第1話:始まり
「うわ、終電逃した...」
新卒で大手企業に就職して3年、上司や先輩からどんどん仕事を押し付けられて残業する日々を送っている。
"鳴海くん、それ終わったら次これね。"
"この資料、明日までに作成しといて。じゃ、頼んだよ。"
"あれ?今日はもう仕事終わったの?それじゃあ、このデータまとめといて。俺、今日用事あってもう帰らないといけないからさ。"
対人関係が苦手で、入社1年目の時に断れず色々引き受けてからは何かと仕事を頼まれる(押し付けられる)ことが多くなった。
最近はデスクに無言で仕事を積まれることも多々ある。
「はぁ〜。仕事も終わんないし今日も泊まりかぁ〜。」
もう上司も同僚もとっくに帰ったため今オフィスにいるのは俺1人。 独り言を言ってもそれを気にする人もいない。もうここ一週間ほど家に帰れていない。
「肩こりやべぇ〜。ちょっと休憩するか...」
そんな俺が唯一生きがいとしているのがファンタジー小説を読むことだ。本当なら定時で帰って家でゆっくり読みたいところだがデスクに山積みの仕事が俺を帰してくれない。ちなみに自分の分の仕事は定時で終えているので今あるのは全て上司や先輩の仕事だ。
タイムカードも上司によって既に定時で切られているので今はいわゆるサービス残業と言うやつだ。
「俺もトラックに跳ねられたら異世界に行けたりしないかな。もしくは今すぐ各地でダンジョンが発生して俺にも能力が覚醒したりしたら今すぐこんな会社辞めるのに...。」
小説を読んでいる時だけは現実を逃避できる。上司から理不尽にしこたま怒られても、先輩に無理な量の仕事を押し付けられても、同僚から様々な陰口を言われても、小説を読めば嫌な気持ちを忘れられる。
「なんか面白い小説ねーかな...」
異世界ものやダンジョン攻略などの小説にハマったのが高校生の時。それから今に至るまで様々な小説を読んできたため今見てるサイトもほとんどの作品が閲覧済みだ。
「最初からチートで無双するのも面白いし、雑魚からの成り上がりでやな奴らをブッ倒すのもスカッとするよな〜。後は強いのに正体を隠して平凡なフリするのもいつバラすのかワクワクするし、設定が凝ってるのも読んでて飽きないからいいんだよな...。」
タグで検索してサイトを漁るがめぼしいものは既に読んでいてなかなかこれだという小説を見つけられない。
「あー誰か全部盛りの小説を書いてくれ〜。小説がないと俺は何を楽しみに生きればいいんだ〜。」
結局、読みたい小説が見つけられなかったのと十何時間もパソコンと向き合っていたせいで目と頭が痛いのもあって椅子の背もたれに全体重を預けて脱力する。
「んぁ?パソコンの見すぎで天井にまでパソコンの画面が見える...?」
ぼーっと天井を見ているとそこには透明な青色の画面が表示されていた。
【試練を受けますか?】
そのままボーッと見つめていると次第に文字が現れた。
「試練ッ!?」
ガバッと身を起こし、目をこすってもう一度天井を見てみる。
【試練を受けますか?】
何度見ても確かにそう書いてあった。
「あれ、いつの間に俺寝たんだろ...。異世界に行きたいとか思ってたからこんな夢を見てんのか...?」
自分で自分の頬をつねってみるが普通に痛いし、目の前にはまだ画面が表示されたままだ。
「これは夢か現実か...。でもま、夢でもいいや。こんなチャンス滅多にないだろうし、もちろん試練は受けます!」
天井の画面に向かって宣言すると文字が変化した。
【レベルを選択できます。レベル1~10の中から選んでください。】
「レベル?あー、なるほどね。レベルが上がる事に試練の難易度も上がるってやつか。小説で五万と見た。こういうのは最高レベルを選ぶのがお決まりだよな!」
迷わずレベル10を選択する。するとまた画面の文字が変わった。
【攻略可能性が1パーセント以下です。失敗した場合死亡し再挑戦はできません。それでも挑戦しますか?】
「攻略できなきゃ死ぬ?そんなの当たり前じゃん!そうでないと面白くない。それに特段生きたい理由もないし、死んだらそれまでって事で挑戦します!」
【Yes】を選んだ瞬間、画面が真っ白に輝き目を開けていられないほどの光を放った。そして光が収まった時にはオフィスには誰もいなくなっていた。
同時刻、世界中で同じ現象が多発し人口の約1000人に1人が行方不明となった。




