出迎えた。

祐介「ん…? あ……」

声の主は昨日龍馬たちが助けた女子高生二人組だった。偶然にも同じクラスだったのだ。

女子高生1「おはよー!」

龍馬「あれ、二人とも同じクラスだったの?」

女子高生2「なんかそうみたいなのぉ~♪ あ、てか、昨日はありがとね」

龍馬「あ、あぁ、いいのよあれぐらい」

女子高生1「あの後大丈夫だった?」

祐介「う、うん。まぁね(^^;」

女子高生2「あ、おはよ~!」

突然、女子高生2が龍馬と祐介の背後に向かってまた黄色い声で手を振りながらあいさつをした。延彦が登校してきたのだ。

龍馬「あ、山崎くん」

延彦「おう……あれ?」

延彦も女子高生二人組に気づいて立ち止まった。

延彦「ビックリした~、二人とも同じクラス?」

祐介「なんかね、そうみたい」

女子高生1「三人とも昨日はありがとう。助かったよ」

延彦「あぁ、別にいいって」

女子高生2「キミらが来なかったらウチらマジでやばかったよね」

女子高生1「うん。あの人たちすごく強引なんだもん」

龍馬「いや、オレから見てもあれはヘタクソなナンパだと思う」

女子高生1「だよねー!」

祐介「てか、お前ナンパしたことねーじゃん」

龍馬「……」

龍馬は少しだけ赤面した。延彦と女子高生二人組に笑いが起こる。

女子高生2「てゆーかさぁ、キミら上加中かみかちゅうの沢村くんと佐山くんだよね?」

龍馬と祐介は一瞬驚いた。自己紹介もしていないのにどうして自分の名前を知っているのか。しかも出身中学校まで。

龍馬「そうだけど……何で知ってんの?」

女子高生2「ウチら氷川中の女バス(女子バスケットボール部の略)にいたの。そんでキミらのことしょっちゅう大会で見かけてたから」

女子高生1「二人とも去年の夏の大会で優秀選手賞とってたよね?」

祐介「うん、とったとった」

女子高生1「ウチら、上加中の試合は結構観てて、もうみんな釘づけだったよ」

龍馬「おいマジかよぉ! なんか嬉しいなー(^0^)」

一瞬にして舞い上がる龍馬。

 龍馬と祐介は、さいたま市立上加中学校のバスケットボール部に所属していた。実力もかなりのものだったので、二人は常にレギュラーでスターティングメンバーに起用されていた。昨年の夏に行われたさいたま市の大会では、チームを準優勝にまで導いたほどだ。

