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少女の部屋とVTuberの配信環境

 詩音の家まで帰ってくると、スケジュールの確認をした。

 浜里から受け取った紙には8月中のブイスタ運営の予定と詩音の仕事の予定が入ったカレンダーが書いてある。これを参考にしながら詩音の日々の予定を管理しろということらしい。

 7月の予定に関しては詩音の口から聞いてとのことだったので、早速詩音に話しかける。


「なあダイヤ、今月はあと1週間残ってるけどなにか予定とかあるか?」

「ううん、昨日の情報公開だけで特に急いでやることはないです。配信設備の調整とかを済ませておくようにとは言われてます」


 帰り際に買ったアイスをスプーンですくいながら、詩音は頭をひねる。

 そういえば峡は配信部屋を見たことがない。朝掃除した時も俗に言う配信専用に部屋というものを見かけなかった。テレビとゲーム機一式はリビングにあるが、パソコンも見かけていない。峡がまだ足を踏み入れていない部屋は詩音の自室だけ。

 詩音の自室も思春期男子としては充分に興味のあるものだが、それよりも峡はVTuberの部屋がどうなっているのか知りたいという欲求の方が強かった。


「ダイヤの配信部屋って自分の部屋のあるのか?」

「うん、まあ部屋だと言えば部屋ですね」

「普通に気になるから見てみたいんだが。見せてもらってもいいか?」

「うん。あ!ちょ、ちょっと片づけるから待ってて!!」


 慌てて立ち上がる詩音の後を峡も付いて行こうとする。


「掃除なら手伝うぞ」

「い、いや。その……パンツとか、散らかってるから……」

「あっ……」


 詩音は声を窄めながら恥ずかしそうに説明する。さすがの峡もそこまで無神経ではないので大人しく腰を下ろし直すしかなかった。

 詩音はドタドタと慌ただしく部屋に入ってから5分ほど経ち、ようやく入室が許可された。

 部屋の中は全体的に淡いピンク色で統一されており、年相応の可愛い女子の部屋といった雰囲気が充満している。机も角がソフトに丸められているもので、棚やタンスも引き出しの手すりなどに細かなハートの模様や装飾が施されている。ベッドには巨大なペンギンのクッションが置いてあり、こちらを見つめてくる。その視線を受け思考を冷静にする。

 と、ある事に気付いた。


「なあダイヤ。パソコンないんだが?」

「パソコンならここだよ」


 そうして入り口横の押し入れを開けると、そこにはパソコンデスクと配信用のマイクスタンド、ゲーミングPCが収まっていた。


「まさか、ここで配信するのか?」

「うん、調べたんだけど防音材とか吸音材?って結構値段するみたいで、出来る限り安くできないかな~って考えてたら、押し入れの中ですればいいじゃんって思いついたんです」


 確かに机の横幅と押し入れの奥行きがピッタリサイズで合っている。横に広いタイプなのでイスの可動域も十分。天井との高さは元々の詩音の身長が小さいため一切ぶつけることなく入ることが出来る。

 これ以上ないほどに詩音にピッタリの環境だった。

 一方、峡としては完全に予想の斜め上をいかれて驚きが覚めていない。

 顔出し実況者がする部屋紹介動画などで見る、立派なデュアルモニターにオシャレな周辺機器、ハイブランドのゲーミングチェア、長いアームが伸びる配信用マイク、顔映りを良くするための各種照明器具など。部屋中が配信をより良くするための立派な機材で埋め尽くされている厳重な仕事部屋。

 そんなエリート感漂う部屋のイメージが峡の中にはあったのだが、現実は想っていたよりもメルヘンチックなものだった。一体、誰が銀髪美少女ロリ系VTuberの配信環境がドラえもんと同じ押し入れの中だと想像できただろうか。

 ただ、詩音自慢の押し入れ部屋にもそれなりに設備はすでに整っており、モニターはまさかの正面・横・斜め上の三面、その二画面の間からモーションキャプチャー用のカメラが設置されており、マイクアームは足元からコードと共に立つように伸びている。机の上には配信での動作をスムーズにするための各種ショートカットキーをボタン式にするstreamdeckも置いてあり、全てがコンパクトに収まっているプロのデザイナーも拍手の完璧な間取りだった。

 ふと、峡は紗良樺の配信部屋の間取りが気になった。まさかVTuberが全員そろって押し入れ配信なわけないので、詩音とはまた違う立派な自慢の部屋を持っているのだろう。

 思い立ったが吉日。峡はスマホのチャットアプリから紗良樺にチャットを送る。


『すいませんエメさん。エメさんの配信環境ってどんな感じでしょうか?ダイヤの配信環境の参考にしたいので』


 それっぽい理由と共にメッセージを送ると、返信はすぐに来た。


『いいよ~。今写真送るね』


 そのコメントに添付された写真を見る。様式なフローリングの部屋の中央のデスクを構え、その周りを扇風機で囲んでいた。マイクはスタンド式で机の上に置いてあり、モニターは一般的な横に二枚置き、そのさらに隣に縦に長いサブモニターが一枚の計三画面編成。こちらはショートカットキーセットは置いていなかったが、代わりにキーボードのキーキャップがいくつか置いてあった。どうやら紗良樺は自分でいろいろ改造していくタイプの人間らしい。

 気付けば詩音も峡のスマホを横から覗き込み、「おお」っと感嘆の声を漏らしていた。


『ありがとうございます。とても素敵なデスクでしたので、ぜひ参考にさせて頂きます』

『どういたしまして。ちなみにだけど、写真の右下をよく見てみるといいことあるかもよ?』


 小悪魔的なニュアンスを感じさせる返信に釣られ、もう一度写真を見直す。

 写真右下、机の端が見切れ床が見える。そこに水色の大きなブラジャーが転がっていた。


「なっ!?」

『笑笑』


 峡の心を見透かしたかのようなタイミングでチャットを送ってくる紗良樺に、峡は心の中で怒ると同時に静かに感謝の合掌をした。

 しかしその心は隣の少女には読めるらしく、詩音は憤慨したように峡のスマホを奪い取りベットに放り投げた。


「先生!私今から仕事する!先生に私も出来るってところ、見せてやる!」


 峡の顔を指さし、詩音は堂々と仁王立ちでそう宣言した。

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