前編
まだ薄暗い、冬の朝早くのことでした。
太陽が顔を出す方から、一羽のペリカンが優雅に羽ばたいて飛んできました。
ペリカンのアウロは、湖の向こうの村の中心に静かに降り立ちました。
アウロは大きく息を吸い込んで、白い息を「ふう」と吐き出しました。
その日の朝はとても冷え込んでいました。掲示板の周りには霜柱ができていて、キラキラとしていました。
アウロは冷たさを我慢しながら、ザクッザクッと音を立てながら霜柱の上を歩きました。
「ふふふっ」
霜柱の楽しい感覚に、アウロは思わず笑ってしまいました。
そして掲示板の前までやってくると、丁寧に新聞を貼りました。
できあがりを確認すると大きく頷き、アウロは大きな羽を広げて日が沈む方へ飛び立ちました。
新聞は『今年のニュース総まとめ』というタイトルとともに、ニュースの振り返り記事が大部分を占めていました。
そして、『赤い星近づく!天文台が調査中』という見出しの記事が、新聞の隅に小さく書かれていました。
村人たちは、年の瀬らしいニュースを見ながら今年を振り返りましたが、赤い星については、気にも留めませんでした。
ただ一人を除いて――。
熱心にその記事を読んでいたのは、村の学校へ通うこぐまのポランでした。
初めての天体ニュースを読み、ポランは胸がドキドキしました。
「赤い星……もしかして!」
何度もニュースを読みたくて、登校する時と下校する時に必ず掲示板へ立ち寄るのが、ポランの日課になりました。
そして、家に帰ると暖かい暖炉の前で寝そべりながら、クリスマスに買ってもらった星の図鑑を眺めて過ごすのでした。
村人たちが、慌ただしくも穏やかに、新年を迎える準備を始めた頃。
朝早く、アウロが次の新聞を持って、バサバサと羽音を立てながら町へやってきました。
「どうしよう。大変だ、急がなきゃ……」
アウロは、大きな体を左右に揺らしながら、ペッタンペッタンと足早に歩きました。
「ひゃあ、冷たい!」
地面は凍っていて、とても足をつけていられません。
さらにアウロは、足を早めました。
そして、急いで掲示板に新聞を貼り、できあがりを確認することもなく飛び去りました。
新しい新聞は、斜めにずれて貼られていました。
ポランは、今日も学校へ行く途中に、掲示板へ立ち寄りました。
新聞の前にはいつもと違い、人だかりができていてザワザワとしていました。
ポランが背伸びをして覗くと、新しい新聞の見出しがちらりと見えました。
見えた単語にポランは目を輝かせ、村人たちをかき分けて新聞の前まで進みました。
新聞には、このように書かれていました。
『赤い彗星大接近!不吉の前振れか!?
天文台によりますと、数日前に姿を現した赤い星は『彗星』と判明しました。
本誌では、この彗星を『炎のしずく』と名付けることにしました。新しい情報が入り次第、すぐにお伝えいたします。
古くから彗星が現れると、大きな台風がきたり、食べ物が採れなかったりしたとの記録が多くあります。今回も不吉の前振れではないかと、人々は不安に襲われています。
特に、この赤い彗星の観測後は、大きな地震や戦の記録があり――』
新聞のトップニュースは、あの赤い星の続報でした。
集まっていた村人たちも「来年は不作になるのか?」「備えはどうする?」と早くも不安でいっぱいのようでした。
ポランは、新聞を食い入るように読んでいて、すっかり登校中だということを忘れていました。
「ポラン、いいのかい?もうすぐ学校が始まるぞ」
近所のおじさんの声に気づいたポランは、教えてくれたお礼を言って、急いで学校へ向かいました。
ポランが教室に入ると、ちょうどチャイムが鳴り始めたところでした。
教室でも、彗星の話でもちきりです。
担任のリオが教室に入ってきても、なかなか静かにはなりませんでした。
「先生、彗星は大きな火の玉って本当ですか?」
「怖いことが起こるの?」
クラスのみんなは、次々に先生へ質問を投げかけます。
「はい、静かに、静かに。みんなの不安は分かるが、まだ彗星のことは分かっていないことも多いんだ。あまり不安になることはないよ」
「本当かなあ……」
「それでも怖いよね……」
「さあ、授業を始めるよ。教科書の――」
その日、ポランは窓際の席で、空を眺めながら考えごとをしていました。
「彗星……いつ来るんだろう?」
ちっとも黒板を見ていないことに先生が気づき、注意されてしまいました。
学校が終わり、みんなは足早に帰っていきましたが、ポランは空を見上げながら、ゆっくり歩いていました。
「ポラン、早く帰ろうよ。彗星怖くないの?」
心配そうに声をかけてきたのは、ライオンのレオンでした。
「大丈夫だよ、レオン。僕、知ってるんだ。彗星は怖くないって」
「どうして?パパもママも――大人たちは、みんな怖いって騒いでいるじゃないか。僕も怖いよ」
「クリスマスプレゼントでもらった図鑑に書いてあったんだ。彗星が来た後、良いことが起こった時もあったんだって」
ポランは早口で続けました。
「彗星は、『女神様からの贈り物』とか、『天に撒かれた宝石』と呼ばれていたこともあるんだって。赤い彗星はルビーで、女神様の暖かい心が宿ってるって」
レオンは手を前に出し、落ち着いてと合図をしました。
「わかった、わかったよ……。ポランは、案外神話を信じるんだね」
「あたりまえだろ?星たちにはたくさんの神話が宿ってるんだから。例えば、北の星は――」
ポランの星への憧れは止まりません。
「うんうん、また明日聞くよ。僕こっちだから、じゃあね。早く帰るんだよ」
「また明日ね」
ポランとレオンは、それぞれ家に帰っていきました。




