流星群
風邪症状がでてからあとちょっとで1週間経ちますが、治る気配がありません。
最初よりは喉も楽になったんですけど、鼻つまったり、喉がイガイガしたり。
加湿器つけて乾燥しないようにはしてるんですけどねぇ~。
ヴァルクは駐屯地へと戻り、治療を受けていた。
治療には専門の龍が二種いる。一つの種はブロヒレ。
ブロヒレが口から分泌する液には抗菌作用があるうえ、空気中に一定時間触れると固まる。さらに固まった液は一週間に剝がれる。
これを傷口にかければ絆創膏に近い治療ができる。また、液の中には免疫作用や解毒成分など怪我や病気に対処できる栄養が大量にある。
一つ言っておくが、この液は唾液ではない。
ヴァルクは怪我を負った部分に液をかけてもらう。
もう一つの種はマクマイト。
体から分泌される液を手で混ぜ、糸状にしたものを長く鋭い爪を持った細長い手で巧みに操り、傷口を塞いだり、補強したりする。
まるで裁縫のようだ。
ヴァルクはそれぞれ傷が開いているので、塞いでもらう。
治療専門の部隊もあるが、そこまで名が知れていないしそもそも治療専門の種も少ない。
そのためこの駐屯地には治療専門の龍はそれぞれ二匹ずつしかいない。
「治療は終わりましたが、二日程安静にしていただかないと、傷はある程度治りませんので、それまでは戦地に行かず、待機していてください。」
この場の治療が終わったのか、マクマイトの種である者はどこかへ行き、ブロヒレの種である者は龍化を解き、こちらへ話しかけてきた。
彼の見た目は白衣を着ていて胸ポケットにペンと医者みたいな見た目だ。だが眼鏡をかけており、髪型が少し長いため全体的に見たら医者とは言いにくいかもしれない。
「今、周りの皆さんは全員寝ているので、静かにしていてほしいですが、どうです?少し話しませんか?何なら、お茶も出しますよ。冷たいのしかありませんが。」
彼はヴァルクに話しかける。ヴァルクは戦いたいけど戦えないし、周りのように寝たくても寝られないためかなり暇そうにしているからだろう。ブロヒレの種である者は冷たいお茶を持ってきて話し始める。
「私はバンド。あなたの名前は?」
「ヴァルク、冥界の手だ。」
「個名持ちですか。それはおめでたいですね、ヴァルクさん。私には個名はないですがその代わりに、あなたみたいな個名持ちなら何百人だって治療してきました。」
「有名な個名持ちは治療したのか?」
「ええ、結構治療しました。ところで、今の戦況はどんな感じなんですか?」
「まあ、そうだな。若干優勢……ってところかな?俺が怪我したときは少し押され始めたけど、また巻き返してきてたしな。」
「ハハッ、何とも言えない状況ですね。」
バンドはそう言いながら、お茶を一口飲む。
「……ちょっと濃すぎましたかね。」
「そうか?俺は丁度いい苦さだと思うが。」
◆
その頃アスト、フレア、二人はファウスと共にどんどん前へと進んで行き、ニアンはそれよりも前に進み、倒せるだけの敵を突撃し、蹴散らしている。
ニアンは今戦場の中で最も戦闘が激しいであろう場所に攻撃している。
突撃の威力を上げるため、今飛んでいる地点から三百メートル程上昇する。その地点から敵に狙いを定め、吸気嚢から大量の空気を吸い込み、排気嚢から一気に放出し下降する。地面スレスレを飛び込むように急カーブし、突撃すれば敵はボウリングのように吹っ飛ぶ。飛びながら吸気嚢に空気を溜め、もう一度空へ飛ぶ。
その後、空中にいる敵に追われるが、並大抵の龍では追いつけない。ましてやニアンは逃げるどころか、一度体勢を立て直し、はるか上空から空中の敵へと突撃する。
上からの攻撃を喰らった敵は衝撃に身を任せながら思いっきり地へと落ちていく。
死んだわけではないが、骨折などの何かしらの重傷を負っていることは間違いないだろう。
敵がそんな怪我を負っているというのに、ニアンはピンピンしている。
ヴァルクのように敵をひたすら葬り続ける。ただ一点違うとすれば、それが高速で行われているということ。
戦場にいた人々はこう呼ぶ。「隕石」「空襲」「殺人風」と。空から降り、その場にいる者らに影響を与えるものを比喩している。
彼女の働きは大きな波を作り、多くの味方がそれぞれの戦場で助けられ、勝ち進んでいる。
ニアンはひたすらに動き回り、隙を見つけては突撃していく。
この状況は戦場にいる敵味方が目撃している。勿論、アストとフレア、ファウスもだ。