延彦「なんだ、お前らバスケ部だったのか。だけどすげーなー」

女子高生1「ね! すごいよね」

女子高生2「でも、決勝で大和田中に負けちゃったのは惜しかったね」

大和田中とは、上加中が夏の大会の決勝戦で戦った学校である。

祐介「あぁ、あれねぇ」

龍馬「外山とやまと長谷川にやられちゃったよな」

女子高生1「そーいえば外山くんも南陽入ったんだよ」

龍馬「え、マジ? 何組?」

女子高生1「確か…7組だったよ」

龍馬「そうかぁ……」

言うと、龍馬は遠い目をし、何気なく窓の外に目をやった。

女子高生2「ねぇ、名前何ていうのー?」

女子高生2が突然話を変え、延彦に名前を尋ねた。

延彦「オ、オレは山崎…だけど」

不意をつかれた延彦は、少し戸惑いながら答えた。

龍馬「強引に話変えるなぁ~あんた」

女子高生2「だってせっかく知り合ったんだもん、名前聞いとかないと」

祐介「てか、オレら、二人の名前をまだ聞いてなかったよね」

女子高生2「あ、ウチらの?」

女子高生1「そーいえば自己紹介してなかったね(^^ゞ あたしは松嶋まつしま美穂みほ。呼ぶ時は“美穂”でいいよ☆」

女子高生2「あたしは明子。本上ほんじょう明子あきこ。ごめんね、先に名前教えなくて」

龍馬「いいのよー( ̄ー ̄)」

 そうこう談笑しているうちに始業のチャイムが鳴り、ほぼ同じタイミングで菜々子が教室に滑り込んできた。

菜々子「おはようございます!」

まず菜々子は出席をとってから、今日の予定を告げた。

菜々子「えー、今日は校内見学をして、それの後にここでホームルームをやって、みんなはそれで終わりです。まぁ、だいたい11時半には終わるかと思います」

 この学校では毎年、新入生に自分の学校をより知ってもらうために、学校内の構造がどうなっているかを見学させている。

菜々子「…というわけで、みんなは指示があるまで教室で待機していて下さいね。あ、それから沢村くんと佐山くん、それに山崎くん、見学が終わったら職員室まで来てくれる?」

