たまにはこんなお客さん(その2)
哲男【久々にアコさんの歌
聞けましたね~さすがっすね~】
と感心していると
アコ【おだてても何もないわよ】
山竹【聴き入る歌ですよね】
朝陽【でも誰の歌なんですか?】
アコ【堅井隼平の“私の心は半分”よ!
確かドラマの主題歌
だったわね】と考えていると
広志【はい!みんなおまちどおさま】と
豚汁をそれぞれの座席に
置いていく
湯気がモクモク沸いている中、
それぞれが汁をすすっている
哲男【さすが大将!心と身体に沁み
渡りますね~】
洋之【本当に五臓六腑にきますよ】
広志【おっ!難しい言葉知ってるな~】
洋之【少しは分かりますよ~】
和邦【美味いですよね~洋之さん
他の四時熟語言ってみて
下さいよ~】
朝陽【私も知りたい】
洋之【一意専心に五臓六腑…
あ~出てこない】
広志【若い時はそんなもんだよ!
年重ねたら意外と
覚えるんだよ】
アコ【馬耳東風はすぐ出てくるわね
~】
広志【その前に、はいよ!
そこのあんさんも】
酔いが少し冷めて起きた矢野…
矢野【これは…】
ワコ【今晩は~まだあります?】
広志【相変わらず恐ろしき勘と
嗅覚ですね…】
アコ【あれ?ワコさん旦那さんは?】
ワコ【今ドラマ見てるわよ!
若い人向けの】
アコ【あぁ~禁断の恋のドラマね】
矢野【すいませんこれは…】と
豚汁を見て
広志【酔いが冷めた様だな!
何があったかは知らないが、
これを食べて少しは暖まれ!】
矢野【ありがとうございます、
いただきます】と
割り箸を割り、
そして汁をすすり
一口食べる
矢野【美味しいです!暖まりますね】
アコ【そうでしょう~何があっても
美味しいものをお腹いっぱい
食べれば明日へのエネルギーに
なるわよ】
矢野【はい…】と感情を高ぶらせ
広志【何かあったかは聞かない!
ただ、きちんと向き合え!
相手は待ってると思うぞ】
哲男【そうそう、みんな流れに流れて
今なんすから】
アコ【哲男さんにしては、珍しくいい
こと言うわね~】
洋之【確かに】
和邦【明日何事もなく終わりますかね
~嵐の前の静けさだったり
して】
朝陽【明日、彼氏とデートなんで
雨は勘弁ですよ】
山竹【何で?室内デートでも
良いんじゃないの?】
朝陽【部屋片付けしてないですよ~】
山竹【まさかのゴミ屋敷…】
朝陽【そこまでひどくありません!】
矢野【ククッハハハ】と笑いはじめる
ワコ【どうしたの?】
矢野【すいません、あまりにも
ざっくばらんなので】
広志【ここに来る客はみんな仲間
みたいなものだよ】
アコ【大体の事は知ってるわね!
相談される事もあるし】
広志【しかし酔いが冷めるの
早すぎやしないかい】
ワコ【ちょっとまってよ~
度数は低いわよ~
ウチの店じゃあ一番低いん
だから~だって狸錦よ~】と
笑いながら話す
広志【ワコさん酔いはじめましたね、
狸錦…聞いた事ないな~】
ワコ【そりゃそうよ~初めて
仕入れたんだから!
試しに飲んだけどほぼ水よ~】
広志【ほぼ水って】といって
ラベルを見る
広志【確かに低いね、
もしかしてお酒弱い?】
矢野【はい、お酒飲めないので】と
苦笑いする
広志【下戸なのに余程だったんだな
~】
矢野【また来ても良いですか?】
アコ【いつでもいらっしゃい、
みんなもホラホラ閉店よ】
哲男【え~】
アコ【て・つ・おさん】満面の笑みで呼ぶ
哲男【帰ります】と慌てて店のドアを
ガラガラと開けて暖簾を
くぐって後にした
和邦【じゃあ帰ります、
ごちそうさまでした】
朝陽【おやすみなさ~い】
山竹【ごちそうさまでした~】
矢野【それでは自分も失礼します!
お代はきちんと払いますので】
広志【分かった、これとこれだから
いくらだね】
矢野【はい、じゃあこれで】
アコ【ちょうどですね】
矢野【じゃあおやすみなさい】と
言って店を後にした
今回からの登場人物--------
矢野 拓海…26歳
個人事務所で司法書士をしている
堅井 隼平…36歳
高校卒業後シンガーソングライターとしてデビューし様々なヒット曲を世に送りだしている