第7話 トイレに値段をつける日
簡易トイレと生理用の布は、もう珍しいものではなくなっていた。
朝になると、トイレの前に列ができる。
洗い場では、女性たちが布をすすいでいる。
街の風景が、確実に変わっていた。
だが――
「壊れてるぞ!」
誰かの怒鳴り声がした。
見に行くと、扉の木材が外れ、便槽の縁も割れていた。
「誰が直すんだ?」
「知らねえよ」
問題は、ここだった。
作ったのは俺。
でも、使っているのは街のみんな。
責任の所在が、あいまいだった。
「……ずっと俺が直すのは無理だ」
俺が言うと、リナも頷く。
「恭平が倒れたら、全部止まるよ」
そこで、集会を開いた。
トイレの前に人を集め、俺は言った。
「これ、使い続けるなら――管理する人が必要です」
「管理?」
「掃除、修理、紙の補充。誰かがやらないと、すぐ使えなくなる」
ざわつく。
「じゃあ、誰がやるんだ」
「……金を取る気か?」
その言葉に、空気が一気に硬くなった。
俺は正直に言った。
「少し、もらう必要がある」
「無料じゃないのか!」
「今までは、俺が勝手にやってただけです」
沈黙。
誰かが言った。
「金を払うほどのものか?」
俺は答えた。
「汚物を道に捨てなくていい。服を汚さなくていい。病気も減る」
それでも、反発は出た。
「今まで、タダだった!」
「急に金取るな!」
そのとき、あの年配の女性が前に出た。
「……私は払うよ」
「婆さん」
「若いころ、生理のたびに仕事を休んだ。汚れて恥ずかしかった」
周囲が静かになる。
「これがあれば、私はもっと楽だった」
若い女性も言った。
「私も。少しなら、払えます」
結果――決まった。
利用は有料。
一回、銅貨一枚。
その金は、
・掃除する人
・修理する人
・布を作る人
に回す。
管理役も決めた。
元は修繕屋の男だ。
「壊れたら、俺が直す」
初めて、トイレは“俺の発明”じゃなくなった。
“街の施設”になった。
数日後。
トラブルは起きた。
「金払ってないぞ!」
「ちょっとくらいいいだろ!」
揉め事は絶えない。
それでも、管理役の男が言う。
「払わないなら、使うな」
最初は不満だらけだった。
だが――
汚れた道は減った。
悪臭も減った。
病人も減った。
誰も、元の生活には戻りたくなかった。
夜、リナが言った。
「ねえ、恭平」
「ん?」
「トイレってさ……」
「うん」
「権力だね」
俺は苦笑した。
「人間、出すものは止められないからな」
便利な道具は、
やがてルールを生む。
ルールは、
責任を生む。
そして責任は、
争いも生む。
異世界トイレ改革は、
ついに――
“政治”の領域に足を踏み入れた。




