第4話 布と血と、改良の始まり
簡易トイレが街に受け入れられ始めた翌日、俺は別の作業に取りかかっていた。
床に並べたのは、古着屋で集めた布切れだ。
「……まずは、これを重ねる」
布を三枚、四枚と重ね、中央を少し厚くする。
両端には紐をつけ、腰に固定できるようにする。
見た目は不格好だ。
だが目的ははっきりしている。
「血を受け止めて、服を汚さない」
リナが横から覗き込む。
「それ、生理のやつ?」
「ああ。仮の形だけどな」
「ふーん……」
リナは特に恥ずかしがる様子もなく、ただ興味深そうに眺めている。
この世界では、生理も排泄も生活の一部だ。
隠すものじゃない。
「じゃあ、これ……使ってみる?」
「試すしかないだろ」
リナは少し考えたあと、あっさり頷いた。
「うん、いいよ」
数時間後。
リナは歩きながら、何度か腰に手を当てていた。
「どうだ?」
「……うーん」
「ダメか?」
「吸ってはいるけど、ズレる」
なるほど。
固定が甘い。
「あと、厚いところと薄いところがあって……違和感ある」
「重ね方が雑だったな」
俺は布を見直す。
吸う量より、形と固定が重要だ。
「股のところを細くして、中央を少し厚くするか……」
「あとさ」
「ん?」
「これ、洗えるよね?」
「ああ。洗って繰り返し使える」
「それなら、悪くないかも」
俺は少し安心した。
使い捨てじゃなく、布で再利用。
この世界には合っている。
だが問題は吸収力だ。
「もっと吸わせるには……」
頭の中で、日本の構造がよぎる。
綿、繊維、層構造。
「布の中に、柔らかい綿を入れたらどうだ?」
「綿?」
「中をふわふわにする」
市場で綿を探し、布で包む。
中央を厚くして、形を整える。
第二試作。
「……どう?」
「さっきよりいい」
「ズレは?」
「減った」
リナは素直に評価する。
「でも、ちょっと大きい」
「改良の余地ありだな」
俺はメモ代わりに木片に印を刻む。
・固定方法
・厚み
・吸収力
・洗いやすさ
日本なら工場で一気に作れる。
だがここでは、一つずつ手作業だ。
「恭平ってさ」
「ん?」
「なんで、そこまで真剣なの?」
リナの問いは素朴だった。
「……困ってるって言ってただろ」
「それだけ?」
「それだけだ」
嘘じゃない。
不便を放置する方が、俺には耐えられない。
その夜、簡易トイレのそばで、試作ナプキンを干しながら、俺は考えた。
トイレを作る。
紙を作る。
生理用品を作る。
全部、同じだ。
「……出るものを、ちゃんと受け止めて、処理する」
文明って、そういうところから始まる。
リナが言った。
「これ、街の女の人にも使ってもらえるかな」
「使ってもらうさ」
「そっか」
リナは空を見上げる。
「便利になるって、悪くないね」
「ああ」
小さな布切れ一枚。
だが、それはこの世界の常識を変える道具になる。
トイレから始まった改革は、
今、生理という“別の不便”へと広がっていた。
俺の異世界での仕事は、まだ終わらない。