そう言い残して、菜々子は職員室へと戻っていった。龍馬と祐介、延彦はやはり、といった感じで顔を見合わせた。

祐介「バックレるか?」

龍馬「バカ言うな。入学早々美人教師に近づけるチャンスだぜ? 何でバックレんだよ」

祐介「ははは。バカはどっちだよ」


龍馬「失礼しまーす……」

龍馬はゆっくりと職員室のドアを開けた。

祐介「げっ」

菜々子はすでに龍馬たちを待ち構えていた。自分の席で腕組みをしながらこちらを見ている。

延彦「向こうは準備万端だな」

龍馬「ちょっと張り切りすぎじゃねーの…?」

龍馬は苦笑いを浮かべた。しかし菜々子は早くこっちへ来いという目でこちらを見続けている。しぶしぶ龍馬たちは奈々子の席へと歩み寄った。

菜々子「…キミたち、昨日あそこで何してたの?」

祐介「あそこ? あそこって、どこ?」

龍馬「さぁ……」

龍馬と延彦はとぼけて首をかしげる。ふざけて龍馬が自分の股間を指差して見せた。

祐介「あっ、そっちのあそこか!」

菜々子「バカなこと言ってないで答えなさい!(*`´*) あのゲームセンターの前で何してたのよ!」

龍馬「今“あそこ”に過剰反応したな。やっぱエロいんじゃねぇ~?(^▽^)」

菜々子「何言ってんのよ! あなたが変な所指差すからでしょ!」

龍馬「そんなのいちいち拾わずに流せばいいじゃんか」

菜々子「だって、目の前でやられたら誰だって反応しちゃうでしょ」

菜々子もムキになって応戦してきた。

龍馬「何でそこで反応しちゃうのよ~。まるでオレがセクハラしてるみたいじゃ~ん。もしかして“ごぶさた”とか?」

菜々子「関係ないでしょ! 何てこと言うのよ!」

龍馬「じょ、冗談だよ。そんなに怒るなよナナコちゃん」

菜々子「ナ、ナナコちゃん!? 何よその親しげな呼び方!」

菜々子は今、完全に龍馬におちょくられていると感じていた。そうでなければ初めからちゃん付けで呼ばれることはないだろう。

祐介「でも、“あそこ”で過剰反応するのは怪しいよな」

龍馬「まったくだ」

祐介「だけど、レディーに向かって“ごぶさた”はねーよ」

龍馬「え? だって……」

菜々子「そうよ! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」

菜々子の苛立ちも限界に達した。そんな菜々子の目を見た祐介が、まだ何か言いたげな龍馬を制し、ずいっと一歩前へ出た。

祐介「オレらは普通にゲームをしてたよ。別に悪いことじゃないでしょ? 午後6時前に帰れば何の問題もない」

祐介はそれ以上語らず、ただじっと菜々子を見据えていた。菜々子も祐介の目から何を感じたのかはわからないが、それ以上の詮索はしてこなかった。

菜々子「…わかったわ。キミらを信じるよ。ただ沢村くん、あんまり大人をからかうのはやめなさい」

龍馬「はーい」

面白くなさそうに返事する龍馬。そして龍馬は誰よりも早く踵を返した。祐介と延彦もそれに続く。


 放課後、帰ろうとしていた龍馬たちの所に少し心配そうな顔をした美穂と明子がやって来た。

美穂「ねぇ、さっき先生に何で呼ばれたの?」

祐介「え? いや、たいしたことじゃないよ」

明子「ウソ。昨日のことチクられたんでしょ?」

龍馬「い、いや、ホントにたいしたことないって」

龍馬は慌ててごまかす。

明子「ふーん……だったらいいけどさ」

明子や美穂から心配そうな表情が消えた。

美穂「ねぇねぇ、沢村くんと佐山くんは高校でもバスケやるの?」

この時期特有の、入りたい部活動の話だ。

龍馬「バスケねぇ…オレら高校でバスケはやらないつもりなんだ」

美穂「え? やんないの?」

明子「もったいなーい! キミらが入れば絶対強くなるのに」

祐介「そうなんだけどね…。でも別にやりたいことがあるから」

延彦「何やるの?」

龍馬「…バンド!」

美穂「え? バンド?」

明子「マジで? 何か楽器とかできるの?」

龍馬「オレはギターとボーカルで、ユースケはベース」

延彦「マジ? 実はオレも軽音入ろうと思ってたんだよ」

祐介「山崎くん楽器何できんの?」

延彦「ドラム」

祐介「ホント?」

美穂&明子「えー! すごーい!」

龍馬「すっげー偶然。もうバンド組めるじゃん」

祐介「音楽何聴いてる?」

延彦「んー…パンクとかへヴィ・ロックかな」

祐介「おぉ! オレもだよ!」

龍馬「オレも聴くぞ!」

美穂「すごい…」

明子「好みもそっくりだなんて」

龍馬「じゃあ決定だな」

祐介も延彦も異論はなかった。バンド結成の瞬間なんて、案外こういう感じなのかもしれない。

明子「でもさぁ、何でバンドやろうと思ったの?」

延彦「オレは、中2の時にドラム始めたんだけど、せっかくやってんだったらバンドでも組もうかなって思って」

祐介「オレは近所にミュージシャン志望の人がいて、よくその人ん家に遊びに行ってベース弾かせてもらってたんだ。そんで中2の終わり頃にリョウも来るようになって、3人でよく楽器いじって遊んでたよ」

龍馬「そうそう。その頃からオレはギターを弾き始めたんだよな。その人ギターもベースもうまかったもんな」

美穂「それでバンドやろうって?」

龍馬「いや、その時はまだ遊び程度にしか思ってなかったんだ。去年の夏休み、オレらが部活引退した直後なんだけど、そのミュージシャン志望の人がオレとユースケをライブに連れてってくれたんだ。なんでもその人の高校時代の後輩が出るっていうんで。どんなもんかと思って観てみたら、これがもうすごいのなんのって!」

龍馬の目が輝き出した。

美穂「どうだったの?」

龍馬「いやもう、一言でいえばカッコイイ! オレはライブを観るのはその時が初めてだったんだけど、みんな楽器を自在に操ってて意のままに自分を表現してて、それでいて演奏もうまくて……なんつーか、光ってたんだよね。たった数人の力で多くの人間の心を動かせるのかと思うと、なんだか無性にバンドがやりたくなってきちゃってさ」

祐介「そう。それでこいつ“オレはバンドでボーカルやる!”なんて言い出しちゃって」

龍馬「あぁ。あの時ボーカルの人にいちばん引きつけられちゃったんだよね(^^;」

美穂「へぇ~。相当カッコよかったんだね、その人」

龍馬「ああ。すげー人だよ。だからオレらは絶対南陽に入ろうと思ったんだ」

明子「何で? バンドだったら他の高校でもできるじゃない?」

龍馬「実はそのバンドの人たちはここの軽音楽部だったんだよ。あの時で2年っつってたから、今は3年だ」

明子「マジで? すごい偶然だね!」

龍馬「だろ? だからここの軽音楽部に入ろうと決めたってわけ」

美穂「なるほどねぇ~。じゃあバンド頑張らないとね! ちょうどメンバーもいることだし」

龍馬「あぁ、そうだね!」

延彦「じゃあさ、今から軽音の部室へ行ってみない? 早いとこ入部届出しちゃおうぜ」

祐介「そうだな」

龍馬たちは軽音楽部の部室へ向かうため教室を出ようとした。だが……。

龍馬「…てか、部室ってどこにあるの?」

祐介「……」

延彦「……」

みんな部室の場所を知らなかった。

龍馬「どうする…?」

祐介「あっ、そうだ、どっかに軽音楽部のビラが貼ってあんだろ。それ見れば場所が書いてあるんじゃねぇ?」

この時期はどこの部もこぞって新入生勧誘のためのビラを校内の至る場所に張り出す。

龍馬「なるほどな。んじゃビラを探そう」

龍馬たちは教室を出た。

 

