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師走はつつがなくやってくる

作者: ベアりんぐ

 あ〜年末!その言葉がまず初めに浮かんだ。


 木々についていた葉が落ち切り、緑という言葉が合うのは針葉樹や常緑樹のみ。空は淡く澄み切っていて、陽の光はまるですりガラスを通したかのように目を伝う。そんな中僕は一本の煙草を咥えて、階段の踊り場にて空を見上げていた。


 ふと、2つの飛行機雲を見つける。一本はすでに消えかかっており、もう一本ははっきりとしている。それを見て僕は、人が雲すら作る時代になったのだなぁと、今更ながら思った。


 ……恐らくだが、人が宇宙へ旅立ってゆく日というのはまだまだ先の話だろう。しかしこうして、飛行機雲のように日常へ姿を溶け込ませる日が必ずやってくるのだとも思った。


 そこでふと考える。飛行機雲という言葉は、いったい誰から教わったのだろう。両親?先生?友達?テレビ?SNS?……そのどれも定かではないし、結局覚えてはいない。


きっとそんな言葉が世界中に存在する。学校や教材で習った言葉は覚えていても、日常に自然と溶け込んだ言葉というのはきっと、どこから来たのか分からず使ってしまっているのだろう。


 けれど、それで良いとも思った。すこし気味悪く感じはしたものの、そうした自分を誇らしくも思っている。


 きっと言葉というものはそういうものなのだ。意図せずとも伝わってしまう。想いもそうしたものの一種だ。誰かのために用いられた、発せられた言葉や想いは意図せず、別の誰かを感動させるものなのだ。


 だからこそ、僕らのような字書きや絵描きといった、総称として創作者という者たちは、用いた言葉や想いに責任を持たねばならない。それらはたとえ、誰かを感動させるために使ったとしても、角度が違えば捉え方を歪めさせ、誰かを傷つけることになりかねないのだから。


それらの責任を負って、それぞれの覚悟の上で僕たちは創り上げていくのだ。伝えたい感情を言葉に乗せ、物語として。


 ……先ほどまではっきりとしていた飛行機雲も、煙草の短さと比例してぼんやりとしている。


 絶やしてはならない。


 僕らは空に、飛行機雲を残し続けるのだ。そして行くのだ。いつの日か宇宙にまつわる言葉が日常へ浸透する、約束された場所まで。……それは、僕にとっての責任であり、覚悟だと思うから。


 短くなった煙草を踊り場に擦り付け、自宅の玄関へと向かう。その瞬間も、見えなくなってしまった飛行機雲に想いを馳せずにはいられなかった。




 年の瀬、というのもいったい誰から教わったのか。きっと定かではない。


漠然とした空気感、騒ぎの前兆、後悔の押し寄せ……感じ方は人それぞれだ。では来年、その想いを背負って日常の延長でどうしたい?どう感じたい?どう、ありたい?取り留めのない話で申し訳ないが、いま一度考えてみてほしい。


そう出来る僕らはきっと、また違った自分を来年に見ることが出来るだろうから。きっと、続く日常の中の節目において、微かに変わってゆけるはずだから。


 そう信じて、僕も筆を置こうと思う。とにかく、僕らは飛行機雲を作り続ける飛行機であらなければならない。ゆくゆくは一つの宇宙船となっていかなければならない。それだけはゆめゆめ、忘れないでほしい。


 それでは、良いお年を。

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