ふざけんなよぉ!!(涙声)
腹の底から出した声は、思いのほか大きく響いた。
これまで落ち着いて話を聞いていた私が急に大声を出して驚いたのか、国王たちが一斉に顔を上げて、呆然と私を見る。
でもそんなことも気にならないほど、今の私は激情に呑まれていた。
感情のままに勢いよく立ち上がって、国王を見下ろす。
「世界を救うって、どうして私を喚んだのよ!!」
喉の奥がビリビリと震えるほどの大声で怒鳴ると、ずっと無表情だった国王が微かに目を瞠った。
目をかっ開いて凄む私は、きっとすごい顔をしているんだろうな。そんな場違いなことを思いながら続けて叫ぶ。
「どうして!? 私は今の仕事が好きで、毎日の生活に満足してた!! 職場にだって恵まれてて、不満なんてなかった……!!」
脳裏をよぎっては消えいく、毎日の記憶。
仲のいい同僚や優しい上司、生意気だけど憎めない後輩。話しかけるたびに見せてくれる、彼らの暖かな笑顔。
取引先との打ち合わせが終わった後、上司に奢ってもらった美味しい料理。誕生日にサプライズでもらったプレゼント。昇級を告げられた時の喜び。
……全部、私の大切なものだ。
なのにコイツらは、それに二度と触れられないと言うのか。
「どうして戻る方法ができてから喚び出さなかったのよ!! こんなんじゃただの誘拐と変わらないじゃないっ!!」
世界を救うとか言ってても、彼らのやっていることはただの誘拐。受け入れられるわけがない。
ましてやこの世界に来る際、私は五感を失うという恐怖体験を経験している。
世界に自分一人……いや、自分さえも消えてしまったのではと思うような恐怖。
思い出すだけで身体がカタカタと震える。
……あんな思いをするくらいなら、異世界なんて来たくなかった。
「私を元の世界に帰してよ!!」
帰してよ。ねぇ、できるでしょう? 国王サマ。だって異世界から私を喚び出せるんだもの。帰す方法だってあるに決まってる。ほら、今ならゲンコツ一発で勘弁してあげるから、さぁ。
あるって言いなさいよ。
「っ、ひっ……ふ、ぅぅ……っ」
心が限界に達したのか、頬に冷たい感触が伝った。
触れてみると指先が濡れた。どうやら私は泣いているらしい。
何度も指で拭うが、涙は止まってはくれない。ぽろぽろと顎を伝って滴り落ちる雫が、服に小さなシミを作った。
ひっく、と喉から嗚咽か漏れる。
「おねがいだから……帰してよぉ……っ」
もう、限界だった。
どうして私なの。なんで私なんかを喚んだの。そんな言葉ばかりが口から零れ落ちていく。
私じゃなくてもよかったでしょう。もっと私よりも才能のある、英雄願望のある少年でも喚べばよかったのに、なんで。
私が世界を救うなんて、無理な話だ。
どれだけおだてられても、あなたしかいないと懇願されても、無理なんだ。
だって私は、慈悲深い聖女でも勇気ある勇者でもなくて。
私は―――マフィアなのだから。




