第5話 街の女たちと試用会
簡易トイレが街に定着し始めたころ、俺はリナと一緒に、もう一つの挑戦を始めていた。
布と綿で作った、生理用の試作品。形はまだ不格好だが、機能は少しずつ整ってきている。
「ねえ、恭平。これ……他の人にも使ってもらうの?」
「ああ。リナだけの問題じゃないだろ」
リナは少し考えてから頷いた。
「……たしかに」
俺たちは市場の片隅に布を広げ、声をかけた。
「生理のときに使える布を作りました。試してくれる人はいませんか?」
最初に立ち止まったのは、年配の女性だった。
「わたしゃ、もうとっくに閉経しちまったけどね、 そんなもの、今までも布を当てていたよ」
「でも、これは形を整えてあって、ずれにくいようにしています」
女性は半信半疑で手に取る。
「……なるほど。紐で留めるのか」
次に来たのは、若い女性だった。
「これ、洗って使えるんですか?」
「はい。何度でも」
「それなら……いいかも」
数人に試してもらい、夕方に集まった。
「どうでした?」
「悪くないわ。歩いても、あまりずれなかった」
「服が汚れにくいのは助かります」
だが、問題も出てきた。
「重い」 「乾かすのが面倒」 「数が足りないと困る」
なるほど。
使い心地は及第点だが、数が必要だ。
「一人につき、何枚くらい必要ですか?」
「……五枚くらいかな」 「できれば、もっと欲しい」
俺は頭を抱えた。
(量産……だな)
日本なら機械で一気に作れる。
だが、ここでは一枚ずつ縫うしかない。
リナがぽつりと言った。
「これ、あたしたち二人じゃ無理だよね」
「ああ。手が足りない」
そのとき、若い女性が言った。
「裁縫なら、できる人、街にたくさんいますよ」
「……本当か?」
「ええ。服の修繕で生計立ててる人もいます」
俺の中で、次の段階が見えた。
「じゃあ……作る人を増やせばいい」
「仕事にもなるしね」
リナが笑う。
「トイレ作って、生理の布作って……恭平、すごいね」
「いや、すごいのは“必要だった”ってことだ」
その夜、俺は簡易トイレの横で、布の型紙を作った。
誰でも同じ形で作れるようにするためだ。
「……文明って、道具だけじゃなくて、作り方も広めることなんだな」
翌日から、俺たちは裁縫ができる人を集め、作り方を教えることにした。
布を切る。
綿を詰める。
紐を縫い付ける。
簡単だが、意味は大きい。
トイレができた。
紙ができた。
生理用品ができた。
そして今、それを「広める」段階に入った。
リナが言った。
「これ、街が変わるよね」
「ああ。少しずつな」
異世界トイレ改革は、
もう“俺とリナだけの話”じゃなくなっていた。
便所地獄だったこの街は、
今、確実に――
“改善される場所”になり始めている。




