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十四話〜剣術大会 三〜



 右を見ても左を見ても、屈強な男達ばかりだ。

 彼等は剣術大会の参加者であり、今控え室にいるのは前半戦に試合を行う十名だ。



 セドリックは剣術大会に出場するのは今回が初めてだ。

 これまで散々騎士団長などに、勧められてきたが興味がないと断ってきた。

 例年通り今回も出場するつもりは全くなかったのだが、少し前にリズとブライスが話しているのを偶然聞いてしまい気が変わった。

 決して彼女に良い所を見せようとかそんな邪な事は思っていない。ただ単に、一度くらい参加しておくのも良い経験になるだろうと思っただけだ……。


「これはこれは、権力で強引に出場を捩じ込んだ皇子殿下ではありませんか」


 ニヤニヤしながら話しかけてきたアルバートに、セドリックは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「……不正はしていない」


 少々強引ではあったのは認めるが、不正はしていない。

 本戦出場者を捕まえて勝負を挑み勝っただけだ。ただ事例はなく、騎士団長からの権限の元特例という形で出場する事になった。


「まあ普通に予選に参加していたら、余裕で突破してただろうから、誰も文句は言わないだろう。それにしても、どういう心境の変化だ?」


「別に、一回くらい経験しておくのも悪くないかなって思っただけだよ」


「ふ〜ん。それなら強行手段に出ずに来年にすれば良かっただろう」


「ゔ……」


 確かにその理論ならばアルバートの言う通りだ。強引に捩じ込む必要はなく、大人しく来年を待てばいい。だがどうしても今年に参加したかった。


「まあ、普段滅多に社交界に顔を出さない第二皇子を拝めて令嬢達は喜ぶだろう。良かったな」


「いや僕は全く嬉しくないから」


 セドリックは顔を引き攣らせる。

 あの獲物を狙うような令嬢達の目を思い出し、思わず身震いをした。


「はは、まあそう言ってやるなって。そういえば、リズ嬢は応援に来てくれているのか?」


「え、まあ、うん……」


 よく見える最前列に席を手配してある。きっと今頃、彼女はソロモンと共に席に着いている筈だ。

 わざわざ一番良い席にしたが、他意はない。偶然、空いていただけだ……。


「お、一試合目が始まった見たいだな。俺もそろそろ準備するか」


 外から割れんばかりの声援が洩れ聞こえてくる。


「セドリック、次の試合で会おうな」


「手加減はしないよ」


「当然だ」


 ニヤリと笑い、彼は肩越しに手を振り控室を出て行った。


 二試合目に出場するアルバートと三試合目に出場するセドリックは、勝てば次の試合で当たる。

 互いに勝つ事を前提に話しているが、それだけ自信があるからだ。


 騎士たる者、戦いの前から怖気付くなどあってはならない。そんなのは戦う前から負けたも同じだ。厚かましいくらいが丁度いい。そうでないと、実戦では簡単に命を落とすーー

 

 そんな事を師から教わった。あの大人気ない騎士団長のザッカリー・ミュレーズに。

 

 セドリックが生まれた時、気が早い父である皇帝はザッカリーを剣術の師に任命した。無論それは将来的な話であり、そんな事は誰もが理解していた。

 そんな中、頭のネジが外れているザッカリーは、何を思ったか二歳になったばかりのセドリックに剣を握らせた。

 兄の皇太子でさえ五歳で剣術を始めたというのに……。

 更に言うならこの時点ではまだ皇子教育すら始まっていない。


 それからセドリックは、ザッカリーからの常軌を逸した厳しい鍛錬を受けてきた。

 余りに厳しく、本気でいつか報復してやるとさえ考えた。

 

 七歳になり、ザッカリーから騎士団に入団しないかと打診されたが即行で拒否をした。

 この頃になると、皇子教育も始まっており鍛錬に費やす時間は減っていた。折角、ザッカリーと顔を合わせる時間が減り安堵していたのに、わざわざ彼の騎士団に入団するなどあり得ない。そう思い拒否し続けていたが、十二歳になったセドリックは一転して騎士団に入団した。

 女性達から逃げる為という不純な動機で。


 幼い頃から令嬢達のいざこざに巻き込まれ続け苦手になり、更にある事件がきっかけとなり完全に女嫌いとなった。

 だが皇子である以上、社交界からは逃げらない。この先、十五歳を迎えれば正式に社交界デビューをする。そうなれば、舞踏会や夜会などにも参加しなくてはならない。無論そこにはダンスや令嬢達との交流が含まれている。正に地獄だ……。

 セドリックは、将来的な事も見据えて騎士団に入ればいいと考えた。

 そのお陰で最低限の行事など以外は、騎士団の任務を言い訳に回避する事に成功している。我ながら妙案だった。


「第二皇子殿下、そろそろ準備をお願い致します」


「ああ、分かった」


 声を掛けられたセドリックは、身体を預けていた壁から身を剥がすと一度腰に下げている剣に触れ確認をする。そして試合へ向かうべく、控室を出た。

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