骨喰い
投稿が遅くなりました。今回の原因は決してゲームをしていたわけではありません!!
ちょっと喉が痛かったり、鼻水が止まらなかったり…それでちょっとやる気をなくしていたんですよ…ね?ゲームしてないでしょ?
ハンディアの部隊を一掃したころ、ヴァルクはニアンと共に途中からハンディアとの戦闘を離脱しさらに前へと出ている。
個名を得たことによりヴァルク———ヴァルカンドは接敵した際に無駄な争いをせず、効率的に進めている。例え逃げたとしても、ニアンの追撃からは逃れられないのだが。
しばらくの間、敵を攻撃し、有利に状況を進めていると、また新たにハンディアで構成された部隊が出てきていた。だが先ほどファウスらが戦っていたような部隊とは違う。明らかに強い。味方がどんどん殺されていく。それも確実に急所を狙って。
本来ならば離れて息球などの遠距離からの攻撃で対処するべきなのだが、あいにく二人はそんな便利なものはない。己の体でのみしか戦えない。
「お前が冥界の手か。」
一匹のハンディアがヴァルクの後ろから話しかける。既に回られていたのだ。
「チイッ!!」
ヴァルクはすぐさま攻撃した。だがそんなものは分かり切っていたかのようにするりと避けられてしまう。
「まぁそうか。そりゃ敵だから警戒はするし、正しい行動だと思う。だが少しくらいお話しをしたっていいじゃないか。」
ハンディアはヴァルクとは敵であり殺すべき相手ながら、敵意がない。単に話してみたいだけのようだ。空を飛び話を聞いていたニアンも一度地上へと降りる。
「初めましてだからな。俺から自己紹介させてもらうよ。俺の名前はシャス。個名は骨喰いだ。そして俺の部隊名はハントラ。」
骨喰い。ヴァルクやニアンはまだ知らないがなぜ彼にこの個名が付いたのかを教えておこう。
それはハンディアの中でもずば抜けて咬合力が高いからである。
そしてもう一つ言っておこう。ヴァルクのような新血種は個体数が少ないので基本的に個名が付きやすい。だが、ファウスやシャスのような比較的個体数が多い直血種や離血種の中で個名をもらえるというのは、その個体の中でも突出しているということを意味する。
ヴァルクとニアンの自己紹介も一通り済ませたあと、シャスからの一言が放たれる。
「そうかそうか。ヴァルクとニアン……か。いい名前だな。まぁ、その名前が世に広まるのは俺が殺してからじゃないと。」
シャスの目つきが変わる。仲の良い友達を見るような目から、人ではなく嫌いな今すぐにでも殺したい虫を見るような目へと。
シャスは踏み込みヴァルクの元へと向かう。ニアンはすぐさま飛び安全を確保した。彼女は今回の戦いでは足手まといになってしまうからだ。
元々ニアンの種であるリジェントは、兵器での遠距離での援護を主体としている。が、彼女は突撃することが攻撃手段であるため、シャスを攻撃するようなものなら、ヴァルクを巻き込む。
「周りの掃討を頼む。」
「ああ、分かっているさ。」
ヴァルクはニアンに話した後、シャスへと意識を向ける。
「いいのか?お前さん一人でよ?俺たちハントラの部隊はハンディアで構成されている。大人数での戦闘が普通なのに。それに加えてここにいるやつらは全員俺の選抜した精鋭たち。……負けるぞ?」
シャスはヘラヘラするような話し方だが、戦闘に関することだけは真剣なのか、かなり強い口調で話している。
「いい。俺の‘‘個‘‘は一人で得るもんだ。集団で得る‘‘個‘‘もあるが、それは俺の中では一人の‘‘個‘‘よりも下だ。十人で得る一つの‘‘個‘‘は十分の一。一人で得る‘‘個‘‘は一だ。その差があるからな。」
「ハッ。いいことだ。だが俺の部隊は俺以外個名を持っている奴はいねぇが、それぞれが‘‘個‘‘を示せると思っている。なら十人で十の‘‘個‘‘がある。十対一。せいぜい足掻けよ?」
