4人目の仲間
昼下りにもかかわらず、3人は家で堕落して、果物やお菓子を食べていた。
理由は至極単純だ。昨日カズヤが3億という大金を稼いた為、働く必要がなくなったのだ。
3億の大金を手にしたあとも定期的に暇つぶしでクエストに向かっていたが、次第に3億があるから必要ないという自堕落な考えに至っていた。
金は人を変えるとはよく言ったものだ、もはや魔王討伐やレベル上げなど、どうでもいいっといったところだ。
一人を除いて。
「4人目の仲間欲しくね!?」
3人の沈黙を一人の男が破った。
異世界に憧れ、異世界を愛して、異世界イベントが大好きな男カズヤ。
カズヤに異世界イベントがない事は死を意味した。
「ほらパーティーってさ、四人構成が普通じゃん? だから俺達も四人目欲しくね?」
「でも、私達3人はたった2日で、出会ったんですよ? 今4人目入ったら、気まづくなりません?」
ミカーヤはカズヤを止めたが、カズヤは一度決めた事は曲げない、異世界イベントをやると言ったらやる男。
一番面倒くさくて手がつけられない性格、それが今のカズヤだ。
「人との親密度は時間じゃないから大丈夫。そうと決まったら行くぞ!」
だらけているウンコとミカーヤを抱きかかえて、カズヤは早速向かおうとしたら、顔に、かつてないほどの衝撃が走った。
抱きかかえられたミカーヤがカズヤに蹴りを入れたのだ。
「ちょっと待って下さいよ、髪結んでないし服もパジャマですよ!? こんな状態で行けるわけないでしょ、準備させてください。」
「いってぇぇぇ! お前たまに魔を見せるのやめろよ。早く済ましてこい。ちなみにウンコ、お前は準備しなくていいのか?」
「お前喧嘩売ってんのか? このなりにどうおめかしするんだよ」
しばらく待つと、2階からミカーヤが下りてきた。
家を出ると、ミカーヤは酒場とは逆方向に進み始めた。
「どこ行くんだミカーヤ、酒場はこっちだぞ」
「そっちの酒場は、仲間を集める場所じゃないですよ。クエストをクリアする為に、一時的に仲間になることはありますが、正式にパーティーを組むなら、こっちの方にある酒場で集めるんです。ついてきてください」
ミカーヤについていき王都中央に向かうと、ひときわ大きい建物があった。
「ここがその酒場です。パーティーを組むと同時に、カウンターで頼めば自分の強さなど図れます。とりあえずそこらにいる人に、話しかけていきましょう」
早速三人は分かれて、色々な人に申込みをする事にした。
ウンコは屈強な獣人を見つけた。
「なぁ、あんた。俺達のパーティに入ってくれないか?」
「→*(. 5…・(♪…2(%8(>(*(・….0☆…4(€(○2*(・…☆・/」
まだ言葉に慣れてない獣人のようだ。
ミカーヤは自分のキャラを立たせるため、影の薄い平凡な人を探した。
「あの、私達のパーティーに入ってくれませんか?」
「ごめんね、お嬢ちゃん遊びには付き合えないの」
ミカーヤは自分の身長を憎んだ。
「ミカーヤが寂しくならないように、女の仲間探してえな」
カズヤは女性を探して酒場を見渡した。
「お、いたいた。あのさ、俺達のパーティに入――」
「えええぇぇぇぇーー!!!」
酒場に女性の叫び声が響き渡った。
何事かと思ってカズヤは二人と合流して、声の方に向かった。
見てみると、カウンターの女性が何かを見て驚いていた。
「なになに、店員さん何かあったの?」
カズヤ達がよってきた事で、叫んだ事を恥ずかしがりながら店員は喋った。
「こ、こちらのお客様のステータスが、常軌を逸するものでしたので、驚いて叫んでしまいました。」
カズヤは気になりカウンターに身を乗り出し、ステータス画面を覗いてみた。
『サイ·ストロン 職業 勇者 ステータス 全て 210』
カズヤは理解ができなかった。確かに勇者はステータスが高い、自分も呪いが無ければこれ以上のステータスをはある、だがこの勇者はレベル1でこのステータスなのだ。
『 少し老けた筋骨隆々な男が、僕のスタータスを見て驚いていた。
