第2話 簡易トイレ試作の挑戦
朝の光が石畳を照らす。木造の建物から漏れる煙の匂い、馬車の軋む音、人々の話し声──すべてが異世界の朝だ。俺──森下恭平は、昨夜の出来事を思い返していた。
リナの言葉。「おしっことか、生理の時もちょっと不便なんだよね……」
あの瞬間、胸の奥で決意が固まった。俺はこの世界でも、日本の常識に近い衛生環境を作る。まずはトイレだ。
だが、現実は厳しい。ここには水洗も洋式も紙もない。材料も限られている。あるのは木材、布、金属の部品の断片、井戸水、それに街の住民の知恵だけだ。
俺はリナと一緒に街を歩きながら、材料を探すことにした。
「ねえ、恭平。どんなトイレを作るつもり?」
リナが興味津々に聞いてくる。恥ずかしがる様子は全くない。ただ不便なだけで、改善したい気持ちは強い。
「まずは、座れる形にして、水を流せるようにする。あと……紙も使えるようにしたいな」
俺は頭の中で設計図を描く。木の箱を土台にして、便座を設置する。下には簡易の水槽を作り、バケツや水車で水を流す仕組み。紙は手元の布や古い布を加工して使う。
「……なるほど。なんだかすごく本格的だね」
リナは目を輝かせる。俺も自然と笑みがこぼれた。作る理由は一つ。リナの困りごとを解決するためだ。
街を歩きながら、俺は材料を集める。木材は建物の解体現場や市場で手に入る。布は古着屋や裁縫屋、金属片は鍛冶屋で譲ってもらう。井戸水はもちろん、街の井戸から汲む。すべて限られた範囲での工夫だ。
「これでどうかな……」
俺は木材を組み合わせ、簡易の便座を作る。まだ高さは低いが、座れる形にはなった。リナが座って試す。
「おお……座れる! これだけでも全然違う!」
その言葉で胸が熱くなる。俺の頭の中で、水を流す仕組みの計算を始める。水圧、流量、便器の傾斜──すべて正確に設計しないと、逆流したり水がたまったままになったりする。
最初の試作では、バケツの水を流すだけだった。便器の傾斜や水の流れを微調整しながら、何度も水を流す。リナは飽きずに見守ってくれる。
「恭平、あの……これって……生理の時も使えるの?」
「もちろん。座れるし、下に水があるから、少しは清潔に保てるはずだ」
俺は実際に布を加工し、手作りの紙として使えるようにした。まだ不十分だが、座るだけで大幅に改善される。
午後には、さらに工夫を重ねる。便器の周囲に布を固定して、ある程度プライバシーを確保。小さな木の扉も付けた。便座の高さを調整し、座りやすくする。水を流す時は、リナが小さなバケツを使って手で操作する簡易水洗式だ。
完成した試作トイレを見て、リナが嬉しそうに笑う。
「すごい……これなら、少しは楽になるね」
「まだ完璧じゃないけど、これで我慢しなくて済む。少しずつ改良していこう」
リナは頷き、俺に材料や使い方を教えてほしいと頼んでくる。俺は丁寧に説明する。座るときの姿勢、紙の使い方、水の流し方──どれも日本で普通に行っていたことだが、この世界では革新的な知識だ。
夕方になるころ、俺は完成した簡易トイレの前でリナと並ぶ。
「これからは、街の人にも見せていこうと思う」
「え? みんなに?」
「もちろん。衛生環境は、一人のためじゃなく、みんなのためにあるものだから」
リナは小さく頷いた。顔には期待と好奇心が混ざっている。俺も自然と背筋が伸びた。ここから、異世界でのトイレ改革が本格的に始まる。
夜になり、街の灯りがぼんやりと石畳を照らす中、俺は簡易トイレの設計図を広げ、次の改良点を考えていた。
「もっと衛生的に……もっと快適に……」
リナの困りごとを解決するために、俺の知識と技術を使う。水洗、洋式、紙、そしてウォシュレット……夢は大きい。だが、一歩ずつ形にしていくしかない。
異世界の便所地獄から始まった俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。今日の試作は小さな一歩。だが、リナの笑顔を守るため、俺は進み続ける――トイレ改善の道を。




