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映像制作集団 十月十日(とつきとおか)  作者:


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10/10

最終話 カメラの前に立つ日

十月十日の事務所に、

一枚の古いフィルム写真が置かれた。


そこには、

お腹の大きな女性が笑っている姿——

そしてその女性の隣には、若い頃の瀬戸要がいた。


写真を見つめ、

要は静かに呟いた。


「……母さん」


十月十日のメンバーが息をのむ。


芦原監督が尋ねた。


「要さん……まさか」


要はゆっくりと頷いた。


「僕の母さんの妊娠記録……

撮っていたのは、父だったんです。

でも、その続きを僕は知らないまま来てしまって」


城戸が写真の裏を見て、小さく声を上げた。


「……“十月十日のはじまりの日”って書いてある」


十月十日が生まれる“種”は、

実は要の家族の中にあったのだ。


そして要は、

静かに依頼を口にした。


「この最終話……僕の“はじまり”を撮ってほしいんです。

十月十日という集団の、原点として」


メンバー全員が、

静かに頷いた。


「依頼者:瀬戸要」

最終話はそうして始まった。


撮影初日。

芦原監督は要に言った。


「今日は、あなたに“向けるカメラ”ですよ」


要は苦笑した。


「慣れませんね……僕はいつも撮る側だから」


だがその表情には、

どこか覚悟のようなものがあった。


十月十日のメンバーは、

要の実家へ同行した。


古いアルバム。

小さな手紙。

そして父が撮っていた8mmフィルム。


真理と修平、ひなたと光、

これまでの依頼者たちの映像と同じように、

要の“家族の記録”もまた、

温かく、そして不器用な愛に満ちていた。


芦原監督は感嘆した。


「要さん……あなたの父も、この十月十日の“初代メンバー”みたいな人だったんですね」


要は静かに笑った。


「父は結局、僕が生まれる前——

撮影の途中で亡くなりました。

だから……僕はこの“未完成の記録”をずっと見られずにいました」


千夏はそっと言う。


「だから、あなたは“記録する側”になったんですね」


要は目を閉じ、小さく頷いた。


要の母・小夜子は、現在は施設で暮らしていた。

認知症が進んでいて、会話はところどころ途切れる。


だがカメラが回ると、

小夜子は要の顔を見つめて言った。


「……あなたのお父さん、

あの子を撮る時、ほんとうに幸せそうだったのよ」


要の目に涙が浮かぶ。


「母さん……父さんは……

僕のこと楽しみにしてくれてた?」


小夜子はゆっくりと手を伸ばし、

要の頬に触れた。


「ええ。

“この子を迎える十月十日は、宝物だ”って」


十月十日の全員が、

息を飲んでその言葉を聞いた。


最終話の撮影では、

十月十日のメンバー一人ひとりが

カメラの前で語る場面があった。


芦原監督

「要さんはいつも“誰かの不安”に気づく。

その理由……やっと分かった気がします」


森川千夏

「撮ることって、寄り添うことなんですよね。

要さんはずっとそれをしてきた人」


城戸

「編集してる時、分かりました。

要さんの記録は全部……

“誰かの未来のため”に撮ってる映像なんです」


メンバー全員が、

要が“この仕事に人生を重ねてきた理由”を理解していた。


城戸が古い8mmフィルムを修復し、

プロジェクターで映した夜。


そこには——

生まれ来る子を想い、

笑顔でカメラを構える要の父の姿。


そのカメラの先には、

お腹を撫でながら微笑む小夜子。


そして映像の最後、

父はカメラに向かって静かに言う。


「いつかこの子が、

誰かの人生を照らす人になりますように」


要は両手で顔を覆った。


「父さん……

あなたの願い……

僕、叶えられていますか……?」


十月十日の仲間たちが、

そっと要の背中に触れた。


「——叶えていますよ」



◆ 完成映像


『十月十日 —瀬戸要のはじまり—』


ラストシーンは、

要が施設の母の手を握り、

小さく微笑む姿。


画面は静かにフェードアウトし、

一文が浮かぶ。


「記録することは、

 誰かの痛みと喜びに触れること。

 十月十日は、その願いから始まった。」


エンドロールでは、

これまで撮影してきた家族たちの笑顔が

モンタージュで流れる。


それは、

要が“照らしてきた命”の証だった。


カメラが止まった後。

要は仲間に向かって静かに頭を下げた。


「……ありがとう。

僕の物語まで撮ってくれて。

これでやっと、十月十日が“ひとつの物語”になりました」


千夏、芦原、城戸が微笑む。


「まだまだ続けましょうよ」

「次の家族が来ますよ」

「これからも“はじまり”を撮りましょう」


そして要は、

カメラを持ち直し、

レンズを覗き込んだ。


「さあ——次の“命”を迎えに行こう」


十月十日の物語は、

いつまでも“はじまりの物語”として続いていく。

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