カウンターの女性も驚いていたが、やはり僕のスタータスは低いのだろう。
常軌を逸していた、確かそう言っていたな。
そこまで低いとは、平均はいくらなのだろう、どうやら僕は落ちこぼれのようだ。』
どこからともなく、頭に響くような声が聞こえた。
誰が喋っているのか見渡してみたが、誰も喋った様子はなかった。それどころか、カズヤ以外は聞こえてすらいないようだ。
「ま、まさか。おい、ストロン! お前転生者か?」
「な、なんのことだ?」
『 驚いた。この男はどういう訳か僕の正体を簡単に見破った。
この世界では転生者かどうか見破る方法があるのだろうか?』
またしても声が聞こえた。やはり、他の人は聞こえていないようだ、そしてカズヤだけに聞こえていた。
「認めたくないが、証拠はここにある。こいつどっかの物語の主人公だ! そして、俺も主人公補正があるから、天の声が聞こえる。俺の方が聞こえないのは、神の声だからだろう。」
『 主人公? 天の声? 神の声? この男は何をブツブツ言っているのだろうか、よく見たら男の仲間は小さい女の子とウンコじゃないか。
頭がおかしいのだろうか、とにかくバレてるわけじゃなさそうだ、良かった。』
「なんでここまで言って、わからねえの? 後俺の仲間馬鹿にすんな、しね! 」
『 なんと、この男はどうやら僕の声が聞こ――』
「それやめろって! 思ったこと口に出して話せよ! ムカつくなぁ、もう」
『 ま、まずい目立つのはまずい。ここは逃げるとしよう。』
「口にだせばーか! そのまま消えろ!」
ストロンはカズヤにバカにされながら酒場を後にした。
何がなんだかわからない他3人は、カズヤを変な目で見ていた。
傍から見れば独り言で怒り始めているのだ、変な目で見られるのは当たり前だろう。
誤解を解くため3人の方に近づいたら、店員は仕事に意識を向け、二人は仲間探しを再開した。
「ち、ちがうんだよぉ……みんなぁ」
気分を落としながらもカズヤも負けじと仲間探しを再開した。
しばらく何人かを誘いながら酒場を回っていると、妙にたどたどしいミカーヤと、うんこと合流した。
「おう! 二人共どうかしたか?」
「あ、あのぉ〜そのぉ〜」
「入ってくれるって仲間が見つかったんだよ」
後ろに隠れている新しい仲間というのを見てみたら、老いぼれたゴブリンが立っていた。
「ミカーヤ、なんでおじいちゃん連れてきてんの! しかもゴブリン」
「それがですね……酒場に来た理由を聞いたら、私は断れなくて。」
そう言われ、おじいちゃんの方を見てみると、ヨボヨボとしていて信念など持ってすらいない様子だ。
少し小突けば折れそうなほど、細い手足で何をするつもりなのか、カズヤは好奇心で一応聞いてみた。
「おじいちゃん。どういう理由で仲間を求めてるんだ?」
理由を聞き出した瞬間、おじいちゃんは目を見開き、目の奥に炎を灯し、語ってくれた。
「ワシは見ての通りゴブリンじゃ。ワシの一族はなぁ、争いが嫌いで、どの種族とも関わりをたっていたんじゃ。そして最近魔王様が復活されたじゃろ? そこで、まずいと思ってな。できるだけ人もモンスターもいない所に、引っ越してたんじゃ。
そして数日前、悲劇は起こった。
ワシが晩ご飯用の山菜を取ってる間にな、家の若い衆を10人殺して、家を破壊した輩がいるんじゃ! ワシは家族の骸の前で泣いた、そして誓ったのじゃ! こんな目に合わせた奴らを必ずこの手で制裁すると!」
なんとも素晴らしい信念に、ウンコは同情して涙ぐみ、カズヤとミカーヤは青ざめていた。
「ねぇ? カズヤさん、聞いたら引き下がれないですよね?」
「そうだよなカズヤ! モンスターだからって平和を求めてるのにやられたんだ! 許せねぇよ!」
「あぁ。世の中には悪い人間もいたもんだ……歓迎するよおじいちゃん、一緒に仇を取ろう。」
カズヤには断れなかった。
仲間もできたので、カズヤ達は酒場を出て家に帰ることにした。
外に出ると天気が悪くなっていて、風が強く吹いていた。
まるでカズヤとミカーヤとおじいちゃんの、心を表しているように。