シャスはそういうと、周りのハンディアと共に一斉に襲い掛かる。それぞれが急所である関節や心臓部、頭部を狙い、離脱防止に翼も狙う。これが一般的なハンディアならヴァルクの腕で簡単に倒せたのだろう。だが今回は一般的なハンディアではない。それぞれがかなりの力を持ち、個名だってもっているのもいる。腕を振るにも躱される。そしてそれぞれが噛み付く。攻撃に使っていない二つの腕で心臓と頭部は守ったが、脚は怪我を負ってしまった。これが何を意味するのか。
ハンディア達も、ヴァルクがもし一般的な鱗の硬さをもつ龍ならば食い千切れたのだろう。だがヴァルクの腕部分の鱗はアースダイバーの鱗の硬さと大差はない。故に傷は脚だけなのだ。
「どけ。俺が喰い千切ってやるよ。」
シャスがヴァルクの腕目掛けて跳ぶ。シャスの顎は周りのハンディアとは違い、筋肉がぎっしりと詰まった図太い顎周りの筋肉と、首の筋肉を持つ。これは生まれ持った体ではない。彼の努力の結果だ。彼は十数年も前から戦争に参加している。周りのハンディアと大差ない、単なる駒にしか思えない程、能力がない。そんな愚かな自分を嫌い、ただひたすら、顎を鍛えた。固い木の実を食べ、木を食い千切り、ハンディアの体格では運べないような重い荷物だって、口で運んだ。
その努力が実を結び、数年前にやっと手に入れた個名。
そんな攻撃がヴァルクの鱗に牙を通せないはずがない。
ヴァルクはシャスの攻撃を侮っていた。右上部の腕に傷を負った。さらにこの部隊の連携も侮っていた。彼らは傷口にひたすら攻撃を仕掛ける。
幸い切り落とされる程攻撃が仕掛けられなかったが、それでも痛みと傷の深さから、今回の戦争では実質的にこの腕は使えなくなっただろう。
「やっぱり、お前に戦場はまだ早い。ちょうどいいのは天国か地獄だな。」
シャスは明らかにヴァルクを軽視している。それが油断となった。
ヴァルクは戦争することに対しての覚悟はある。敵を殺そうとも、自分が血を流そうとも、そんなことは気にしない覚悟は前回の戦争で完全に整っているのだ。
「俺の…邪魔をするんじゃねぇよ!!」
ヴァルクは戦う意識を踏み躙られたことに怒りを覚えたのか、シャスに向かって腕を思いっきり伸ばし、殴りかかる。シャスはなんとか反応し、攻撃を真に受けることは避けられたが、それでもかなりの衝撃が体に響く。
「ガハッ!!」
シャスは血を吐き、よろける。シャスが傷を負ったことに動揺を隠せず、ハンディア達は一斉に襲いかかったが、うまく統率を取れておらず、遅れたハンディアは数匹ほど攻撃を受けてしまい、宙を舞い、地面に落ちた時にはもう動かなくなっていた。
「ハァ…ハァ…分かったよ。お前は俺が真剣に倒すべき相手だ。もう油断なんてしねぇし、手も抜かねぇ。お前ら、全力で行くぞぉ!!!」
シャスはそう言い、仲間と共にヴァルクへと向かう。さっきよりも統率の取れたハンディア達は、傷の負った右上部の腕と脚を重点的に狙っていく。さらに傷口が広がり、血がどんどん流れていく。それでもヴァルクは悶えず、ひたすら攻撃を続ける。
シャスの傷も決して軽いものでは無かったようで、だんだんと動きが鈍くなっていく。だがそれはヴァルクも同じ。
しばらくハンドラの部隊とヴァルクの攻防は変化がないまま時間が経つ。
そしてついに、この戦いが終わりを迎えてしまった。これはどちらかが死ぬわけじゃないのだ。
「シャスさん!!」
「ヴァルク!!」
それはお互いの陣営に属する仲間が援軍としてきてしまったのだ。
これ以上消耗すればこの先戦えるかが分からない。それをお互い感じ取ったのか、
「じゃあな、冥界の手。また会った時はお互い、全力でだな。」
「ああ、分かったよ。」
怪我した状態で自力で動くのが困難と判断したのか、お互いは龍化を解く。
シャスはあごヒゲが濃い、頭にバンドを巻いたいかにも盗賊みたいな見た目をしているが、その目はハンディアだった時とは違う、穏やかな目つきをしている。
それを確認したヴァルクは顔を覚え、味方に運ばれるまま駐屯地へと向かうのだった。
キャラのアイデアが浮かぶのはいいんですが、味方陣営か敵陣営か、そういうのを考えると、結構迷うのが多いですね〜。
助けてください。