「こりゃあ今年はお宝の中に大量の宝石が入ってるなぁ。」
ファウスは感心しながら前へと進む。
アストとフレアは口をぽっかりと空けてニアンを見ている。
「アスト、フレア、ニアンはお前らの友達か?」
「ああ、最高の友達だよ。」
「うん、最高。」
アストとフレアは最高の友達とニアンを称賛する。
「分かった。じゃあ、俺の権限で個名を与えられないか、上に相談してみる。いいか?それで。」
「「もちろん!」」
ファウスのような個名持ちは、個名を与えられるであろう才能や技術を持っていれば上に報告することが出来る。個名持ちを増やすために増えた権限だが、個名を持たせることを承認するには、周りの者の賛同か、実力テストを行い‘‘個‘‘を示せるかできなければ個名を持てない。
だがニアンはここにいる全員が見ている。故にファウスは絶対通るだろうと、後で報告することにしたのだ。
そしてもう一つ、個名持ちが報告したとき、最初に報告した者または上の指定した人物が個名を付けることを許される。
「お前ら、ニアンの個名は何がいい?」
ファウスはそれをするためにアストとフレアの目の前で聞いたのだ。
「あいつは隕石みたいだから、「隕石」!!」
ひねりがまったくない個名を考えるアスト。
「いっぱい攻撃してるからなぁ。「機関銃」。」
ひねりはあるけど、友達を兵器に変えてしまうフレア。
「「隕石」と「機関銃」ねぇ……もう少し考えた方がいいぞ?例えば、お前らの理由は「隕石みたいでいっぱい攻撃する」だったら俺は「流星群」かなぁ?俺の意見だけど、どうだ?」
「いいじゃん!!それぇ!!」
「私もそう思う。」
流星群。後にニアンの個名となるもの。隕石の如く激しい攻撃を何度も行う。それは流れ星を何度も降らす流星群。流れ星は隕石である。意味としては同じ。だが「大量の隕石」と「流星群」を見比べれば前者はネーミングセンスを問われ、逆に笑いの対象となってしまうだろう。
そして流星群と言えば綺麗な印象があるだろう。
ではなぜ綺麗という印象があるのに、そう名付けようとファウスが考えたのか。
ファウスは突撃し、敵が血を噴き、骨がボロボロになる様を「綺麗」と捉えてこのような名にした。
敵を殺すことが楽しみだという意味が分かるのはその意味を個名の案とともに言われる上の者と、個名の意味が分かる熟練者だけだろう。その一例として、アストとフレアは流星群という綺麗な印象を持つ個名に何の違和感も感じていないからだ。
ニアンは飛び続ける。敵が突撃の衝撃で爆ぜ返り血で赤く染まろうとも、敵を掃討しきって周りに誰もいなくなった時も。敵を探し、ひたすらに敵を殺し続ける。
「フゥ……いい感じに押せてきてるし、疲れてきたからそろそろ戻ろっかな?」
ニアンは戦況と自分の体力を考え、一度ファウスのところへと戻り、休憩のために駐屯地に戻っていいか、聞いてくることにした。
ファウスも今回のニアンの働きが十二分だったのを分かっているので、一度駐屯地に戻って休憩することを許可した。
「……何でお茶飲んでんの?」
駐屯地に戻り、龍化を解いたニアンは怪我して寝ているはずのヴァルクの元へと行くと、彼は起きてお茶を飲んでいた。
「……暇だから。バンドさんに頼めばお茶もらえるはずだよ。」
「そう。じゃあもらってくるわ。」
ニアンはバンドのもとへ行きお茶をもらいヴァルクの元へと戻り、一緒にお茶を飲む。
「……ちょっと苦い。」
「フフッ。バンドさんも似たようなこと言ってたよ。」
彼らは休憩に今の戦況についてを話し合った。
そして戦争一日目が終了した。
結果は革命派が押しているということ。そして、ニアンの活躍が認められたこと。
ファウスはニアンに個名を与えるべきと報告し、その後緊急で個名を与えるとのことになった。
ニアンの個名はさっきも言った通り、「流星群」。その場にいた多くの人が称え、ニアンは人の多さと自分を褒めてくれていることから、恥ずかしさのあまり、終わった後、逃げるように三人のもとへと向かったのだった。
題名をニアンの個名にするために考えていたんですけど、考えるのに苦戦して、書き始めるのに10分かかっちゃいました。
最初は「風切り」とか「鎌鼬」にしようとしてたんですけど、響きが弱かったり、そもそもこの話に日本の文化を入れていいのか?と考え続けてたら遅くなったわけです。