「おじいちゃん、足元気をつけてくれよ。階段に躓いた危ないからな」
「あぁ、すまないねウンコくん。ありがとう」
おじいちゃんは言われた通りに、足元に気をつけながら階段を降りた。
その時、ひときわ大きい風がカズヤ達を襲った、おじいちゃんの細い手足は、強い風で飛ばされ、階段を踏み外した。
おじいちゃんは受け身を取ろうとしたが、地面に強く身体を打ってしまった。
おじいちゃんは死んだ。
「お、おじいちゃぁぁぁぁぁぁん!」
ウンコは泣き叫んだ、カズヤとミカーヤは少しホッとしていた。
「そんな事って……復讐したかったよなぁ。せめて俺の手で火葬をしてやる」
ウンコが魔法を使い、おじいちゃんを焼いた。
おじいちゃんを包む炎は、儚く、そして美しく燃え上がった。
カズヤは罪悪感もあり、焼かれてるおじいちゃんに近づき、祈った。
「アーメン。ミカーヤ、ウンコ、お前達もしておけ」
カズヤに言われ、ミカーヤも近づき祈った。
そしてウンコも近づいて祈ろうとした、その時ひときわ大きい風がカズヤ達を襲った。
ウンコは燃えた。
「うわっちいぃぃぃぃぃぃ」
チリチリと弾けるような音色を奏でながら、風に撫でられた炎がウンコを襲った。
そして……ウンコが炎を消せる方法はただ1つだけ、ウンコはとにかく近くにある物に身を擦りつけた。
飛び回り、身を叩きつけ、押し付け、削り、思いつく限りの方法で火を消していた。
その時、ウンコの近くにあった物は一つだけ。
酒場は燃えた。
「うわぁぁ、やべえ! 酒場が燃えた!」
「あ、凄い。ウンコさんの元へ、大量の経験値が入ってますよ。カズヤさんスティールしないんですか」
「できるわけねえだろ!」
ミカーヤは衝撃的な光景により錯乱した。
カズヤは冷静を装いながらも、内心はミカーヤと同じだった、そしてウンコは未だに炎の痛みに見をよじっていた。
「あ! で、でも! 冒険者の事だし、火に対して耐性あるんじゃ」
「炎が得意なウンコが燃えてるんだぜ……ヘヘッ」
ミカーヤの考えは、カズヤの正論により打ち砕かれた。
こうしている間も、ウンコの元には大量の経験値が流れ込んでいた。
しばらく放心していると城の方から、兵隊が集まってきた。
「やべ。ミカーヤ隠れろ!」
カズヤとミカーヤは兵隊に気づき、建物の影に身を隠した。
ミカーヤの特徴的な髪でバレないように、カズヤは自分の上着をミカーヤに渡して、解決策を練っていた。
もはやカズヤには逃げる方法や、許してもらう方法を探すのを諦め、倒す事を探していた。
「ミカーヤ! あの兵隊で一番強いやつは?」
「一番前の列の、右から二番目の人です」
「勝てるのは?」
「ウンコ」
「よし! じゃ、一番弱いやつは?」
「前から2番目の列の、真ん中にいる人です。」
「勝てるのは?」
「ウンコ」
「了解! 逃げるぞ!」
カズヤの考えは打ち砕かれ、二人は一目散に逃げた。
「そこの二人組み! 止まりなさい! 顔を見せろ!」
顔を見られてないと分かったカズヤは、ミカーヤを抱きかかえて、誰よりも早く走った―――
「クソ! 逃げられた! 二番隊は先程の、二人組を追え。我々は建物の消化だ」
「隊長! 炎の出どころを発見しました。この、炎を発している赤い球体です」
隊長と呼ばれる男が部下に呼ばれ、原因を見に行くと、赤い歪な球体が燃え上がっていた。
「何だこれは? とりあえず消化をしておけ」
隊長の命令どおりに部下は水の魔法で球体を鎮火させた。
解明させるため、兵隊は球体を手に取ろうとしたが、不思議な事に、赤い部分には触れず、その奥に柔らかい物があった。
謎の柔らかい感覚を楽しみ、兵隊は何度か揉んでみた。
「くすぐったいわ馬鹿野郎!」
謎の球体はいきなり声を発して飛び上がり、不審な二人組みが走って行った方向に向かって、ものすごいスピードで飛んでいった。
「な、なぜ球体が意思をもっている!」
「わかりません! 隊長、追いますか?」
「いや、二番隊に任せよう。我々は建物の鎮火だ」
―――カズヤは相変わらず走っていた。