 しかし、彼らの背後で話を盗み聞きする者がいた。昨日ゲームセンターでもめた上級生・男1だった。男1は携帯電話を取り出し、ボス格の男3に連絡した。

男1「金谷、あいつらが動き出したぞ」

金谷とは男3の名前である。

金谷『どこに向かってる?』

男1「なんか、軽音の部室行くって言ってたぞ」

金谷『軽音?』

男1「でも、部室がどこにあるかわかんねーみてーだぜ。今ビラを探しに行った」

金谷『あぁ、そのビラを見て場所を確かめようってんだな』

男1「だろうね。で、どうする?」

金谷『そうだな……』


 自分たちに不吉な影が忍び寄っているとは露知らず、龍馬たちは軽音楽部のビラを探していた。

龍馬「あったか?」

祐介「いや、ない」

壁には掲示物がたくさんあり、ビラを見つけるのは面倒な作業だった。

明子「なんかいっぱい貼り紙してあるからわかんないね~」

そんなことを言いながら探していると、美穂がそれらしきものを見つけたようで、龍馬たちを呼び寄せた。

美穂「ねぇ、これじゃない?」

その貼り紙には次のようなことが書かれていた。


軽音楽部 新入部員募集!

音楽をこよなく愛する人、バンドをやってみたい人、女の子にモテたい人

…などなど、軽音楽部に入りたい人集まれ!

初心者大歓迎!! 初めはみんな初心者です。心優しい先輩たちがしっかり教えてくれます。

場所は校舎1階の一番西側・隣に美術室とかがある所だよ!

毎週水曜日はミーティング!

それ以外の曜日でも誰かしらいるので気軽にどうぞ!

最高のステージを、あなたに約束します。


龍馬「これだ!」

延彦「1階のいちばん西側か」

龍馬たちは軽音楽部の部室に向かって歩き出した。龍馬・祐介・延彦の三人は胸を躍らせながら先を歩く。その後を美穂と明子が続いて歩く形になった。だが、前の三人はだんだんテンションが上がってきたせいか、歩行速度が次第に上がっていった。そのため必然的に美穂と明子との距離が遠くなっていった。

美穂「も~、歩くの早いよぉ~」

もはやそんな声も龍馬たちには聞こえていない。明子が「まったく、しょうがないねぇ」と言おうとしたその時だった。

 目の前にあった教室の出入り口の陰に隠れていた二人組の男が突然、美穂と明子の前に躍り出た。美穂と明子は不意をつかれたため声が出なかった。二人のうち一人は覚えている。昨日自分たちを引っかけようとした男1だ。もう一人はわからない。すかさず男1が美穂の左腕をつかむ。

美穂「きゃあ!」

美穂の悲鳴に反応し、龍馬・祐介・延彦の三人がいっせいに後ろを振り返った。美穂と明子が男たちに拘束されている。

龍馬「お前は……」

男1「“お前”じゃねーだろ! 誰にクチ聞いてんだ!」

龍馬「ケッ、まーた先輩ぶってやがる。つーかよ、それ何のマネだ? まさか刑事ドラマごっこじゃねーよな?」

男1「くぅぅ……なめやがって! ちょっとツラ貸せ! 先輩としててめーらを指導してやる!」

祐介「あぁ? 指導だぁ?」

男1「こいつらがどうなってもいいのか!」

男1が、つかんでいた美穂の左腕を強引に自分のもとへ引き寄せる。

美穂「あぁっ!」

美穂の顔が痛みで歪む。

龍馬「…くそっ、わかったよ。ちょっとだけつきあってやるよ。だから乱暴はよせ」

男1「よ…よーし、それでいいんだ。ついて来い!」

男たちは美穂と明子を捕まえたまま歩き出した。


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