第6話 量産とトラブル
裁縫のできる人たちが集まり、生理用の布づくりは本格的に始まった。
市場の裏の空き家を借り、作業場にした。
「ここを切って……綿はこのくらい詰めて……」
「なるほど、こうかい?」
年配の女性も、若い女性も、真剣な顔で針を動かす。
最初のうちは、順調だった。
だが――三日目。
「恭平、布が……」
リナが困った顔で言う。
「もう、残りこれだけ」
布の山は、見る影もなく減っていた。
「市場で買い足せば……」
「もう、いい布は売り切れてる」
考えてみれば当然だ。
服を作るための布と、俺たちが使う布は同じ。
需要が増えれば、すぐ枯渇する。
(量産の壁、第二段階……)
さらに問題は続いた。
「洗う水が足りない」
誰かが言った。
「乾かす場所もない」
確かに、再利用が前提の道具なのに、水と場所がなければ意味がない。
簡易トイレはできた。 だが、洗濯場までは考えていなかった。
「……トイレだけ作っても、ダメだったか」
俺がつぶやくと、リナが首を振った。
「ううん。気づけたんだから、進んでるよ」
そんなときだった。
作業場の入口で、腕を組んだ男が立っていた。
「……お前が、変な布を広めてるって奴か」
商人風の男だ。
「その布のせいで、紙が売れなくなった」
ああ、そういうことか。
紙を売っている商人にとって、生理用品は“商売敵”だ。
「困るんだよ。市場の秩序が」
「困るのは、使ってる人たちです」
俺ははっきり言った。
「紙は一回きり。これは洗えば何度も使える」
「それでも、勝手に広めるな」
男は吐き捨てるように言って去った。
作業場に、重たい空気が残る。
「……反対する人、出てくるよね」
リナが小さく言う。
「便利なものは、誰かの不便になる」
それでも――やめる理由にはならなかった。
その夜、俺は新しい案を出した。
「古着を集めよう」
「え?」
「破れた服とか、使えない布。切って使う」
「……それなら、あるかも」
翌日から、俺たちは呼びかけた。
「着られなくなった服、ください!」
意外にも、すぐ集まった。
「捨てるつもりだった」
「ボロだけど、いい?」
「十分です」
水の問題は、簡易トイレの近くに溝を掘り、洗い場を作ることで少し改善した。
完全じゃない。
でも、止まらない仕組みにはなった。
数日後。
再び商人が来た。
「……売れ行き、落ちた」
「でも、街は楽になってます」
男は黙った。
そして、ぽつりと言う。
「……布、仕入れられる」
「え?」
「安い端切れなら、回せる」
敵になると思っていた相手が、協力者になった瞬間だった。
その夜、リナが言った。
「ねえ、恭平」
「ん?」
「これ、もう発明じゃないよね」
「……仕組みづくりだな」
トイレを作った。
紙を作った。
布も作った。
でも本当に難しいのは―― それを回し続けることだった。
異世界トイレ改革は、 いま―― “街の問題”になり始めている。
それはつまり、 “俺たちの勝手な思いつき”から、 “街の未来”に変わりつつあるということだった。