ミカーヤを抱えて走っていたカズヤは、息が早々に切れてきた。
人生の終わりを感じ始めていたカズヤは、進行方向に人が立っていることに気づいた、それはストロンだった。
憎きストロンを見て、カズヤはいい案を思いついた。
カズヤはストロンに近づき、肩に手を当て、声色を変えて、わざと大きな声で叫んだ。
「ボス! 後は任せましたよぉぉぉぉ!」
『 肩を叩かながら大声で話しかけられ、僕は驚いて振り向いた。
そこには先程の男が息を切らして立っていた、何を言っているか理解ができないでいると、男は再び、女の子と手を繋ぎ走り出した。
呆然と走り去る姿を見ていると、兵隊が怒鳴りながら、向かって来―――』
「やりましたね! カズヤさん!」
「あ、あぁ! ストロンがいてくれて助かった。ウンコは無事かな」
二人は、兵隊から逃げ切り、近くの森に身を隠しつつ、一息ついていた。
ウンコの事を心配しながら息を整えていると、近くの草むらから物音が聞こえてきた。
二人は早急に身構えて、音の正体を待った。
「お、おまたせ。二人共」
どうやらウンコが追いついてきたようだ。
だが容姿がおかしい、いつもの黒いウンコではなく、真赤なウンコだった。
「ウンコさん経験値が、溢れてるじゃないですか。カズヤさん、スティールで吸ってあげてください」
言われた通りにウンコに手をかざし、カズヤは経験値を吸い取った。
「うわ、俺も溢れた! ミカーヤお前にもやるよ」
余った分をミカーヤに渡したら、ちょうど経験値は全てなくなった。
「なぁミカーヤ。経験値って溢れるものなのか?」
「そうです! 凄いですよカズヤさん! 溢れるって事は上限に達したって事です」
ミカーヤは妙にワクワクして、声が高くなっていた。
ここまで心を踊らしているミカーヤは初めてだ。
「上限? もうこれ以上強くなれねえの?」
「そんな事はないです! クラスアップという事をしたら、経験値はまた上がり始めます。このクラスアップというのは、職業チェンジができます! 職業を変えずにそのままでもできるんですけどね。その場合はレベルが上がった時の、倍率が高くなります」
相変わらずミカーヤは見たことないほどワクワクしていた。
「じゃあ、俺は勇者から変えないほうがいいよな?スキル消えたら困るし」
「いえ、スキルは引き継がれますよ。そのまま勇者でもいいですけど、他の職業にしたらメリットもあります。まず、職業によって一定のステータスが上がりやすいのと、上級スキルが使えます。勇者はどこまで行っても、勇者専用以外は、中級スキルですからね。」
「変えるってのも1つの手なのか……」
ミカーヤはカズヤに一通り教えたら、ウンコの元へ行き、耳打ちをした。
それまで息を整えていたウンコは、ミカーヤと同じぐらいワクワクし始めた。
「じゃあさ、みんな草むらに隠れて、クラスアップした後出てくる?」
「いいですねそれ」
カズヤの提案に二人は即座に乗り、3人はそれぞれ草むらに隠れた。
「そうはいってもクラスアップってどうするんだ?」
カズヤはいつも通りステータスを見ようと魔力を溜めた。
その時何処からともなく声が頭の中に響いた。
『おめでとうございます。貴方にはクラスアップの権利が与えられました』
「うわっ! 何! 誰!」
『私は貴方方の言う女神。貴方をクラスアップさせにきました。貴方のジョブから進めるジョブは、この80職のどれか一つです』
次の瞬間カズヤの頭の中に80職の情報が流れ込んできた。
あまりの情報量に少し混乱したが、落ち着いてめぼしいものがないか探し始めた。
「じゃあこれにするわ!」
『――ですね。このジョブの優先ステータスは――スキルは――となっています。では開始しますね』
1分後、草むらから光が上がった。
「俺準備できたよー」
「私もです!」
「俺もいいよ」
「「「せーの!」」」
3人は息を合わせ同時に草むらから飛び出した。
そこには、何一つ変わってないミカーヤと、短髪で胸の小さい高身長な女と、バニーガール姿のカズヤが立っていた。